最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。   作:バナハロ

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純正の爆弾。

 学校とは、退屈な場所である。人間関係は気遣いに気遣いを重ね、喋り過ぎても黙り過ぎてもペナルティ、異性に興味を持たれると「女の前だけ良い顔してる(或いはその逆)」と陰口を言われる。

 勉強の出来、試験の成績以外に教員への好感度点が存在し、高評価をもらうには好評でなくてはならない。

 つまり、ボッチが上手くやるには「教員に嫌われないようにして、クラスメートからも存在を認知される、それなりの成績を取る事」である。出る杭も出ない杭も打たれる学生社会ではそうするしかない。

 そんな学生生活なわけだが、今日は少し心持ちが違った。何故なら、樹里と連絡先を交換したからだ。これで好きな時に連絡出来る。

 と言っても、あいつ今日は仕事で学校休んでるんだろうし、連絡は控えるけど。

 さて、そんなわけで、結局は退屈な学校も終わり、放課後。今日はジャンプの発売日だが、単行本派の俺はスルー。

 なので、今日は直帰だ。樹里と遊ぶ時のために、あんま金も使わないようにしないといけない。

 

「ふわあ……」

 

 ダメだ、眠い。さっさと帰って漫画でも……と、思った時だった。

 

「キックストライク! 超良いね、サイコー!」

 

 背後から背中にガバっと衝撃が走った。うん、腰抜けるかと思ったよね。どこの誰だよ、ゴブリン突撃兵。

 振り返ると、そこには小宮果穂がいた。

 

「えへへ、こんにちは! 東田さん!」

「ああ、小宮ちゃんか……腰が逝くかと思ったんだが……」

「今、学校帰りですか?」

 

 うん、聞いてねえな。悪いことしたと思ってもねーなこれ……まあ、別に良いんだけどさ。

 

「そうだよ。そっちは?」

「私もです! 今日はお仕事がお休みなので……」

「お仕事?」

「はい! ……あ、何でもないです。それより、このあと、ご予定はありますか?」

 

 え、お仕事って……もしかして、新聞配達でもしてやがんのか? ……グスッ、子供なのに……苦労してんだな……。

 

「ええっ⁉︎ なんで泣いているんですか⁉︎」

「いや……なんでもないよ。予定もないよ」

「でしたら、私と遊びに行きませんか? ……実は、これから少し欲しいものがありまして、でもお友達はみんな個々の仕事に行っているので、一人で行かなきゃいけなくて……」

 

 え、買い物行けるの? 別に家計を支えるための新聞配達とかじゃないのかな。違うとしたら……なんだろ。もしかして、アイドルとか? ははっ、まっさかー。

 まぁ、なんでも良いや。とりあえず俺も暇してたし、買い物に付き合うくらい良いか。

 

「良いよ」

「ホントですか⁉︎」

「でも、一旦、うちで着替えて良い?」

「? なんでですか?」

「男子高校生が女子小学生と一緒に出掛けるにはね、それなりに覚悟が必要なんだよ」

 

 通報されてもおかしくないからね。せめて制服は脱ぎたい。……いや、それだけでも怪しいな……。俺には妹も歳の離れた従姉妹もいないし、こういう時、どうしたら良いのか分からない。

 だから、思いつく限りで通報されない手を打つしかないわけで。

 

「よく分かりませんけど……分かりました!」

「家の前で待っててな。俺は着替えるのに10秒かからないから」

「ヒーローの変身みたいですね!」

「だろ?」

 

 うん、その感想が果たして正しいのはさておくとしようか。

 そうこうしているうちに自宅に到着した。

 

「着いたわ」

「わっ……大きいですね!」

「親父が頑張ったからな。じゃ、少し待ってて」

 

 それだけ話すと家の中に戻り、着替えた。割と最近は暖かくなってきたし、飲み物だけ持ってってやるか。

 冷蔵庫の中に眠っている500のコーラを二本持って表に出た。

 すぅ……はぁ……よし、やるぞ! 

 

「お待たせ! 果穂ちゃん!」

「えうっ⁉︎ あ、は、はい!」

「待たせちゃったから、コーラあげるね!」

「ありがとうございます……⁉︎」

 

 戸惑っているが、俺も死にたくなってくるので素のリアクションやめて。とりあえずご近所さんの目を考えて、さっさと移動することにした。

 

「さ、果穂ちゃん! 早く遊びに行こう?」

「あの……どうかしたんですか? 東田さん。怪人に洗脳されてます?」

「……」

 

 だから素のリアクションはやめてって……。うん、まぁ説明なしじゃキツいよね。辺りを見回してから、小宮さんの耳元で説明した。

 

「いや、あの……通報されたくないから、俺も小学生のフリをしようかな、と……」

「通報? 悪い事したんですか?」

「してないけど、してるように見える、というか……」

 

 まぁ、小宮ちゃん背が高いし平気かもしんないけど……でも、中身を知られれば確実にアウトなんだよなぁ。

 

「大丈夫です! 通報されても、ヒーローである私が守りますから!」

「え、守るって?」

「恋人だって!」

「……」

 

 それはそれでダメなんだが……「子供を騙して何言わせてんだ」ってなりそう。てか、意外とませてる、この子? 

 

「よし、こうしよう」

「なんですか?」

「親戚、っていう設定で」

「あ、なるほど!」

 

 うん、それならいける。てか最初からそうすりゃ良かった。とりあえずどうするかが決まり、ホッと胸を撫で下ろした時だ。小宮さんが俺の腕にしがみついた。

 

「では、行きましょう。お兄ちゃん!」

「お兄……」

 

 お兄ちゃん……従兄弟も従姉妹もみんな歳上で、部活の後輩もできたことのない俺が、お兄ちゃん……。

 全身の血管に光が走り、徐々に身体に駆け巡り、最後に脳内に電気が到達する。

 俺の中で変なスイッチが入った。

 

「うん、お兄ちゃんと一緒に行こうか」

「はい!」

 

 ロリコンの気持ちが少しわかってしまった。

 

 ×××

 

 家で着替えた後は、果穂ちゃんの家に向かってランドセルを置いて家を出た。とりあえず、親戚なら名前の呼び方から気を付けなければならないので、お互い下の名前で呼ぶことにした。

 

「で、何を買いたいん?」

「仮面ライダーの変身ベルトです! デンオウベルト!」

「え、あれだいぶ前じゃなかった?」

「はい! だから最近売ってなくて……でも、秋葉原なら売ってるかなって!」

「あ、電車に乗るのねこれから」

 

 そういうの先に言って欲しかったわ。てか、俺と会わなかったら一人で秋葉に行くつもりだったのこの子? 逆に出会えて良かった感じあるな……。

 

「はい。……あ、葉介さんは何か欲しいものありますか?」

「ん、俺?」

 

 あー……どうするかな。特に無いし、なるべくなら金かけないようにしたいからね。

 けど、気を遣わせないようにしたいし……。

 

「ゲーセンのプライズ次第かな」

「UFOキャッチャーって奴ですか?」

「そうそれ。欲しいのあったら果穂ちゃんのも取ってあげるよ」

「本当ですか⁉︎」

「本当ですよ?」

 

 ああ、可愛い……。妹がいたらこんな感じなのかな……。こんな感じなんだろうな……いや、実際の妹は可愛くないってよく聞くし、あくまでも「年下の友達」だから可愛く感じるのだろう。

 コーラを飲みながら、とりあえず駅に向かって電車に乗った。

 電車に揺られる事しばらく、退屈になった果穂ちゃんが声を掛けてきた。

 

「葉介さん、ゲームやりませんか?」

「ゲーム?」

「はい! 名付けて……ヒーローしりとりです!」

 

 そのまんまだな。まぁ良いけどね。

 

「ルールはヒーローならなんでもアリです。その代わり、怪人は無しですよ?」

「ヒーローって……じゃあ『ゴレンジャー』と『キレンジャー』は別枠?」

「あー……そうですね。一緒で。じゃないと『あ』がとても多くなってしまいますから」

 

 ま、それが妥当だわな。しかし、それを始める前から予見するとは、中々、賢いな。アホっぽいのに。

 

「二つ目。シリーズものは頭の一文字から? 名前だけでOK?」

「名前だけで!」

 

 よっしゃ。これで大分、幅は広がった。ま、しりとりなんて一度始めたら中々、終わらんし、ここは大人のしりとりを教えてやる良い機会だろう。

 そんなわけで、果穂ちゃんからスタートした。

 

「では、スタートです! 好きな言葉をどうぞ」

「あ、俺からなのね。じゃあ、ドライブ」

「ぶ? ぶー……V3!」

「い、いー……」

 

 イカデビルが浮かんだけど、あれヒーローじゃねえな……。

 

「ああ、一号」

「う、うー……う?」

「問題、地球上では3分しか活動できず、時間が近くなると胸のカラータイマーが鳴る光の巨人は?」

「ウルトラマン! ……あ」

 

 これが大人のしりとりよ。すぐに果穂ちゃんは頬を赤くしたまま文句をぶち撒ける。

 

「ず、ズルいです! 今のは!」

「自身の迂闊さを呪いたまえ」

「むー! 人を騙すのは良くありません、ジャスティスパンチ!」

「あー待て待て! 電車の中で暴れない!」

 

 攻撃を甘んじて喰らいつつ、とりあえず落ち着かせていると、秋葉原に到着したので電車を降りた。

 

「では、参りましょう! お兄ちゃん」

「うん、あんまり表で大きな声で言わないでくれる?」

 

 偽物だってバレたらマジで通報案件。いや、なんならその場で袋叩きにされるレベル。

 バレないためにはむしろ堂々としてた方が良いのか分かってんだけど……まぁ、やっぱ堂々とし過ぎるのも怖いんです。

 とりあえず、果穂ちゃんの買い物から。仮面ライダーの変身ベルトなんてどこに売ってるかも知らんので、後ろから付いていくことにした。

 

「で、なんだっけ。電王?」

「はい!」

「どこ売ってるかわからんからついて行くよ」

「任せて下さい!」

 

 との事で、買いに行った。

 

 ×××

 

 とりあえず買い物を終えた。その道中、いろんな商品を見て来たんだけど……すごいのな、フィギュアって。今にも動き出しそうってくらい本物そっくり。日本でト○ストーリーが起きたら世界が崩壊しそうって程。

 あとアレだ。アベンジャーズのフィギュア。トニーとか役者の人そっくりよ。

 

「フィギュアってすげーな……普通に驚いたわ」

「そうですね! 特にあの……なんでしたっけ。えーっと、スパイダーマンの敵の……」

「ヴェノム?」

「はい! あれ、とってもカッコ良かったです!」

「それな」

 

 ヴェノムは決してヒーローではないが、ヴィランでもない。場合によっては味方になることを教えると、それはそれで好きみたいで、果穂ちゃんのテンションは爆上がりした。

 フィギュアなんてたかがおもちゃだと思ってたけど、それがあそこまで存在感を放つなんてな……。俺も少し欲しくなって来てしまう。……まぁ、流石に何万も出して買うほどじゃないが。

 

「それで……ゲーセンのプライズですよね!」

「え? あ、ああ。そうね」

「今、どんなのがあるんでしょうね〜」

 

 さぁ……何せ、それを言ったのも、気を遣わせないために捻り出した理由だし。

 とはいえ、ゲーセンのプライズゲームは決して嫌いではない。景品より取ることに興味がある。

 そんなわけで、早速ゲーセンに向かった。まず目に飛び込んできたのは、ヴェノムだった。

 

「おっ」

「あ、お兄ちゃん! ヴェノムです!」

「よし、やるか」

 

 取れるかは分からんけど、まぁ千円以内で頑張ろう。幸い、ここは橋渡しパターンだ。

 まずは端っこから狙い、持ち上げて箱を二本の棒に角が引っかかるように傾ける。その次は、少しずつズラしていけば……。

 

「……はい、取れた」

「す、すごいです! こんな地味にスパッと取ってしまうなんて……!」

「地味とか言う必要ある?」

 

 まぁでも、取れたのならよかったわ。

 

「いる?」

「え、良いんですか……?」

「ああ。俺はやろうと思えばいつでも取れるしな」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ヒャッハー、と目を輝かせてフィギュアを上に持ち上げる。うん、この笑顔だけで800円かけた価値はあった。

 

「よっしゃ、次行くか!」

「はい!」

 

 そんなわけで、行くことにした。

 それから一時間弱くらいだろうか? 秋葉にある様々なゲームセンターを乱獲し、両手いっぱいに袋を持っていた。まぁ、乱獲したと言っても取ったのは六つだが。

 しかし、だ。一時間も経過すれば、当然、日も沈みかけているわけで。

 

「そろそろ帰んないとだなー」

「あ、その前にもう一箇所だけ行きたい所があるんですけど……」

「いや、あんま遅くなると怒られるだろ。親御さんに」

「大丈夫です! ママにお兄ちゃんのことを話したらとても気に入ってくれましたから!」

「それは何も言わないだけで、本当は心配してんだよ。小学生の割に発育が良いんだから尚更だ。何の仕事してんのかしんねーけど、休みの日くらい早めに帰って安心させてやれ」

「葉介さん……」

 

 一緒に出かけてる俺の言えた話じゃねーけど。ま、中学の時に散々、心配かけた俺だから言える事だな。

 

「分かりました! じゃあ、今日はここまでですね」

「うん。じゃ、帰るか。家まで送るよ」

「ありがとうございます!」

 

 そんなわけで、今日は帰ることにした。

 

 ×××

 

 はい、困った事になりました。両手塞がってんのに果穂ちゃん寝ちゃったよ。まぁ、それなりに歩いたし、景品取れるたびに大騒ぎしてたし、最後の一個は果穂ちゃんとらせてあげてさらにテンション上がってたし、そりゃ疲れるか。

 さて、これからどうするか……。次、目的の駅な訳だが。起こすのがベストなんだろうけど……天使が休んでいるのにそれを邪魔する理由がわからん。

 幸い、先頭の車両に乗ったからか混んでいない。一度、プライズを席に置き、果穂ちゃんの定期を確保、その上で本人をおんぶし、プライズを持って電車を下りる……これで行こう。

 

「……よし、やるか」

 

 そろそろ電車が駅に着く。その為、作戦に移った。プライズを自分が座っていた席の上に置き、果穂ちゃんの鞄を漁り、定期を確保する。返すの忘れないようにしないと。

 その上で果穂ちゃんを背負い、両手にプライズを持っ……っと、果穂ちゃん落ちる。……あれ、これ持つの割と難しいな……。

 なら、先にプライズを持つか。果穂ちゃんを席に下ろすと、プライズの入った袋を手首に通し、その上で背負った。うん、行ける。

 

「……」

 

 良かったー、体鍛えておいて。特に体幹ないとこれ持たねーよ。

 そのまま電車を降りて、改札に向かう。他人からすごい視線を感じるが、気にしてる場合じゃないってばよ。

 定期を改札に通そうとした時だ。……あれ、ダメだこれ。上手く腕を動かせねー。本格的にどうしよう……あ、とりあえず退かないと他の人の邪魔か。

 壁際に避けてどうするか悩んでる時だ。

 

「お、おいテメェ! 果穂をどうする気だ⁉︎」

「ちょっ、バッ……誰⁉︎ あぶねっ……!」

 

 唐突に後ろから肩を掴まれ、バランスを崩してしまった。果穂ちゃんは落とさないようにしたが、急に身を預けていた俺の身体が動いたからだろう。天使が目を覚ましてしまった。

 

「ん〜……」

「あ、起きちゃったよ……」

 

 誰だ邪魔しやがったのは、と顔を向けると、俺の胸ぐらに両手が添えられる。喧嘩なら買うが、果穂ちゃんは巻き込めない。どうしたものか悩ませながらそいつを見下ろした。

 

「おい、アタシのチームメイトに……!」

「あ? テメェ誰だコラ……あ、樹里?」

「え……あ、葉介⁉︎」

 

 樹里が手を離したのと同時に、微妙に寝ぼけている果穂を下ろし、壁に立てかけておく。床に散らばったプライズを再び袋に戻した。

 

「ど、どういう事だよ? なんで葉介と果穂が……?」

「あー……まぁ、ちょっとした知り合いで……。決して変なことしようとかそんなんじゃないから」

「な、なんだよ……悪かったな。早とちりして」

 

 いやいや、別に良いんだよ。むしろ、今ので全部合点があったわ。要するに、樹里の言ってた「自分よりスタイルの良い小学生」とは果穂ちゃんの事なのだろう。確かに、ちょっと樹里が気の毒に感じるくらい差が……。

 

「ドンマイ」

「何がだオイ。……一応、聞くけど……変な事はしてないんだよな?」

「してねーっつーの」

「ああ、悪い。疑ってるとかじゃねーんだ。……ただ、果穂もアイドルだから、変な噂が立つと思うと……」

 

 別に嫌な気はしてないから。その辺はちゃんと樹里も歳上として気を配っている所なんだろう。それに、正体が俺と分かっていなかったと言うことは、果穂ちゃんのために誘拐犯に掴みかかったって事だろ? 相変わらず度胸あるのかねーのか分かんないやつだな。……ぶっちゃけ、危ない真似はして欲しくねーけど。

 とにかく、やましい事はない事は伝えられたし、何なら果穂ちゃんとプライズを運ぶのを手伝ってもらおうと思った時だった。

 目を覚ました果穂ちゃんが、俺に一言抜かした。

 

「あ、お兄ちゃん……? さっきまで電車にいませんでしたっけ……?」

「ちょっ、おまっ……」

「……お兄ちゃん?」

 

 ピクッと片眉を上げる樹里。いや、待て待て違う違うそういうプレイじゃなくて……! 

 

「あれ? 樹里ちゃん、なんでここに?」

「おい、果穂。こいつがお兄ちゃんってどういう事だ?」

「はい! 今日は私のお兄ちゃんなんです! 秋葉原で色んなことをしてくれました!」

 

 言い方! よりにもよって唯一与えた情報が秋葉原! 

 なんて思った頃にはもう遅い、樹里は再び俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「テメェ……!」

「俺がしたのはUFOキャッチャーとラジ館での買い物としりとりだけだから!」

 

 言いながら、手元の大量のプライズを見せる。果穂ちゃんの鞄にはデンオウベルトも入ってるし、ホントのことである事は証明できる。

 しかし、それでも面白くなさそうな顔をしている樹里。まぁ、優しい割に感情的な奴だからな。簡単に上がった沸点は戻らないか……と思ったのも束の間、果穂ちゃんは新たな火種をばら撒いた。

 

「あ……もしかして、樹里ちゃんの初恋の相手って葉介さんなんですか⁉︎」

「え、初恋?」

「バッ、おまっ……!」

 

 顔を真っ赤にして、俺と果穂ちゃんに交互に視線を配る樹里。目は徐々に渦巻いて来て、口元はスポンジのような形になってアワアワと声を漏らし、両手は虚空を彷徨う。

 えーっと……え、そうなの? てか、俺の話を事務所の子にしてんの? ちょっ、ズボン下ろした話だけはしてねーだろうな? ……え、てか本気で初恋? 

 なんて軽くパニックになっていた時だった。俺の顎に、拳が飛んで来た。

 

「ち、ちっげ────ーよ! バ──────ーカ‼︎」

 

 バッコーン☆というアッパーは見事に直撃し、俺の身体は壁に激突する。その間に、樹里は泣きながら走り去ってしまった。

 

「あのっ、樹里ちゃん⁉︎ だ、大丈夫ですか、お兄ちゃん?」

 

 一人、何もわかってない爆弾は、俺と樹里が抜けて行った改札の間をしばらく右往左往していた。

 

 

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