最近流行りの「男だと思ってた幼馴染みが」系が樹里ちゃんだった。 作:バナハロ
月曜から割とガッツリ遊んでしまった結果、次の日の火曜はかなりキツかった。
クソ眠い中、よりにもよって今日の家庭科は調理実習。いやー、マジでついてない。作るのはカレーなんだけど……とりあえず、班員を見回す。
四人中、一人は他所の机に遊びに行った。そしてもう二人はというと……。
「ひぃん……な、なーちゃん……玉ねぎ切って……」
「もー、しょーがないなー甜花ちゃんはー!」
「……」
うん、これを見るとうちの班の奴が他所の班に遊びに行く気持ちもわかるわ。
友達がいない俺はもちろん、遊びに行く班もない。従って、ここで何かするしかないわけだ。
仕方ないので、俺は米を炊くことにした。サボりは良くないしね。その後はー……まぁ、目の前の二人組の進行度にもよるけど、なるべく目立たない事をして、近くにいないようにしよう。
×××
放課後。いや、もうほんと疲れたわなんか。それに微妙にストレスが溜まってる。だって同じ班の奴、完成したカレーを食うときも他の班のとこ行くんだもん。
いや、同じ机にいたって話す事なんか何もないんだけどさ、あの双子姉妹と同じ机で飯を食った俺の気持ち考えてや。
もうホント、ストレス×ストレスだったので、こんな日は身体を動かすしかない。
しかし、昨日ハッスルしたからボウリングは無し。ジムも割と金かかるし無理。かと言って、公園で走りながらシャドーボクシングなんてしたってストレスは解消されない。
……そういや、樹里は今日、仕事なのかな。暇してるなら遊びたいんだけど……一応、声かけてみるか。
今日暇? と、L○NEを送った後は、一先ず家に戻った。返事来るまで外で待ってても暇なだけだからね。
「ふぅ……」
自室に篭り、漫画を手に取ってボンヤリする。……眠ぃーな。寝ちまうか? いや、夜寝れなくなるしな……。それに、樹里から返事が来るかもんねーし……。
「ん?」
あ……来た。
西城樹里『18時過ぎなら良いよ』
よっしゃ。……その時間だと薄暗くてボールは遊びは無理だけど……まぁ、樹里と一緒なら何したって楽しいし、それだけでストレス発散にもなる。
待ち合わせ場所を決めると、その時間になるまで漫画を読んで過ごす事にした。
×××
時早くして、集合時間。場所は、晩飯を一緒に食うことになったのでファミレスだ。
しばらくのんびりしていると、樹里がやって来た。
「お、おう……葉介」
「あ、来た。なぁ、樹里」
「な、なんだよ」
……なんかよそよそしいな。どうしたんだ一体? まぁ良いか。それより要件を……あれ、つーかなんで樹里と飯食おうと思ったんだっけ? 何か話そうと思ってたんだけど……もう時間経ち過ぎて忘れちゃったな。
代わりに、昨日の話でもするか。楽しかったし。
「な、樹里。聞いてくれよ。昨日さぁ」
「っ……!」
「……?」
なんか急に息を呑んだが……ホントどうしたのこの子?
「樹里? なんかあった?」
「いや、何もねーよ……そ、それより話ってなんだよ」
「……?」
あれ、もしかして俺怒らせるようなこと言ったかな。……あ、もしかして昨日のことまだ怒ってんのかな。そんな怒るようなことだったのかな……。そんなに俺を初恋だなんだと言われたのが嫌だったのか?
ま、だとしたら、この気まずい空気を打ち払えば良いわけで。ここは一つ、状況を緩和するとしよう。
「樹里、問題だ」
「は? も、問題?」
「パンはパンでも……食べられるパンツはなーんだ」
「なんだその問題⁉︎ パンなのかパンツなのかハッキリしろよ!」
「ヒント、無い」
「ねーのかよ! てか、なんだお前? 怒ってたんじゃねーのか⁉︎」
「は? 俺が? なんで?」
何を言うてんのこの子。俺が怒る要素あったっけ?
「だ、だって……昨日、殴っちまっただろ? その、果穂に……初恋だなんだって……言われて……」
……ああ、そんな事か。
「別に気にしなくて良いから。殴られるくらいなんて事ないし」
「そ、そうかよ……? え、じゃあなんでアタシを呼び出したんだ?」
「それはー……まぁ、なんだ。ぶっちゃけ愚痴のためだったんだけど……でももうあんまストレス溜まってないから、普通に駄弁ろうや」
「おいおい……まぁ良いけどよ。でも、なんか嫌なことあったんなら言ってくれよ。相談にくらい乗れるぜ」
「調理実習で同じ班の奴の一人が他の班に遊びに行って、もう二人が双子の姉妹で百合百合してて班行動で孤立した」
「あ、アタシと今度一緒に料理するか?」
やめろ、その親目線の同情が一番、心にくる。主に、心の臓に。
さて、何について話すか、だけど……まぁ、話したいことはたくさんある。けど何より、一番はやっぱあの話だよね。
「なぁ、樹里。この前から気になってたんだけどさ、お前の初恋って俺なの?」
「テメェその話蒸し返すか⁉︎」
いやーだって気になるでしょ。そんな風に言われちゃったら。
「違うに決まってんだろ!」
「でも、あの言い方だと初恋の相手はいるって事だろ?」
「だから違ぇって。あいつらにお前の話したら、勝手に初恋だなんだと盛り上がっちまったんだよ」
「女子ならではのあれか」
「そうそう。だから、真に受けんなって」
ま、そんなもんだよな。実際、俺だって初恋もまだなわけだし。
「ちなみに、果穂ちゃんとは上手くいってんの?」
「どういう意味だよ」
「や、喧嘩してねーかなって。昨日の帰り道、微妙に果穂ちゃん怒ってたし。『急にパンチするなんて樹里ちゃん、ひどいです!』って」
「ああ、平気だよ。ちゃんと誤解解いておいたし。『謝るまで許しません!』とは言われたけど……良い時にお前からL○NE来たから、謝ってくるっつって来たんだよ」
こうは言ってるけど、ここに来たときのぎこちなさを思い浮かべると、割と本気で怒られて、しゅんっとしてたんだろうなぁ……。こう見えてメンタル弱い子だから。
良い時に、とか言ってるけど、多分、実際に来た時はかなりドギマギしてたと思う。
今でこそ平気な顔をしてるけどね。
「……な、なんだよ。そのニヤケ面」
「なんか……お前、可愛い奴だな」
「はっ⁉︎ い、いいいいきなり何を……!」
「いや、なんか……分かりやすいというか、素直じゃないというか……いや、何でもないわやっぱ」
「な、なんだよそれ! てか、どういう意味だよ⁉︎」
「ん、女っぽくなったって事」
「ぜってー嘘だ! てか、バカにしてたんだろ今!」
「とりあえず注文しようぜ」
「この野郎……!」
だってまだ何も頼んでないもの。メニューを開いて、何にするか決める。とりあえず……俺はいつもの肉……と言いたい所だけど、金ないわ。ペペロンチーノで良いや。
「決まったわ」
「何にすんだ?」
「ペペロンチーノとドリンクバー」
「……そんなんで良いのか?」
「……昨日、果穂ちゃんのためにハッスルして財布が薄くなっちまったからなぁ」
「バカだなお前……よし、アタシも決まった」
店員さんを呼び出すボタンを押した。お互いにさらっと注文を済ませ、料理を待つ。
「お前……意外とガッツリ行くんだな……。ハンバーグに辛味チキンって……」
「は、腹減ってんだよ。それに、一応アイドルだし、金はあるからな」
「金あるのにファミレスね」
「高いとこ行って良いんだな?」
「嘘ですごめんなさい」
無理無理無理。金があっても無理。……夏休みはまた短期のバイトしないとなぁ。今回は何にしようか……なんかこう……1日で八千万くらい稼げるバイトないかなぁ。あるわけないわ。
「それより、飲み物取ってくるわ。何飲む?」
「とって来てくれんのか? んー……アタシは、アイスティーで。ミルクとガムシロ入れて」
「はいはい。一応聞くけど、砂糖の代わりに甘い炭酸ジュースでも良い?」
「ぶっ飛ばすぞお前」
ですよね。
とりあえず、言われた通りにアイスティーと自分のメロンソーダを注いで席に戻る。
「はい、お待たせ」
「……なんも変な事してねーだろうな」
「してねーよ」
「砂糖の代わりに塩とか」
「なんでドリンクバーに塩が置いてあんだよ」
新し過ぎて笑えるわ。塩を入れたって飲み物の甘さは増さない。
とりあえず、持って来た飲み物を一口、口に含み、一息つく。こうしてぼんやりしていると、このお店の壁に飾ってある絵画ってなんで女の裸ばっかなんだろうな……。いや、実際、世界の名画が裸婦ばっかだからなんだろうけど。
でも、何もそれをチョイスしなくても良くない?
「……おい、どこ見てんだよ」
そんな事を思っていると、樹里から声が掛けられる。
「え? ヴィーナスの誕生。なんであいつ貝殻から生まれてんだって思って」
「え、あ、そ、そっか……」
つーか足場のあれは貝殻なのかな。ようわかんねーけど。
……てか、樹里は何を見てると思ったの? ああ、あの絵のおっぱいか。確かに女の子と二人でいるのにそれは無いな。
「な、なぁ、葉介」
「? 何?」
「この前、果穂にとってやってた景品だけどよ……」
「ああ、あれ。いやー、果穂ちゃんに欲しいって強請られちゃってさー」
そしたらもう取らないわけにいかないじゃん? まぁ、その結果がこの財布の中身を物語っているわけだが。
「てか、なんで果穂のためにそんな金使ったんだよ」
「果穂ちゃんの喜ぶ顔を見るとついな……。まぁ、あの笑顔を見れたんなら安いもんよ。あはははどうしようお袋にバレたら消される……」
「お前ホントバカだな……そういうとこ、変わってねーけどよ……」
大きなお世話だ。とりあえず、最近は昼飯をパン一個だけで凌いでる。どうせ午後は授業2時間しかないわけだし、何の問題もない。
「ち、ちなみに、だけどよ……」
「? 何?」
「……あ、アタシも……その、ぬいぐるみ……でもなんでも良いけど……なんかとって欲しいって言ったら……どうする?」
「……」
しどろもどろに呟く樹里。……え、お前ぬいぐるみとかフィギュアとか興味あったっけ?
「や、どうも何も取ってやるけど……なんで?」
「いや……アタシの方が付き合い長いのに、アタシに何かプレゼントしてくれた事なかったなーって」
「ああ、付き合いが長いって言っても、小学生の頃に何かあげられるわけがないでしょ」
「そりゃそうだけどよ……や、そうじゃなくてな」
「じゃあ何?」
「っ、だ、だから! アタシもお前と一緒にショッピングとか行ってみたいってんだよ!」
……ああ。そういう事か……。いや、まぁ確かに小学生の頃は二人で表ではしゃいでいただけだしな。こっちに来てからも、飯とバスケしかしてない。
「……でも、今は金ないからもう少し先……夏休みとかでも良いか?」
「い、行ってくれるのか?」
「行かない理由がないからな」
「よっしゃ!」
しかし……ショッピングか。樹里もやっぱ女の子だし、そういう女の子っぽい服とか着るのかな。
「樹里はワンピースとか着ないの?」
「っ、な、なんでだよ……?」
「いや、何となく。樹里もそういう服に興味あったりすんのかなって」
「ね、ねーことはねーけど……いや、ねーな。あんま着ない」
「……」
これはー……ある時の反応だな。正確に言えば、着たことがある奴の反応。
「でも……樹里のワンピースか……見てみたい気もすんだよな……」
「なんでだよ」
「そもそも、俺にとっちゃ学生服でもスカートを履いてる樹里が新鮮なんだよ」
「どういう……いや、まぁそうか」
「特に、そんな良い足してると思わなかっ」
「おい、蹴るぞお前」
いや、いやらしい意味じゃなくて、筋肉質で鍛えられてるって言いたかったんだが……うん、まぁ言い方が悪かったな。
すると、突然、樹里は頬を赤く染めて目を逸らす。そのまま、ポツリポツリと呟くように言った。
「……まぁ、どうしてもお前が見たいって言うなら……着ても、良いけど……」
「え……良いのか?」
「い、一回だけだからな!」
……ま、マジかよ……。てか、ワンピース着る前からその表情は普通に可愛いんだけど……。
「でも、買い物の時だけだからな! 夏休みまで待ってろよ!」
「よっしゃ。超見よう」
「見るな!」
なんだかんだこっちのお願い聞いてくれる辺り、やっぱ樹里は優しいんだよなぁ……。やっぱり、昔と比べてちっとも変わっていない。
うんうんと小さく頷いていると、料理が運ばれて来て、机の上に並べられた。
「お待たせいたしました。辛味チキンと……ペペロンチーノです」
「お、来たな」
「ハンバーグステーキはもう少々、お待ち下さい」
最後に「ごゆっくりどうぞ」とだけ言うと、店員さんは引き下がっていった。
……うーん、晩飯にペペロンチーノだけってのは正直、足りないんだよなー。その上に先に来ちまって、多分、樹里よりだいぶ早く食べ終わっちまいそうだし……。
どうしたものか悩んでいると、樹里が辛味チキンの小皿を差し出して来た。
「おら」
「え?」
「全部じゃねーぞ。2〜3本食えよ」
「……良いのか?」
「アタシ一人じゃ食い切んねーしな」
じゃあ頼むなよ、なんて台詞は無粋である。そんなわざわざ気を使ってくれて……。「食い切んねーし」と言った割に、頬を赤くしてそっぽを向いちゃってる辺りがもう本音がボロボロ落ちてるよね。
相変わらず、素直じゃなくて優しくて、本当に良い奴だよ。
「……やっぱ、お前可愛いな」
「っ、だ、だからいきなりそういう事言うなよ! なんだお前……!」
「サンキュー。もっかい、飲み物持って来てやるよ」
「ったくよー……」
そんな話をしながら、二人で食事を進めた。
誤字報告してくれている方、いつもありがとうございます。