ファーストコンタクトより数分後、リューリクは相手の船に招待された。
船内を見渡すと、中国が管理世界と同レベルの技術力を有していることがわかった。
いや、映像技術に関しては管理局すら凌駕しているかもしれない。
今から、その話をしよう。
リューリクは船内で一番広いであろう部屋に連れられた。
「初めまして。中華人民共和国の皆さん、リューリク・ストラトスです」
リューリクが挨拶すると、彼らは敬礼した。
「初めまして。人民次元解放軍所属〈地平線〉艦長、張明円だ」
「第一副艦長、丁汪です」
「第二副艦長、月村かえでです」
リューリクは第二副艦長の名前を聞いたとき、心に引っかかるものがあった。
だが、それを質問することはできなかった。
その瞬間、その場に威厳のある壮年の男性がふっと現れたからだ。
「遅れてすみません。あなたが外次元の市民ですね。私は中国国家主席の王岳です」
リューリクは自分が偉大な瞬間に立ち会っているのだと改めて実感した。
「か、管理世界市民のリューリク・ストラトスです」
彼は王岳と握手をした。だが、信じられないことにリューリクの手は相手の手を貫いた。
「えっと、これはどういうことでしょうか?」
リューリクは素っ頓狂な声を上げてしまった。
その様子を見ていた周囲の者たちも動揺していた。
「・・・管理世界ではリモート出席というのをしないのですか?」
月村かえではリューリクに質問した。
冷静さを取り戻したリューリクはそれに答えた。
「そもそも、技術が存在しないんです。ここまでリアルな映像を映し出せるなんて」
管理世界では、リモート出席といっても、浮遊ウィンドウの画面に映るので、
今のように全身を映し出す技術も発達しなかった。
「今に貴方達も我々の映像技術を凌駕しますよ。ええ、保証します」
国家主席は微笑んで、現れた時と同じようにふっと消えた。
読者の皆様はわかっていると思うが、現代の地球には魔法技術がない。
そして、それは近未来の地球でも変わらないらしく、魔法機器が一切見当たらない。
それなのに、地球文明は科学だけで管理世界と同レベルに達しているのだ。
「・・・さて、リューリク殿。あなたは地図みたいなものは持っているかね」
明円はもったいぶって聞いた。
「ええ、持っていますよ。ここから少し先に管理世界がありますから、
そこで補給とかも済ました方がいいと思います」
「ありがとうございます。それでは、しばらく艦内を見学してください。
歓迎会の準備がありますので」
「歓迎会って、そこまでしなくても大丈夫ですが・・・」
「いえいえ、貴方は地球文明が公式に接触した最初の管理世界市民です!
これくらいはしないと、失礼に当たります!」
リューリクは艦長が『公式に』というのを強調したのを聞いて、確信を持った。
彼らは高町なのはを知っているのだ。どういう手段を使ったのかは知らないが。
「では、かえで君。彼の案内を頼むよ」
こうして、月村かえでとリューリクは二人きりで艦内を見て回った。
そして、艦内になぜかある小麦畑(管理局の戦艦にはこういったものはない)に来た時、
心に引っかかっていたことを聞いてみた。
「月村かえで副艦長、もし間違いだったらすみませんが、
貴方の先祖に高町という名字の人はいませんでしたか?」
彼女は驚いた。
「ええ、いますよ。曾祖母の姉の夫がそんな名字でした」
「やっぱり。その人の名前は恭也ですよね」
「そうですが、なぜそれを知っているんですか?」
「僕の曾祖母は高町なのはっていうんですよ。曾祖母の兄の名前が・・・」
その時、その場にいて、コーヒーを飲んでいた者はそれを吹き出した。
コーヒーを飲んでいなかったものは、唾を吹き出した。
月村かえでの唾がリューリクの顔にかかってしまった。
「す、すみません!今、顔をお拭きしますので!」
「あっ、大丈夫ですよ」
リューリクは自分でハンカチを取り出して、拭いた。
「・・・僕の曾祖母は地球でも知れ渡っているんですね」
「いえ、地球全体というわけではありません。ですが、中国軍人なら皆知っていることです」
「そうなんですか。実は曾祖母からプレゼントされた本を持っているんです」
リューリクは懐から例の本を取り出した。
「これを読んで、探検家になろうと思ったんです。探検家になれば、
地球に行ける口実ができるからです。制限が厳しくなったので、無意味になりましたが」
「それで、私達の世界の近くにいたんですか。それにしても、ずいぶんと年季の入った本ですね」
「ええ、曾祖母が子供の時からに持っていた本らしいので。多分、今の地球はだいぶ異なっていると思いますが。消滅した国家もあるのでは?」
リューリクは世界地図が書かれたページを開いた。
かえではそれをまじまじと見つめて言った。
「確かに、この地図に書かれた国家のいくつかは変化しました。
一番大きく変化した国家は・・・ここです」
かえでは北米大陸のアメリカ合衆国を指差した。
リューリクはその国をある意味ではよく知っていた。
やっていることがミッドチルダにそっくりであったからだ。
ミッドチルダが管理世界の支配者として振舞っているように、
アメリカも地球の支配者として振舞っていたのだ。
「一言でいえば、アメリカは消滅しました。いえ、一か国を除けば、両大陸の国家が統合されたのです。ついでにイギリスとオーストラリアも」
かえでの言ったことが、一瞬理解できなかった。
「・・・滅亡したということですか?あの、アメリカが?」
本に書いてあったアメリカは曾祖母のごとく超火力の国家だった。
そんな国が滅んだというのだ。
「はい。リューリクさんは南北戦争をご存知ですか?」
「ええ、知っています。曾祖母にねだって買ってもらった歴史漫画で知ったんです」
「なら、話が早いですね。二回目が起こってしまったんです」
「二回目・・・第二次南北戦争、ということですか?」
「そうですね。ですが、一回目と決定的に違うのは両大陸を巻き込んだことです」
リューリクはその戦争の原因を聞こうかと悩んだ。
次元世界でも人種の話題はタブー視されている。
子供の時、鉤十字を自由帳に書いたら、曾祖母ご自慢のSLBを喰らったこともある。
かえではそんなリューリクの考えを察し、笑った。
「原因はくだらないものですよ。当時の人たちも、今では笑い話にしているので。そうですね・・・リューリクさんの世界には政府権力を超越するほどのスーパーマーケットは存在しますか?」
「いえ、ありませんよ。そんなのが存在したら、とっくに管理局は終わってますよ」
「アメリカにはそれがあったんです。彼らの財産は地球で一番の富豪でさえも越えていたんです」
「クーデターを起こせても、不思議ではありませんね」
「起こったんですよ。福祉政策の強化に政府が乗り出した時、彼らはそれを起こしたんです」
なるほど、リューリクはそう思った。
ミッドチルダでも福祉政策がそこまで充実してないのは、資本家たちが反対しているからだ。
それで、クラナガンには貧民街がいまだに存在するのだが。
こういった知識は、曾祖母の愚痴から手に入れてたのだ。
「そのスーパーマーケットだけではありません。当時の世界を支配していた巨大財団でさえも反旗を覆し、政府は完全に瓦解しました」
「でも、それで終わらなかったんですよね?」
「ええ、副大統領はカナダに命からがら亡命したんです。カナダは高福祉国家でしたから」
カナダに関してもリューリクは知っていた。
幸福な国というイメージがあった。
「財団の支配下に置かれたアメリカは超・新自由主義を唱え、カナダに宣戦布告しました」
「それは大惨事になったに違いないでしょうね」
「ええ、当時の写真がありますよ」
そう言うと、彼女は壁をトントンと叩いた。
すると、壁にウィンドウが表示されたではないか。
後に知ったことであるが、地球では街中の至る所でこういった機能が使えるらしい。
写真には管理局の保有する巡行艦よりも巨大な何かが写っていた。
「これは浮動要塞と呼ばれる空中兵器です。不利になったカナダ軍が必死になって開発しました」
「こんな巨大兵器は管理世界だったら即座に禁止されてしまいます。こんなのは質量兵器という区分にすら入れられません」
「ですが、この兵器は今でも太平洋と大西洋の重要なポイントに配備されています」
こんなのひいおばあちゃんが許すわけない、とリューリクは思った。
「戦争は一年間続きました。七か月目にカナダ軍は旧アメリカ領土を完全に占領しました」
「でも、あと五か月残ってますが」
「ええ、旧アメリカは南米を占領して、そこで抵抗を続けたので」
「でも、その抵抗は無意味だったと」
「まあ、そんな感じですね。両大陸はこうしてカナダの下に統一されました
その後、第二次奴隷解放宣言が出されて、オセアニア連邦が成立しました。」
そろそろ読者が白目になるであろう。これは魔法少女リリカルなのはの二次創作なのだ。
断じて、オリジナルSF作品ではない(白目)。
「ところで、オーストラリアとイギリスはどうしてカナダに併合されたんですか?」
「オマケみたいなものですよ。一応、同じ連邦に属していたので問題ありませんでした」
「そうなんですか。それ以外の場所ではどんな変化があったんですか」
「そうですね・・・まず、暴力装置が滅亡したので、国際政治にそこまで口出しをしないような北欧的国家がモデルになるような世界が到来しました。私達の国は最初はそういった流れに抵抗していましたが、次第に高福祉化が推進されるようになりました」
リューリクは本に書いてあった中国の描写を思い出す。
たった一つの組織が強力な権力を振るう国家。ある意味では管理世界のようだった。
「そういえば、アジアはどうなったんですか?」
「アジアも統合がだいぶ進みましたよ。今、アジアに存在するのはインドとASEANと中国ですね。朝鮮は中国が統一したので・・・。酷い昔話があるんですよ。平壌に入城した解放軍は補給の不備から食料不足に苦しんだんですが、ちょうどいいところに一匹の豚がいて・・・」
リューリクは、その豚が明らかに豚ではないことを察した。
「・・・味はどうだったんですか」
「普通の豚の方が美味かったそうです」
「・・・ですよね」
「あと変化があるとすれば、国歌が変わったということぐらいでしょうかね?私の出身地である日本自治区が抗議したので」
「そうですか・・・」
リューリクは少しがっかりした。曾祖母の祖国が消えていたからだ。
「あっ、そうそう。この地図に書いてあるチベット自治区と新疆ウイグル自治区も消滅しました。もともとの民族がいなくなったので」
リューリクはさらにがっかりした。本には何故かチベットやウイグルに関する記述が少なかったので、一度そういった人たちに直接会ってみたかったのだ。
「・・・そろそろ時間ですね。リューリクさんは中国料理を食べたことは?」
「ありませんね。曾祖母の友人が作ってくれた日本料理ならありますが」
その日の歓迎会の中国料理はルーフェン料理とはまた違った魅力があった。
さらに、デザートはかえで手作りの『シュークリーム』が供された。
祖母から聞いた『翠屋』のシュークリームはこんな味だったのだろうかと、リューリクは思った。
ちなみに、彼女の作るシュークリームは艦内でも人気らしい。
そして、数時間後に船は最寄りの管理世界に到着した。