ラブレターと称した便箋を抜き、封筒を裏返し、また表に戻す。その行為になんの意味があるのかと二人が首を傾ける。
「ほら、宛名もなにもない。これ、エミリーさんに、直接渡していたってことですよね」
渋面するコナーに満足気なハリーは、鼻歌でも鳴らしそうな顔で更に箱の奥を漁る。そして、ひょいと引き出した数枚の内、一枚だけ訝しそうに眺めた。
「宛名がある、やっぱりエミリーさんだ。けど、これは……」
ハリーは、箱を両手で持ち上げ、逆様にして中身を全て机の上に落とす。机上からこぼれた分には目を向けず、選りすぐりとばかりに数十枚を分けて中身を確認する。
「おい、いきなりどうした?」
ジョージがハリーの意識を戻そうとすれば、話掛けるな、と左手で制された。一枚開けば、すぐにまた一枚、そうして繰り返された後、最後の一枚へ目を通し終わると同時に、ハリーが口角をあげた。
「ああ、なるほど……これなら、この枚数にも納得だ。しかし、歴史ってものはどこまでも残酷だなぁ」
一人納得の言葉を呟くハリーに、遂にジョージが声を荒げる。
「おい!いい加減にしろ!お前だけが理解しても意味がないだろいうが!」
あまりの剣幕と怒声に、ハリーは面白くなさそうに読んでいた便箋を置く。
「そんなに怒鳴らなくても良いじゃないですか……あのですね、これは、歴史の被害者の手紙でったんですよ」
「どういう意味だ?コナー、お前は?」
「いや、俺も全てではないにしろ、確認はしている。そんな文面は無かったはずだが……」
「そりゃそうでしょう、誰にだって知られたくないことはあります。けれど、知られてしまったのなら、他者には伝わらないように隠します。特に、郵便が発達した現代なら尚更です」
言いながら、ハリーは先程置いた分ではない便箋を読む。
「親愛なるエミリーへ、君に隠し事をしていた訳じゃない。受け入れられないことが恐ろしかったんだ。僕らは、これまで多くのものを奪われ、多くを失ってきた。僕は、君まで失うことが怖いんだ。だから、どうか僕から離れないでくれ」
ハリーが次の一枚に手を伸ばす。
「親愛なるエミリーへ、今日、僕は改めて世界が残忍なものだと感じた。ああ、どうしてだろう。僕自身は何もしていないというのに、悪意は隙なく襲ってくる。そんなとき、僕は決まって君の写真を眺めているんだ。その時間だけは僕にとって特別な意味があるからね。僕は、遠くに行かなければならないけれど、君のことは忘れない。勿論、彼のことも」