カップに残った紅茶を一気に仰ぎ、一息つくハリーを見ている二人は、まだ理解が追い付いていないのだろうか、先を促すように頷いた。
「けれど、僕はユダヤの民を素晴らしい民族だと考えています。それも、世界で一番、頭の良い民です。こんな話しをご存知ですか?ユダヤの民は、一度でも読んだ書物などを決して忘れない。何故なら、過去、有りとあらゆるものを奪われ続けた彼らにとって、知識とは己にだけ備わり、誰にも奪われることがないものだから……彼らは、その知見を発達させ、この世の中の基礎を作りあげた。数字、金、貿易、株式、数学、これらも数えればキリがない」
指折り数えていたハリーは、空になったカップに紅茶を注ごうとしているのか、不意に私選を泳がせる。それに気付いたコニーが声を掛け、紅茶の葉を入れた袋を投げる。
「それで?まだ、この手紙の主がユダヤ人だという証拠には行きづいていないと思うが?」
「分かりませんか?ユダヤの民は他者に対する警戒心が強いんですよ。紀元前からの迫害と強奪、さらには殺戮を味わっていれば先祖から植え付けられていても不思議ではないでしょう。正の面も負の面も、膨大な知識をあらゆる意識と認識の全てを注いでいたとしたら恐ろしいとは思いませんか?それと、その手紙の束の内容に大方目を通したと言っていましたが、最初の方はラブレター、しかし、最後になるにつれて似た内容になっていったのではないですか?」
コニーの喉が、ぐっ、と上下する。その様子を紅茶を注ぎながら盗み見ていたハリーは、満足そうに縁に口をつけた。
「まあ、ユダヤの民の知識や功績については、あくまで噂程度のことですから、真に受けることもありませんが、一つ、ある可能性が濃厚に輪郭を描き始めたのは確かです」
「今度は一体なんだってんだ……」
頭を抱え始めていたジョージが問うと、ハッキリとした湯気の奥で、鼻の筋に合わせるかのように、人差し指を立てるハリーが言った。
「エミリーさんに子供が、それも、男の子がいたという仮説ですよ」
バン、と机を叩く音が響き、片肘をついて抱えていた頭が腕のなかに沈んでいくのをジョージは自覚した。濁っていく雰囲気の中、飄々とした態度のハリーは、悪怯れることなく紅茶が入ったカップを傾け、唇を放す。
「ハリー、お前は彼という文字が息子を指しているとでも?」
「はい、その通りです」
「ならば、何故、父親が子供の側にいない?」
「この世界、時代、立場、親子、すべてに於いて、強いほうがなにかを決めるということはないってことですよ。強い立場の人間になればなるほど、そういった当たり前を忘れてしまう。親は、子供を産む権利はあるが、子供は産み出される権利なんてものを持ち合わせていないんです。先日、伝えようと思っていましたがようやく言えました」
机に置いた手を震わせ、コニーはハリーを睥睨しつつも、靴音を鳴らしながら部屋を出ていった。
「あのなぁ、お前はもう少し他人の気持ちを理解する努力をしろよ……」
ハリーは肩を僅かにあげる。
「他人の気持ちなんて分かりませんよ。僕は不思議な力を扱えませんから」
ハリーは、先程、読み上げた便箋の上にカップを置いた。