「うっ!」
ジャックの手を放れたナイフは、まっすぐに飛び、反射的に両腕で顔を覆ったチャーリーの左肘の衣服のみを切り、背後の壁に突き刺さる。短い声を喉の奥で出したチャーリーが、肺に溜まった空気を吹き出せば、ジャックが立ち上がった。
「チャーリー、その傷は残しておけよ?女のとこに案内しろ。おい、行くぞクソガキ」
ばっ、と右手で左肘を触るチャーリーを見て、少年は切れていることに気付いていなかったのだと分かる。
凄い、少年の胸中は色づいた景色で満たされた。一挙手一投足、全てが力へと集約されている、そんな彼の佇まいが堪らない。
だが、同時に、自身もそうなれるのだろうかという面もある。
「おい、なにしてんだ。行くぞって言ってんだろうがクソガキ」
ジャックの声が、壁のナイフから少年の目線を剥がした。
「行くって……僕がここから出ても良いの?」
ジャックが面倒だとばかりに、顔をしかめた。
「別に閉じ込めてる訳じゃねえよ。それに、ここは俺の城の中だ。どうするかは俺が決める」
そう言って階段を登っていくジャックを慌てて追おうとした少年だが、壁に背中を着けたままのチャーリーに手を差し出す。
「一緒に行こうよ、僕、チャーリーとも話してみたかったんだ」
チャーリーは、大柄な自身の腰ほどの高さしかない少年を見下ろす。
「……ああ、そうだな」
細い息を吐くような小さな声音に、少年は満面の笑みを浮かべると、大きく、ゴツゴツと強ばった右手を両手でとって階段を登っていく。
先にあった扉を開けば、少年の瞳に夢のような空間が飛び込んできた。
玄関の役割をしているのは、眩しいほどに鮮やかな装飾を施された重厚な扉、そこから繋がる階段は踊り場から二つに別れ、それぞれが二階へと延びている。室内を照らすシャンデリアは少年の目を焼いてしまうそうなほどに煌めいていた。言葉に現せない景色は、思い出せない記憶の奥から何かを引き出してきそうだ。
「凄いや……まるで、太陽がすぐそこまで近付いてきているみたい……」
少年の感嘆に、中央階段の踊り場から響いた怒鳴りが被る。
「チャーリー!女はどこだ!」
「に、二階の監禁部屋にいます!」
チャーリーは、少年の手を荒く引き離し駆け出す。その背中を不満そうに眺めた少年は、もう一度、天井から下がる太陽を見上げ、二階へと登った。
到着したのは、踊り場の右側、二階の通路奥にあった部屋だ。ここまでくる途中にある部屋とは、扉の作りからして、酷く殺風景だった。