ひやり、と冷気が漂う鉄扉は所々に錆が目立ち、蝶つがいにまで及んでいる。押し開ければ、扉の内側は赤黒く変色していた。すえた匂いとはまた違う、独特な臭気がこびりついた狭い室内を、くるり、と見回した少年の目は、中央で止まった。ひじ掛けに両手を縛られ、長い髪で顔が隠れた女性が項垂れている。ボロボロのワンピースの裾が揺れた。
「なんだ……もう来たのかい……もう少し休めると思ったのにね……」
声質からして三十代ほどだろう。少年にとって、母を名乗っていた女と近い年頃ということもあるのか、手に不思議な感覚が広がっていく。それが、どういったものかを理解するより早く、周囲の空気を変えながら、ジャックが靴音を鳴らす。
「初めまして、ジャックと申します。部下が手荒な真似をしてしまったようで、お詫びします。しかし、貴女を拘束しているのは必要があるからと理解して頂ければ幸いです」
一連の動作で頭を下げたジャックに、女性は瞠目したみたいだが、すぐに目線を引き剥がした。
腰を戻したジャックが言う。
「まず、貴女には尋ねたいことがあります。一つ、誰の指示で薬物を売り捌いていたのか、二つ、薬物の入手先はどこか、三つ目、貴女は何者なのか、です」
慇懃な態度とは裏腹に、ジャックの背中から流れてくる雰囲気は黒い。それを知ってか知らずか、女性は盛大な舌打ちを返す。
「それを知ってどうするってんだ。言っておくけど、アタシの後ろにはアンタみたいな奴より大きな組織がいるんだよ。それで、ジャックだっけ?聞いたこともないね」
「そうですか。貴女の後ろに組織がある、それは素晴らしいことです。ところで、その集団はどちらで?」
脅しなど意にも介さず、話しを進めるジャックに、女性は尚も続けた。
「後ろに組織がいるって言ってんだよ!アンタみたいな男じゃとても太刀打ちできないようなね!名前を聞いたら、潰されちまうよ?」
声を荒げ、捲し立てる女性だが、その面持ちには明確な狼狽が浮かんでおり、怒鳴り程度では隠しきれていない。逆に、ジャックはどこまでも落ち着いた口調だ。
「私を潰す、ですか?その組織とやらが?随分、面白いことを言う。けれど、笑わせるのであれば、もっと上手くやってください」
「どういう意味……?」
瞬間、ジャックの慇懃な態度が崩れ、いつもの冷たい双眸が表れた。
「俺のことを知らない女が、後ろ盾があるなんて、よく口にできたな。大したもんだよ」
伸ばした右手で髪を鷲掴みにしたジャックは、引き抜く勢いで強引に顔をあげさせる。悲痛な声を洩らした女性の歯が震えて音を出す。