それほど気になることだろうか、ジョージは素直な感想を喉の奥へ押し込んだ。ハリーは、時折、鋭い箇所を突くことがある。思考を子供がいた、ということに切り替えて、話しを続ける。
「子供がいたとして、何故、そのことを隠す必要がある?」
ハリーは首を振った。
「さあ、そこまでは分かりませんよ。けれど、あくまで想像のみで話すとすれば、仕事上、都合が悪かったんじゃないですか?同業者にも伏せたのは、噂として広げられたら、なかなか買われにくくなるから、とか」
ジョージは扉が開いたままのクローゼットへと視線を流す。ベッドとテーブルだけで面積を圧迫するほど狭い部屋で、子供を隠すことができるのは、クローゼットの中だけだ。そこで、ある想像が働く。
その子供は、母親の「仕事」をクローゼットの隙間から覗いていたのだとしたら……
腹から込み上げてきた感情が口から噴き出しそうになるのを、どうにか手で覆って堪えた。推測の域を出ない事に意識を傾けた上に、勝手な妄想に陥ってしまうなど、警察として失格だ。
気分を切り替える為に、ジョージがシーツの下に隠された遺体へと手を伸ばそうとしたところで、鑑識を務めていた男が言った。
「おい、ジョージ、勝手な事をしようとするな。こっちはまだ整理の途中なんだ」
そう声を掛けてきたのは、ジョージとは顔馴染みのコナーという男性だった。あらゆる現場で出会っていくうちに親しくなっていき、今では、軽口を叩き合える仲だが、今回ばかりは、目立ち始めた白髪が逆立って見えるほどに、ヒリついた空気を纏っていた。
「ああ、すまない、コナー……そう気を立てないでくれ」
挨拶代わりとばかりに差し出したジョージの右手を握らず、コナーは仕事の手を進める。どうやら、座った状態で床やベッド周辺に残された血痕を調べているところで、コナーが愚痴るように言う。
「今更、このホワイトチャペルで事件が起ころうがなんとも思わんが、この二つの遺体だけは異常だ。そうは思わんか」
ジョージは丸くなったコナーの背中を眺め、首を縦に振った。
「そうだな。いくら、スラム街と呼ばれていようとも、こんな殺され方をしてしまっては、神からも目を背けられるかもしれないな……」
コナーは、鼻を鳴らす。
「慈悲も情けもない、こんな世の中なんぞ、とうに見捨てられているのかもしれんぞ。でなければ、百年前のフランスで革命なんぞ起きてはいない」
顔だけで振り返ったコナーの瞳には激しい憂いの光が宿っている。
「いつだって、苦しまなければならないのは、金を操る者ではない。生き延びる為に、どんなことでもやってのける、こういった人間達だ」