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夜の帳が訪れ、少年は行動への布石を張った。
この地区に慣れていない大人達の目的は、娼婦を買うことだ。顔が忙しなく動いているが、お気に入りを見つけることだけに必死で、足元を注意することもなく、少年にとっては好都合だった。ゴミ箱の脇に身を屈め、じっ、と息を潜めて獲物となる大人を探す。断っておくが、このとき、少年は人を殺そうなどと考えてはおらず、大人の財布を奪おうとしていただけだ。だからこそ、少年は命を長らえた。
少年が狙いをつけたのは、恰幅の良い男性だった。シルクハットを被っている為、顔は確認できないが、立ち姿から推測するに年齢は、三十後半ほどだろうか。少年が身を隠してから、五回ほど前を通っている。明らかに通い慣れておらず、機敏な動きも出来ないだろう。
次に姿を見かけた瞬間、物陰から一気に近付き、背中からぶつかって財布を盗もうと決める。
そこまで、行動を想定した少年は、途端に吹き上がる不安に押し潰されまいと膝を叩いた。
怖がってどうする、僕はあの光の中へ飛び込んで、こんな暗い世界と別れるんだ。
さきほどの男性が戻ってきた。そして、少年の前を通り過ぎていく。決行は、この先にある十字路、あそこなら、逃げ道は充分に確保できる。
少年は動き出す。呼吸で悟られぬように口を片手で覆い、足音にも気を使う。
さあ、いよいよだ。あと数歩で十字路に入る。
入れ、入れ、入れ、入れ、入れ!
そう頭で反芻していたとき、男性がぴたりと足を止めた。
「どこの奴かは知らないけどよぉ、相手は選ぶべきだったな」
闇の奥から聞こえてくるような、重い声音が耳に届くと同時に、黒服の男達が十字路の先から現れ、少年の後頭部に固い物が押し当てられる。母親だった女性が行為に及んでいる際、何度か隙間から見えた物が連想される。テーブルに置かれていたあれだ。押しつけられているもの、これこそが拳銃と呼ばれる代物だと分かる。
「どうやら、子供のようです」
少年の背後から声がした。恐らくは、拳銃を突き付けている男だろう。その一言で、その場の雰囲気が一変した。
靴の音が高く鳴り、重い声音の持ち主が歩き出す。
「あ?子供だぁ?ガキが俺を?いや、それよりも、こんな夜中に、こんな場所でだと?」
闇から現れたシルクハットの男は、当初の印象とは違い、精悍な顔付きをした男性だった。夜の暗さも手伝って見間違えたが、全身の膨らみは鍛え抜かれた結果なのだろう。
「あ……あの……」