拳銃を当てられる恐怖を気持ちでどうにか抑え込もうとした少年は、やっとの思いで声を出すが、まるでスイッチの役割りを果たしたかのように膝が曲がり、弱々しく男を仰いだ。
「ぼ……僕、あの……違うんです……貴方を殺そうとした訳じゃなくて……サイ、フを盗もうとしていただけで……あの……」
財布、と口の中に含んで呟いた男は、一度、自身のズボンに手を入れたあと笑い始めた。周囲の部下らしき男達ですら困惑している。腹部を押さえ、一頻り笑い終わると、なんとも形容し難い表情が現れ、座り込んだまま、不安を隠しきれない少年と目線を合わせる。
「一つ教えてやるよ、発想が逆だ。普通の人間は、殺す、なんて言葉は最初に出てこない。まずは、財布を奪おうとしたってことを相手に伝えるんだ。で、お前はどうして殺すことを俺に言ったかだが、理由が分かるか?」
首を振った少年に向け、男は自身のこめかみを指で叩いた。
「それはな、悪意に浸かりすぎているからだ。お前は罪を軽くする為に、殺すよりも罰が軽いだろうと無意識に口にしたんだよ。けどな、このクソッタレな世の中じゃ盗むだけでも殺される場合がある。よく覚えとけ」
「……はい」
顔を伏せた少年の胸中では、大人に怒られたショックよりも、助かるかもしれない、という想像のほうが大きく膨らんでいく。
次第に唇が歪んでいった。この段階で殴られていないことですら幸運だとすら考え、思考は次の獲物を探すことに切り替わっている。
だが、男が次に発した言葉で、少年は弾かれるように顔をあげることとなった。
「ニヤけてんのバレてんだよ、この人殺し野郎が」
立ちあがった男は、少年を見下ろし続ける。
「ここらで一人暮らしのフッカーと男が殺されたと聞いてはいたが、お前の仕業だろ?そんなに真新しい血の匂いをさせながら、違うとは言わせない。さっきの発言もそうだ……随分と暗い所に居るみたいだな?」
少年は、楽しそうに口を動かす男に何も返すことができなかった。
追い詰められ、しかし、抵抗もできず、ただ虚ろに空を見詰めることしかできない。まるで、自分を眺めてきていたような言い草は、これまでの自分を否定されているみたいだった。
母親だと言っていた女も、今、目の前にいる男も、あの表の世界にいた女も、この世界にいる大人が投げ掛けてくる言葉は、すべて否定だ。
少年は、ぐっ、と地面についた手を握る。
「だって……あの人は、僕のママじゃなかったんだもん……」
消え入りそうな声へ男が怪訝そうに尋ねる。