「ママじゃない?なんだ、殺されたフッカーってのは、お前の親かよ」
「違う!」
怒気を含んだ少年の鋭い目尻と、立ったまま目線を交わし、男は訊いた。
「違うってどういうことだ?お前は捨て子だったのか?それとも、この期に及んで殺してないってか?」
「あの女は死ぬべきだったんだ!僕を閉じ込めて、あんな酷いことをして!僕に本当のママだって何度も騙して!僕のママとパパは表の世界にいるのに!絶対にいるのに!」
少年は額を地面に叩きつける。
その狂気を孕んだ姿に、男は喉を鳴らすと同時に、少年の歪みを手に取るように察した。なんの根拠もない上、讒言にあわせようという濁りもなく、親が違う場所にいると断じる自己中心性、これが歪みではなくてなんだと言うのか。なにより、殺人の理由を相手に転嫁する佞悪さを、幼い子供が持っている事実に胸を踊らせる。
男は、頭を振り上げたタイミングを計って、少年の髪を鷲掴みにして強引に顎を上げさせた。
「おい、そのくらいで止めとけクソガキ」
額から流れ出した血が両目を通り、頬を抜けて顎先から地面へ落ちる。それはまるで、自己の存在に対する涙のように感じた男は、少年の顔を両手で包み、親指で頬を拭う。
「良いか?お前の親にはなれないけどな、俺がお前にこのクソッタレな世界で生き抜く術を教えてやるよ。ただし、選ぶのはテメエだ」
少年を解放し、男が再度、言った。
「前はこのままじゃ、ここで死ぬことになるだろうな……だが、俺はそれでも良いんじゃねえか、とも思ってる。世界は、お前がいた悪意の中が甘く見えるほど残酷だ。選べ、生きるか、それとも、死ぬか?」
男の部下らしき集団ですら、狼狽している。だが、背中から放たれる威圧感に押され、誰一人として口を出そうとしていなかった。
そうなると、この場で発言を許された少年に、自然と全員の視線が集まることになる。けれど、少年は雰囲気に臆することもなく、いつも通りだとばかりに口を開いた。
「そんなの……決まってるよ……僕は、本当のママとパパに会えるまで、絶対に生きていたいんだもん……それに……」
一度、言葉を切ると、少年はどこを眺めるでもなく、首だけで振り返った。
男は訝しそうに首を傾けるも、さきほどの少年の言葉を思い出す。
「なあ、クソガキ、もしかして、表の世界ってのは街のことを言ってんのか?」
少年は、男の問いには答えず、顔を戻して言った。
「僕は、絶対に死にたくない。僕は、生きる」
「どんな辛いことがあっても耐えられるか?」
間髪をいれない質問に、少年は強く頷く。