ガンダムブレイカー Re:build   作:柊羽(復帰中)

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4 窮境

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」

 

『うっせぇ!聞こえてんだよ!』

 

 少年の必死の叫びを払いのけるように、兄は応答する。息は荒く、表情は険しい。暑くもないのに汗が頬をつたう。相手の射撃を必死に避ける。しかしその避け方を読んでいたかのように、次弾が機体に食い込んでくる。

 

 コックピットのまわりに赤字で<CAUTION>の表示であふれかえっていた。それを伝えるアラートも忙しなく鳴り続ける。それはセコンド役の方も同様で、いくつもの音が重なり気分が悪くなってくる。

 

 オペレーターパネルには機体全箇所に何らかの異常を示す赤色のマーカーが点灯。機体損傷度は七割を超えていた。それを表すようにコックピットカラーが青から赤へと変貌している。

 

 大会優勝時の機体をさらに改造してベース機体の最大限を追及したガンプラ、Hi-ν(ハイニュー)クアンタで二人は大会に挑んでいた。バトルステージは、宇宙。

 

 νエクシアをそれぞれHi-νガンダム、ダブルオークアンタという主人公の新たな機体を持ち出して製作されている。ダブルオークアンタという非対称なシルエットが採用され、しかしバインダーに組み込まれているのはGNソードビットではなく折りたたまれた合計六基のフィン・ファンネル。そして片翼の鳥を思わせるように、右側には従来のHi-νガンダムのファンネルラックとフィン・ファンネル三基という、かなりのアシンメトリー。加えて武器にGNソードⅤ、GNドライヴによるトランザムシステムや前機体から継いだファンネル・エンハンサーモードもあり、かなりファイターを選ぶ機体となっている。

 

 それをアキラとケンの二人というコンビネーションが見事に操っていた。

 

 操っていた、のだが……。

 

『クソッ、クソッ!()()()()()()……!』

 

 奥歯がギリギリと鳴るアキラが睨むのは対戦相手。その機体。所々ダメージはあるものの、戦闘にほとんど支障が無いレベル。Hi-νクアンタの攻撃がこれほどしか届かなかったのだ。こちらが様子見と察すると、あちらも動きを止めて宇宙空間に佇む。

 

 二人の機体とは正反対のスリムなシルエット。片翼ではなく凜々しい両翼を広げ、白と薄紫のカラーリングはその存在を際立たせている。

 

「フィン・ファンネル六基大破。左腕部と両足損傷、各スラスターに負荷がかかってる。無理をすればGNドライヴにも」

 

『ファンネル・エンハンサーモードを使う』

 

「まだチャージ量48%だよ!?それにフルパワーでさえ簡単に避けられし、今のクアンタだと……!」

 

『これで突破口を開くんだよ!そうでもしなきゃ勝てねぇ!』

 

 変わらない三番スロット。フィン・ファンネル二基が十字にライフルと結合。チャージ100%と比べたら劣るが、エネルギー凝縮が開始される。同時にスラスターを吹かせて移動。相手機体のまわりに沿って加速していく。ケンのオペレーターパネルに新たなCAUTIONマークが追加されていく。

 

 一方、相手はその場を離れることない。ただこちらをツインアイで追っているだけだ。

 

 エネルギー凝縮完了。刹那、急旋回して相手機体に突っ込んでいく。エネルギーの球体を保ったままのライフル先端を向けて、発射。

 

 轟音をまとって一直線に飛んでくるビームを相手機体は大した挙動をせず、左腕に装備しているシールドを構えた。面をビームに対して垂直にではなく、限りなく斜めに倒してビームをいなした。後方へと突き進んでいくビームは宇宙ステージに漂うデブリ帯を次々と粉砕していく。

 

『うおおおおお!』

 

 叫びながらアキラは操縦桿を力一杯前に倒し続ける。ビーム砲が尽きるまでに相手機体に攻撃態勢を取らせず、距離を詰めたかった。半減されているとはいえ、高出力ビームをダメージを負った状態かつ片腕のみで発射ということはそれ相応の反動が機体にくる。それを押し返せねばならない。まさに荒技だ。

 

 砲身と化していたフィン・ファンネルにヒビが入る。ライフル自体にもスパークが走り、長期戦の消耗やダメージの蓄積がここで溢れ出ようとしていた。

 

「もう保たない!」

 

『いや、保たせる!』

 

 機体が悲鳴を上げる。アラート音の重奏の中でもはっきり聞こえるGNドライヴの稼働音。ファンネル・エンハンサーのビーム放出音。それが最高潮に到達したとき、ついにライフルが爆発した。

 

 ライフルやファンネルの破片と共に煙が広がる。高出力エネルギーをあと少しで出し切れなかった故に爆発は大きく、クアンタどころかその場を後退する相手機体にすら爆発煙が覆い被さる。その中を突っ切ってクアンタは姿を現す。爆発する直前でライフルを手放していた。まだ生きている右手にはGNソードⅤが握られている。

 

『やっと、間合いだぁぁぁあ!』

 

 右腕を振りかぶり、相手機体に斬りかかる。それを再びシールドで防いだ。衝撃音、擦れ合う音が宇宙空間に響く。単純なパワーゲームだが、先ほどの攻撃でクアンタの右腕にも限界が近づいていた。関節から異音がする。外装にもヒビが入る。

 

『ヘヘッ、やっぱ強いぜ、()()()。だが、なぁ!』

 

 アキラは弱めるどころかより強く操縦桿を前へ。右腕に力が入り相手機体のシールドを押し返さんとGNソードⅤの刃が食い込む。ジリジリと、相手の頭部へ。しかし、そんなことをさせないとバスターライフルをクアンタの胸部へ向けようとした。

 

 だが、こんな鍔迫り合いなどアキラの本命じゃない。彼の意識は二機の頭上、コの字で発射口を相手機体に向けた最後のフィン・ファンネル。ビリビリと狭間で薄桃色の閃光が走りまわる。

 

 メインモニターのロックオンカーソルが相手機体をとらえた。

 

「これなら!」

 

『どう……ッ!?』

 

 二人が、ともに見た突破口から光が差した。操縦桿へファンネルへの発射操作を行なおうと指に力を入れる、まさにその瞬間。

 

 相手機体が力を緩めた。踏ん張り続けた左腕をおろし、スラスターも出力を下げた。代わりにこれでもかと見せつけられてきた軽やかな動きでクアンタを前のめり状態にした。受け流した回転そのままでクアンタにかかと落としを繰り出し、そして左腕のシールドを勢いよく投擲。狙うは、言うまでもなくフィン・ファンネル。

 

 ビーム発射する前にシールドと衝突。破壊されてしまった。

 

『……ッ!』

 

 油断したアキラは咄嗟に操縦桿を後ろへ。再び構えられていたバスターライフルから逃れるためだ。体勢をなんとか立て直そうとする。が、しかしこの一連の流れ全てが想定済みなのだろう。相手は一気にスラスターを全開にして距離を詰めてきた。

 

『ト、トランザム!』

 

「だめだ、まってお兄……!」

 

 詰んだ。その焦りでアキラは完全にパニック状態に陥っていた。スロットからGNドライヴ搭載機特有の強化系システム、トランザムを使った。しかし機体状態を全体的に見ているケンにはわかった。いや、ファイターでもわかるはずだったのだ。そんなことをすれば、もう機体は保たない。

 

 一瞬だけGN粒子が増大し、機体色がトランザムの特徴である赤に変わった。が、すぐにGNドライヴから強烈な異音。大きいヒビが入り、あっという間に砕けて弾けた。赤色が消え、それどころか動力も消えた。

 

「クアンタッ!」

 

 ケンは大破した自機の名を叫ぶ。もうオペレーターパネルなど見ていなかった。警告だらけの画面を見つめていても、意味が無い。必死にツインアイ越しから感じ取る自分たちの機体、いや愛機を見ていた。

 

 だが、そこにグッと迫るガンダムフェイスが映った。

 

『ひっ!』

 

 アキラの引きつる悲鳴が聞こえた。同時に機体になにかがぶつかった音がする。考えるまでもなかった。相手のバスターライフル。

 

 

 

『呆れますね』

 

 スピーカーから聞こえてきたのは隣にいる兄の声ではない。これは対戦相手の声だ。機体の製作者に似つかわしい凜とした声。しかし薔薇の棘のごとく鋭い声音は、こちらの体をこわばらす。

 

 たった、その一言。それだけを残して、GNドライブがあった部分から煙とスパークが走り、満身創痍のクアンタの胸部にとどめの一発を放った。

 

 背部から突き抜けたビーム光。それまでも美しく感じさせた相手は、鳥のように悠々とクアンタから離れた。直後に空洞となった胸部から別の光が差し、爆発した。

 

 <BATTLE END>

 

 無機質なシステム音声が流れ、プラフスキー粒子で形成されたフィールドが消滅していく。優雅に舞っていた相手機体は、ゆっくりと媒体の上に降り立った。対してケンとアキラの機体、Hi-νクアンタは両手両足が外れ、胸部には痛々しい穴。ツインアンテナが折れ、ひび割れた頭部。フィン・ファンネル全てが壊れ、ビームライフルも原形を留めていない。

 

 二人の心境など構うことなく、まわりから響き渡る歓声。それを気持ちよく浴びるのは、当然媒体の向こう側にいる()()だ。だが、それに答えるように手を振るなどといった動作は一切無い。

 

 ()()()()()()()()()()

 

「もう何度も私と相手をして、同じように負けている。本当に、あなたたちは私に勝つ気があるのかしら」

 

 ぐさりと、確実に言葉が胸に刺さる。アキラは目を見開き、欠けてしまいそうなほど歯を食いしばって俯いている。媒体についた手は強く握られていた。

 

 ケンも同様に俯いていた。けれど、アキラとは違う思いがぐるぐると巡っていた。

 

 相手が操るガンプラ。ファイター自身の腕前も凄い。だが、ケンは自然と上目ながらも相手が手にとって丁寧に仕舞う直前まで、そのガンプラを見ていたのだ。

 

 二人を破った、いや破り続けたのはクズノハ・リンドウ。現在中学一年生ケンの一個上、アキラの二個下でありながら、驚異的な勝率をたたき出す。彼らが挑んだのはこれで三度目。小学生・中学生のみエントリーのジュニア部門ではなく、年齢関係なしのオープンコース。そこで彼らは彼女とあたり三年連続、敗北。

 

 

 

 クズノハは長い髪を振り払うように背を向けてその場をあとにする。

 

 どうやったら、あんなガンプラを作れるだろうか。ケンの胸中に渦巻くこれは、後の分岐点となった。

 

 もうジュニア部門から生まれた期待の新星二人組に注視する人はほぼいない。誰もがクズノハ・リンドウに注目している。

 

 これらの要因が、徐々に二人の間に軋轢を生じさせていた。

 

 そしてこれを最後に二人が一緒にガンプラバトルに出ることは、なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを、ケンは思い出していた。ハッと視界が現実をとらえる。目の前に浮かぶオペレーターパネルを見る。機体状態をまんべんなく表示したモニターを軽く操作する。

 

 案外、体が覚えているもんだな。

 

 指が宙を彷徨うことなく自然に動く。ケンはちょっとした興味でサナの戦績情報を覗いてみる。

 

「おお……」

 

 出された勝率に何とも言えない言葉だけが漏れ出す。良くて五分五分といった感じだ。ちらりと操るガンプラを見た程度ではあるが、出来は悪くない。ガンプラバトルはアニメーション、小説などの設定に関係なく、ガンプラの出来具合で性能差が生まれる。同時に、機体を操るファイターの技量も関わってくる。であるなら、深く考えるまでもない。

 

『でりゃあ!それッ、とう!』

 

 一挙手一投足いちいち喋らなければ満足できないのかと呆れるほどに、彼女の戦い方は近接戦闘ゴリ押しだった。

 

 ガンダムディアンサス。ストライクガンダムとガンダムXディバイダーのニコイチで作られたガンプラ。武装類は全てディバイダーから流用してきているようだ。

 

『これなら、どうだ!』

 

 ディアンサスのシールドが変形、表面が真っ二つに割れていくつもの銃口が現れる。そこから放たれたビーム砲が敵機体の胸部を貫いた。

 

バトル終了を告げるアナウンスと共に、プラフスキー粒子が解けていく。

 

「やったぁ!準決勝進出できた」

 

 サナは溢れんばかりの笑顔でケンにピースサインをする。それを受けて素直に良かったなと言ってやればいいのか、状況も状況でそれどころじゃねぇんだよと愚痴をこぼしていいのか、ケンはわからず単に頷いただけで終わらす。代わりに、媒体の方に目をやる。

 

「お前のガンプラ、そろそろ入れ替えた方がいいんじゃねぇか?」

 

 ケンの言葉にサナはゆっくり頷き、優しく彼女の愛機を手にとった。

 

「うん、結構キツくなってきたよね」

 

 所々にビーム兵器を食らった跡、すっかり消耗で削れた大型ビームサーベルに大型シールド。ブレードアンテナは左右共に折れている。関節のダメージも蓄積されているのは明白だ。

 

「相手装備からの攻撃予想、その対処が色々甘かった気がする」

 

「えぇ、突然のダメ出し!?それは、何かしらカザマ君が言ってくれれば」

 

「何もしなくていいって、さっき言ってたのは誰だ?」

 

「うぐっ…」

 

 逃げ場を与えない言葉での攻撃の後、改めて聞く。

 

「で、二機目は?」

 

「うん。と言うか、もう私にはこの子しかいないんだけどね」

 

 専用ポーチから丁寧に取り出した機体は、ケンの目を多少ながらも引いた。

 

 サナは堂々とガンプラを持った手を突き出す。

 

「ガンダムアルテミス!」

 

 

 

 個人戦でのガンプラバトルの場合、持ち込めるガンプラは三体までとなっている。大規模な大会でも、こういった店舗内での大会でも同じだ。特に後者ならバトルが終わって自機の修復に時間をかけにくい。そのため後続のガンプラを使うことができる。

 

 再びバトルシステムの媒体の前に立つ。参加人数の都合で決まったシード枠と、ここでぶつかる。

 

 その決め方は個人成績によるランク帯。一番下のFから最上位のSS、被った場合は詳細なデータで決めていく。

 

 ダメージを受けたままのディアンサスで勝てていけたのも、こういうマイナーな小規模大会だからこそであり、しかしマイナーと言っても上に行くほど相手が一筋縄ではいかないのは当然。

 

「次の相手、そこそこ手練だぜ。少なくともお前より」

 

「わかってるよ。でも大丈夫、アルテミスならやってくれるよ。さあ、この子の初陣だ」

 

「初陣……初陣!?」

 

「そう、昨日完成させたんだ。私の自信作」

 

「昨日って、テストも何もしてないのか」

 

 問われてサナは、

 

「もちろん☆」

 

「自慢げに言うな。そして星付けるな、星」

 

 そういうやり取りをしているケンだが、自身を紛らわそうともしていた。まわりの反応が、少しでも隙間から入り込んで、下手すればどうにかなってしまいそうだったから。

 

「やっぱりK-Kってバトルやってたのか」「やってたどころじゃあないよ。だって前にジュニアチャンピオン取ってたって言われてるし」「マジか」「確か兄弟で出てたっけ?」「そうそう。それで、今は…」

 

 うるさい、やめろ。

 

 そう思っているうちに会話が一方的に遮断された。プラフスキー粒子でセコンド用のコックピットが形成されたからである。

 

 過去のガンプラバトルの記憶から逃げた先に、一時的ではあるが今のガンプラバトルがあるとは、随分皮肉めいているとケンは自嘲する。

 

 フィールドは市街地。大都市のような高層ビル群、住宅街を思わせる建物が多い。

 

 サナが置いたガンプラ、ガンダムアルテミスはもうカタパルトデッキの中だ。サナは操縦桿を握り、ただ前を見ている。

 

 サイン、確認。

 

「ミヤマ・サナ。ガンダムアルテミス、いくぞー!」

 

 火花を散らしてカタパルトから射出、青空を勢いよく飛ぶアルテミス。

 

 デスティニーガンダムとガンダムXのニコイチ機体であるアルテミスだが、所々オリジナリティが効いている。手に持つデスティニーのアロンダイト、背部に装備したXのサテライトキャノンという両機の主要武器をおさえており、カラーリングはホワイトとサナのパーソナルカラー--と言っても過言ではない--のピンクではなく、空色寄りのブルーを使用。機体にちゃんとマッチしている。

 

 作りも悪くない、そう思っていたが……。

 

「おい、両腕にエラー出てるぞ」

 

『え、でも普通に動く、よ?』

 

 ケンの目の前にあるモニターでは、アルテミスの両腕部が赤く点滅している。テストすらしてないと聞いていたため、さほど驚きはなかった。だが、見た目は問題ない。サナが手を握っては広げるを繰り返すが、何もない。この原因はなんだ?

 

 刹那、CAUTIONマーク。前方からだ。

 

『わっ!』

 

 桃色のビーム砲が一直線に飛び込んでくる。サナは機体を大きく左に。低姿勢でビルなどの高層物の影に滑り込む。

 

「相手は…へぇ、バイアラン・カスタム。それをさらに面白い形にしてるな」

 

『感心してる場合じゃないし!』

 

 遅れて地面に着地したバイアラン・カスタム。特徴的な腕のシルエットだが、二の腕あたりに組み込まれたバーニアを排除、どこからか流用してきたMSの腕があった。元々のクロー・アームも鋭さがまされて攻撃性が高まっている。背部のプロペラントタンク増設スラスターがシナンジュ・スタインのものに代わり、脚部にも一部スラスターが追加されている。

 

 全身ティターンズカラーとなったバイアラン・カスタムの腕部メガ粒子砲が再び放たれる。壁にしていたビルが容易く溶解、被弾した場所から次々と爆破が起こる。

 

『前までのXディバイダーとは違う機体。でも取り回しにくい武器ばかりじゃねぇか!』

 

 近辺の高層物がなくなり、お互い認識できるようになってしまった。バイアラン・カスタムは三度メガ粒子砲を発射。

 

『余計なお世話だし!』

 

 それをかいくぐりアルテミスが接近。アロンダイトを斜め上から振り下ろす。しかしバイアラン・カスタムは左右の腕に搭載されたビームサーベルを形成、クロス状に組んで受け止める。

 

『相手のバトルを見て情報収集、機体もチェックして戦略をねる。ガンプラを変えてきたなら臨機応変…。基本の"き"だ。なぁ嬢ちゃん、力任せだけで勝てるほどバトルは甘くないんだよ!』

 

相手のバイアラン・カスタムの機体スペックは高い。大剣であるこちらを押し返そうとする。だが、そうじゃない。

 

「離れろ!」

 

『うぇ!?』

 

 突然ケンが叫んだためサナは動揺し、そのまま従って操縦桿をぐいっと後方へ。鍔迫り合いを脱すると胸部パーツ先端に僅かなダメージが。

 

『ほう、かわすか』

 

『うっそ、マジ…』

 

 バイアラン・カスタムの追加された手にもまた、ビームサーベルが握られていた。どうやら腰部に仕込まれていたようだった。

 

『案外、ちゃんと見えているか。それとも、優秀なセコンドのおかげか?』

 

 ビームサーベルが閉じ、射撃へすぐに変更。アルテミスは距離を置くしかない。

 

「腰にあるビームライフルを使えよ」

 

『いやぁ、その、私って射撃が苦手で』

 

「何でだよ!」

 

 メガ粒子砲を手の甲にあるアンチビームシールドで防いでいたが、肩や足にかする。本人は苦手とライフルを使わない。メガ粒子砲と副腕のビームサーベルを巧みに操る相手にアロンダイトも不利。そうなると、答えは絞られる。

 

「サテライトキャノンしかねぇぞ。起動後はリフレクターに注意して…」

 

『大丈夫!』

 

 ケンの言葉を聞かず、サナは右手の操縦桿を捻る。サテライトキャノン起動のスロットを選択。

 

 今までL字だったバックパックが動き出し、大きく左右に展開。X字になったリフレクターから右肩に担ぐよう正面に姿を現した長い砲身。

 

『出してきたな。ならば!』

 

 相手は見逃しまいとメガ粒子砲を上半身、特にサテライトキャノンに的を絞ってきた。副腕はビームサーベルをしまい、さらに隠し持っていたビームライフルを右手に持ち追撃。

 

『チャージ完了まで持ちこたえる!』

 

 サテライトキャノンの発射口がぐるりと後方へ。ホバーリングモードへ移行。サナは操縦桿を操りアルテミスを飛翔させる。通常飛行よりもかなりの速度だ。だがケンは苦い顔をしていた。

 

「おい!焦るな。相手は…」

 

『コイツだぜ?』

 

 センサーが急速に接近する機体を感知。言うまでもない。バイアラン・カスタムだ。

 

『そんな!速い!!』

 

 地上から離れ、シルエットがかなり小さくなっていたはずのバイアラン・カスタムがすぐそこまで迫っている。

 

 四本のビームサーベルが乱舞のごとくアルテミスを襲う。呼吸すら満足にさせてくれない攻撃にサナは余計に焦っていく。頭部に搭載されたCIWSを連射させるも、装甲の強度が高く意味がなかった。

 

 元々、バイアラン・カスタムの特筆すべき点は機動性にある。対戦相手のものはあれこれ手を加えてあるが攻撃性に一撃必殺というものはない。さらにその機動性は向上していると見える。そんな相手に空中戦、しかも重力圏内というバイアラン・カスタムにとってさらに有利な空間に考え無しに飛び出すなどありえないのだ。

 

『隙あり・death!』

 

 右手腕部搭載のビームサーベルが、ついにアルテミスのサテライトキャノンを切断。発射口と一緒にリフレクターの一部も斬られたアルテミスは、ホバーリングモードを維持出来ずに落下。

 

 姿勢制御に必死になるサナに追い打ちをかけるようにバイアラン・カスタムのメガ粒子砲が放たれる。左脚部、リフレクターをさらに一枚全損させたアルテミスはもはや翼を失った鳥のごとく、地面に叩きつけられた。

 

 

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