ガンダムブレイカー Re:build   作:柊羽(復帰中)

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5 それでも、抗え

 雨が勢いよく窓に、屋根に当たる。遠くで雷雲がうなりを上げる中、二人はケンの部屋にいた。

 

「だからっ!なんで全部僕が悪いことになるんだよ!」

 

「お前が相手の攻撃をうまく分析してくれれば、こっちだって動きを変えられたんだよ」

 

「精一杯やったよ。それでも僕らは負けたんだ!」

 

「うるせえ!」

 

 窓から一瞬、光が部屋を支配した。

 

「そもそも、いつの間にかほとんどお前に任してたガンプラの調整だって、万端じゃなかったかもしれない」

 

 次々と兄の口から放たれる言葉。責任を押しつける言葉たちだ。ケンはガンプラ製作にも事実あやふやな難癖をつけられ、もう我慢ならなかった。

 

「いい加減にしろよ!お兄ちゃんが、ちゃんとクアンタを使ってあげなかったからだろ!最後だって、焦って自爆行為したのはどこのどいつだ……」

 

 言い終わる前に、左頬に衝撃が走った。よろけてそのまま倒れる。

 

「何するんだよ!」

 

「お前が生意気な口をきくからだ」

 

「相手のことばっかりで、自分が言われた途端にキレるとか……小学生以下だな!」

 

「お前もお前だろ」

 

「僕は全部お兄ちゃんが悪いだなんて言ってないよ!」

 

 どうあがいても平行線だった。両者が突き合わせる目つきは、互いに支え合いガンプラバトルという世界で勝ち抜いてきた相棒、というものではなくなっていた。

 

「言ってるようなものだろ。セコンド役もちゃんとやった、ガンプラも完璧に作った。なら、結局俺に非があるってことだろ」

 

「違うってば!」

 

 ケンは立ち上がる。アキラも1歩前へ詰め寄る。

 

「違わねぇ。全部、お前が悪い!お前がちゃんとしなかったから俺の全力が出せなかったんだよ。クズノハに三回連続負けて、あんなこと言われることもなかったんだよ!」

 

「違う!僕らは全力出し切って、それでもあの人には勝てなかったんだよ。っていうか、お兄ちゃん、仮に全力出せたとして、本当に勝てた?」

 

「……は?」

 

「ガンプラは僕に任せて、自分はバトルばっかりに集中。そのくせ、同じ相手に負けるってことは、ファイターの技量不足でしょ。僕がうまく分析すれば勝てた?それ以前に、あの人の事前の分析すらできてないお兄ちゃんじゃあ、ああ言われてもしょうがないんじゃないのかなって!」

 

 ギリギリ、と歯が鳴る。アキラはどう猛な獣よろしくケンを睨み付け、すぐさま視線を部屋の一角を占めるガラス棚に向けられた。そこにあるのはケンが作製したガンプラの数々。中にはジュニアチャンピオンへと導いたνエクシアも修復されて、会場で撮られた写真と並んで飾られていた。

 

 近くに歩み寄り、乱雑に扉を開けた。

 

「やめっ!」

 

 飛び出すが、もう遅かった。アキラの腕が横に振り抜かれ、飾られていたガンプラたちがどんどん飛ばされ、床に叩きつけられる。あのνクアンタも、ケンが初めて作ったガンプラ、ガンダムサバーニャも、なにもかもが無残に砕け散る。

 

「やめろよ!」

 

 ケンはアキラに突進し、腕をつかんだ。しかし二人の間にある明確な年齢差、しかも成長期が絡んでいる。力の差は見えていた。ケンを振りほどき、もう一発拳をたたき込まれた。

 

 ガンプラたちのようにケンも床に這いつくばる中、アキラは棚だけでなく、作業机にある工具までも乱雑に投げ飛ばし始め、椅子を蹴り倒す。もうストレスを発散しているだけの乱暴者と化していた。

 

 痛くて、痛くて、痛くて。涙目になるケンの目の前に偶然落ちてきた空のスプレー缶落ちてきた。それを手に取り、思い切りアキラの後頭部めがけて振り下ろす。空っぽとはいえ、痛みでアキラは瞬時にケンから離れる。

 

「お前ッ!」

 

「二人とも!何してるんだ」

 

 そこで物音を聞いて駆けつけた両親が部屋に入ってくる。アキラは父が、ケンは母に止められる。だが両者は未だ目を逸らさない。相棒を見る目ではない。それは、敵対する者を見るそれだ。

 

「もう一生お前なんかとガンプラバトルなんかしねぇ!!」

 

「こちらこそ願い下げだよ!ガンプラバトルなんてやめてやる!お兄ちゃんなんて……、てめぇなんてもう知るか!!」

 

 崩壊はもう止められない。深い溝は幅を広げ、崖のように険しく、黒々と深い。完全に両者を隔てるように。

 

 雷雨が増す。雨粒が窓を叩く。そこから見える景色も、何も見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぅ…』

 

 機体損傷度表す色が黄色に変わり、ケンのオペレーターパネルには次々と異常を示す。

 

 

 

 嫌な汗が、にじむ。脳の奥深くがじりじりと痛む。

 

 ただ同級生のバトルを見ているだけ。そう、見ているだけなのに。

 

 なぜ思い出す?あの時の光景を。

 

 

 

 獲物を狙う鷹のごとく空からこちらへ一直線に降下。四本のビームサーベルを器用に取り回し、振りかぶる。

 

『こんなところで!』

 

 サナは右手一番スロットを選択。今は無きサテライトキャノン発射口とは真逆の位置に組み込まれた大型ビームソードを左手で引き抜き、アロンダイトと共にビームサーベルと交わる。

 

 ビーム同士の接触。凄まじい閃光と音が視覚・聴覚を刺激し、ケンにとってそれが引き金になってしまった。

 

「ッッッ…!」

 

 視界が歪む。

 

 オペレーターパネルの表示が、あろうことかアルテミスのものから、かつての愛機ではるHi-νクアンタのものに。数多くのエラー。轟くビームの発射音。エコーのかかった兄の声。鍔迫り合い。砕け散る愛機。銃口を突きつけられる音。

 

 同時に感じた。バトルに負けてしまうんだという悔しさ。だがそれよりも、二人で作ったガンプラが壊れていく様を見ているのが辛かった。だから、もう…。

 

『終われない!』

 

 意識が引きずり戻される。スピーカーから飛び込んできたサナの声。モニターには上からビームサーベルを押し込まれるアルテミスからの光景。

 

 左足を失ったため右足で踏ん張っている状態だ。関節に負荷がかかっているため、軋む音がはっきり聞こえる。

 

 機体損傷度も、ファイターの技量も。もう勝敗はわかっているはずなのに。

 

 それでも。

 

『まだ、諦め、ない!』

 

『そんな状態で何ができる』

 

 一瞬推し返せたが再びバイアラン・カスタムがさらに押し込む。得物一本で二本を相手する、ましてや両方でそれをやるなど無謀だ。

 

 それでも。

 

 それでも。

 

 サナは、そしてアルテミスは、戦っている。

 

 あの時と同じだ。満身創痍になって、負ける。

 

 抗って、無駄な抵抗を見せて、負ける。

 

 もう見たくない。見せるな。もううんざりだ。そう思っていた。今でもそうだ。けれど…何故だ?

 

 なぜ、自分もまた抗おうとする?

 

 

 

「CIWSとショルダーバルカンを右腕の付け根に集中させろ!」

 

『え?でも装甲が厚いし…』

 

「いいから撃ちまくれ!時間がねぇ!」

 

『は、はい!』

 

 ケンの言うがままにサナはロックオンカーソルを右腕付け根に。一斉射撃開始。

 

『ハッ、ヤケかよ。そんな攻撃…で?』

 

 相手は吐き捨てるように言った直後、異変に気づく。

 

 右腕に異常を示すサイン。バイアラン・カスタムの右腕付け根からスパークが発生していた。

 

『なにィ!?くっそ』

 

 相手はここで初めてではなかろうか、操縦桿を引いて距離を置こうとする。

 

『逃がさない!』

 

 サナは立ち上がれない故にスラスター前回にして無理やり前進。大型ビームソードを手放しアロンダイトを両手で大きくふりかぶる

 

「だから焦るなって」

 

『ここまで来たなら、これしかないでしょ!』

 

 アルテミスの攻撃をバイアラン・カスタムは左碗部のビームサーベル二本で受け止めようとする。が、バトル中で崩壊した建物の跡に膝から下を失った左足がぶつかり、偶然軌道が変わった。

 

 ミラクルだった。アルテミスはバイアラン・カスタムの左腕を根元から、バイアラン・カスタムはアロンダイトを切り裂く。

 

『そん…な!』

 

『これでとどめ、だぁ!』

 

 サナは右三番スロットを選択。アロンダイトはもう使えない。放り投げた。アルテミスの右手のひらには通常のMSにはない構造がある。そこから青白い光が増していく。

 

『パルマキオフィーナ…!』

 

 胴体中央にかざされた輝く手のひら。相手は察し、右腕を動かそうも、先程の攻撃で可動が鈍くなっていた。

 

 ぴり…と、ケンの脳にあることがよぎった。

 

 青白い光は、しかし消えてしまった。

 

『え?』

 

 ほんの少し遅れて、サナの気の抜けた声がする。

 

『ポンコツがァ』

 

 バイアラン・カスタムはビームサーベルでアルテミスの右腕を切断、異形の体を支える大きな足で蹴飛ばす。

 

 すっかり忘れていた。

 

 ケンはモニターを確認する。様々エラーが発生していて気づかなかった。いや最初の段階で相手に気に取られずに確認すべきだった。

 

 両腕のエラー。これはパルマキオフィーナ砲の不具合だったのだ。両腕ならば、左も使えないだろう。

 

「どう作ったらパルマキオフィーナが出ないようになるんだよ!」

 

『わかんないけど…コート剤を吹きすぎちゃった、かもしれない』

 

「アホ!」

 

 どうしてハンドパーツにだけ偏るのか。急ピッチで仕上げでもしたからか、と考えていたケンは頭を振る。今はそんなことよりも、目の前だ。

 

 片腕、と言っても二本あるバイアラン・カスタム。こちらは右腕左足を失い、武器は腰部にあるビームライフルと左後方に落ちている大型ビームソード。

 

 せっかく戦況ががらりと変わろうとしていたが、戻ってしまった。

 

 一歩、バイアラン・カスタムが近づいてくる。ビームライフルをまだ使ってないが、それを警戒しているのだろうか。迂闊に攻撃には出てこない。

 

『ヒヤリとしたが、ファイターの製作能力に助けられるとはな』

 

 皮肉った言葉を並べて相手はビームサーベルをしまい、射撃体勢に入るのだ。俊敏に動けない相手に突っ込まないのは当然だ。

 

『こんな…こんなんじゃ終われない』

 

『まだ言ってがやる。いい加減諦めな』

 

 ――呆れますね。

 

 突貫工事とはいえ、自分の全力を込めたガンプラが負ける。まだ何もできていない。自分の中にある"かっこいい"を詰め込んだのに、どれもこれも発揮させてあげられてない。

 

『…ごめんね』

 

 アルテミスに謝るサナ。その言葉が、想いが、かつての自分に重なる。

 

 ……ふざけるな!

 

 心の中でケンは叫ぶ。

 

 かつて、自分にガンプラバトルのきっかけをくれた、あの決勝戦。

 

 そうだ。そうだった。俺はけっして傷一つなく、綺麗なままでガンプラバトルをやりたかったのではない。

 

 たとえボロボロになっても、それでも!と叫び、抗う。まだ動ける限り諦めない、策をひねり出せ。自分の不甲斐なさを嘆くのは、バトルが終わってからだ。

 

 目を逸らすな。歯を食いしばって、戦え!

 

 ずっとケンは必死にモニターで拾える限りの情報を整理。可能性が低くて、けれど一番賭けてみる価値のある案を実行することにした。

 

「後ろに向かって飛び込め」

 

『でも…』

 

「俺の言う通りにしてくれ。これに賭けるしかない」

 

 言うことしかケンにはできない。偶然会った同級生、そんな関係の人間。誘われた身であるのにもかかわらず急に勝手なことを言い始めて、且つそれを信じろと訴えかける。再び心のエンジンを起動させてくれるのなのか。

 

 否、そんな不安などいらなかった。

 

『わかった!』

 

「よし、そんで今度こそ最後まで話を聞け。やつが発射する瞬間…」

 

 

 

 バイアラン・カスタムのメガ粒子砲が発射される、それと同時にアルテミスは振り返ってスラスター全開。直撃はなくとも、左腿にかすり体勢が崩れる。それでも手を伸ばそうとする先には、大型ビームソード。

 

『今更そんなものを!』

 

 続けざまにメガ粒子砲を発射。今度こそ避けられないルートだが、アルテミスはボロボロになったバックパックをパージ。それがメガ粒子砲に着弾、爆発した。

 

『んな!?』

 

 舞い狂う街の外壁や砂煙が視野の邪魔になった。そのせいで、アラート頼りになってしまった。

 

 前方からなにか飛んでくる。そのシルエットは、大型ビームソード。

 

『投擲してきたのか!』

 

 ギリギリまで気づけなかった。

 

 かわし、よろめきながらもバイアラン・カスタムはメガ粒子砲を躊躇なく発射。ビームソードが飛んできた方向にアルテミスがいるはずだ。桃色の閃光が煙を吹き飛ばしながら突き進む。

 

『な!?』

 

 しかし、えぐれた大地にアルテミスはいなかった。大破したサテライトキャノンの残骸のみ。だがアルテミスのスラスター音は聞こえる。確かに聞こえる。

 

 すぐ近くから。

 

「これで…!」

 

『とどめ、だァァァ!』

 

 煙が晴れてきた直後に姿を現したアルテミス。バイアランの正面ではなく、やや左側から突進してきた。

 

 そしてアルテミスの左手には、切断したバイアラン・カスタムの左副腕のビームサーベルが握られていた。

 

『くっそォ!』

 

 バイアラン・カスタムもすぐさまビームサーベルを展開しながら右腕をめいっぱい振りかぶる。

 

 双方の剣。それが先に届いたのはアルテミスの方だった。バイアラン・カスタムの首筋から斜めにビームサーベルがくい込んでいく。バイアランカスタムの二本のビームサーベルはアルテミスの残った左足の根元、そして脇腹を捉えた。だが、横に振り切ることは叶わない。胴体が切り裂かれ、激しいスパークと共に爆発した。

 

 勢いよく飛び込んだアルテミスは激しく転がりながらも、残った腕と足で速度を殺す。満身創痍ながらもそのツインアイに映るのは、手強かった相手が爆発と混ざり合う光景だった。

 

 <BATTLE END>

 

 システム音声が聞こえた途端、サナの身体から力が抜けていく。言葉にならない声を吐き出しながら媒体につかまる。

 

 シャットアウトされた外部からの音が一斉に飛び込んできた。歓喜だった。多くて、そして今まで浴びたことのない、大歓声。

 

 相手の青年はがっくりと肩を落としていた。目の前のバイアラン・カスタムの無惨な姿を見ながら。

 

「あ……」

 

 それはサナ自身にも言える。勝てたとはいえ、こちらもボロボロだ。辛うじて膝立ちのような形でバランスをとっているアルテミス。

 

 ああ、こんな姿にしてしまった。自分が不甲斐ないせいで…。

 

「おうおう、なにヘタってんだよ」

 

 見上げると、首筋を掻きながらケンがちらりと見て、すぐに視線を逸らす。その先にあるのは、アルテミス。

 

「こいつの初白星だろ。それにこれから決勝だぜ?休んでる暇は、ねぇぞ」

 

「……うん、そうだね」

 

 サナは立ち上がる。ここでいちいちしょげていてどうする。頑張れ、私。

 

 自分を鼓舞する。けれどガンプラはどうするか……。オノの大声アナウンスが聞こえてきた直後、ケンが素早くその場を立ち去る。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 ただそう言い残して。




バトルサーキット、貴様は絶対に許さない
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