ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍   作:フレイムドラゴン

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Life.8 悪魔の仕事、始めます!

 

 

「さて、イッセー。私たち悪魔が主にどういう活動をしているかも、明日夏から聞いているかしら?」

 

「はい。人間と契約して願いを叶え、それに見合った対価をもらうんですよね」

 

「ええ、そうよ。そのために、私たちは悪魔を召喚してくれそうな人に、このチラシを配っているのよ」

 

 

 そう言い、先輩改め部長は、部長席のデスクの上に大量の召喚用魔法陣が描かれたチラシの山を置く。

 

 

「まず、イッセーにやってもらうことは、このチラシを召喚してくれそうな人の家に配ることよ。この機械を使えば、召喚してくれそうな人の場所がわかるわ」

 

 

 部長はチラシの横にその機械らしきものとチラシを入れるためのバックを置く。

 

 

「普通は使い魔にやらせるんだけど、これも下僕として悪魔の仕事を一から学ぶためよ」

 

 

 イッセーはとりあえず、言われるがままにチラシをバックに詰めていく。

 

 

「がんばりなさい。あなただって、自分の下僕を持てるかもしれないのよ」

 

「お、俺の下僕!」

 

 

 イッセーが『自分の下僕』という単語に過剰に反応した。

 

 

「あなたの努力次第でね。転生悪魔でも実績を積んでいけば、中級、上級へと昇格できるの。そして、上級悪魔になれば、爵位を与えられて、下僕を持つことが許されるの。ちなみに、私の爵位は公爵よ」

 

 

 部長の説明を聞くうちに、イッセーは鼻の下をどんどん伸ばしていく。

 

 ・・・・・・何を考えているのかが、手に取るように丸わかりな反応だな。

 

 

「げ、下僕ってことは・・・・・・俺の言うことには逆らわないってことですよね?」

 

「そうね」

 

「何をやってもいいんですよね?」

 

「ええ」

 

「た、たとえば・・・・・・エ、エ、エッチなことでもっ!?」

 

「あなたの下僕ならいいんじゃないかしら」

 

 

 それを聞いたイッセーは雷に打たれたような反応を示すと、歓喜の雄叫びをあげる。

 

 

「うおおおおおおおおおおおッ! 悪魔最高じゃねぇか! ハーレム! 俺だけのハーレムができるんだ!」

 

 

 イッセーはチラシと機械の入ったバックを持つと、意気揚々とチラシ配りに向かう。

 

 

「では、部長。チラシ配りに行ってきます! ハーレム王に俺はなるっ!」

 

 

 廊下からイッセーのそんな宣言が聞こえてきた。

 

 

「フフ。イッセーはおもしろい子ね」

 

「・・・・・・部長がそう思っていただけるんならいいんですが・・・・・・」

 

 

 イッセーの扱い方を早速理解されたようだ。

 

 まあ、そんなことよりも──。

 

 

「──少しは落ち着いたらどうだ?」

 

 

 俺は隣でそわそわしながらイッセーが出ていった部室のドアのほうを見ている千秋に言う。

 

 

「でも!」

 

「昨日みたいなことはそうそう起こらねえよ」

 

 

 千秋が落ち着きがないのは、イッセーが身の安全が心配なのだ。

 

 昨夜、イッセーは堕天使ドーナシークにはぐれと勘違いされて襲われた。そのことがあって、千秋は気が気でないのだ。

 

 とはいえ、あのドーナシークは天野夕麻のサポートもしくは天野夕麻の痕跡の後始末係のはずだ。

 

 イッセーと遭遇したのはたまたまのはずだろう。

 

 そもそも、上級悪魔である部長の管理地であるこの町に目的を達した堕天使がいつまでも居座ることもないはずだ。

 

 仮に目的であるイッセーが生きていることで居座っているにしても、イッセーはいまや部長の眷属、しかも、部長は悪魔のトップである魔王の妹だ。魔王の身内の眷属に手を出そうとすれば、悪魔と堕天使の間で戦争が再び勃発する火種になりかねない可能性がある以上、下手なことはしないだろう。

 

 それは千秋もわかってはいる──が、頭では理解していても、感情まではそうはいかないか。

 

 

「・・・・・・部長」

 

「仕方ないわね」

 

「だとさ。ただ、あんまり余計なことはするなよ?」

 

 

 俺がそう言うと、千秋は強く頷き、イッセーのあとを追って部室から出ていく。

 

 

「随分と心配性な妹さんね」

 

「・・・・・・まあ、昨日のこともありますが・・・・・・生き返ったとはいえ、イッセーが一度死んだことがですね・・・・・・」

 

 

 イッセーが一度死んだことを伝えたときは本当に大変だった。

 

 

「フフ。愛されているのね、イッセーは」

 

 

 まあ、もう少し、その行動力をアプローチ方面とかに回してみろって感じですがね。

 

 

「ところで、もし仮に堕天使に襲われそうになった場合、彼女は大丈夫なの?」

 

「ええ。昨日の奴クラスでしたら、イッセーを守りながらでも」

 

 

 それを聞いた部長は俺のことを興味深そうに見てくる。

 

 

「そう。あなたたちの力、この目で見てみたいわね」

 

「機会がありましたら」

 

 

 なんとなく、そんな機会はすぐに来そうな気がしていた。

 

 

―○●○―

 

 

 俺たちがオカルト研究部に入部してから、一週間が経った。

 

 今日もイッセーはチラシ配りに、千秋はイッセーの護衛についていた。

 

 

「・・・・・・部長、どうしますか?」

 

「そうね」

 

 

 なにやら、部長と塔城が何かで悩んでいた。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

「実は、小猫に予約契約が二件入ってしまって、両方行くのも少し難しそうなの」

 

「そういう場合はどうするんですか?」

 

「こういうときは、他の子が代わりに行ってもらっているんだけど、祐斗も朱乃もちょっと手が離せないのよ」

 

 

 部長は少しのあいだ考え込むと、何か思いついたような反応をする。

 

 

「そうね。ちょっと早いかもしれないけど、イッセーに行ってもらおうかしら」

 

「大丈夫なんですか?」

 

 

 ベテランである塔城へ来た予約だ。いきなり新人であるイッセーにやらせても大丈夫なのか?

 

 

「そんなに難しそうなの契約内容じゃないから、デビューにはうってつけよ」

 

 

 部長がそういうのなら、大丈夫なのか。

 

 

「配達終わりました」

 

 

 噂をすれば、件のイッセーと千秋が帰ってきた。

 

 

「来たわね。イッセー」

 

「あ、はい」

 

「今日はもうひとつ仕事があるの」

 

「仕事?」

 

「小猫に二件、召喚の予約が入ってしまったの。そこで、片方をイッセーに任せるわ」

 

「・・・・・・よろしくお願いします」

 

 

 ペコリと頭を下げる塔城。

 

 

「ああっ、こちらこそ──ていうことは、ついに俺にも契約が!」

 

 

 契約デビューってことがあるからか、イッセーはやる気をみなぎらせる。

 

 

「左手を出して、イッセー」

 

「あ、はい」

 

 

 部長に言われ、イッセーが左手を差し出すと、部長がイッセーの手のひらに指先で何かをなぞりだす。

 

 すると、イッセーの手のひらに紋様ができあがっていた。

 

 

「刻印よ。グレモリー眷属である証。転移用の魔法陣を通って依頼者のもとへ瞬間移動するためのものよ。そして、契約が終わるとこの部屋に戻してくれるわ」

 

 

 その他にも、部長は依頼者のもとに到着後の対応などの説明をする。

 

 そして、そのあいだに副部長が転移用の魔法陣を展開していた。

 

 

「到着後のマニュアルは大丈夫ね」

 

「はい!」

 

「いいお返事ね。じゃあ、行ってきなさい」

 

「はい! よーし! 野望に一歩前進だぜ!」

 

 

 意気揚々とイッセーは転移用の魔法陣の上に立つ。

 

 すると、魔法陣が光りだし、光がイッセーを包んでいく。

 

 そして、光が止むと、イッセーの姿が消えて──。

 

 

「──あれ?」

 

 

 ──いなかった。

 

 イッセーは転移しておらず、その場で棒立ちしていた。

 

 

「・・・・・・部長。確か、この転移って、そこまで魔力は必要ないはずでしたよね?」

 

「ええ。子供でもできることなんだけれどね」

 

「えっ? 何、どういうこと?」

 

 

 イッセーは何がなんだかだかわからないという感じであたふたしていた。

 

 

「イッセー」

 

「な、なんだよ?」

 

 

 俺は残酷のような、残念なような事実をイッセーに言い渡す。

 

 

「おまえの魔力が子供以下のせいで、魔法陣が反応しないみたいだ」

 

「えっと・・・・・・つまり・・・・・・?」

 

「イッセー。おまえは魔方陣によるジャンプができない」

 

「・・・・・・・・・・・・えええええええっ!?」

 

 

 一拍あけて、イッセーが驚愕の叫びをあげた。

 

 

「あらあら」

 

「ふぅ」

 

「・・・・・・無様」

 

 

 副部長が残念そうな表情を浮かべ、木場がため息を吐き、塔城がキツい一言と、他の部員もそれぞれの反応を示して、イッセーに精神的なダメージを与えていた。

 

 塔城のが一番ダメージデカそうだな。

 

 

「依頼者がいる以上、待たせるわけにはいかないわ。イッセー」

 

「は、はい!」

 

 

 しばし考え込んだ部長はイッセーに言い渡す。

 

 

「前代未聞だけれど、足で直接現場へ行ってちょうだい」

 

「足!?」

 

 

 驚愕するイッセー。だいぶ予想外の答えだったみたいだな。

 

 

「ええ。チラシ配りと同様に移動して、依頼者宅へ赴くのよ。仕方ないわ。魔力がないんだもの。足りないものは他で補いなさい。ほら、行きなさい! 契約を取るのが悪魔のお仕事! 人間を待たせてはダメよ!」

 

 

 急かす部長。

 

 イッセーは涙を流しながらその場から駆けだした。

 

 

「クッソー!? どこにチャリで召喚に応じる悪魔がいるってんだあああああっ!?」

 

 

 ・・・・・・いきなり前途多難だな。

 

 

―○●○―

 

 

 ちくしょう! 魔力がないって、どういうことだよ!? こんなんで俺、爵位なんてもらえるのか!?

 

 そんなことを内心で嘆きながら、俺はチャリを全速力で漕ぐ。

 

 

「えっと・・・・・・元気だして、イッセー兄」

 

 

 チャリの後部に乗っている千秋が慰めて

くれる。

 

 

「ゴメンな、千秋。俺が不甲斐ないせいで・・・・・・」

 

 

 チラシ配りのときも、堕天使に襲われないように俺の護衛ってことで、千秋についてきてもらったんだよ。

 

 俺が魔法陣でジャンプできれば、こんな苦労させないで済んだってのに。

 

 

「大丈夫だよ、イッセー兄。万が一があったら・・・・・・私はいやだから」

 

 

 そう言って、千秋は俺を抱く手の力を強める。

 

 両親の死を目の当たりして、ショックで引きこもったことがある千秋にとっては、親しい者の死は本当に耐えられないことなんだろう。

 

 明日夏から聞いたが、俺が一度死んだことを知ったときは、大変だったらしい。

 

 どうにかして、千秋を安心させてやりたいが・・・・・・。

 

 そんなことを考えているうちに、目的地に到着した。

 

 

「日暮荘──ここだな」

 

 

 目的地は普通のアパートだった。ここの一室に依頼者がいるらしい。

 

 

「私も行って大丈夫かな?」

 

「うーん、どうだろう? 向こうが了承してくれれば、見学くらいならいいんじゃないか?」

 

 

 部長も千秋がついてくることに特に何も言ってなかったからな。

 

 とりあえず、依頼者である森沢さんというヒトの部屋のドアをノックする。

 

 

「こんばんは、森沢さん。悪魔グレモリーの使いの者ですが」

 

 

 ガチャ。

 

 

「うん?」

 

 

 ドアが開き、メガネをかけた痩せ型の男性が不審者を見るような顔で出てきた。

 

 

「あぁ、どうも──」

 

「──チェンジ」

 

 

 そう言って、ドアを閉められてしまった!

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? 悪魔を召喚したのはあなたでしょう!?」

 

「玄関を叩く悪魔なんかいるもんか」

 

「ここにいますけど!」

 

「ふざけるな。小猫ちゃんはいつだって、このチラシの魔方陣から現れるぞ。だいたい、俺が呼んだのは小猫ちゃんだ。とっとと帰れ」

 

「お、俺だって・・・・・・出られるものならそうしたかったさ! 何が悲しくて深夜にチャリなんかとばしてぇ・・・・・・ううぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

 

 俺は悲しさから、その場で泣き崩れてしまった。

 

 

「・・・・・・しょうがないな」

 

 

 森沢さんはそんな俺を見て同情してくれたのか、中に入れてくれることになった。

 

 

「ところで──そっちの子は?」

 

 

 森沢さんは千秋のほうを見ながら訊いてきた。

 

 

「ああ、この子は千秋って名前で、悪魔じゃないです。俺の幼馴染みで、見学として来ました」

 

 

 俺がそう説明すると、森沢さんはギラっと視線を鋭くして睨んできた!

 

 

「ちょっと待て・・・・・・キミ、いまなんて言った?」

 

「えっ・・・・・・見学として来ました・・・・・・?」

 

「そのまえだ!」

 

「悪魔じゃない・・・・・・?」

 

「そのあと!」

 

「・・・・・・俺の幼馴染み・・・・・・?」

 

「そう、それだ! こんなかわいい幼馴染みがいるとか、羨ましすぎるぞ、この野郎!」

 

 

 いきなりそんなこと言われましても!

 

 

「よし、この子だけ残って、キミは帰ってよし!」

 

「いや、だから、千秋は悪魔じゃないですから! 悪魔の俺がいなきゃ、意味ないでしょう!?」

 

「うるさい! 屋根伝いで部屋を行き来したり、朝起こしてもらったりなんてしてるんだろ!?」

 

「いや、家は向かいなんで、屋根伝いで部屋を行き来したりはできませんよ。──まあ、たまに朝起こしてもらったりはしてますけど・・・・・・」

 

「死ね、リア充!」

 

 

 それから、俺と森沢さんは千秋のことでしばらく言い争いを始めてしまうのだった。

 

 

―○●○―

 

 

 森沢さんとの口ゲンカが終わり、俺と千秋は森沢さんにお茶を出してもらっていた。

 

「あ、すいません」

 

「どうも」

 

 

 とりあえず、出してもらったお茶をひとすすりする。

 

 

「で? キミも悪魔なら、特技はあるんだろ? とりあえず、見せてくれよ」

 

 

 ・・・・・・悪魔としての特技かぁ・・・・・・なんもないんですけど。

 

 

「・・・・・・あの、ちなみに小猫ちゃんは一体どんな技を?」

 

「あぁ──」

 

 

 すると、森沢さんは何かを取り出して言う。

 

 

「コスプレでお姫様抱っこだ!」

 

 

 そう言って取り出したのは、昨今話題のアニメ、『暑宮アキノ』の登場人物である短門キユの制服だった。

 

 なるほど。たしかに小猫ちゃんは短門キユに似ているところがあるから、似合うだろうな。

 

 

「──って、そんなの、悪魔じゃなくたって・・・・・・」

 

 

 わざわざ、悪魔に頼んでまですることなのか?

 

 

「ふん、あんな小さな女の子がお姫様抱っこしてくれるなんて、悪魔以外ありえないだろ!」

 

 

 はぁ、そりゃそうですけど──って、え? してくれる?

 

 俺の脳内でコスプレした小猫ちゃんがだいの大人である森沢さんをお姫様抱っこしている光景が浮かぶ。・・・・・・なんともシュールな絵だ。

 

 

「で、キミの特技は?」

 

「あぁ、えーと・・・・・・」

 

 

 俺はその場で立ち上がる。

 

 

「ドォォラァァゴォォォォン波ァァァァァッ! ・・・・・・・・・・・・すいません、まだ何もできないんです・・・・・・」

 

 

 ヤケクソでドラゴン波の真似をするが、当然ドラゴン波など出るはずもなく、素直に何もできないことを打ち明けた。

 

 

「ドラグ・ソボールか」

 

「え?」

 

「フン。キミの歳じゃ、所詮再放送組だな? 僕なんか直撃世代だぜ!」

 

 

 森沢さんが立ち上がると、部屋の一画にあるカーテンを開ける。

 

 

「見ろ! 全部初版本だよ!」

 

 

 開けたカーテンの先には、ドラグ・ソボールのコミック全巻が並べられた本棚があった!

 

 それを見た俺は、対抗意識を燃やす!

 

 

「ちょ、直撃だからなんだってんですか!」

 

「何!?」

 

「俺だって全巻特装版持ってんすよ!」

 

「ぷっ、貴様にはわかるまい。毎週水曜放送の翌日、アルティメット豪気玉を作るため、友人たちと地球上の豪気を集めた熱い日々を!」

 

「俺だって悪友たちと公園で『気で探るかくれんぼ』くらいやったつうの! いまでも主人公の空孫悟、世界最強って信じてるっスよ!」

 

「僕はデルが最強だと思うがなっ!」

 

「おぉ、それもある意味アリですね!」

 

「だろぉ!」

 

「でも、やっぱ空孫悟、ドラゴン波っスよ!」

 

 

 森沢さんはおもむろに、本棚からドラグ・ソボールのコミックを数冊取り出し、テーブルの上に置く。

 

 

「フッ、語るかい?」

 

「語りますか」

 

 

 それから、森沢さんとドラグ・ソボールについて熱く語り合った。

 

 

―○●○―

 

 

「・・・・・・はぁ、結局、契約も取れず、熱くドラグ・ソボール談義をしただけ・・・・・・何やってんだ、俺・・・・・・」

 

 

 もうこれ以上ないくらい、森沢さんと熱く語ったが、それに熱中するあまり、契約を取ることをすっかり忘れてしまった。・・・・・・ホント、何やってんだ、俺・・・・・・。

 

 

「でも、楽しそうだったよ? イッセー兄も森沢さんも」

 

「まぁ、楽しかったけどさ・・・・・・やっぱ、契約を取ってなんぼだろ? 悪魔ならさ」

 

 

 千秋とそんな感じの会話をしながら、チャリを押して部室に戻っていると──。

 

 

「──っ!?」

 

 

 突然、妙な悪寒を感じた!

 

 

「・・・・・・イッセー兄」

 

 

 どうやら、千秋も何か感じているみたいだった。

 

 この感じ、あいつだ! あいつと同じ!? あのドーナシークと名乗っていた堕天使と会ったときと同じ感じだった!

 

 すると、千秋が後ろのほうに振り向いていた。俺も振り向いてみると──。

 

 

 コツコツ。

 

 

 スーツを着た女性がこちらに歩み寄ってきていた。

 

 

「──妙だな? 人違いではなさそうだ。足跡を消すよう命じられたのは、このカラワーナだからな。まことに妙だ──」

 

 

 カラワーナと名乗った女性はブツブツと何かを言っている。

 

 この感じ・・・・・・まさか、この女も!?

 

 

「なぜ貴様は生きている?」

 

 

 そう言った女性の背中から、夕麻ちゃんやあの男と同じ翼が生えた!

 

 堕天使ッ!

 

 

「貴様はあのお方が殺したはずだ!」

 

 

 そう言うと、いきなり光の槍を投げつけてきた!

 

 

「イッセー兄!」

 

「うわっ!?」

 

 

 光の槍が俺を貫こうとした瞬間、飛びかかってきた千秋によって押し倒される! おかげで、光の槍には当たらずに済んだ。

 

 

「イッセー兄、下がってて!」

 

 

 千秋が俺を守るように前に躍り出る。

 

 

「貴様は確か、あのお方が仰っていた男の妹・・・・・・それに、そいつから感じる気配──そうか、ドーナシークがはぐれと間違えたのは貴様か。まさか、グレモリー家の眷属になっていたとは。ならば、ますます生かしてはおけぬ!」

 

 

 そう言うと、堕天使は光の槍を手にこちらを睨んでくる!

 

 

「・・・・・・やらせない!」

 

 

 そう言うと同時に千秋は飛び出していた。

 

 

「フン。邪魔だてをするのなら容赦はせん!」

 

 

 堕天使は千秋に向けて光の槍を投げつける!

 

 

「千秋!」

 

 

 俺の叫びと同時に光の槍が千秋に当たりそうになった! 

 

 だけど、千秋はその槍を横に少し動いただけで避けてしまった!

 

 

「何!? チッ!」

 

 

 舌打ちした堕天使が翼を羽ばたかせて飛び上がった!

 

 

「逃がさない!」

 

 

 それを千秋はその場から塀、屋根へと飛び移り、さらに屋根から堕天使の頭上に飛び上がる!

 

 そのまま、千秋は堕天使の頭目掛けてオーバーヘッドキックのように蹴りを繰り出す!

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 堕天使は腕を交差させて千秋の蹴りを防ぐが、千秋はそのまま堕天使を地面へと蹴り落としてしまう。

 

 

「がっ!?」

 

 

 蹴り落とされた堕天使は地面に叩きつけられ、千秋は地面に着地すると同時に後ろに飛んで堕天使から距離を取る。

 

 

「・・・・・・ぐっ・・・・・・貴様っ・・・・・・!」

 

「──ねえ」

 

 

 睨んでくる堕天使に千秋は低い声音で訊く。

 

 

「──あなたが言ってるあのお方って──天野夕麻のこと?」

 

 

 ッ!? そういえば、あの堕天使は俺のことを知っているようだった。「足跡を消すよう命じられた」と言っていた。てことは、堕天使が言うあのお方ってのは、千秋の言うように夕麻ちゃんの可能性が大きいということになる。

 

 

「天野夕麻? あぁ、あのお方の偽名か。だとしたら、どうだと言うんだ?」

 

 

 堕天使はあのお方ってのが、夕麻ちゃんであるということを認めた!

 

 刹那──。

 

 

 ゾワッ。

 

 

「──ッ!?」

 

 

 千秋からとてつもないプレッシャーを感じてしまう!

 

 間違いない。これは殺気ってやつだ! 千秋からあの堕天使へと殺気が向けられているのだ。

 

 

「フン。大した殺気だな? だが、所詮は人間。先程は不覚を取ったが、私の敵ではない!」

 

 

 堕天使は光の槍を手に飛びだし、千秋に向けて槍を振るう!

 

 だけど、槍が千秋を捉えることはなかった。

 

 

「何っ──がっ!?」

 

 

 千秋は宙返りで槍を避け、さらに、そのまま堕天使の顎を蹴り上げてしまった!

 

 

「ふッ!」

 

 

 蹴り上げた堕天使の鳩尾に千秋の鋭い回し蹴りが打ち込まれる!

 

 鈍い音が鳴り、堕天使は叫び声もあげられずに後方へと吹き飛んでいった。

 

 

「くっ・・・・・・ここは一時引くか。貴様が生きていることを、まずはあのお方に報告せねばなるまい!」

 

 

 堕天使はそう言うと、この場から飛び去っていった。

 

 

「──ふぅ」

 

 

 千秋は息を吐くと、俺のもとまで走り寄ってくる。

 

 

「イッセー兄、怪我はない?」

 

「あ、ああ。俺は平気だ。千秋は?」

 

「私も大丈夫だよ」

 

 

 お互い、怪我はないようだ。

 

 

「助かったよ、本当。千秋がいなかったら、俺・・・・・・また死んでたかもしれなかったよ······」

 

 

 ・・・・・・本当、そう思うとゾッとするぜ・・・・・・。

 

 ・・・・・・にしても、俺、ホントなんもできなかったな。明日夏や千秋に守られてばっかりだ。

 

 

「イッセー兄。何もできなかったことは仕方ないよ。イッセー兄は私や明日夏兄と違って、つい最近までこんなこととは無縁の世界にいたんだから」

 

 

 確かにそうだけど・・・・・・それでも。ましてや、男が女の子の後ろでビクビクするとか論外だろ。

 

 自分の不甲斐なさに打ちひしがれていると、千秋が俺の手を取る。

 

 

「イッセー兄」

 

 

 千秋が俺の手をやさしく握ってくれる。

 

 

「イッセー兄ならきっと強くなれるよ」

 

「俺がか?」

 

「うん」

 

 

 千秋はやさしそうな笑顔を浮かべる。

 

 俺は思わず、その微笑みにドキッとして見とれてしまう。

 

 その笑顔からは、千秋は俺が強くなれることを心から信じているみたいだった。

 

 そうだよな。クヨクヨしてたって始まらないよな。

 

 女の子──それも幼馴染みにここまで想われているのなら、応えてやらないと男が廃るってもんだ!

 

 それに、少しでも強くなれば、千秋も安心してくれるかもしれないしな。

 

 

「ありがとうな、千秋。俺、強くなるぜ! 今度は千秋を守れるようにな!」

 

「うん!」

 

 

 よし。とりあえず、堕天使に襲われたことを部長に報告したほうがいいよな。

 

 また襲われてもあれだし、千秋を後ろに乗せて、俺は部室に向けてチャリを全力疾走をさせるのだった。

 

 

―○●○―

 

 

 それにしても、強くなるって決めたのはいいけど、どうしたもんかな?

 

 鍛えてもらえるように明日夏に頼んでみるとか?

 

 

「イッセー兄」

 

「ん、なんだ?」

 

「強くなるって言ってたけど──もしかして、明日夏兄に鍛えてもらおうなんて考えてる?」

 

「うーん、まあ、方法のひとつとしては考えてるかな」

 

「・・・・・・明日夏兄、たぶん、スパルタだと思うよ」

 

「・・・・・・あ、やっぱりか」

 

 

 明日夏ってなんとなく、スパルタって雰囲気がありそうだったんだよな。

 

 なんやかんやで、自分含めてそういうところには厳しいところがあるし。

 

 ・・・・・・でも、強くなるためなら。

 

 ──もし頼むときが来たら・・・・・・できる限り、お手柔らかにしてくれるように頼もう・・・・・・。

 

 


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