ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍 作:フレイムドラゴン
僕は明日夏くんから聞いた堕天使たちの情報を思い出す。
明日夏くんが把握していた堕天使の人数は五人。そのうちの一人のディブラという堕天使と上空にいる堕天使と特徴が一致した。
それにしても、平然と仲間を殺すとはね・・・・・・。
・・・・・・いや、彼らからしたら、人間なんて駒みたいにしか思ってないのかもしれない。
・・・・・・やはり、堕天使は好きになれないな。
先ほどまで戦意喪失していた神父たちは、一斉に武器を手に構え始めた。
だけど、その表情は必死そのもので、明らかに死への恐怖に駆られたものだった。
そんな神父たちをディブラは醜悪な笑みを浮かべて眺めていた。
──ゲスだね、あの堕天使。
あのレイナーレとかいう堕天使といい、本当に嫌悪感を覚える存在だよ。
とはいえ、マズいね。あまり時間をかけていると、兵藤くんの身が危ない。
ここは──。
「明日夏くん。ここは僕たちにまかせて、キミは兵藤くんのもとへ!」
「──わかった」
「行くよ、小猫ちゃん!」
「はい!」
僕と小猫ちゃんは頷き合うと、その場から飛びだす!
神父たちは迎え撃とうと身構えるけど、恐怖に駆られた者など案外御しやすいものだった。
僕と小猫ちゃんは神父たちを次々と薙ぎ倒していき、明日夏くんが通れる道を作った。
それと同時に明日夏くんは僕たちが作った道を全速力で駆け抜けていく。
「おっと、させませんよ」
ディブラが明日夏くんの背後から光の剣で斬りかかる!
だけど、明日夏くんもそれを予期していたのか、即座に振り向いて、ディブラの攻撃を刀で防いだ。
「はぁッ!」
そして、同じように予期していた僕はすかさずディブラを背後から斬りかかった!
「──そうはいきませんよ」
刹那、明日夏くんとディブラの足下に魔方陣が出現していた!
「何!?」
「しまっ──」
「ふふ」
そして、魔方陣が二人を通過し、明日夏くんとディブラはその場から消えてしまった!
-○●○-
「クソッ!」
転移が終わった直後、俺はディブラから距離を取り、あたりを見渡す。
見ると、さっきまでいた教会からそう離れてはいない場所だった。
「そんなに心配しなくとも、急いで向かえば、お友達を助けることはできると思いますよ」
ディブラの言葉を聞き、すぐさまディブラを警戒する。
「さて、あなたをみすみす行かせると、レイナーレさまはますます機嫌が悪くなるでしょうし、あなたのお相手は私がいたしますよ」
ディブラがそう言うと同時に、ディブラの周りに光の剣が出現していき、無数もの光の剣がディブラの周りに展開された!
「フフ」
ディブラが笑みを浮かべた瞬間、光の剣が射ちだされる!
「ちっ!」
射ちだされる光の剣を
「クソッ!」
アーシアを連れていかれたときも、このようにして足止めされてしまった。
厄介なのは、一斉に射ちだすのではなく、緩急を入れて射ちだしているところだ。そのせいで、迂闊な行動ができなかった。
次第に波状的に射ちだされる光の剣をさばききれず、かするものが出てきた!
戦闘服の防御力ならその程度はどうってことなかった。一発一発の威力も低いみたいだからな。
だが、あれだけの数をまとめてくらってしまえば、この戦闘服を着ていてもただではすまない。
「なら!
「ほぉ。なかなかやりますね」
ディブラは一旦光の剣の射出をやめ、俺の対応に感心していた。
ちっ、余裕そうだな!
間違いなく、こいつはレイナーレよりも強い!
「フフ」
再び、光の剣の射出が始まってしまう!
「くっ、はぁぁぁぁッ!」
さっきと同様、両手のナイフで光の剣を迎撃する!
このままじゃ、ジリ貧だな・・・・・・。
クソッ、急がないといけねぇってのに!
おまけに、奴はあからさまに手を抜いていた。
あのときと同じように足止めに徹して時間を稼ぐ攻撃の仕方だった。
「さぁさぁ、早くしませんと、お友達が大変なことになってしまいますよ?」
ディブラは俺を焦らすように煽ってくる。
けど、俺は冷静そのもので光の剣を迎撃していた。
──我ながら、冷静なもんだ。
前々から、俺は感情が、特に怒りが限界を越えて高ぶると、頭の中がかえってクリアになる傾向があった。
しかも、その状態になると、集中力が増し、見えているものがよりよく見えるようになっていた。
普段の状態だったら、今頃、あの光の剣で俺は蜂の巣にされていただろう。
それから──この状態になったことで、わかったこともあった。
「──いい加減、その
俺の言葉を聞き、ディブラは眉をひそませ、攻撃の手を止める。
「さっきもレイナーレさまレイナーレさまなんて慕ってるふうに振る舞ってたが、本当はそんなことないんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
俺の言葉にディブラは答えず、ただただ無言だった。
この状態になって目がよくなったおかげでわかったことがあった。
──こいつの紳士然とした振る舞いがただただ見栄えをよくするためのものだってのが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クフッ」
ディブラは顔を手で覆うと、とたんにこもった笑い声をあげ始める。
「クハハハハハハハハハッ!」
そして、背中を仰け反らせながら盛大に笑い声をあげた。
「まあ、ここにはあなたしかいませんし、別にいいですかね! いい加減、肩も凝ってきましたし。それに、あの女に余計なことをしゃべろうとしたら、喉を潰すなりすればいいでしょうしね」
本性を表したディブラは、口調こそ丁寧だが、さっきまでの紳士然とした雰囲気はもう微塵も感じられなかった。
「・・・・・・あの女に従ってるのは、成り上がったあいつの恩恵にあやかろうってところか?」
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」
俺の言葉を聞いて、ディブラは愉快そうに醜悪な笑い声をあげた。
「それもいいですがね、正直言うと、そこまでそんなものに興味はありませんよ」
「・・・・・・何?」
「そもそも、バレたときのリスクのほうが大きいですからね」
「・・・・・・どういう意味だ?」
「グリゴリの基本方針として、不用意に人間を殺すことはご法度でしてね。彼女のような
なんてことのないように言うディブラ。
レイナーレのことも、平然とこき下ろしていた。
「他人事みたいに言ってるが、バレたらおまえも危ないんじゃないのか?」
「ええ、ですから、今回の騒動が終わって、あのバカ女が有頂天になってるところで、私は上にあのバカ女の所業を密告するつもりなんですよ」
「・・・・・・なんだと?」
「私はあのバカ女とは違います。上手く立ち回って、すべての責任をあのバカ女やそれに付き従っているバカどもに押しつけるつもりですよ」
仲間を平然と売るようなことを言うディブラ。
・・・・・・いや、もとから仲間なんて思っちゃいないのか。
「だが、それでおまえになんの得がある?」
こいつはさっき、レイナーレがもたらす恩恵に興味ないと言った。
だとしたら、たいして慕ってもいない女に猫を被ってまで付き従っていたのはなんでだ?
「趣味ですよ」
「・・・・・・何?」
「私の趣味はですね、他人が悲しんだり、苦しんだりするさまを見て楽しむことなんですよ。特に女が絶望するさまなんて、ちょっと下品ですけど、勃起してしまうぐらいに興奮してしまうんですよ。あの神父たちのあの必死な姿もなかなかよいものでしたよ」
なんてことのないようにディブラは言った。
・・・・・・・・・・・・こいつは・・・・・・とんだ外道だな・・・・・・。
「いま、『とんだ外道だな』なんて思いましたか? 最ッ高の褒め言葉です!」
奴の言葉を聞くたびに、俺の中でディブラに対する嫌悪感がどんどん高まっていく。
「それにしても──」
ディブラはふと、教会のほうに視線を向ける。
「アーシア・アルジェントは惜しかったですねぇ。ああいう純粋で純情な女が絶望するのが最高にいいのに、あんな穏やかそうな表情で死んでしまいましたからねぇ。あの兵藤一誠の死体でも見せてあげれば、少しはマシな死に顔をしていたでしょうかね? せめて、教会を追放されたときの顔が見たかったですよ」
あの優しい少女の不幸を愉快そうに楽しむ目の前の外道にさらに怒りが湧いてくる。
「さて、そろそろ、続きを再開しますか」
再び、無数の光の剣が射ちだされる!
「くっ!」
俺もすかさず、両手のナイフで弾く。
「さて、少し手を加えますか」
奴がそう言った瞬間、何本かの光の剣が意思を持ったかのように軌道を変えてきた!
「クソッ!」
それにより、360度全体に意識を割かなくてはならなくなってしまった!
「さぁ、もっと必死になりませんと!」
ディブラが手に光の剣を生みだし、それを投擲してきた!
「しまっ──」
その光の剣を受け切れなかった俺は体勢を崩されてしまった!
そして、俺の眼前には、先程から射ちだされていた無数の光の剣が──。
「ぐあああああああああああっ!」
戦闘服で防ぎきれなかった熱と衝撃が俺を襲う!
ただでさえ、
「・・・・・・ぐっ・・・・・・ぐぅぁ・・・・・・」
地面に仰向けに倒れた俺はうめき声をあげる。
そんな俺をディブラは愉快そうに眺めてきていた。
「そうそう、あの兵藤一誠もなかなかいい表情をしてましたね。ありきたりですが、惚れた女に裏切られたあの顔はなかなか。アーシア・アルジェントの死を認識したときもよい顔をしていたでしょうね。あーあ、非常に残念です」
ダチたちの苦しんでる姿を楽しむディブラ。
怒りから拳を握りこみ、血がにじみ出てきた。
俺は怒りをバネにし、体を起き上がらせる。
「ほぉ、人間にしては意外と頑丈ですね?」
体中から悲鳴があがるなか、俺はディブラを睨む。
「これは、あのバカ女もあなたを痛ぶりがいがありそうですね。さて、そろそろ、抵抗できないように、手足をもぎますか。あと、余計なことを口にしないように喉も潰しときますか」
再び、ディブラの周囲に無数の光の剣が展開される。
「──ふぅぅ・・・・・・
俺は身体強化を解除する。
「──すぅぅはぁぁぁぁ・・・・・・」
深く深呼吸をした。
頭の中はいたって冷静、クリアそのものだった。
──だが、心のうちでは、ドス黒い感情が渦巻いていた。
──怒り。憎しみ。レイナーレとディブラに対する怒りと憎しみ。――そして、不甲斐ない自分自身に対する怒りが。
──ああ、そうだ。俺はイッセーとアーシアを守れなかった。だからムカつく、自分の弱さが。
──すべてが許せねぇ。特に何も守れない自分が心底許せなかった。
いま、イッセーの身が危ない状況。イッセーを助けるためには目の前にいる外道をさっさと消さないといけない。──だが、いまの俺じゃ、それは無理だった。
だから──。
「──だから、この身がどうなろうとかまいやしねぇ」
「おや、どうかしましたか? あまりの激痛におかしくなりましたか?」
だから──。
「ま、とりあえず、これで終わりですね」
ディブラがそう言うと同時に無数にあったすべての光の槍が一斉に射出された。
無数の光の剣が迫ってくるなか──俺は叫ぶ!
「──力を貸しやがれ!」
刹那、緋が俺の身を包み込んだ。
-○●○-
「あれは!?」
堕天使たちを倒し、その場の後始末を部長と朱乃さんにまかせて、風で飛翔して教会に向かっていた私の視界に緋色の輝きが入った。
あのオーラ、間違いない!
「明日夏兄!」
私は急いでオーラの発生源に向かって、全速力で飛翔する!
教会を通り越し、教会から少し離れた場所から緋色のオーラが発生しており、私は急いでその場所に降り立つ!
そこで私の視界に入ったのは上空にいるディブラと無数の光の剣が突き刺さった緋いオーラを発している塊だった。
「な、なんだ、これは!?」
ディブラは目の前の光景に驚愕していた。
すると、塊が少し動いた。
次の瞬間、すべての光の剣が緋色のオーラによって薙ぎ払われた!
そこには、緋色のオーラを発した明日夏兄がいた。
「ちっ!」
ディブラは舌打ちをすると、無数の光の剣を精製すると、それを明日夏兄に向けて一斉に放った!
「・・・・・・・・・・・・ッ・・・・・・!」
明日夏兄は無言で腕を横薙ぎに振るうと、その動きに連動して緋色のオーラが光の剣をすべて薙ぎ払った!
「・・・・・・明日夏兄?」
私はとある懸念を抱きながら、おそるおそる明日夏兄に呼びかける。
「──千秋か」
明日夏兄は私のほうを一瞬だけ見ると、すぐにディブラのほうに視線を戻す。
「手は出さなくていい。──すぐに終わらせる」
それを聞いて、懸念していたことになっていないことにとりあえず安堵する。
「千秋、あれはなんなの?」
いつの間にか私の隣に転移してきていた部長が私に訊いてきた。
「──もう察しはついてると思いますけど、あれが明日夏兄の
「──ドラゴン系
「その能力は、宿っているドラゴンのオーラを操るというものです」
それだけ聞くと、一見たいしたことのない
けど、その操るオーラがドラゴンのものなら話は変わってくる。
ドラゴン──異形の存在の代表格といってもいい存在。その力は強大で、オーラそのものだけでも強大な破壊力を誇り、存在そのものが力の塊とさえ言われている。あらゆる書物や文献でもその存在感は大きい。
そんな存在のオーラを操れるというのだから、明日夏兄の
「あなたも
ディブラはそう言うと、無数の光の剣を出現させると、それを一ヶ所にまとめ始める。
集束された無数の光の剣は一本の巨大な光の槍となった!
「くらえ!」
ディブラはその光の槍を明日夏兄に向けて放った!
それを明日夏兄は
「無駄です!」
斬りつけられた光の槍は一瞬だけ止まるが、徐々に明日夏兄を押し始めた!
「はぁッ!」
でも、次の瞬間には、光の槍は明日夏兄によって真っ二つに切り裂かれた!
カッ! ドォォォオオオオオオオンッ!
真っ二つになった光の槍はそのまま明日夏兄の後方に飛んでいき、刹那、明日夏兄の背後で一瞬だけ閃光が走り、けたましい爆音があたりに響き渡った!
明日夏兄の後方にあった木々は跡形もなく吹き飛ばされていた。
「な、なんだと!?」
そんな威力の攻撃をしたディブラは戦慄していた。
それだけ、自分の攻撃を切り裂かれたことが信じられなかったんだろう。
よく見ると、明日夏兄の持つ
これはあのオーラの特性だった。
あのオーラを冬夜兄は『緋い龍気』と名付け、以降、私たちもそう呼んでいる。その緋い龍気の特性は、あらゆるものと混ざり合い、侵食するというものだった。
その特性を応用することで、あのように刀身に纏わせるだけでなく、刀身と融合させることで、単純に纏うよりも、強度や斬れ味を強化できるのだった。
「ちぃっ!」
ディブラはさらに上空へと飛び上がろうとする。
おそらく、高空から地面に向けて攻撃することで、さっきみたいに切り裂かれても問題ないようにするつもりなのだろう。
「がぁっ!?」
だけど、ディブラは突然、何かに引っ張られるように空中で制止した。
見ると、明日夏兄がディブラに向けて手を伸ばしており、その手からオーラが伸びており、オーラは手のカタチになってディブラの体を掴んでいた。
「ふッ!」
「ぐあっ!?」
明日夏兄が手を引くと、それに連動してオーラの手がディブラを引き寄せ始めた。
ディブラを至近距離まで引き寄せた明日夏兄はすかさず、
「くっ!」
ディブラは慌てて光の剣で防ごうとするけど、緋い
「私の腕がぁぁっ!?」
腕を斬り飛ばされたディブラは絶叫し、斬られた箇所を押さえながら後ずさる。
明日夏兄はそんなディブラの背後に周り、ディブラの翼を根元から切り裂いた!
「がぁぁぁぁっ!?」
叫ぶように悲鳴をあげるディブラをよそに、明日夏兄は
すると、それに合わせるように緋い龍気は明日夏兄の右手に集まりだす。
そして、次第にオーラがドラゴンのカタチを模していく。
それを見たディブラは恐怖に顔を歪めながら、絶叫する。
「・・・・・・おまえは・・・・・・おまえはっ・・・・・・一体なんなんだぁぁぁぁっ!?」
明日夏兄が拳を突き出すと、それに合わせてオーラのドラゴンが炸裂し、オーラの波動がディブラを飲み込んだ!
-○●○-
「・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・」
いまの一撃で、体力をごっそりと消耗した俺は息を荒げていた。
ダメージも受けすぎた・・・・・・。
体もあっちこっちから悲鳴をあげていた。
「明日夏兄!」
そんな俺のもとに千秋が心配そうに駆け寄ってきた。
「・・・・・・大丈夫だ。少し疲れただけだ。それよりも、急いで教会に向かうぞ!」
教会に向かおうとする俺を部長が呼び止める。
「待って、明日夏。何があったのか教えてちょうだい」
俺は簡潔に教会であったことを部長と千秋に話した。
それを聞いて、千秋も急いで教会に向かおうとする。
「待って、二人とも。少し、様子を見させてもらえないかしら?」
「何言ってるんですか!?」
部長の言葉に千秋がもの申すが、部長は千秋を落ち着けると俺に訊いてくる。
「明日夏、あなたは本当にイッセーの
「──ッ!」
「あなたも知ってるわよね。イッセーを転生させる際、私が使用した『
それを聞いて、千秋は驚愕していた。
俺も気にはなっていた。
『
だが、それでも結局はありふれた
だから、部長は考えた。
イッセーの『
それを確かめるために、部長はあえてレイナーレと戦わせようというのだ。
「そんな!?」
それを知って、千秋はますます部長に食ってかかる。
あたりまえだ。一歩間違えれば、イッセーは今度こそこの世からいなくなってしまうからだ。
俺も承認しかねる。
「わかってるわ。本当に危なくなったら、助けに入るわ。でも、私は信じているの。イッセーが件の堕天使を倒せると」
部長の表情は真剣そのもの、言葉からも決して軽く言ってるわけではないということも察せた。
「でも!」
それでも、千秋は部長の提案に乗ることはできなかった。
そんな千秋の肩に手を置き、落ち着かせる。
「わかりました」
「明日夏兄!?」
「ただし、イッセーが本当に危ないかどうかの判断は俺たちがします。すぐに危ないと感じたら、たとえ部長がまだだと思っていても、イッセーを助けます」
「ええ、それでいいわ」
部長もそれで了承してくれた。
千秋も俺の妥当案で渋々了承する。
そして、俺たちは改めて教会に向かうのだった。
-○●○-
地下の祭儀場から聖堂に戻った俺は、アーシアを長椅子の上に寝かせる。
「アーシア、しっかり!? ここを出れば、アーシアは自由なんだぞ! 俺や明日夏たちと、いつでも一緒にいられるようになるんだぞ!」
ゆっくりと目を開けるアーシア。
微かに上がった手を俺は両手で握りしめる。
握りしめた手は、とても冷たく、生気が感じられない。
「・・・・・・私、少しのあいだだけでも、お友達ができて幸せでした・・・・・・」
「何言ってんだ! 全部終わったら、遊びに行こうって約束したじゃないか!? 連れていきたいとこ、いっぱいあるんだからな! ゲーセンだろ、カラオケだろ、遊園地だろ、ボーリングだろ、他にはさ・・・・・・あれだよあれ、ほら! そうだ、明日夏以外のダチにも紹介しなきゃ! 松田、元浜って、ちょっとスケベだけど、スッゲェいい奴なんだぜ! 絶対、アーシアと仲良くなってくれるからさ! 皆でワイワイ騒ぐんだ! バカみたいにさ!」
涙が止まらない。
笑いながら話しかけているはずなのに涙が止まらなかった。
わかってる。理解できている。この子は死ぬんだと。
それでも否定したかった。こんなことは嘘に決まっている、と。
「・・・・・・この国で生まれて、イッセーさんや明日夏さん、千秋さんと同じ学校に行けたら、どんなにいいか・・・・・・」
「行こうぜ! いや行くんだよ! 俺たちとさ・・・・・・!」
アーシアの手が俺の頬を撫でる。
「・・・・・・私のために泣いてくれる・・・・・・私・・・・・・もう、何も・・・・・・」
アーシアは涙を流しながら微笑んでいた。
「・・・・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・」
頬を触れている手が静かにゆっくりと落ちていった。
アーシアは微笑みながら、その言葉を最後に動かなくなった。
「・・・・・・アー・・・・・・シア・・・・・・」
アーシアが死んだ。
俺は呆然と彼女の死に顔を眺めていた。
「なんでだよ? なんで死ななきゃなんねぇんだよ? 傷ついた相手なら誰でも・・・・・・悪魔だって治してくれるくれぇ、やさしい子なのに!」
俺はアーシアを抱きしめ、教会の天井に向かって叫ぶ!
「なあ、神さま! いるんだろう!? この子を連れていかないでくれよ! 頼む! 頼みます!? この子は何もしてないんだ! ただ友達が欲しかっただけなんだ!」
天に訴えかけても応じてくれる者はいない。
「俺が悪魔になったからダメなんスか!? この子の友達が悪魔だからナシなんスか!? なあ、頼むよ、神さまァァァッ!」
悔しさに歯嚙みした。
俺は弱い。俺は無力だ。
もっと力があれば・・・・・・アーシアを救えるだけの力があれば・・・・・・!
いまさら後悔しても、アーシアは目を覚まさない。笑わない。
「・・・・・・悪魔が教会で懺悔?」
唐突に投げつけられる言葉。
「・・・・・・タチの悪い冗談ね」
振り向くと、地下の階段からレイナーレが上がってきていた。
その体はボロボロで、息遣いも荒く、肩にはナイフが刺さっていた。
「・・・・・・ほら、見てこれ。あなたのお友達にやられたのよ・・・・・・」
レイナーレは憎悪にまみれた表情をこちらに向けていた。
明日夏がやったのか、あれ?
ていうか、明日夏は!? 木場や小猫ちゃんは!?
レイナーレは、肩に刺さっているナイフをおもむろに掴む。
「・・・・・・くっ・・・・・・ああぁ・・・・・・ッ!」
レイナーレは叫び声をあげながら、強引にナイフを引き抜き、ナイフを投げ捨てた。
「・・・・・・でも、見て」
レイナーレが肩の傷口に手を当てると、淡い緑色の光が発せられ、肩の傷を塞いでいく。
「素敵でしょう? どんなに傷ついても治ってしまう。神の加護を失った私たち堕天使にとって、これは素晴らしい贈り物だわ」
そう言いながら、他の傷も治療してしまう。
おい、その光はアーシアのものだったんだぞ。なんで、おまえがそれを使ってるんだよ!
「これで私の堕天使としての地位は盤石に。ああ、偉大なるアザゼルさま、シェムハザさま。お二人の力になれるの。──だからこそ、許せないわ! お二人の力になれる至高の堕天使たるこの私に、あそこまで傷を負わせ、屈辱を味合わせたあの男を! だから、あの男はただでは殺さないわ。私以上の屈辱を味合わせ、苦痛に苦しませ、この私に懺悔させてあげたところで、じっくり痛ぶってから八つ裂きにしてあげるわ!」
レイナーレは明日夏に対する憎悪の感情を包み隠すことなく口にした。
レイナーレの言葉から察するに、明日夏たちは無事のようだ。ここに来ないのは、いまだにあの大勢の神父たちと戦っているからだろう。
「そのためにも、あなたを利用させてもらうわ。彼はあなたのことが大事なようだからね。目の前であなたを痛ぶれば、大層苦しむでしょうね。そのためにも、抵抗できないように、あなたの手足を引き裂いてあげるわ。恨むなら、彼を恨みなさい。彼が余計なことをしなければ、あなたもそんなに苦しむこともなかったでしょうにね。安心して。あの男が苦しむさまを見たら、すぐにそこで寝ているアーシアのもとへ送ってあげるわ。アーシアも、天国で寂しくならないでしょ──」
「──うるせぇよ」
「?」
俺はレイナーレの長ったらしい会話を遮った。
「・・・・・・堕天使とか、悪魔とか、そんなもん、この子には関係なかったんだ!」
「
「何が宿命だ! 静かに暮らすことだってできたはずだ!」
「それは無理」
「何が!?」
「
アーシアの悲しげな表情と言葉が脳裏を過ぎる。
──悪魔も治療できてしまう力を持つような者は異教徒だと。
──私、友達がいないので・・・・・・。
「仕方ないわ。それが人間という生き物だもの。こんな素敵な力なのにねぇ」
「でも俺は、俺と明日夏と千秋はアーシアの友達だ! 友達としてアーシアを守ろうとした!」
「でも、死んじゃったじゃない! アッハハッ! その子、死んでるのよ? 守るとか、守らないじゃないの! あなたたちは守れなかったの! あのときも、そしていまも!」
「・・・・・・わかってるよ・・・・・・だから許せねぇんだ・・・・・・! おまえも・・・・・・そして俺も! 全部許せねぇんだ!」
レイナーレへの、そして無力な自分への怒りが沸き上がるなか、部長の言葉が脳裏を過ぎる。
──想いなさい。
「──返せよ」
──その想いが強ければ強いほど必ずそれに──。
「アーシアを返せよォォォォォッッ!!」
──応えてくれる。
『
俺の叫びに応えるように、