ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍   作:フレイムドラゴン

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Life.2 どうしちまったんだ、イケメン!

 

 

 カキーン。

 

 

 晴天の空に金属音が木霊する。

 

 

「オーライオーライ」

 

 

 イッセーが飛んできた野球のボールをグローブでキャッチした。

 

 

「ナイスキャッチよ、イッセー」

 

 

 ボールをキャッチしたイッセーに部長が笑顔で言う。

 

 旧校舎の裏手にある草の生えていない少しだけ開けた場所で、俺たちオカルト研究部の面々は野球の練習をしていた。

 

 来週、学園で球技大会があり、種目のひとつに部活対抗戦というのがある。なんの球技をやるかは当日発表で不明なので、目ぼしい球技をこうして放課後に練習しているのだ。んで、今日は野球なわけだ。

 

 

「次はノックよ! さあ、皆! グローブをはめたらグラウンドにばらけなさい!」

 

 

 気合の入った部長の声に、俺たちはグローブをはめて散り散りになる。

 

 部長はこの手のイベントが大好きなうえに、負けず嫌いでもある。

 

 本来なら、悪魔であるイッセーたちや異形との戦闘のために鍛えている俺たちなら、よほどのヘマをしなければ負けることはない。実際、当日は加減をして臨むことになっている。

 

 けど、球技のルールや特性を体で覚えておかないとダメだってことで、こうして部長は俺たちに練習を促している。

 

 部長が言うには、「頭でわかっていても、体で覚えていないとダメよ」とのこと。

 

 ま、実戦では何が起こるかわからないので、こうして練習するのはいいことだしな。

 

 

「行くわよ! 明日夏!」

 

 

 カーン!

 

 

「おっと!」

 

 

 部長が打ったボールが勢いよく飛んできて俺の横を通り過ぎようとしたのを横に飛んでグローブでキャッチする。そのまま地面の上で一回転して立ち上がり、部長にボールを返球する。

 

 

「いいわよ、明日夏! 次、アーシア! 行くわよ!」

 

 

 カーン!

 

 

 次に部長が打ったボールがアーシアのほうに飛んでいく。

 

 

「はぅ! あぅあぅあぅ・・・・・・あっ!」

 

 

 ボールはアーシアの股下を通って、後方へ行ってしまった。

 

 アーシアはもともと、運動神経がお世辞にもよいほうではないからな。悪魔になって多少はマシになってもそこは変わらなかった。

 

 

「アーシア! 取れなかったボールはちゃんと取って来るのよ!」

 

「は、はい!」

 

 

 だからといって、部長は甘やかさない。

 

 もともとスパルタ気質ではあるが、部長がこうも気合を入れているのは、先日のライザーとのゲームに負けたことに起因する。

 

 経験や人数の差があったとはいえ、負けは負け。部長は心底悔しかったんだろう。その気持ちが勝ち負けに対して強い姿勢を見せているのだろう。

 

 まあ、そのことは俺たち全員もわかっていることなので、こうして練習に取り組んでいる。

 

 

「次、裕斗! 行くわよ!」

 

 

 部長は木場に向けてフライ気味にボールを飛ばす。

 

 あれぐらいだったら、木場なら余裕だろう。──()()()()()()()()()

 

 

 コン。

 

 

 ボケーっと、うつむいていた木場の頭部にボールが落ちた。

 

 

「木場! シャキッとしろよ!」

 

 

 それを見て大声をあげるイッセー。

 

 それに反応してイッセーのほうを見る木場だったが、その表情はきょとんとしたものだった。どうやら、何があったのか気づいてすらないようだな。

 

 

「・・・・・・あ、すみません。ボーッとしてました」

 

 

 ようやく気づいたのか、下に落ちているボールを拾い、作業的なフォームで部長のほうへ投げる。

 

 

「裕斗、どうしたの? 最近ボケッとしてて、あなたらしくないわよ?」

 

「すみません」

 

 

 部長の問いに、木場はただただ素直に謝るだけだった。

 

 部長の言うとおり、木場はここ最近、ボケッとしていることが多く、球技大会の練習に限らず、オカ研の定例会議でもこのありさまだ。

 

 

「・・・・・・なあ、明日夏。木場がこうなったのって──」

 

「・・・・・・ああ。あの写真を見てからだ」

 

 

 俺のもとに駆け寄って小声で訊いてきたイッセーに言ったとおり、木場がああなったのは、イッセーの家でアルバム鑑賞会をしたときからだ。

 

 あのとき、木場は──。

 

 

『こんな思いもかけないところで目にするなんて・・・・・・これは()()だよ。──いや、なんでもないんだ。ありがとう、二人とも」

 

 

 そう言って、笑顔でアルバムを返してきた木場だったが、それからだった。木場の様子がおかしくなり始めたのは。

 

 ──『聖剣』。写真に写っていた剣を木場はそう呼んだ。

 

 

「なあ、明日夏。聖剣って──」

 

「おまえも物語やアニメ、ゲームなんかで聞いたことあるだろう? 聖なる力を宿した剣とか魔を祓う剣なんて説明でな。実際にそのまんまで実在するんだよ。おまえら悪魔にとっては最も警戒し危険視する存在、教会の切り札としてな」

 

 

 まさか、幼少の頃に身近にあったとはな。

 

 

「そういえば、ライザーとのレーティングゲームのとき──」

 

「ああ、あれか」

 

 

 イッセーが呟いたのは、ライザーとのレーティングゲーム、木場が相対したライザーの『騎士(ナイト)』カーラマインが、聖剣使いと相対したことがあることを知った瞬間、人が変わったように憎悪を表したときのことだ。

 

 

「木場と聖剣、何かあるのか?」

 

「おそらく過去、それもたぶん、部長の眷属になる以前に何かしらの因縁があるんだろう」

 

 

 そういえば以前──。

 

 

『個人的に堕天使や神父は好きじゃないからね。憎いと言ってもいい』

 

 

 そんなことを口にしていたのを思い出した。今回の件と無関係ではないんだろう。

 

 

「まあ、木場の過去も知らない俺たちがああだこうだと予測を立てても仕方がねぇし、かなりデリケートな事情みたいだからおいそれと訊くわけにもいかねぇし、そもそも、聖剣なんてそうそう関わることはないだろう。木場のあの状態も時間が解決してくれるはずだ」

 

 

 いまはそっとしといたほうがいいだろう。下手に追求すればかえって悪化するかもしれないからな。

 

 

「球技大会でもあの調子のときは俺たちでカバーするしかないだろう」

 

「そうだな。それはそれとしていまは球技大会だな」

 

 

 ふと、おそらくオカ研で一番やる気を出しているであろう部長のほうを見ると、マニュアル本を熱心に読み込んでいた。

 

 

「そういえば、最近は恋愛のマニュアル本を読んでたな」

 

 

 何気なしに呟いた言葉を聞いて、イッセーがショックを受けていた。

 

 

「マ、マジか!? 部長が恋愛のマニュアル本! そ、それって、部長に好きなヒトができったっていうのか!?」

 

「・・・・・・まあ、そういうことなんだろうな」

 

 

 イッセーが頭を抱えて悩みだした。

 

 この反応からして、だいぶ入れ込んでるな。

 

 まあ、そうでなきゃ、婚約パーティーに乗り込むなんてしないよな。

 

 

「安心しろ。少なくともおまえの知らないところで部長に恋人ができるなんてことはあり得ねぇよ」

 

「ほ、本当か・・・・・・? 信じるからな。ああ、部長に彼氏なんかできたら俺死んじまう・・・・・・」

 

 

 千秋も大変だな。この状態の奴を自分に振り向かせるなんて。

 

 逆の立場になれば部長もこうなるんだろうけど。

 

 ま、部長には悪いが、俺は身内のほうを応援させていただきますよ。

 

 

「さーて、再開よ!」

 

 

 部長がバットを振り上げて、練習は再開された。

 

 

―○●○―

 

 

「今日こそ契約取らねぇと! 木場どころかアーシアにまで抜かれてるし!」

 

 

 球技大会の翌日、俺は今日もチャリで依頼主のところに向かっていた。

 

 昨日の球技大会は大変だったぜ。クラス対抗戦では野球だったこともあり、俺たちのクラスが優勝したけど、種目がドッチボールだった部活対抗戦ではそれはもう大変だった。俺以外の部員が学園アイドルだっていうことがあって誰にもボールを投げられず、さらに俺がそのアイドルたちと一緒にいることに対する妬みもあって、それはもう全生徒が俺に集中砲火だった。

 

 おまけに大会中もボーッとしてた木場のカバーに入ろうとしたら、そのボールが生徒会との勝負のときみたいにまた股間に当たってえらいダメージを受けてしまった。

 

 

「まったく。木場の奴、大丈夫なのかよ?」

 

 

 明日夏は時間が解決してくれるって言ってたけど、こんな調子で大丈夫なのか?

 

 なんて考えてるうちに依頼主がいるホテルに到着した。

 

 とりあえず、いまは契約を取ることに集中だ!

 

 

 ピンポーン。

 

 

「また、『チャイム鳴らして現れる悪魔なんてあるか!』とか言われるんだろうなぁ・・・・・・」

 

 

 ガチャ。

 

 

 若干憂鬱な気分になりながら待ってると、ドアが開けられた。

 

 

「ちわーっス。悪魔を召喚した方ですよね? ああ、おかしいと思ってますか? 思ってますよね! 本当はお配りしたチラシの魔方陣からドローンって現れるんスけど、ちょっと諸事情で──」

 

「まあ、入ってくれよ」

 

「え?」

 

「キミ、悪魔なんだろう?」

 

 

 なんか、珍しくあっさり納得してくれて中に入れてくれた。

 

 

「うわっ、スッゲェなぁ・・・・・・」

 

 

 中に入れられた俺はソファーに座るが、あまりにもフカフカなソファーに驚いてしまった。とても高そうだった。

 

 部屋を見回すが、どの家具もソファー同様で高そうなものばかりであった。

 

 外国人みたいだけど、何やってるヒトなんだ?

 

 

 ガチャ。

 

 

 依頼主の人がお酒を持って入室してきた。

 

 前髪が金髪の黒髪で顎に髭を生やしたワルそうな風貌なイケメン、いわゆるワル系イケメンな人であった。

 

 外国人だが浴衣を見事に着こなしていた。

 

 

「まあ、やってくれ」

 

「ああ、俺まだ未成年なんで・・・・・・」

 

「そうか。これはしまったなぁ。酒の相手をしてほしかったんだがなぁ・・・・・・」

 

「依頼ってそれなんですか?」

 

「ダメなのか?」

 

「い、いえ、そちらの願いを叶えて、それに見合う対価を頂ければ契約は成立しますんで」

 

 

 にしても、悪魔を召喚してまで叶えてほしい願いなのだろうか?

 

 

「あいにく、酒しかないんだ。氷水でいいかい?」

 

「あ、は、はい」

 

 

 それから数十分後。

 

 

「フッハッハッハッハッハ! 魔力が弱くて召喚された人間のところへ自転車でぇ?」

 

「・・・・・・はぁ、まあ・・・・・・」

 

「こりゃ傑作だ! フハハハハハ!」

 

 

 そんなに笑われると流石にムッとするが、これも契約のためだ、我慢我慢!

 

 そう思い、怒りをグッと抑え、出された氷水を口にする。

 

 

「いやぁ楽しかったよぉ! で、対価は何がいいんだい?」

 

「え? もう!」

 

「悪魔だから魂とか?」

 

「え、まさかぁ。酒の相手くらいじゃあ、契約内容と見合いませんよぉ」

 

「ほぉ、意外に控え目なんだな?」

 

「うちの主は明朗会計がモットーなんで」

 

「じゃ、あれでどうだ?」

 

 

 そう言って、壁にかけてあった絵を指差す。とても高そうな絵だった。

 

 

「複製画じゃないぞ」

 

「はぁ、でも結構高そうな・・・・・・」

 

 

 正直、酒の相手ぐらいの契約内容に見合ってるとは思えなかった。

 

 

「いま他に適当なものがなくてな。ダメなら魂しか──」

 

「え、じゃあ、絵で結構です!?」

 

 

 それから、なんだかんだで契約は成立し、俺は代価として大きな絵をもらうことになった。

 

 男性は俺のことを気に入ったらしく、今後も呼んでくれるそうだ。

 

 

「変なヒトだったな。ま、契約は成立したし、これで野望に一歩近づいたぜ! ハーレム王に俺はなる!」

 

 

 契約を終わらせ、梱包した絵を背負った俺は帰路についていた。

 

 

「ん?」

 

 

 すると、スマホの着信音が鳴った。部長のお呼びだしであった。

 

 俺は部長に呼び出された場所にチャリを向かわせた。

 

 

―○●○―

 

 

 部長に呼び出された場所はとある廃工場だった。

 

 

「イッセー、こっちよ」

 

「はい」

 

 

 門のところに部長たちがいた。

 

 絵を下ろして、部長たちのほうに駆け寄る。

 

 

「ゴメンなさい、呼び出してしまって」

 

「いえ。それで、あの工場の中に・・・・・・」

 

「・・・・・・間違いなく、はぐれ悪魔の臭いです」

 

 

 小猫ちゃんが鼻を動かしながら言った。

 

 そう、呼び出されたのは、はぐれ悪魔の討伐のためだった。

 

 

「今晩中に討伐するように命令がきてしまいまして」

 

「それだけ危険な存在ってことね」

 

 

 マジかよ。あのバイザーって奴よりも危険なのかよ?

 

 

「中で戦うのは不利だわ。アーシアは後方待機」

 

「はい」

 

「朱乃と私は外で待ち構えるから、小猫と祐斗とイッセーは外に誘きだしてちょうだい」

 

「はい、部長」

 

「・・・・・・はい」

 

「了解! 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』!」

 

 

 俺は了承するとすぐに『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を出す。

 

 

「・・・・・・祐斗?」

 

「あっ、わかりました」

 

 

 反応がなかった木場を訝しげに思った部長が木場を呼ぶと、木場が慌てて返事を返した。・・・・・・大丈夫なのかよ、そんな調子で。

 

 

「じゃあ、行くか! 木場、小猫ちゃん」

 

「・・・・・・はい」

 

「・・・・・・ああ」

 

 

 俺たちは廃工場の入り口まで来た。このメンツだと、アーシアを助けに教会に攻めこんだときのことを思い出すな。

 

 

「どんな奴かな? また、バケモノみたいな奴だったら──」

 

「えい」

 

 

 ドガァッ!

 

 

「ああ、やっぱいきなりですか・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・あのときと同様、小猫ちゃんが問答無用と扉をぶち破ってしまった。

 

 

「・・・・・・行きますよ」

 

「ああ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 俺たちは廃工場内に入り、辺りを見回すが何も見当たらなかった。

 

 

「何も見当たらないな──あ?」

 

 

 小猫ちゃんが急に立ち止まった。

 

 

「小猫ちゃん?」

 

「・・・・・・来ました」

 

 

 小猫ちゃんの視線の先を見ると、パイプの陰にこちらを怯えた表情で見てくる女の子がいた。しかも全裸だと!

 

 

「・・・・・・・・・・・・あぅ──ギィシャァァァァァッ!!」

 

 

 可憐な少女の姿からいやな音を立てて頭から角が生やし、蜘蛛のような下半身をした化け物へと変異し、天井を這いだした!

 

 

「うわぁっ!? やっぱバケモノじゃん!」

 

 

Boost(ブースト)!!』

 

 

 俺は驚きながらも倍加をスタートさせる。

 

 

「祐斗先輩、お願いします!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 小猫ちゃんが木場に頼むが、木場はまたボーッとしていた!

 

 

「祐斗先輩!」

 

「あっ、ゴメン──」

 

 

 小猫ちゃんが語気を強めて呼ぶとようやく木場が反応した。

 

 

 ビュッ。

 

 

「うッ!?」

 

「あっ!?」

 

 

 だがそこへ、はぐれ悪魔が下半身から液体みたいなのを飛ばし、それが小猫ちゃんに当たってしまった!

 

 

「ううぅ・・・・・・」

 

 

 液体が当たった場所がジューと溶けて、その痛みで小猫ちゃんが膝をついてしまった!

 

 そんな小猫ちゃんにはぐれ悪魔が襲いかかろうとする!

 

 

「野郎!」

 

 

Boost(ブースト)!!』

 

 

 俺はすかさず小猫ちゃんの前に出る!

 

 

「ギィヤァァァァァッ!!」

 

 

Explosion(エクスプロージョン)!!』

 

 

「ドラゴンショット!」

 

 

 向かってくるはぐれ悪魔に向けてドラゴンショットを放つがあっさりと弾かれてしまった!

 

 

「チッ! やっぱパワーアップが足りねぇか! 何ボォーッとしてんだ、イケメン!」

 

「あっ!」

 

 

 俺の怒声でようやく木場が戦闘に集中しだし、はぐれ悪魔に向かって斬りかかる。

 

 

「はァッ!!」

 

 

 ズバッ!

 

 

「ギィヤァァァァァッ!?」

 

 

 よっしゃ、腕を斬り落とし──って、おい!?

 

 木場がパイプに足を取られて膝をつきやがった!

 

 そこへすかさずはぐれ悪魔が木場に襲いかかる!

 

 

「木場ぁぁぁッ!?」

 

「………シャァァァァ……」

 

「・・・・・・ぐっ・・・・・・!」

 

 

 はぐれ悪魔にのしかかられ、身動きがとれなくなった木場。

 

 そんな木場にはぐれ悪魔が噛みつこうとする!

 

 

 ガシャァァァン!

 

 

「「「──ッ!?」」」

 

 

 その瞬間、天窓を突き破って、人影がふたつ舞い降りてきた!

 

 

「明日夏! 燕ちゃん!」

 

 

 人影の正体は明日夏と燕ちゃんで、明日夏の両手にはナイフ、燕ちゃんの両手には忍者が持つクナイを持っていた。

 

 

「「ふッ!」」

 

 

 ドスッ!

 

 

 二人はそのまま落下の勢いを利用してナイフとクナイをはぐれ悪魔の背中に突き刺した!

 

 

「ギィヤァァァァァッ!?」

 

 

 はぐれ悪魔は突き刺された痛みから、木場に噛みつこうとした顔を引いて悲鳴をあげる。

 

 

「よっと」

 

 

 そこへいつのまにか現れた鶫さんがはぐれ悪魔のもう片方の腕を掴み、それを見た明日夏と燕ちゃんははぐれ悪魔の背中から飛び降りる。

 

 

「そ~れ~!」

 

 

 そのまま鶫さんははぐれ悪魔を背負い投げてしまう!

 

 さらに投げ飛ばされたはぐれ悪魔に何かが飛来し、先端が弾けたと思ったら、そこから無数の何かが飛び散って、はぐれ悪魔の体中に突き刺さった!

 

 飛来物が飛んできたほうを見ると、そこには弓を構えた千秋がいた。さっきのは千秋の矢か。

 

 

「ギシャアアアアアアッ!?」

 

 

 苦痛に叫ぶはぐれ悪魔の足を小猫ちゃんが掴む!

 

 

「……吹っ飛べ!」

 

 

 そのまま自慢の怪力ではぐれ悪魔を上に投げ飛ばし、はぐれ悪魔は天窓を突き破って廃工場の外へ出た。

 

 

 バリィィィィッ。

 

 

 そこを待ち構えてた朱乃さんの雷が襲う!

 

 俺たちはすぐさま廃工場の外へ出ると、部長がもはや虫の息であったはぐれ悪魔に近づいていた。

 

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすために暴れまわる不貞の輩。その罪、万死に値するわ! グレモリー公爵の名において、あなたを吹き飛ばしてあげる!」

 

 

 虫の息であったはぐれ悪魔を部長の魔力が包み込み、跡形もなく消し去ってしまった。

 

 

「やった!」

 

「心を完全に失っていました。もはや悪魔とは呼べませんわね」

 

 

 俺の隣に降り立った朱乃さんがはぐれ悪魔のことをそう言う。

 

 

「ああはなりたくねぇな・・・・・・」

 

「緊急の討伐命令が出るはずですわ」

 

 

 ああなると想像しただけでゾッとするぜ・・・・・・。

 

 

「小猫ちゃん、傷を」

 

「・・・・・・すみません」

 

 

 アーシアが小猫ちゃんの治療のために駆け寄ってきた。

 

 

「ところで明日夏」

 

「なんだ?」

 

「さっきは助かったけど、なんで皆ここにいるんだ?」

 

「ああ、それは──」

 

 

 パンッ。

 

 

「──ッ!?」

 

「・・・・・・ま、あれが理由だな」

 

 

 突然の乾いた音に驚き、そちらへ顔を向けると、木場が部長に頬をひっぱたかれていた。

 

 

「少しは目が覚めたかしら? 明日夏たちが駆けつけたから事なきを得たものの、ひとつ間違えば、誰かが危なかったのよ」

 

「・・・・・・すみませんでした」

 

 

 明日夏が言うには、木場のいままでの状態を見て、戦闘中に何かやらかすんじゃないかと危惧して駆けつけたらしい。

 

 実際そのとおりで、下手すれば木場自身や小猫ちゃんが危なかった。

 

 

「球技大会のことといい、いままでのこといい、本当にいったいどうしたの?」

 

「・・・・・・調子が悪かっただけです。今日はこれで失礼します」

 

 

 そう言って木場はこの場から立ち去ってしまった。

 

 俺は木場を追いかける。

 

 

「木場!」

 

 

 俺は追いつくなり、肩を掴んで歩みを止めさせる。

 

 

「どうしたんだよ? おまえ、マジで変だぞ!? 部長にあんな態度なんて!」

 

「・・・・・・キミには関係ない」

 

 

 俺が問うけど、木場は作り笑顔で冷たく返してくるだけだった。

 

 

「──ッ! 心配してんだろうが!」

 

「・・・・・・心配? 誰が誰をだい?」

 

「はぁ!」

 

「・・・・・・悪魔は本来、利己的なものだよ?」

 

「・・・・・・おまえ、何言ってんだよ?」

 

「・・・・・・ま、球技大会も、今回も僕が悪かったと思っているよ。・・・・・・それじゃ」

 

 

 そう言って、木場はまた立ち去ろうとする。

 

 

「待てよ!」

 

 

 俺はそれを呼び止める。

 

 

「もし、悩みとかあるなら話してくれ! 俺たち、仲間だろ!」

 

「仲間か。イッセーくん、キミは熱いね」

 

「なっ!?」

 

「僕はね、基本的なことを思い出したんだよ」

 

「・・・・・・基本的なこと?」

 

「生きる意味・・・・・・つまり、僕がなんのために戦っているかっていうことさ」

 

「・・・・・・そんなの、部長のためだろ?」

 

「・・・・・・違うよ。僕は復讐のために生きている」

 

「・・・・・・復讐?」

 

「・・・・・・聖剣『エクスカリバー』──それを破壊することが僕が生きる意味だ」

 

 

 そう言って立ち去る木場を俺は追いかけることができなかった。

 

 そのとき、俺は初めてこいつの本当の顔を見た気がした。

 

 

―○●○―

 

 

「聖剣は悪魔にとって最悪の武器よ。悪魔は触れるだけで身を焦がし、斬られれば即消滅することだってあるわ。そう、聖剣は悪魔を滅ぼすことができるの」

 

「明日夏から聞いてましたけど、改めて聞くと恐ろしい武器ですね」

 

 

 あのあと、俺、アーシア、千秋、鶫さん、燕ちゃんは俺の部屋で部長から聖剣について聞いていた。

 

 

「でもたしか、扱える者が極端に限られているって・・・・・・」

 

「ええ、そうよ、千秋。それが聖剣の最大の難点なの。だから教会は聖剣の一種であるエクスカリバーを扱える者を人工的に育てようと考えたの。・・・・・・それが『聖剣計画』」

 

 

 『聖剣計画』、か。

 

 

「私が教会にいた頃はそんなお話なんて聞いたことも・・・・・・」

 

「でしょうね。もう随分まえの話よ。計画は完全に失敗したと聞いてるわ」

 

 

 ・・・・・・なんだ、失敗したのか。それを聞いて安心した。

 

 悪魔として、そんな恐ろしい計画が成功してたかと思うとゾッとするぜ。

 

 

「祐斗はその生き残りなのよ」

 

「え!?」

 

「木場さんが!?」

 

 

 部長の言葉に俺とアーシアは声をあげて驚いてしまう。

 

 まさか、木場がアーシアと同じ教会の人間だったなんて!

 

 

「あっ!」

 

「何?」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 

 俺はあるものを取ってきて、部長に見せる。そう、木場がおかしくなるきっかけになったであろうあの写真だ。

 

 

「木場がこの写真を見て聖剣だって」

 

「「「「えぇッ!?」」」」

 

 

 俺の言葉を聞いて驚くアーシアたち。たぶん、幼少の頃の俺と明日夏の身近に聖剣があったことが驚きなのだろう。

 

 

「エクスカリバーほど強力なものではないけれど・・・・・・間違いないわ。これは聖剣よ。イッセー。あなた、もしくは明日夏の知り合いに教会と関わりを持つヒトがいるの?」

 

「いえ、俺も明日夏も身内にはいません。ただ、俺たちと一緒に写ってるこの子がクリスチャンで、この子の家族に誘われて何度か教会に行ったことがあるんですよ」

 

「そういうこと。ここの前任者が消滅したわけがわかったわ。でもたしか──」

 

「部長?」

 

 

 部長は何か思い当たることがあるのか、独り言を呟きながら考え込んでしまった。

 

 

「ああ、ごめんなさい。祐斗のことはとりあえず少し様子を見ましょう。さて、もうこんな時間、そろそろ寝ましょう」

 

 

 そう言うと、部長はおもむろに服を脱ぎ出した!

 

 

「ぶ、部長!? なぜにここで服を!?」

 

「なぜって、私が裸じゃないと寝られないの知ってるでしょう?」

 

「いやいやいやいや! じゃなくて、なぜに俺の部屋で!?」

 

 

 騒ぎつつも、部長のボディーを目で堪能する俺。

 

 

「あなたと一緒に寝るからに決まってるでしょう?」

 

「はぁっ!?」

 

 

 当然のことのように言う部長。

 

 

「なら私も寝ます! イッセーさんと一緒に寝ます!」

 

「私もイッセーくんと一緒に寝る~!」

 

 

 アーシアと鶇さんまで服を脱ぎ出し始めた!

 

 

「姉さん、何やってるのよ!」

 

「せっかくだから~、燕ちゃんも一緒に寝よ~」

 

「ちょっ!? 服に手をかけないで!? 脱がすなぁぁッ!?」

 

 

 鶫さんを止めようとしていた燕ちゃんだったけど、逆に鶇さんに服を脱がされそうになっていた。

 

 

「わ、私もイッセー兄と一緒に寝る!」

 

 

 とうとう千秋まで脱ぎ出したぁぁッ!

 

 ちょ、ちょっと、どういう状況ですか!? なんで女の子同士の戦いが俺の部屋で勃発してるの!?

 

 皆裸で非常に眼副なのに、息苦しい! ここは酸素が薄いよ!

 

 俺は気まずい空気のなか、懸命に酸素を求めるのだった。

 

 

―○●○―

 

 

「・・・・・・何やってるんだか」

 

 

 俺は嘆息しながら電話を切る。

 

 千秋が部長の話をスマホを通じて俺に聞かせてくれていたのだが、深刻そうな雰囲気が部長の一緒に寝る発言で見事に混沌とした雰囲気になってしまった。

 

 

「・・・・・・やれやれ」

 

 

 俺はスマホをしまい、木場のほうに視線を戻す。

 

 木場の様子が気になり、遠くからこのようにして俺は木場の様子をうかがっていた。

 

 木場は一度、以前レイナーレと戦った廃教会に訪れると、あとはもう宛もなく歩き回っているだけだった。

 

 

「・・・・・・『聖剣計画』、か」

 

 

 ・・・・・・俺は木場の様子から頭の中で最悪のシナリオが思い浮かんだ。

 

 

「仮に的中したとしたら・・・・・・聖職者のやることじゃねぇな・・・・・・」

 

 

 いや、フリードみたいなイカレ神父がいたんだ。頭に浮かんだことをする奴がいても不思議じゃねぇか・・・・・・。

 

 

「ん? 降ってきたか・・・・・・」

 

 

 雲行きが怪しかったが、案の定雨が降ってきた。予報だと、本来は昨日降るはずだったんだが、結局降らず、代わりに今日降ってきたみたいだ。

 

 木場は雨が降っても構わず歩き続けていた。いや、一旦頭を冷やそうとわざと雨に当たってるのか?

 

 そういう思考ができるのなら、バカなマネはしないだろう。

 

 とりあえず、ズブ濡れになるのはあれなので、いったん戻って、傘なり雨合羽なり持ってくるか。

 

 そう思い、踵を返して急いで家に向かう。

 

 

「ん?」

 

 

 帰路の途中、妙な臭いを感じて足を止める。

 

 なんだ、この臭い? 鉄みたいな──ッ! まさか、血か!?

 

 俺は慌てて周りを見渡す! すると、路地裏から雨水で流されたと思しき赤い液体が流れ出てきていた!

 

 

「あそこかッ!」

 

 

 俺はすぐさま路地裏に駆け込む! そこで俺の目に入ったのは──。

 

 

「──っ!? な、なんだ、これは・・・・・・!?」

 

 そこは圧倒的な赤。真っ赤な世界が広がっていた・・・・・・。

 

 おびただしい量の血が路地裏に散乱しており、何より──。

 

 

「うっぷ!?」

 

 

 何よりも目に入ったものを見た瞬間に強烈な吐き気が襲ってきて、思わず口を手で押さえる。

 

 それは人──いや、()()()()ものだった。

 

 四肢と首を胴体から切断されており、切断された四肢をさらに間接部分で切断されていた。それだけでは留まらず、さらに切断したものを均等に切り分けられていた。顔にいたっても、鼻、両耳、唇を切り落とされ、胴体も腹を裂かれ、内臓や腸も均等に切り分けられていた。

 

 バラバラにして惨殺された死体──それがそこにあった。

 

 ・・・・・・いや、順序が逆だな。これはどう見ても、殺してからバラバラにしたんだ・・・・・・。普通の神経じゃ絶対できない仕打ちだった・・・・・・。

 

 

「ぐっ・・・・・・」

 

 

 吐き気をなんとか抑え込み、改めて死体を見る。見た感じ、たぶん男性だ。

 

 ふと、血溜まりに何か光るものがあるのを見つけた。

 

 俺はそれを手に取る。

 

 

「・・・・・・十字架?」

 

 

 間違いなく、それは十字架。それも、アーシアが持っていたものと同じものだった。

 

 つまり、この死体の正体は神父ということになる。

 

 

「・・・・・・なんで神父が?」

 

 

 レイナーレのところにいたはぐれ神父の生き残り? それとも真っ当なな神父?

 

 前者はまだわかるが、後者だとしたら、なぜこの町に神父がいるんだということになる。

 

 神父の正体をあれこれと考えているときだった──。

 

 

「──動くな」

 

「──ッ!?」

 

 

 突然背後からそう告げられた。

 

 そして、俺の首筋に刃物らしきものが突きつけられた。

 

 

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