ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍   作:フレイムドラゴン

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Life.14 アルミヤ・A・エトリア

 

 

「ふぅん!」

 

 セルドレイは力任せに戦斧を振るい、アルミヤはその力に押し負けて後方に押し出された。

 

 

「──以前よりも力が増しているか」

 

「あたりまえです。悪魔を滅ぼすために、日夜研鑽を積むの当然のことです!」

 

 

 セルドレイはその大柄な体型に似合わぬ素早さで縦横無尽に駆け抜け、アルミヤに斬りかかる。

 

 セルドレイの武器はその大柄な体躯から繰り出されるパワーとその体型からは想像もできない速度で動けるスピードだった。そのふたつを駆使することで、これまで数多の悪魔をセルドレイは屠ってきた。その実力は本物だった。

 

 だが、そんなセルドレイを瀕死に追い込んだアルミヤもまた、実力者であった。

 

 アルミヤはセルドレイに負けないスピードで駆け回り、セルドレイの一撃一撃を真っ向から打ち合わずに確実に受け流し、受け流し切れない攻撃も確実に回避していた。

 

 

「あなたも相も変わらず見事な身のこなしと剣技。敵でありながらも惚れ惚れいたしますよ。さすがは『錬鉄の剣聖』と呼ばれるだけありますね」

 

 

 セルドレイは敵でありながらも、アルミヤのその技術を素直に評価した。

 

 

「ですが、以前の私ならいざ知らず、いまの私はあなたよりも上です!」

 

 

 そう言うと、セルドレイはさらにスピードを上げてアルミヤに斬りかかる。

 

 

「せぇい!」

 

 

 セルドレイが渾身の力を込めた横薙ぎを振るう。

 

 それをアルミヤはバク宙で躱した。

 

 

「──っ!」

 

 

 だが、躱し切れなかったのか、腕に小さな斬り傷ができていた。

 

 それを見て、セルドレイは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「さあ、行きますよ!」

 

 

 そう言うと、セルドレイは怒涛の勢いで戦斧を振るう。

 

 アルミヤもセルドレイの猛攻を聖剣で受け流し、受け流し切れない攻撃はその身のこなしで躱していく。

 

 だが、躱した攻撃はいずれも躱し切れておらず、アルミヤの体の各所に傷が生まれていく。

 

 アルミヤは確実に戦斧の間合いとセルドレイのスピードを見切って攻撃を回避していた。なのに、それにも関わらず、アルミヤの体には傷がどんどん生まれていく。

 

 第三者の視点で見れば、このまま行けばアルミヤがジリ貧になるのは明白だった。

 

 

「──なるほど」

 

 

 だが、アルミヤは至って冷静で、何かを察していた。

 

 すると、アルミヤは構えを解き、無防備な姿をさらした。

 

 

「む?」

 

 

 アルミヤの突然の行動にセルドレイは怪訝に思い、動きを止めてアルミヤから距離を取った。

 

 一瞬、実力差を認識して諦めたのか、という考えが頭を過ったセルドレイだったがすぐにそれを否定した。目の前の男はそんな生易しい男ではないと。

 

 セルドレイは自身を断罪しに現れたアルミヤとの戦いを思い返す。自分の攻撃が一切通用せず、逆に向こうの攻撃でどんどん追い詰められていく。そして、片目を斬られた隙を衝かれて最後には瀕死に至る一撃をくらってしまった。生きていたのは正直、奇跡だったと思えた。

 

 セルドレイはその経験から一寸の油断も抱かず、警戒心を引き上げる。

 

 

「何をするつもりかは知りませんが、無駄な足掻きです!」

 

 

 セルドレイはアルミヤに一瞬で近づき、戦斧を振り下ろした。

 

 

 ズバッ!

 

 

 セルドレイの一撃を避けようとしたアルミヤだったが、肩を大きく斬られてしまった。

 

 だが、アルミヤはそのことに動揺は見せず、むしろ、何かに合点がいったような様子を見せていた。

 

 

「やはり、そういうことか」

 

 

 アルミヤは肩の傷を見て、何かを確信したあと、手に持つ聖剣を床に突き刺し、手元に一本の短剣を生みだした。

 

 アルミヤは短剣を逆手持ちで掴むと、おもむろに肩の傷に突き刺した。

 

 すると、短剣が光輝き、アルミヤの傷を治癒していった。

 

 

「・・・・・・治癒の聖剣ですか。本来は創りだすのがとても困難だというのに、さすがですね」

 

 

 さまざまな属性の聖剣を創りだす神器(セイクリッド・ギア)である『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』だが、創りだすのが難しい属性があった。そのひとつが治癒の力だった。

 

 それを即座に創りだしたアルミヤに、セルドレイは素直に称賛を送るが、アルミヤは肩をすくめる。

 

 

「・・・・・・あいにく、そこまで能力は高くないのだがね」

 

 

 アルミヤの肩の傷が完全に塞ぎきるまえに、治癒の聖剣が輝きを失って儚く砕け散った。

 

 アルミヤの言うとおり、アルミヤが即座に創りだせる治癒の聖剣ではこの程度の治癒力が限界だった。

 

 

「まあ、これで十分だがね」

 

 

 アルミヤは塞ぎきっていない傷の痛みを感じていないかのように肩を回すと、床に突き刺した聖剣を手に取った。

 

 

「ですが、その様子では、あなたのジリ貧になるのは明白ではありませんかな?」

 

「心配には及ばんよ。──もうくらうことはないからな」

 

 

 セルドレイの挑発にアルミヤが不敵に返すと、セルドレイは視線を鋭くした。

 

 

「その法衣の下に隠したものを出したらどうかね?」

 

「・・・・・・やはり、気づいていましたか。先程のはわざとくらいましたね?」

 

 

 セルドレイの質問にアルミヤは不敵な笑みで返した。

 

 それを見て、セルドレイは観念したかのように嘆息すると、法衣の下に手を入れ、何かを取り出した。

 

 それは、細長い刀身を持ち、柄頭から刀身の半ばまでを巻きつくような螺旋状の形状の装飾が施された聖剣だった。

 

 

「これこそがあなた方が求める聖剣、『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』ですよ」

 

 

 セルドレイが手に持つものこそが七本あるエクスカリバーのひと振り、コカビエルに奪われた三本のうちの一本だった。

 

 その能力は相手を幻術で惑わせ、眠っているあいだにその夢を支配したりすることができるという魔法的側面の強い能力だった。

 

 そして、アルミヤがセルドレイの攻撃を躱しきれなかったからくりも、その幻術の能力によるものだった。

 

 セルドレイは以前戦った経験をもとに、アルミヤが自分の攻撃の躱そうとするわずかな素振りを見切り、そのタイミングで本来の戦斧を幻術で隠し、幻覚で虚像の戦斧を作りだした。それも、本来の戦斧と虚像の戦斧の位置がほぼ同じになるように。それにより、アルミヤが見切った間合いと実際の間合いとでズレが生じたため、アルミヤはセルドレイの攻撃を躱しきれなかったのだった。

 

 エクスカリバーの奪還任務のために訪れていたアルミヤはすぐにその可能性に至り、先程の攻撃をわざとくらうことで、傷のでき具合から間合いにズレが生じていることを突き止めた。

 

 

「先程言いましたね? もうくらわないと」

 

「ああ。からくりがわかれば、ただの子供騙しだからな」

 

「言いますね。では、そのお手並み、拝見させてもらいましょうか」

 

 

 セルドレイはそう言うと、エクスカリバーを法衣の下に戻した。

 

 

「せっかく手にいれた聖剣を使わないのかね?」

 

「ご冗談を。剣技において圧倒的な差があるあなたに剣で挑む愚行などしませんよ。幻術の力だけで十分です。では、いきますよ!」

 

 

 セルドレイは戦斧を構える。

 

 

「バレてしまったのなら、もう隠す必要はありませんね。ここからは全力で行かせてもらいます!」

 

 

 セルドレイがそう言った瞬間、その身が八人に分身した。幻術による分身だった。

 

 分身したセルドレイたちは一斉に駆けだし、縦横無尽に駆け抜け、四方八方からアルミヤに斬りかかる。

 

 

「せぇい!」

 

 

 セルドレイのひとりが戦斧を振るうが、戦斧はアルミヤをそのまますり抜けていった。幻術でできた分身だったからだ。

 

 その後もひとり、またひとりとセルドレイたちが戦斧を振るうが、アルミヤは微動だにせず、戦斧はそのまますり抜けていった。

 

 そして、六人目のセルドレイが戦斧を振るった瞬間、初めてアルミヤが動いた。

 

 さすが、勘も鋭いですね、とセルドレイは内心でアルミヤを評価する。アルミヤほどの戦士なら、その研ぎ澄まされた感覚と勘で幻術でできた分身を見破ることなど造作もないことだと。現にいま斬りかかっているセルドレイは本物だった。

 

 だが、セルドレイはアルミヤを評価すると同時に内心でほくそ笑んだ。いまアルミヤに見えている戦斧は幻術でできた幻であり、本来の戦斧は幻術で姿を隠して振るわれていた。それも、アルミヤの回避先を読んで振るわれており、確実にアルミヤを捉えていた。

 

 取った! とセルドレイが確信した瞬間──。

 

 

「──それも子供騙しだな」

 

 

 アルミヤは即座に姿勢を低くすることで幻術で隠された戦斧を躱した。

 

 

「ぐおっ!?」

 

 

 すかさず、アルミヤはそのままセルドレイの足を払い、セルドレイの体勢を崩した。

 

 

「ふッ!」

 

「なんの!」

 

 

 アルミヤは体勢を崩されたセルドレイを狙って聖剣を振るうが、セルドレイは戦斧を床に突き刺して支柱にすることでアルミヤの斬擊を躱し、即座に距離を取った。

 

 

「ぬぅ、さすがですね・・・・・・。なら、これならどうですか!」

 

 

 セルドレイが叫び、さらに分身を生みだした。

 

 

「いかがですか? 幻覚でも、視覚を通じて脳に入ってくる情報は現実です。たとえ幻覚だと認識していても、その情報に対して反射的に行動することを止めることは困難です」

 

 

 そう言うと、セルドレイたちは再び縦横無尽に駆けだして四方八方からアルミヤに斬りかかる。

 

 

「何っ!?」

 

 

 アルミヤは目に見えるセルドレイたちを無視して、あらぬ方向に駆けだし、セルドレイはそんなアルミヤの行動に驚愕した。

 

 そのままアルミヤは虚空に向けて聖剣を振るう。

 

 

 ガキィィン!

 

 

 金属同士が擦れ合う音が廃工場内に響いた。

 

 アルミヤが斬りつけた空間が揺らめきだし、そこにアルミヤの聖剣を戦斧で防いでいたセルドレイが現れた。

 

 セルドレイが分身を出現させると同時に分身の陰で幻術で姿を隠し、アルミヤが分身たちの中から本体を見つけようとした隙を衝こうとしていたのをアルミヤは見通していた。

 

 

「なぜわかった!?」

 

「キミの殺気はわかりやすすぎる。それでは、自分の場所をわざわざ教えているようなものだ」

 

 

 セルドレイは敵意と殺気を包み隠すことなく放っていた。そのため、本体と分身たちとで、敵意と殺気の有無が顕著になっていた。

 

 研ぎ澄ました感覚で敵意と殺気を感じとることができるアルミヤに対して、それは致命的だった。

 

 

「くっ、ならば、こうだ!」

 

 

 アルミヤから距離を取り、セルドレイは法衣の下から夢幻のエクスカリバーを取り出して床に突き刺した。

 

 すると、周囲の風景が歪みだし、床が盛り上がったり、陥没したりし、あげくには上下左右が反転しだした。

 

 

「どうですか! このような光景を目にしては、まともな平衡感覚を維持できまい! これであなたもおし──」

 

 

 セルドレイの視界に幻覚に惑わされずにまっすぐ自身に接近したアルミヤの姿が映った。

 

 

「はぁッ!」

 

 

 セルドレイが反応するまもなく、アルミヤの双剣がセルドレイの胸をX字型に切り裂いた。

 

 

「む?」

 

 

 アルミヤの双剣がセルドレイを切り裂いた瞬間、アルミヤは手応えに違和感を感じ、即座にセルドレイから距離を取った。

 

 

「・・・・・・まさかこれほどとは」

 

 

 アルミヤに斬られても平然としていたセルドレイはおもむろに法衣を掴むと、破りながら脱ぎ捨てた。

 

 あらわになった法衣の下には、金属製の装甲があった。

 

 全身を黒いスーツで覆われ、その上から胴体、腕、足が金属製の装甲で覆われたSFものに出てくるパワードスーツのようなものをセルドレイは着込んでいた。

 

 

「いかがですか? カリス・パトゥーリアから提供してもらった強化装甲服です。その防御力は見てのとおりですよ」

 

 

 アルミヤは手に持つ聖剣に目をやる。よく見ると、セルドレイを斬りつけた箇所が欠けていた。

 

 アルミヤは手に持つ聖剣を床に突き刺すと、新しい聖剣を手元に創りだす。

 

 

「まったく動じませんか。ですが、この強化装甲服、ただ頑丈なだけではありませんよ!」

 

 

 そう言うと、セルドレイは姿勢を低くし、胸の前で腕を交差させて全身に力を込める。

 

 

「──ぬぅぅぅぅぅぅっ・・・・・・」

 

 

 唸り声をあげながらセルドレイの腕、足と順番に筋肉が膨張していく。

 

 

「──はぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

 

 全身の筋肉が膨張し終え、セルドレイは息を吐くと、アルミヤを見据える。

 

 

「行きますよ」

 

 

 次の瞬間、セルドレイはアルミヤの眼前まで接近を果たしていた。

 

 

「──ッ!」

 

「ぬぅん!」

 

 

 セルドレイが戦斧を振り下ろし、アルミヤは咄嗟に二本の聖剣で受け止める。

 

 だが、アルミヤの聖剣を容易に砕かれながら後方に吹き飛ばされた。

 

 

「チッ」

 

 

 どうにか空中で体勢を立て直して着地したアルミヤにセルドレイが言う。

 

 

「いかがですか? この強化装甲服の力は」

 

 

 セルドレイが装着している強化装甲服には人工筋肉が内蔵されており、身体能力を高める機能が備わっていた。これは、もとの身体能力が高ければ高いほど効果を発揮し、もともと常人離れをしていたセルドレイが使用することで、人間離れした動きを可能にしていた。

 

 セルドレイは戦斧の武装十字器(クロスギア)をもう一本取り出すと、本来は両手で扱っていたそれを、片手で持ち、戦斧による二刀流の出で立ちとなった。

 

 

「行きますよ!」

 

 

 セルドレイは幻覚による分身も生みだし、強化装甲服によって高められた身体能力を駆使して分身たちと共に縦横無尽に廃工場内を駆け抜ける。

 

 同時に再び周囲の風景も幻術によって歪みだした。

 

 強化された身体能力によるパワーとスピード、幻覚による分身と風景の歪み、これらを一瞬で対処するのは不可能。さらに、セルドレイは先程アルミヤに言われたことを反省し、今度は敵意や殺気をできる限り抑える。今度こそ取った! とセルドレイが確信した瞬間──。

 

 

「なっ!?」

 

 

 セルドレイの周囲に無数の聖剣が空間に揺らめきを残しながら出現した。

 

 それらの聖剣はアルミヤが創りだした剣自体を透明にする能力を持った聖剣だった。

 

 

「い、いつのまに!?」

 

 

 セルドレイは驚愕を隠せなかった。

 

 アルミヤから一切目を離していなかった。新しい聖剣を作って、自分の周囲の床に突き刺す暇などなかったはずだった。

 

 

「──幻術を使えるのはキミだけではないということだよ」

 

「まさか、いまあなたが持っている聖剣は!?」

 

 

 アルミヤがいま持っている聖剣はセルドレイの持つエクスカリバーと同じ幻術の能力を持った聖剣だった。

 

 エクスカリバー程の力はなくとも、透明化の聖剣を創り、透明化させて投擲する一瞬の動作を行うあいだだけ幻術で隠すことはできるぐらいの力はあった。

 

 

「くっ!」

 

 

 セルドレイは慌ててその場から離れようとする。

 

 一見すれば、ただ床に無数の聖剣が突き刺さっているだけの状況でしかなかった。

 

 だが、セルドレイにとってはそうではなかった。

 

 セルドレイの脳裏にはかつてアルミヤと戦ったときのある光景が鮮明に浮かび上がっていた。アルミヤが放った聖剣使いとしては邪道の剣技を。

 

 

「──壊れた聖剣(ブロークン・ブレード)

 

 

 アルミヤがボソッとその名を口にした瞬間、アルミヤの聖剣がすべて激しく光り輝き──。

 

 

 カッ!

 

 

 一際激しく輝いた瞬間、アルミヤの聖剣が聖なる波動を発して大爆発した。

 

 


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