ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍 作:フレイムドラゴン
「これをやったのはあなたかしら?」
突然現れた紅髪の少女──リアス・グレモリー先輩が訊いてくる。
リアス・グレモリー。駒王学園の高等部三年生。オカルト研究部の部長。──というのが表向きの肩書き。
その正体はここ駒王町で活動する上級悪魔だ。
悪魔には階級があり、トップである『魔王』から始まり、『最上級』、『上級』、『中級』、『下級』とある。その中で人間と契約を行い、対価を得る仕事を請け負うのが上級悪魔であり、その活動をするための領地をその上級悪魔には与えられている。俺が住んでいるこの町、『駒王町』がその領地である。
そして、彼女が率いている少年少女たちがグレモリー先輩の眷属悪魔である。眷属というのはざっくり言えば部下みたいなものである。
「ええ、そうですよ」
とりあえず、訊かれたことに答える。
「そう。あなた、うちの生徒よね。名前を訊いてもいいかしら?」
名前を訊かれ、俺は少し考える。
正直言うと、悪魔と関わりを持つことにはあまり気乗りしなかった。
上級悪魔が率いる眷属悪魔だが、実は純粋な悪魔ではない。『転生悪魔』と呼ばれる、多種族から悪魔に転生した者たちなのだ。むろん、その多種族の中には人間も含まれている。
詳しいことは省くが、悪魔は人口が著しく激減している。しかも、悪魔は妊娠率や出生率がきわめて低い。それが相まって、悪魔は種そのものが存続の危機にある。
それを解消するために生み出されたのが転生悪魔だ。
ただ、この転生悪魔にはめんどうな問題がある。それは、眷属が主である上級悪魔にとってステータスになっていることだ。そのため、優秀な人材を眷属にすることに躍起になっている上級悪魔がいる。ここまでなら別に問題はない。やっかいなのはここからだ。
悪魔の社会はざっと言えば、貴族社会だ。そして、上級悪魔はほとんどが貴族から出た者たちで、当然、中には傲慢な考え方を持つ者たちがいる。
上級悪魔が多種族を眷属にする際にそれなりの交渉が行われるのだが、この傲慢な連中の中には相手側にとって不利だったり不当な条件で強制的に眷属にする輩もいる。
俺はそれを危惧して、余計なトラブルを生みださないために、できれば悪魔とは関わりたくなかった。
たかがF級程度のはぐれ悪魔を圧倒するぐらいで俺が優秀な人材だとうぬぼれるつもりもないが、まんがいちもあるからな。
その点を考慮して名を明かすか迷ったが、どのみち、顔を見られたうえに同じ学園に通っていることもバレている。隠しても意味はないか。
「士騎明日夏。駒王学園高等部の二年です。リアス・グレモリー先輩」
「あら、私のことを知っているのね?」
「そりゃ、有名人ですから」
たぶん、学園でグレモリー先輩を知らないヤツは数えるほどしかいないだろう。下手すれば皆無かもな。それぐらい、グレモリー先輩は学園では有名だ。
「とりあえず、ここで何があったか、聞かせてもらえるかしら?」
俺は先輩にこであった出来事を簡潔に話した。
そもそも、先輩がここにやって来た理由は、自分の領地に侵入して勝手しようとしていたはぐれ悪魔を討伐するためだ。
「ひとつ尋ねますけど、こいつはどれだけの被害を?」
少し気になっていたので、訊いてみると、先輩は笑みを浮かべる。
「狙われたのは、あなたが最初で最後よ」
それを聞いて幸いだと安堵する。
はぐれ悪魔にとっちゃ、不幸だったかもしれないがな。
「とりあえず、お礼を言うわね。おかげで私が管理するこの町で犠牲者が出なかったのだから」
「いえ、たまたま遭遇しただけなので」
本当に最初に狙われたのが俺でよかったよ。俺を狙ったところを見ると、学生、たぶん若い男をターゲットにしていたのだろう。
イッセーたちが最初に遭遇しなくてよかったよ。確実にはぐれ悪魔の誘いにホイホイ乗って、はぐれ悪魔の胃袋に直行だったろうからな。
「すみませんが、後始末をおまかせしてもいいですか?」
「ええ、いいわ、それくらい」
買ったものを入れた袋を手に持ち、先輩たちを残してその場から去ろうとする。
「最後に訊きたいのだけど。あなたは一体何者なのかしら?」
すれ違いざまに先輩にそう訊かれる。
「──
「そう。でも、もし学校で会うことがあったら、同じ学園に通う者同士、仲良くしましょう」
「ええ、それぐらいでしたら」
それだけ話すと、俺は今度こそ廃工場をあとにする。
-○●○-
名前だけなら聞いたことはあるだろう。犯罪者や逃亡者を逮捕することで報酬を得る業者のことだ。兄貴や姉貴がやってる、そして俺や千秋なろうとしている業者の名だ。
ただし、それは普通の
さっき戦ったはぐれ悪魔などの異形の存在、もしくは俺みたいな異能の力を扱う者を対象にしたものだ。
異形や異能の力などの存在は一般人には基本的に知られていない。だが、それらは世界の裏側で暗躍しており、さっきのグレモリー先輩みたいなのが世界各地にいる。そして、中にはさっきのはぐれ悪魔みたいな一般人に被害を出す存在もいる。
それらに対処する組織や専門家はもちろん存在する。だが、世界は広い。どうしても手が回らないところができてしまうのだ。現にさっきのはぐれ悪魔のようにな。
そこで各国の政府が一般には非公開でそういった存在に賞金をかけ、そういった存在を対処できる基本的にフリーな者たちに討伐させて賞金を与える制度を作った。そうやって賞金を得る者たちのことが俺が言う
このハンターたちを取り締まるのは政府が組織した『ハンター協会』と呼ばれる組織だ。こっちは『ギルド』と呼称されている。
ハンターになるにはこのギルドでライセンスを取得する必要がある。ライセンスを得る条件だが、ぶっちゃければ、実力を示す。これだけだ。
ハンターには細かいランク分けがされており、高い順からA~Gランクまである。これはハンターの強さを表しており、実績を積んでギルドに実力を認められればランクは上昇していく。さらに、B以上のランカーには、ギルドから特別な依頼を任せられることもある。
賞金首にも細かくランク分けされており、高い順からS~G級まであり、ランクが高いほど、かけられた賞金も高額となる。ちなみに、こっちのランクは強さだけじゃなく、被害や将来的な驚異度も考慮されている。
「それにしても、これで何回目くらいだ?」
帰り道を歩きながら俺は軽くぼやく。
今回みたいのは初めてじゃない。こういう遭遇は結構以前からあった。俺はハンターになるのを目指し始めたときから鍛えてきたのもあって、そのすべてを返り討ちにしてきた。千秋も同様である。実力も高ランククラスとまではいかないかもしれないが、少なくともEランクくらいの実力はあると自負している。
もし、俺がハンターだったら、それなりに稼げて、生活費の足しにできただろうにな。
まあ、仕方ねえか。大学卒業後が兄貴が許してくれた条件だからな。
ちなみにハンターがはぐれ悪魔を討伐した際は人間側の政府を通じて悪魔側の政府から賞金をもらうことになっている。
「・・・・・・・・・・・・ふぅ。いつまでついてくるつもりだ?」
歩みを止めて、俺は振り返って物陰に向かって問いかける。
スッ。
すると、物陰から黒いローブを着た者が現れた。フードを深く被っており、顔が俯かせ気味でよく見えないため、男か女かはわからなかった。ただ、わずかに見える口元は薄く笑みを浮かべていた。
実は廃工場を出たあたりからずっとつけられていたのだ。
警戒しながら、手を出してきたらすぐに対処できるようにしていたのだが、黙ってつけてくるばかりだったので、いいかげん、痺れ切らして俺のほうから呼び出したのだ。
「・・・・・・ハンターか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
訊いても、ローブの人物は何も答えない。
「もしそうなら、獲物を横取りしちまったか?」
「──いいや」
ようやく口を開いたが、その声は合成音声みたいな加工されたかのような感じの声だった。
魔法かなんかの類で声をぼかしてるのか?
「キミがあのはぐれ悪魔についていくところを見かけてね。もし、手こずるようなら手助けしてあげようかなと見てただけだよ。まあ、必要なかったけどね。それに、ハンター業界で獲物は早い者勝ちだろ? 仮にそうだったとしても、私は突っかかったりしないよ」
こいつの言う通り、ハンター業界は基本的に実力主義。賞金首の討伐も早い者勝ちで、獲物の取り合いなんてよくあることだ。それゆえに、ハンターには荒くれものも多いし、ハンター同士によるいざこざやトラブルも多い。
実際、俺も「ハンターじゃねぇガキが獲物を横取りしやがって」と突っかかれたことがある。
──にしても、俺を手助けしようとしたか。正直、信用できなかった。
「だったら、なんでさっきからついてくるんだ? もう用は済んでるはずだろ? しかも、そんなふうに正体を明かさないようにして」
「これは私が正体不明のハンターで通してるからだよ」
・・・・・・正体不明のハンター、ね。
「話を戻すけど、キミをつけてたのはキミに興味があったからだよ」
「・・・・・・興味があるのは俺じゃなく、兄貴のほうなんじゃねえのか?」
実は兄貴はハンター業界じゃ、結構有名になってる。なんせ、俺が兄貴がハンターになったことを知ったのは、兄貴がハンターになってから二年後のことで、そのときにはもうDランクとなっており、その二年後にはCランクと若くして数年でランクを上げているのだ。
G~Dランクは下位ランカーと呼ばれ、四年で上げられてもこの範囲が限界なのが普通だ。
それが一気に上位ランカーのCランクだ。だから、本当に興味があるのはそれだけ規格外な実力を示している兄貴のほうじゃねえのかと勘ぐってしまう。
すると、ローブの人物は俯かせ気味だった顔を上げる。その顔には鼻から上を覆うタイプの仮面をしており、結局、男か女かははっきりしなかった。
仮面をしてまで正体を隠していることにますます警戒心をあらわにする俺に気にも留めず、ローブの人物は言う。
「キミのお兄さんの話はもちろん聞いてるよ。たった数年で上位ランカーに到達した天才ってね。でもあいにく、私はこの目で見たものしか評価しないタチでね。お兄さんたちのことは、この目で見たことなく、話でしか知らないんだ。私はね、この目で見たもの以外はあんまり興味ないんだ。だから、今日会ったキミのことに興味を湧いたんだ」
ふーん。それが本当なら、相当変わってる奴だな。──ま、本当かどうかは怪しいがな。
「あんまり信用してないね」
「今日会ったばかりなうえに、その胡散くさい格好だ。信用しろっていうのは無理な話だろうが」
「それもそうだね」
俺の指摘を聞いて、ローブの人物はクスクスと笑う。
「でも、キミに興味あるってだけは信用してほしいかな」
それを聞いて、余計に胡散くさく感じる。
「ま、今日はそろそろ退散するよ。このままじゃ、ストーカーとして通報されそうだからね。そうなったらめんどうだし。もしくは、キミが懐に隠し持ってるナイフで斬られるかもしれないし」
それだけ言うと、ローブの人物はその場から飛び上がり、建物の屋根に飛び乗る。そのまま、他の建物の屋根に飛び移りながら闇夜に姿を消した。
「・・・・・・本当になんだったんだ?」
まあ、家族やダチたちに累を及ばさないのなら別に無視すればいいか。・・・・・・今後もつきまとってくるのなら、正直ウザいが。
念のため、千秋や兄貴たちにもあいつのことを伝えておくか。
-○●○-
「すっかり遅くなったな」
はぐれ悪魔やグレモリー先輩、あの胡散くさいローブの奴の相手をしていたらすっかり遅い時間になってしまった。
千秋はもう帰ってきてるだろうな。メシどうしてるかな?
「ただいま。千秋、いるか?」
家に入り、リビングのドアを開ける。
リビングに入った俺の視界に入ってきたのは──。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
テーブルにうなだれている千秋だった。
「・・・・・・どうしたんだ?」
とりあえず、うなだれている千秋に声をかける。
ま、大方、イッセーのことでこうなってるんだろうがな。
イッセーのことでショックなことがあると、よくこうなるからな。
「イッセーと一緒に帰れなかったのか?」
まあ、十中八九これだろうな。それぐらいの理由でもこうなるからな。
すると、千秋はうなだれながら弱々しく答える。
「・・・・・・・・・・・・一緒に帰ったよ・・・・・・」
あれ、違ったか。学校で千秋と別れてから、起こる可能性だと、これぐらいしか思いつかないんだがな・・・・・・。
──まさかとは思うが。
「イッセーに嫌われたか? もしくはおまえが嫌ったのか?」
たぶん、ありえないと思うが、念のために訊く。・・・・・・もしこれだったらどうするか。
「・・・・・・・・・・・・ううん。仲のいい幼馴染みのままだよ・・・・・・」
これも違ったか。──とりあえずホッとする。
それにしても、じゃあ、一体何があったってんだよ?
まさかな──。
「じゃあ、あれか。イッセーがおまえ以外の誰かと付き合うことなったとか?」
「まあ、ないだろ」なんて考えながら適当にそう訊いた。
だが──。
「・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・」
千秋は弱々しく返事をした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。はっ! ヤベ、一瞬、呆けてた。
――ていうか、うん? あれ? ・・・・・・なんか肯定されたんだが・・・・・・。
「・・・・・・マジか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ちょっと信じられず、改めて問いかけるが、千秋は無言で一切の反応を示さなかった。
・・・・・・だが、むしろ、それが肯定の意を表していた。
・・・・・・マジかよ。イッセーに彼女ができた? 千秋以外の?
俺が学校で千秋と別れてから家に帰ってくる間に一体何があったんだ?
とりあえず、千秋を少し落ち着かせるか。そして、詳しく何があったか訊くか。
ちなみにその日、千秋はショックで夕飯が満足に喉を通らなかったのであった。
俺も俺で、衝撃がありすぎて、ローブの奴のことなんて、すっかり忘れてしまっていた。