ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍   作:フレイムドラゴン

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Life.31 決着! VSコカビエル!

 

 

 『極域(きょくいき)』──それは『錬域』の極致。錬域の状態からより深い集中力と鬼刃一刀流を極めた先に至る境地。

 

 その境地に夜刀神蓮火は至っていた。

 

 

「鬼刃一刀流・奥義──」

 

 

 レンは前傾の体勢で居合の構えをとる。

 

 その際、レンの瞳から鋭く赤い眼光が尾を引くように残像を残していた。これは極域に至った者に起こる身体的変化だった。

 

 レンの構えを見て、コカビエルは即座に次に来るであろう一撃に備える。

 

 

「弐ノ型──雷切(らいきり)!」

 

 

 刹那、レンはその場にいた誰の目にも捉えられない速度で駆けだし、居合の一閃を振るっていた。

 

 鬼刃一刀流・奥義──全部で七つの型が存在し、極域に至ることで初めて使用できる剣技だった。

 

 『弐ノ型・雷切』は速さを極めた神速の踏み込みから放つ居合の一閃。その速さはコカビエルでさえも目で捉えられなかった。

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

 コカビエルはかろうじて居合の一閃を光の剣で防いでいた。

 

 これはコカビエルが雷切を見切ったわけではなく、雷切が直線的な剣技であることと、数々の激戦を潜り抜けてきた経験からくる無意識の反射によるものだった。

 

 それでも、神速の速度による運動エネルギーを乗せた斬擊の衝撃がコカビエルの腕を痺れさせる。

 

 

「ちぃッ!」

 

 

 コカビエルは即座に距離を取り、周囲に光の槍を生みだす。

 

 

「紅雨!」

 

「何!?」

 

 

 刹那、出現した光の槍は出現したそばからレンの紅雨によって弾かれていった。まるでそこに光の槍が出現するのがわかっていたかのように。

 

 事実、その通りだった。

 

 極域は錬域の状態よりもさらに動体視力や洞察力、反応速度や身体能力が上昇するが、最大の特徴は視覚だけでなく、五感すべての感覚が研ぎすまれ、鋭敏になることだった。それは単純に感覚が高められるだけでなく、人間では感じることができなかったものを感じとることができるようになる。

 

 元々、神器(セイクリッド・ギア)の影響で発達していたレンの聴覚は極域の領域では、筋肉の動きや空気の振動から発せられる音で相手の動きや物体の出現が察知できた。

 

 

「紅纏!」

 

 

 レンは紅纏でさらに身体能力を上げ、コカビエルに斬り込む。

 

 

「おもしろい!」

 

 

 コカビエルは光の槍を射ちだしながら、光の剣と翼でレンを迎え撃つ。

 

 

「肆ノ型──烈風嵐刃(れっぷうらんじん)!」

 

 

 レンは飛来する光の槍を、迫りくる光の剣と翼を連続の斬撃で斬り払った。

 

 「肆ノ型・烈風嵐刃」は超高速で刀を振るい、相手の攻撃をすべて弾き落とす防御型の剣技。繰り出される連続の斬擊はさながら嵐のようであり、並大抵の攻撃は容易に弾き、その気になれば全方位の防御も可能だった。

 

 これにレンの聴覚による察知能力が合わさることで、クロスレンジにおいては無類の防御力を発揮する。

 

 しかし、コカビエルも大戦を生き抜いた猛者。攻撃を防ぎつつも、時折放たれるコカビエルを狙った斬擊を的確に捌いていた。

 

 お互いに決め手に欠ける泥沼状態だったが、その均衡はすぐに崩れ始める。

 

 

「どうした! 技の精度がどんどん落ちていってるぞ!」

 

 

 レンはここまで、ほぼ休むことなく戦い続けていた。さらに、極域は無類の強さを発揮するが消耗が激しい。ここまでスタミナ管理をしていたレンだったが、それでも疲弊は酷く、それが技の精度に表れ始めていた。

 

 対するコカビエルは手負いであれど体力には余裕があった。

 

 とはいえ、コカビエルも悠長にしている余裕はなかった。

 

 アルミヤの一撃を放つ準備が着々と進んでいたのだ。

 

 アルミヤの特殊因子によって強化された聖剣の全力の一撃はイッセーに力を譲渡されたリアスの一撃を優に越えていた。そこに、この街を破壊するほどのエネルギーも上乗せされたら、さしもの自分でもただではすまない。

 

 そう思いながらも、コカビエルは冷静にレンの剣技を見据える。

 

 

「はッ!」

 

 

 ズバッ!

 

 

 鮮血が飛び散り、レンの右腕が宙に舞った。

 

 技の精度が落ちたことによる一瞬の隙をつかれ、コカビエルの光の剣によって斬られたのだ。

 

 

「終わりだ!」

 

 

 得物を失い、体力の限界で攻撃を防ぐことも回避することも叶わないレンにコカビエルはとどめをさそうとする。

 

 

「「「「はぁぁぁぁぁッ!」」」」

 

 

 コカビエルの背後から明日夏、槐、木場、ゼノヴィアが斬りかかる。

 

 さらに離れた場所から千秋が風を纏わせた矢を射っていた。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

 翼によって千秋の矢ごと明日夏たちは吹き飛ばされる。

 

 同時にコカビエルは光の剣を千秋に向けて投擲する。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 かろうじて直撃を避けた千秋だったが、代わりに黒鷹(ブラックホーク)に直撃してしまい、黒鷹(ブラックホーク)が原型をとどめないほどに破壊されてしまった。

 

 

「──禁手化(バランス・ブレイク)

 

 

 コカビエルが明日夏たちに気を取られていた一瞬の隙をつき、暮紅葉を口にくわえたレンは『紅蓮の霹靂一閃(トランジェント・クリムゾン・ライトニング)』を発動する。

 

 

「くっ!」

 

 

 コカビエルは即座に翼でレンに斬りかかる。

 

 刹那、レンは紅い閃光となった。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 レンの口にくわえられた暮紅葉の刃がコカビエルの脇腹を斬り裂いた。

 

 だが、傷自体はそこまで深くはなく、コカビエルほどの強者なら大した問題にはならないものだった。

 

 だが──。

 

 

「ぐおあああああああああああっっ!?!?」

 

 

 暮紅葉の刃を伝って、傷口から流し込まれた紅雷がコカビエルの身を内側から焼いていく。

 

 さしものコカビエルもこれには堪えたようで、倒れはしなかったものの、フラつき、膝をついた。

 

 

Transfer(トランスファー)!!』

 

 

 そこへ、イッセーがリアスと朱乃に力を譲渡する。

 

 

「くっ!」

 

 

 膨れあがるリアスと朱乃の魔力を見て、コカビエルは懐からフェニックスの涙を取り出す。

 

 さしものコカビエルも、いまの状態では二人の魔力を受けきれないと判断したのだ。

 

 フェニックスの涙がかけられ、コカビエルの傷が瞬く間に回復してしまう。

 

 

「消し飛びなさい!」

 

「雷よ!」

 

 

 同時にリアスの魔力と朱乃の雷が放たれる。

 

 コカビエルは両手とすべての翼を前に突き出し、二人の同時攻撃を受け止める。

 

 

「「はぁぁぁぁぁッ!」」

 

 

 リアスと朱乃は最後の魔力を振り絞って放出する魔力を強める。

 

 

「はぁッ!」

 

 

 コカビエルの翼が振るわれ、二人の攻撃がかき消されてしまう。

 

 だが、時間は十分に稼がれた。

 

 

 カァァァァァアアアアアアアアアアアッッ!

 

 

 凄まじい波動を感じ、コカビエルは慌ててアルミヤのほうを見る。

 

 そこには、先程よりもさらに輝きを放ち、膨大なオーラを発するエクスカリバーを振りかぶるアルミヤがいた。

 

 コカビエルは即座に光の槍を投擲しようとするが、時すでに遅く、エクスカリバーは振り下ろされた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 オーラが収束して放たれた光の奔流をコカビエルは両手と翼で受け止めるが、光の奔流は容易くコカビエルの防御を打ち破る。

 

 

「────っっっ!?!?!?」

 

 

 光はコカビエルの叫びをかき消しながらコカビエルを飲み込んでいった。

 

 

-○●○-

 

 

 強烈な閃光が止み、あたりを見渡すと、先程の一撃の余波でグラウンドは荒れ果てており、学園の損壊はさらに酷くなっていた。会長たちが張ってくれている結界もほぼ全壊状態だった。

 

 町への被害はここからではわからない。あまり出てなければいいが。

 

 そして、肝心のコカビエルは――。

 

 

「・・・・・・・・・・・・っっ・・・・・・・・・・・・」

 

 

 上半身に着ていたものが完全に消し飛び、ボロボロな状態で仰向けに倒れていた。

 

 かすかにだが、うめき声を発していた。

 

 あれをくらって、五体満足どころか、かろうじて意識まで保ってるとはな・・・・・・。

 

 だが、あの様子じゃ、もう動けないだろう。

 

 大地崩壊の術も、エネルギーを攻撃に転用されたことで術式の効力が消えて魔法陣が崩壊していた。

 

 倒れたコカビエルを見て、イッセーが言う。

 

 

「・・・・・・勝った・・・・・・のか?」

 

 

 イッセーの言葉に斬られた腕をアーシアに治してもらってるレンが答える。

 

 

「ああ、音からも起き上がるのは無理な状態だってのがわかるぜ」

 

「そうでなくては困るがね」

 

 

 アルミヤさんもこちらにやってきて言う。

 

 レンもアルミヤさんも平常を装っているが、疲弊で呼吸が粗くなっており、もう限界なのが見て取れた。

 

 二人だけじゃない。他の皆もかなり疲弊していた。

 

 特に部長と副部長は膝をついており、もう魔力を練れそうになかった。槐や木場、ゼノヴィアも肩で息をしていた。他はまだ余力はありそうだが、それでも疲弊で呼吸が粗くなっていた。

 

 かくいう俺ももう限界だった。

 

 

「いまのうちにコカビエルを拘束しましょう」

 

 

 部長が疲れた体をおして立ち上がる。

 

 刹那、一発の銃声が鳴り響いた!

 

 俺たちは慌てて銃声の発生源に目を向ける。

 

 そこには、二階の校舎の窓からライフルを構えているカリスがいた。

 

 カリスは笑みを浮かべると、即座に校舎の奥えと消えてしまった。

 

 

「――まさかこの俺が人間に助けられることになるとはな・・・・・・」

 

 

 その声を聞き、俺たちは絶望的な表情を浮かべてそちらのほうを見る。

 

 コカビエルが体から煙を上げながら立ち上がっていたのだ!

 

 見ると、胸のあたりに注射器のようなものが刺さっていた。

 

 その中身がフェニックスの涙だと誰もが容易に察することができた。

 

 ・・・・・・最悪だ! ここに来てのコカビエルの回復は俺たちの心を折るのに十分すぎるものだった!

 

 

「よもやこの俺を本当に倒すとはな。おまえたちをなめていたことを謝罪しよう」

 

 

 コカビエルが笑みを浮かべて俺たちに敬意を払ってくる。

 

 

「こんなことならば、最初から俺が出て、万全な状態のおまえたちと本気で戦えばよかったな」

 

 

 コカビエルが自嘲するように言う。

 

 

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、おまえたち神の信徒と悪魔はよく戦うものだ」

 

「・・・・・・何!?」

 

「・・・・・・くっ」

 

 

 コカビエルの言葉にゼノヴィアは驚愕の表情を浮かべ、アルミヤさんは苦々しい表情をしていた。

 

 他の皆も怪訝そうな表情をしていた。

 

 

「・・・・・・どういうこと!?」

 

「コカビエル! 主を亡くしたとはどういう意味だ!?」

 

「おっと、口が滑ったか。そうだったな。おまえたち下々まであれの真相は語られていなかったな」

 

 

 部長とゼノヴィアがコカビエルに問いかけると、コカビエルはおかしそうに吹き出していた。

 

 

「答えろ! コカビエル!」

 

「よせ、ゼノヴィア!」

 

 

 ゼノヴィアはコカビエルに食ってかかるが、そんなゼノヴィアをアルミヤさんが制止する。

 

 

「フフフフ、フッハハハハ、ハッハハハハハ! そうだな、そうだった。戦争を起こそうというのにいまさら隠す必要などなかったな! フハハ! 先の三つ巴の戦争で四大魔王と共に神も死んだのさ!」

 

 

 コカビエルが告げた衝撃の事実に俺たちは絶句してしまう。

 

 

「・・・・・・う、ウソだ・・・・・・!?」

 

 

 ゼノヴィアが酷く狼狽しだしていた。

 

 無理もないだろう。敬虔な信徒であるゼノヴィアからしたら、認めたくない真実だろうからな。

 

 

「・・・・・・神が死んでいた? バカなことを! そんな話聞いたこともないわ!?」

 

「知らなくて当然だ。神が死んだなどと誰に言える? 我ら堕天使、悪魔さえも下々にそれらを教えるわけにはいかなかった。どこから神が死んだと漏れるかわかったものじゃないからな。三大勢力でもこの真相を知っているのはトップと一部の者たちだけだ。あとは何かしらのきっかけでこのことに至った者だな。先ほどのバルパーのようにな。ま、真相を知るそこの男に口封じとして殺されたがな」

 

 

 コカビエルがアルミヤさんのほうを見ながら言う。

 

 そうか、アルミヤさんは数少ないこの事実を知っている人物なのか。だからゼノヴィアと違い、そこまで動揺していないのか。

 

 

「あの戦争で、悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失い、天使も堕天使も幹部以外のほとんどを失った。もはや純粋な天使は増えることすらできず、天使が堕ちることで増える堕天使も天使が増えなければいずれ増えることがなくなる。もはや人間と交わらなければ種を残せないまでになってる。悪魔とて、純血種は希少なはずだ。どの勢力も、人間に頼らなければ存続ができないほど落ちぶれた。その人間は神がいなくては心の均衡と定めた法も機能しない不完全な者の集まりだぞ? だから三大勢力のトップ共は、神を信じる人間を存続させるためにこの事実を封印したのさ」

 

 

 だからアルミヤさんはバルパーを殺したのか。不用意にこのことを知った者をのさばらせるわけにはいかないから。ましてや、バルパーなら周りに言いふらしかねないからな。

 

 

「・・・・・・ウソだ。・・・・・・ウソだ・・・・・・」

 

 

 ゼノヴィアは力が抜けうなだれていた。

 

 

「そんなことはどうでもいい。俺が耐え難いのは、どの勢力も神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断したことだ! 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めるだと!? あのまま戦いが続いていたら、俺たちが勝てたはずだ! アザゼルの野郎も『二度目の戦争はない』と宣言するしまつだ! ふざけるなッ!」

 

 

 コカビエルは憤怒の形相で強く持論を語っていた。

 

 

「・・・・・・主はもういらっしゃらない? それでは、私たちに与えられる愛は・・・・・・?」

 

 

 アーシアの疑問にコカビエルはおかしそうに答える。

 

 

「フッ、神の守護、愛がなくて当然なんだよ。神はすでにいないのだからな。ミカエルはよくやっているよ。神の代わりとして天使と人間をまとめているのだからな。まあ、神が使用していた『システム』さえ機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度は動作するだろうしな。とはいえ、神を信じる者は格段に減っただろう。聖と魔のバランスを司る者がいなくなったため、その聖魔剣のような特異な現象も起こるわけだ。本来なら聖と魔は混じり合うことなどあり得ないからな」

 

「アーシア!?」

 

 

 イッセーのアーシアを呼ぶ声を聞き、そちらを見ると、アーシアがコカビエルの言葉のショックのあまりにその場で意識を失っていた。

 

 塔城が慌てて支え、近くの木まで運んで座らせた。

 

 

「・・・・・・無理もない。・・・・・・私だって、理性を保ってるのが不思議なくらいだ・・・・・・」

 

 

 ゼノヴィアはかろうじて意識を保っているが、これまでの勇ましい彼女の姿はどこにもなかった。

 

 

「不覚をとってしまったが、こうして回復した。なら、当初の予定通り、このまま俺は戦争を始める! おまえたちの首を土産に、俺だけでもあのとき続きをしてやる! 我ら堕天使こそが最強だと、サーゼクスにも、ミカエルにも見せつけてやる!」

 

 

 ルシファー、ミカエル。どちらも聖書に記されし強大な存在。コカビエルはそんな存在に一人でも相手しようとしている。俺たちはそんな奴と戦っていた。

 

 ・・・・・・・勝てない。

 

 この場にいるほとんどの者がそう考えてしまい、意気消沈していた。

 

 一度勝てたのは、様々な要因とコカビエルが俺たちのことをなめていて遊びがあったからだ。

 

 それがなくなったいま、もはや限界な俺たちにこいつを倒せるすべなんて――。

 

 

「ふざけんなぁ!」

 

 

 諦めかけていた俺たちの耳にイッセーの叫びが聞こえてきた。

 

 

「おまえの勝手な言い分で俺たちの町を、仲間たちを消されてたまるかッ!」

 

 

 このような状況の中でもイッセーの闘心は衰えていなかった。いやむしろ、俺たちの町の危機、仲間の危機に、その元凶であるコカビエルに対する怒りで高まってさえいた。

 

 

「それに、それに俺はな、ハーレム王になるんだぁぁぁッ!」

 

「・・・・・・はぁ?」

 

 

 イッセーが高々と宣言した目標、いや、野望を聞いたゼノヴィアは呆れたような声を出していた。

 

 まあ、普通はそんな反応だろうな。

 

 

「てめぇなんかに俺の計画を邪魔されたら困るんだよ!」

 

「ククク、ハーレム王? ハハハ、赤龍帝はそれがお望みか。なら俺と来るか?」

 

「え?」

 

「ハーレム王などすぐになれるぞ。行く先々で美女を見繕ってやる。好きなだけ抱けばいい」

 

 

 コカビエルの甘言に衝撃を受け、イッセーがその場で硬直していた。

 

 

「そ、そ、そんな甘い言葉で・・・・・・お、俺が騙されるものかよ・・・・・・」

 

 

 なんとかコカビエルの誘いを断っていたがブレブレだった。

 

 おまえなぁ・・・・・・。

 

 

「間があるのはおまえだから仕方ないとして、もうちょいシャキッと拒否しろよな・・・・・・」

 

「えっ、間があるのはいいの!?」

 

「そうだぞ! 敵の甘言に乗りかけるなど!」

 

 

 木場と槐からツッコミを入れられるが、俺は木場に言う。

 

 

「槐はともかく、木場。おまえはイッセーがあんなことを言われて、揺れないと思うか?」

 

 

 俺の問いかけに木場少しの間考えるがすぐ「・・・・・・無理だね」と答えた。――そういうことだ。

 

 

「イッセー!」

 

「はい!?」

 

 

 部長が激怒していた。

 

 

「・・・・・・す、すみません。どうにもハーレムって言葉に弱くて・・・・・・」

 

「そんなに女の子がいいなら、この場から生きて帰れたら私がいろいろとしてあげるわよ!」

 

「・・・・・・マジですか!? ・・・・・・な、なら、おっぱいを揉んだりだけでなく、す、吸ったりとかも!?」

 

「ええ。それで勝てるなら安いものだわ」

 

 

 カァァァァァアアアアアアアアアッッ!

 

 

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の宝玉からかつてない輝きが放たれた!

 

 

「吸う! ついに吸えるんだ! いまの俺は、そう神すら殴り飛ばせるぜ! あ、神様いないんだっけ。アハハハ! よっしゃぁぁぁあああああ! やられてもらうぜ、コカビエル! 部長の乳首を吸うために!」

 

 

 神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えて力を定める。

 

 『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』がイッセーのスケベ根性に呼応して力を発揮しようとしていた。

 

 

「・・・・・・もう」

 

 

 部長も大声で叫ばれたためなのか、気恥ずかしそうにしていた。

 

 

Explosion(エクスプロージョン)!!』

 

 

 ライザーとのレーティング・ゲームのときのように籠手が変形すると、イッセーは駆けだす。

 

 

「くっ!」

 

 

 コカビエルは光の槍を投擲するが、イッセーはそれを籠手で弾き飛ばす!

 

 

「でやぁぁぁッ!」

 

「ぐあっ!?」

 

 

 光の槍を弾かれたことで虚をつかれたコカビエルの顔面にイッセーの拳が突き刺さった!

 

 

「・・・・・・ぐっ・・・・・・!?」

 

 

 イッセーの拳をくらって後ずさったコカビエルは異質なものを見たかのような目でイッセーを睨む。

 

 

「・・・・・・女の乳首を吸う想いだけでこれほどの力を解き放つ赤龍帝だと!? なんだ、おまえは? どこの誰だ!?」

 

 

 イッセーは堂々と胸を張って答えた。

 

 

「覚えとけ、コカビエル! 俺は兵藤一誠! エロと熱血で生きる、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の宿主で、リアス・グレモリーさまの『兵士(ポーン)』だ!」

 

 

 カッコつけてるつもりなんだろうが、いろいろとダメダメだった・・・・・・。

 

 だが、そんなこいつを見てると不思議と活力が湧いてきた。

 

 

「そうよ! 私たちはまだ負けていない! 諦めたときが負けなのよ! イッセーに続きましょう!」

 

『はい、部長!』

 

 

 他の皆も戦意を取り戻し始めていた。

 

 

「おーおー、皆張りっきってるなぁ。なら、俺たちももうひと踏ん張りしねぇとな!」

 

「むろん、私もこのまま終わるつもりはない」

 

 

 レンとアルミヤさんも先ほどまで疲弊していたとは思えないほど戦意を昂ぶらせていた。

 

 槐が不思議そうにイッセーを見ていた。

 

 

「・・・・・・不思議なものだな。あれほど絶望感が漂っていたというのに、イッセーがあんなふざけた理由で奮起するだけで、これほど周りに活力を与えるとは」

 

「イッセーには、不思議とそういう魅力があるんだよ。そういうおまえはどうなんだ?」

 

「ああ、不思議と私も活力が湧いてきている」

 

 

 俺と槐はお互いに笑みを浮かべる。

 

 

「ククク、下級悪魔の分際で俺の顔に触れるとはな! これはもしろい! おもしろいぞ、小僧!」

 

 

 コカビエルは笑みを浮かべ、嬉々とした表情で翼を広げていた。

 

 どうやら、俺たちの戦意に感化されたみたいだな。

 

 俺たちも身構えたときだった――。

 

 

「――おもしろがってるところ悪いが、おいたはここまでだぜ、コカビエルさま」

 

 

-○●○-

 

 

 突如割って入った声。この場に誰のものでもない。

 

 

「誰だ!?」

 

 

 コカビエルが声がしたほう見る。

 

 僕たちもそちらのほうを見る。

 

 そこには長い後ろ髪を結った長身で大柄な体躯の金髪の青年がいた。白いロングコートを着ており、黒い手袋をしていた。

 

 

「・・・・・・貴様、『ネスト』の者か?」

 

 

 ネスト? 聞いたことのない組織の名だった。

 

 だが、それよりも気になったのは、男の隣にいた明日夏くんが着ているのと似た黒いロングコートを着た黒髪の青年だった。

 

 なぜか、そのヒトを見て明日夏くんが驚愕の表情を浮かべていたからだ。

 

 明日夏くんだけじゃない。イッセーくんや千秋さん、鶫さん、燕ちゃん、槐さんもレンさんも同様の反応をしていた。

 

 

「ヤッホー。明日夏、千秋、イッセーくん、鶫ちゃん、燕ちゃん、槐ちゃん、レンくん」

 

 

 その男性は明日夏くんたちに向けてほがらかに手を振っていた。

 

 ふと、その男性の顔を見て、誰かに似ていると思った。それに、どこかで見たような?

 

 

「明日夏、彼は一体?」

 

 

 部長も気になったのか、明日夏くんに訊いていた。

 

 

「──兄の士騎冬夜です」

 

 

 それを聞き、僕は納得した。誰かに似ているとは思ったけど、明日夏くんに似ているんだ。見覚えがあったのも、明日夏くんが見せてくれたアルバムの写真に写ってたからだ。

 

 クールで少し無愛想なところがある明日夏くんとは違って、愛嬌があって穏やかそうなヒトだった。

 

 イッセーくんからも、優しくて、穏やかなヒトだとは聞いていた。

 

 レンさんが明日夏くんのお兄さん──士騎冬夜さんに訊く。

 

 

「冬夜さん、いつこっちに?」

 

「ついさっきね。樹里さんから連絡をもらって、受けてた仕事を速攻で終わらせて急いで飛んできたんだ」

 

 

 士騎冬夜さんがコカビエルに言う。

 

 

「うちの弟と妹、その友達たちがお世話になったみたいですね?」

 

 

 ぞっ・・・・・・。

 

 

 にこやかにしていたけど、それとは裏腹に凄まじいまでのプレッシャーがコカビエルに向けて発せられていた。

 

 直接向けられているわけでもないのに、思わず萎縮してしまった。

 

 

「──お礼をしないといけませんね」

 

 

 士騎冬夜さんはコートをなびかせ、腰のホルスターから銃を取り出し、コカビエルに銃口を向ける。

 

 

「ほう、大した圧力だ。さすがは六人しかいないと言われる()()()()()()()()というわけか」

 

 

 コカビエルが受けてたとうと身構えると、士騎冬夜さんに金髪の青年が言う。

 

 

「あー悪いが、冬夜。せっかく駆けつけて、弟たちにカッコいいところ見せたいところだろうけど、おまえの出番はたぶんないぜ」

 

「だろうね」

 

 

 士騎冬夜さんはプレッシャーを放つのをやめると、銃を回転させてホルスターに戻してしまった。

 

 金髪の青年が僕たちのほうを見て自己紹介を始めた。

 

 

「はじめましてだな、グレモリー眷属に教会の聖剣使いさん。俺はシオ・ヴィリアース。『神の子を見張る者(グリゴリ)』のエージェントチーム、『ネスト』の副リーダーだ。うちのもんが迷惑をかけちまったな」

 

 

 コカビエルがシオ・ヴィリアースに言う。

 

 

「・・・・・・貴様、アザゼルの差金か?」

 

「ああ。総督さんからの伝言だ。『流石に勝手が過ぎるぞ。悪いがおまえには重い罰をくださなければならない。だが、俺とおまえの仲だ。大人しく戻ってくるのなら、少しは温情をかけないこともない』とのことだ」

 

「・・・・・・アザゼルめ!」

 

 

 堕天使総督アザゼルからの伝言を聞き、コカビエルは忌々しそうにしていた。

 

 

「ふざけるな! ここまで来て、いまさら拳を収められるか!」

 

「総督さんもあんたならそう言うだろうって言ってたよ。だから、大人しく戻らないのなら、力づくでも連れてこいって言われてるよ」

 

「貴様に俺を倒せるとでも?」

 

 

 コカビエルの言葉にシオ・ヴィリアースは肩をすくめる。

 

 

「自信はあるけど、俺たちの仕事は後始末なんでね。あんたを懲らしめるのは別の奴の仕事さ」

 

 

 そう言い、シオ・ヴィリアースは空に向けて叫ぶ。

 

 

「そら、いい加減仕事しねぇと、総督さんに説教されるぜ!」

 

「――そうだな。ちょうど見てるだけなのも飽きてきたところだ」

 

 

 シオ・ヴィリアースに答えるように空から声が聞こえてきた。

 

 僕たちは夜空を見上げる。

 

 そこには、月を背に宙に浮かぶ背中から神々しいまでの輝きを発している翼を生やし、体の各所に宝玉が埋め込まれた白い全身鎧(プレート・アーマー)を着た者が僕たちを見下ろしていた。

 

 似ている――。イッセーくんが着たあの赤い鎧とそっくりだった。

 

 

「・・・・・・『白い龍(バニシング・ドラゴン)』か!」

 

 

 コカビエルが忌々しそうにその者の名を言った。

 

 『白い龍(バニシング・ドラゴン)』――『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』に対を成す伝説のドラゴン。

 

 コカビエルは舌打ちをする。

 

 

「チッ! 邪魔立ては――」

 

 

 コカビエルが言葉をすべて言いきる前に、彼の黒き翼が宙を舞った!

 

 『白い龍(バニシング・ドラゴン)』がコカビエルの背後に回り込んで、コカビエルの翼を引き千切ったのだ。

 

 一瞬、何が起こったのか理解できなかった。僕でもぜんぜん見えなかった・・・・・・。

 

 

「まるで薄汚いカラスの羽だ。アザゼルの羽はもっと薄暗く、常闇ようだぞ?」

 

 

 『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は手に持つ翼を興味なさげに投げ捨てた。

 

 声からして若い男性か?

 

 

「・・・・・・貴様! 俺の羽をッ!」

 

 

 翼をもがれ、怒り狂うコカビエルだが、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は小さく笑いこぼす。

 

 

「地より下の世界に堕ちた者に羽なんて必要ないだろう?」

 

「――ッ!?」

 

 

 激昂したコカビエルは手を頭上に掲げ、手元に巨大な光の槍を出現させる。

 

 

Divide(ディバイド)!』

 

 

 翼から音声が聞こえ、コカビエルの巨大な光の槍がどんどん縮小していく。

 

 

「――我が名はアルビオン。我が神器(セイクリッド・ギア)、『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の能力のひとつ。触れた者の力を十秒ごとに半減させていき、その力は俺の糧となる。急がねば人間すら倒せなくなるぞ?」

 

 

 ――伝説の通りか。

 

 赤龍帝は持ち主の力を倍加して何かに譲渡し、白龍皇は相手の力を半減させ、持ち主の糧とする。

 

 コカビエルは残った翼を羽ばたかせ、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』――アルビオンに立ち向かっていく。

 

 だけど、コカビエルはアルビオンにいいようにもてあそばれていた。

 

 

Divide(ディバイド)!』

 

 

 そうこうしている間にも、コカビエルの力が半減していく。

 

 

Divide(ディバイド)!』

 

 

 何度目かの音声。コカビエルの動きは僕でも容易に相手できるほどにまで落ち込んでいた。

 

 

「・・・・・・つまらない。もう少し楽しめると思ったんだがな。やはり先ほどの戦いでかなり消耗していたようだ。ダメージが回復したといってもこの程度か」

 

 

 アルビオンが視界から消え去り、光の軌跡を生みだしながらコカビエルヘ直進する。

 

 

「ぐぉぉおおおおっ・・・・・・!?」

 

 

 アルビオンの拳がコカビエルの腹部に深く突き刺さった。

 

 

「・・・・・・バカな・・・・・・!? ・・・・・・この俺がッ・・・・・・!?」

 

 

 そのままアルビオンはコカビエルと共に閃光となって地面に向かっていく。

 

 

「アザゼルゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウッ!?」

 

 

 地面に激突する寸前、コカビエルの怨嗟の断末魔が響き渡った。

 

 

 ドゴォォォォオオオオオン!

 

 

 コカビエルが地面に叩きつけられ、あたりに凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

 

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