ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍   作:フレイムドラゴン

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Life.9 二人の銀色との出会い

 

 

 まさか、イッセーが副部長に呼ばれたのが、アザゼルの読み通り、天使の長ミカエルと会うためだったとはな。

 

 しかも、ミカエルの目的がイッセー用に調整された聖剣『アスカロン』を渡すことと、これまたアザゼルの読み通りだった。

 

 どうも、イッセーから聞いたミカエルの話からすると、ミカエルは三大勢力の和平を考えてるみたいだ。そのための悪魔側への手土産がアスカロンというわけだ。堕天使側にも何か送ってるみたいだし。

 

 聞けば、悪魔側からも、木場の聖魔剣をいくつか天使側に送ったみたいだ。

 

 となると、悪魔側も和平を考えてるってわけか。サーゼクスさまなら、そう考えるか。

 

 アザゼルが言ってたおもしろいことってのは、このことか?

 

 確かに、長年争ってきた勢力が和平を結ぶなんて、相当な事態だ。

 

 となると、アザゼルもそのつもりなのか。争い事とかに興味がないという話だからな。

 

 ・・・・・・その割には、周りの顰蹙を買いかねない行動してたがな。

 

 おそらく、向こう側のトップたちが、自分の性格を知ってるから、この程度で和平決裂なんてならないだろうという考えからの行動なのだろう。・・・・・・性質が悪いな。

 

 それにしても、わざわざ『龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)』の聖剣を赤龍帝のイッセーに渡すとはな。

 

 アスカロンは龍退治の逸話がある聖ジョージ──聖人ゲオルギウスが持っていた聖剣だからな。それをわざわざ、悪魔であり、聖剣使いの適性もないイッセーが使えるように調整までして。

 

 ライバルである白龍皇ヴァーリへの対策か? 龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)と呼ばれる武具には、その名の通り、ドラゴンに対する特攻──悪魔で言うところの光みたいな効果があるからな。

 

 確かに、あいつは和平よりも、戦争のほうに興味がありそうな奴だったからな。

 

 ヴァーリだけじゃない。いままで争い合ってたんだ。和平に不満を持つ奴はどの勢力にも必ずいるだろう。というか、堕天使側でいえば、コカビエルがそれだろうな。そういう連中がどう動くかだな。ま、トップたちも、そのことは考えてはいるだろうが。

 

 すべては明日の会談次第か。

 

 そんなことを考えながら、俺はブラブラと歩いていた。

 

 いよいよ明日に迫った会談にそれなりに緊張をしていたのか、兄貴に気分転換に散歩したらどうかと勧められたのだ。

 

 ここんとこ、色々あったからな。息抜きに丁度よかった。

 

 

「あっ」

 

 

 後ろから驚いたような声が発せられ、気になった俺は後ろに振り向く。

 

 

「ユウナ。それにライニーも」

 

 

 後ろにいたのは、ユウナとライニーだった。

 

 

「こんなところで何やってんだ?」

 

「いよいよ明日会談だからね。ちょっと緊張をほぐそうかと思ってちょっと散歩をね」

 

 

 俺と同じ理由か。

 

 だから二人とも私服姿なのか。

 

 

「チッ」

 

 

 ライニーが舌打ちをすると、俺と目を合わせないようにそっぽ向く。

 

 

「ちょっと、ライくん! そういう態度はやめようよ!」

 

「・・・・・・別に俺とこいつは仲良しじゃないからな」

 

「それでも、一緒に戦った仲じゃない! 何より、彼のおかげで、私たちは生きてるんだよ! ──って、お礼がまだだったね。助けてくれてありがとう、士騎明日夏くん」

 

「明日夏でいいよ。それに、礼なら治療をしてくれたアーシアに言ってやってくれ」

 

 

 傷ついて意識をなくしてた二人を部長たちのもとまで運んだのは確かに俺と槐だが、正直、あの場にレンが駆けつけてくれなかったら、全滅してただろうからな。

 

 

「おまえたちも会談に参加するのか?」

 

「うん。あの件に関わったヒトは皆。あ、でも、イリナちゃんは難しいかも・・・・・・」

 

「なんでだ?」

 

 

 事件後にはちゃんと回復してたはずだったが。

 

 

「・・・・・・私たち、あのあとね、会談に参加するにあたって『神の死』を知らされたの」

 

 

 なるほど、それでか。アーシアもゼノヴィアも、神の死を知ったときにはかなりのショックを受けてたからな。

 

 敬虔な信徒であるイリナも例外じゃないだろう。

 

 

「イリナは大丈夫なのか?」

 

「・・・・・・ショックのあまり、七日も寝込んでたからね。ゼノヴィアのことも相当ショックだったみたいだし」

 

 

 酷い別れ方になったって、ゼノヴィアが言ってたな。

 

 

「・・・・・・ねえ、ゼノヴィアって、やっぱり?」

 

「ああ、コカビエルの奴がうっかりバラしやがった。おまえらと違って、意図せず神の死を知ってしまったために、ゼノヴィアは追放されたんだ。まあ、悪魔になったのは、やぶれかぶれでだがな。それでも、いまは楽しそうにしてるよ」

 

「そっか。それはよかったよ」

 

 

 ユウナは安堵の表情を浮かべていた。

 

 ずっと心配してたんだろうな。

 

 

「二人は大丈夫だったのか?」

 

「あはは・・・・・・実は私とライくんって、そんなに信心深いってわけじゃないからね。ショックはショックだったけど、ゼノヴィアやイリナちゃんほどじゃないよ」

 

 

 そういや、ベルもそんなことを言ってたな。

 

 俺はふと気になったことを訊いてみる。

 

 

「二人は、大天使ミカエルが三大勢力で和平を結ぼうとしてることは知ってるのか?」

 

「うん。そのことも聞かされてるよ」

 

「二人はそのことをどう思ってるんだ?」

 

「私は反対する気はないよ。仲良くできるなら、それが一番だから」

 

 

 そういえば、こいつは初めて会ったときから、悪魔であるイッセーたちに敵意などの悪感情は見せてなかったからな。

 

 

「それに──」

 

「和平が結ばれれば、『血の悪魔の子供たち(ブラッド・チルドレン)』であるおまえたちの立場も少しはマシになる、か?」

 

「うん。そういうこと」

 

「おまえはどうなんだ?」

 

 

 俺はライニーに訊いた。

 

 

「フン」

 

 

 ライニーはそっぽ向くだけだった。

 

 ま、ユウナたちの立場がよくなるのなら、こいつは反対しないだろう。

 

 ──何より、姉を殺さなくてもよくなるかもしれないからな。

 

 

 ビュゥゥゥ!

 

 

 一瞬だけ一際強い風が吹いた。

 

 

 フワッ。

 

 

「ん?」

 

 

 風に乗って何かが飛ばされてきたので、反射的にそれをキャッチする。

 

 飛ばされてきたのはベレー帽だった。画家とかがよく被るものよりも、オシャレ向けのものだった。

 

 誰かが被ってたのが風で飛ばされてしまったのだろう。

 

 風はそんなに長く吹いてないので、持ち主はすぐ近くにいるはずだな。

 

 そう思い、風上のほうを見る。

 

 

 サラッ。

 

 

 ──視界に銀色が映った。

 

 肩下まで伸ばした銀髪の少女が不安そうな表情で何かを探してるのか、あたりをキョロキョロとしていた。

 

 日本人じゃないな。歳は中学生くらいか?

 

 キョロキョロするたびに、銀色のロングヘアがはためき、そのさまが幻想的で目を引いた。

 

 

 どくん。

 

 

 ──俺はその少女から目が離せなかった。

 

 ・・・・・・この感覚──クロエのときと同じ──。

 

 

「その帽子、あの子のかな?」

 

「──ッ!? あ、ああ、たぶんな・・・・・・」

 

 

 ユウナに声をかけられて現実に引き戻された俺は、慌てて少女のほうに歩み寄る。

 

 

「おまえが探してるのはこれか?」

 

 

 日本語が通じる、もしくは、俺が話せる言語だといいんだが。

 

 少女は俺の手に持つベレー帽を見ると、不安そうな表情から一転してパァァっと明るくなった。

 

 

「うん! 風に飛ばされちゃって、探してたの!」

 

 

 俺からベレー帽を受け取った少女は大事そうに抱きしめていた。よっぽど大事なものなんだろうな。

 

 それにしても、日本語が堪能だな。

 

 

「ありがとう、お兄ちゃん! これ、お友達が買ってくれた宝物なの!」

 

 

 ここまで大事されてんなら、そのダチもプレゼントしたかいがあったろうな。

 

 ふと、ベレー帽を被り直した少女が背伸びしながら俺のことを覗き込んでいた。

 

 サファイアのような澄んだ青い瞳に見つめられ、思わずドキッとしてしまった。

 

 

「ど、どうした?」

 

「お兄ちゃん、リーリヤと会ったことある?」

 

 

 リーリヤってのはたぶん、この子の名前だろう。

 

 そして、昨日の俺がクロエ・シュバリエに訊いたことと同じことを訊かれてしまった。

 

 

「・・・・・・いや、初対面のはずだ」

 

 

 クロエ・シュバリエと同じく、間違いなく初対面のはずだった。なのに、なぜか初めて会った気がしない。

 

 ──本当になんなんだ、この感覚は?

 

 

「そっか。なんか、初めて会った気がしなかったから」

 

 

 不思議そうに首を傾げる少女。

 

 この子も俺と同じ感覚を覚えたのか?

 

 

「ねえ、お兄ちゃん。名前はなんて言うの? 私はリーリヤ。リーリヤ・カナレイカ」

 

「──明日夏だ。士騎明日夏」

 

 

 突然、名を問われ、戸惑うも、とりあえず名乗った。

 

 

「──明日夏、明日夏・・・・・・」

 

 

 少女──リーリヤ・カナレイカは小声で俺の名前を何回も復唱していた。

 

 

「うん、よろしくね、明日夏!」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

「ねえ、明日夏。私の名前を呼んでみて」

 

「・・・・・・えっ・・・・・・は?」

 

「早くー!」

 

「・・・・・・え、えっと、リ、リーリヤ?」

 

 

 俺が名を呼ぶと、リーリヤは満面の笑みを浮かべる。

 

 なんか調子狂うな・・・・・・。妙に断りずらかったし。

 

 

「リーリヤ」

 

 

 男性と思しき声でリーリヤが呼ばれた。

 

 声がしたほうを向けば、メガネをかけたリーリヤと同じ銀髪の男性がいた。歳は四十前後といったところか。

 

 この子の父親か?

 

 男性は俺のほうをチラッと見ると、すぐにリーリヤのほうに視線を戻す。

 

 

「そろそろ帰るぞ。時間だ」

 

 

 男性はリーリヤに冷淡な口調で言った。

 

 

「はーい、お父さん」

 

 

 リーリヤは少し残念そうに返事をした。

 

 やっぱり父親だったか。

 

 

「ばいばい、明日夏! また会おうね!」

 

 

 そう残すと、リーリヤは父親のもとに駆けていく。

 

 父親のもとまでたどり着くと、リーリヤはこちらを向き、手を振っていた。

 

 とりあえず、手を振り返しておく。

 

 リーリヤの父親は俺を一瞥すると、リーリヤを連れてこの場から去っていった。

 

 そのタイミングでユウナが俺の隣に歩み寄って言う。

 

 

「不思議な子だったね?」

 

「ああ」

 

 

 それにしても、クロエといい、リーリヤといい、あの感覚は一体なんなんだ?

 

 別にいやな感覚ではないんだが、なんかモヤモヤする。

 

 

「行くぞ、ユウナ。俺たちは遊びに来たわけじゃないんだからな」

 

 

 ライニーがユウナを置いてどっかに行こうとしていた。

 

 

「あっ、待ってよ、ライくん!?」

 

 

 ユウナは慌てて駆けだす。

 

 途中でユウナは振り返る。

 

 

「それじゃあね、明日夏くん。また会談で」

 

 

 そう言い、ユウナはライニーのあとを追っていった。

 

 

「散歩の続きするか」

 

 

 クロエとリーリヤのことで少しモヤモヤするからな。

 

 

-○●○-

 

 

 公園にやって来た俺は缶コーヒーを飲みながらベンチで休憩していた。

 

 ・・・・・・結局、モヤモヤは解消しなかった。

 

 

「・・・・・・一体なんなんだろうな。この感覚は・・・・・・」

 

 

 誰に言うでもなく、つい独り言を発してしまった。

 

 息抜きに散歩してたはずが、逆に気になることが増えてしまうとはな。

 

 誰かに相談しようにもな・・・・・・。

 

 間違いないのは、惚れた腫れたみたいな浮ついたものじゃないってことだ。

 

 

「ここで考えてもしょうがねぇし、帰るか」

 

 

 コーヒーの空き缶を缶用のゴミ箱に捨て、帰路につこうとした時だった──。

 

 

「──ッ!?」

 

 

 ──再び、視界に銀色が映った。

 

 歳がリーリヤと同じくらいと思しき腰まで伸ばした銀髪の少女が公園内を歩いていた。

 

 リーリヤの銀髪と違って、こっちの少女はダークカラーの強い銀色だった。

 

 そして──。

 

 

 どくん。

 

 

 ──またか。

 

 クロエとリーリヤと会ったときと同じ感覚をまた感じていた。

 

 クソッ、一体なんなんだ、この感覚は!?

 

 だが、この感覚について再び自問自答するのは後だった。

 

 なぜなら、少女の様子が変だったのだ。

 

 足取りはおぼついてないし、時折、体がフラついていたからだ。

 

 心配になった俺は少女に声をかけようか考えた。

 

 そのタイミングで少女が突然、胸を押さえだし、その場に蹲ってしまった!

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

 俺は慌てて少女に駆け寄る。

 

 少女はとても苦しそうにしており、顔色も悪く、時折咳き込んでいた。

 

 

「待ってろ! いま、救急車を!」

 

 

 スマホを取り出し、119番に電話をかけようとしたら、少女が手で制した。

 

 

「・・・・・・待って・・・・・・けほっ・・・・・・僕は大丈夫だから・・・・・・」

 

「どう見ても大丈夫じゃないだろ!」

 

「・・・・・・一時的なものだから・・・・・・けほっ・・・・・・しばらくしたら、落ち着くから・・・・・・けほっ・・・・・・それよりも・・・・・・騒ぎにしたくないから、どこか、人目のつかないところに僕を連れてってよ・・・・・・けほっ・・・・・・ちょっと、歩くのしんどいから・・・・・・」

 

「だが!」

 

「・・・・・・お願い・・・・・・!」

 

 

 少女の懇願を聞き、渋々、近くの林まで少女を連れていった。

 

 

「・・・・・・けほっ・・・・・・けほっ・・・・・・」

 

 

 少女はさらに苦しそうにし、咳も酷くなっていた。

 

 とりあえず、俺は少女の背中をさする。

 

 

「おい! 血ぃ吐いてるじゃねぇか!?」

 

 

 口元を押さえてる手の指の隙間から血が漏れ出ていた。

 

 あきらかに吐血していた。

 

 

「やっぱり救急車を!」

 

「待って! 平気だから!」

 

 

 少女はそう言うが、これ以上は見過ごせなかった。

 

 救急車を呼ぼうと、スマホに手をかけたところで、少女に変化が現れた。

 

 咳が徐々に落ち着いていき、顔色も少しづつだが、だんだんよくなっていた。

 

 

「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・」

 

 

 荒かった呼吸も落ち着いたところで、さっきまで体調が酷かったとは思えないほど、少女は蹲った体勢から軽快に立ち上がった。

 

 

「・・・・・・大丈夫なのか?」

 

「うん、もう平気だよ。心配かけたね」

 

 

 少女は口元と手に付いた血をハンカチで拭いながら、笑みを浮かべながら言った。

 

 

「本当にもうなんともないのか?」

 

「うん。今日のは酷いパターンだったけど、時間が経てば、落ち着いて、なんともなくなるから」

 

「・・・・・・何かの病気なのか?」

 

「そんなところ。週に数回ぐらいの定期で体に激痛が走る病気でね。酷いときは、さっきみたいに血を吐くくらい咳き込むこともあるんだ」

 

 

 少女はそんな病気を患ってるとは思えないほど、軽く言っていた。

 

 

「・・・・・・ずいぶんと軽いな?」

 

「まあ、いまのところは入院するほどじゃないし、定期的に痛みを我慢してればいいだけだからね」

 

 

 少女はなんてことのないように言うが、先程の様子からして、激痛ってのは相当なもののはずだ。定期的にやってくるそれを、我慢し続けるなんて、並大抵の精神力じゃないだろう。

 

 俺だったら、確実に音をあげそうだな。

 

 

「じー」

 

 

 いつの間にか、少女が俺の顔を覗き込んでいた。

 

 少女の金色の瞳に射抜かれ、リーリヤのときと同じく、ドキッとしてしまう。

 

 リーリヤの場合は儚げな印象から心を奪われそうになるといった感じだったが、この少女の場合、心を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

 

 

「ねえ、僕とキミ、どこかで会ったことあるかな?」

 

「──ッ!?」

 

 

 リーリヤと同じことを訊かれ、別の意味でドキッとしてしまった。

 

 

「・・・・・・いや、初対面のはずだ」

 

「だよね。僕もそう思うんだけど。でもじゃあ、この初めて会った気がしない感覚はなんだろう?」

 

 

 少女は頬に人差し指を当て、首を傾げていた。

 

 

「・・・・・・俺も同じ感覚を味わって戸惑ってるんだよな」

 

「えっ、キミも僕と同じ感覚を味わってたの?」

 

「ああ」

 

 

 すると、少女が衝撃を受けたような表情をする。

 

 

「ハッ、もしかして──これが運命の出会いってやつ!」

 

 

 少女の言葉に俺は無言になってしまう。

 

 

「あれ? もしかして、僕、呆れられてる?」

 

 

 さっきの衝撃を受けたような表情がわざとらしかったからな。十中八九、ノリで言った冗談だろう。

 

 

「ちぇー、ノリが悪いなぁ」

 

「・・・・・・冗談でもそういうことは言わないほうがいいぞ」

 

「半分は本気だったりするよ」

 

 

 ・・・・・・それはそれで、反応に困るんだが。

 

 

「それにしても、本当に不思議だね? 初対面なのに、お互いに初めて会った気がしないなんて」

 

 

 実はついさっき、別の少女ともそうなったことを話すと、話がややこしくなりそうだから、リーリヤのことは黙っておくか。

 

 

「──お嬢さまにどのようなご用件でしょうか?」

 

「──ッ!?」

 

 

 突然、背後から声をかけられた!

 

 次の瞬間、気づいたら俺は背後にいる誰かによってすでに組み伏せられていた!

 

 まったく反応できなかった!

 

 拘束された瞬間も、体勢を崩された瞬間も、まったく認識できなかった。それほどまでに、鮮やかかつ高速で俺は組み伏せられていた。

 

 

「・・・・・・くっ・・・・・・」

 

 

 顔を後ろに向けると、銀髪の執事の格好をした男性がいた。

 

 この男、ただ者じゃない! どうする!?

 

 

「──もう一度伺います。お嬢さまにどのようなご用件でしょうか?」

 

 

 お嬢さま? まさか、目の前の少女のことか?

 

 そういえば、少女にはどことなく気品が感じられるし、血を拭ってたハンカチも高級感があった。

 

 つまり、少女はどこかの令嬢で、この男は少女の執事ってことか。

 

 だとしたら、俺はこの男に主に近づく不審人物として誤解されてるわけか。

 

 

「待って、ユーディオス!」

 

 

 俺は少女に誤解を解くよう頼もうとしたところで、少女がすでに執事にことのいきさつ話していた。

 

 

-○●○-

 

 

「・・・・・・早とちりをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 

 

 少女によって誤解が解けたところで、執事が深々と頭を下げてきた。

 

 

「まったく、僕を介抱してくれたヒトをいきなり組み伏せるなんて」

 

 

 少女は腰に手を当ててだいぶおかんむりだった。

 

 話を聞くと、どうやら少女は友人たちとショッピングに来てたそうだが、少女がはぐれてしまい、それを聞いた執事が慌てて探してるところで、人目のつかない林の中で少女と二人きりでいる俺を見て、俺が少女を害しようとしてると勘違いしたみたいだ。

 

 

「頭を上げてください。それだけ、彼女のことが心配で、冷静な判断力が鈍ってたってことでしょうし。俺は気にしてませんから」

 

「寛大なお心遣い、感謝いたします」

 

 

 執事は頭を上げると、少女を半眼で睨む。

 

 

「もとはといえば、お嬢さまがはしゃぐあまり、フィーさまたちとはぐれたのがいけないのですよ」

 

「あはは・・・・・・」

 

 

 執事に言われ、少女はバツが悪そうに目を逸らしていた。

 

 

「ご病気のこともあるのです。あまり、単独行動は控えてください」

 

「はいはい」

 

「お返事は一回です」

 

「はーい」

 

 

 執事に言われた少女は若干、不貞腐れていた。

 

 

「すみません、お名前をお伺いしても?」

 

「明日夏。士騎明日夏です」

 

「明日夏さま。お嬢さまを介抱していただき、誠にありがとうございました」

 

「いえ、たまたま近くにいたので。それにしても、ずいぶんやんちゃなお嬢さまみたいですね?」

 

 

 つい思わず、訊いてしまった。

 

 執事は苦笑しながら言う。

 

 

「ええ。ご病気にも関わらず、それを気にさせないほど明るいのがお嬢さまのよいところなのですが、同時にそれはお転婆さにも繋がっておりまして。幼少の頃から手を焼かされてきましたよ」

 

「ちょっと、初対面のヒトに変なことを言わないでよ」

 

 

 執事の言葉に少女は不満そうな表情をしていた。

 

 

「事実を言ったまでです」

 

「ぶー」

 

 

 少女はさらに不貞腐れてしまった。

 

 なんか、主と従者というより、年の離れた兄妹みたいだな。

 

 

「あっ、そういえば、まだ自己紹介してなかったね」

 

 

 唐突に少女が言った。

 

 強引に話題を変えたな。

 

 

「僕はアルティナ。呼び捨てでいいよ。よろしくね」

 

「執事のユーディオスと申します。以後、お見知りおきを」

 

「改めて、士騎明日夏だ」

 

 

 軽く自己紹介したところで、ユーディオスさんがアルティナに言う。

 

 

「お嬢さま、念のため、本日の外出はここまでにしましょう。ご病気のこともあります。フィーさまたちも心配しておられますし」

 

「ちぇー。しょうがないな。そういうわけだから、明日夏。僕たちはもう行くよ」

 

 

 確かに、すっかり回復してるようだが、ここは大事をとって、安静にしてるべきだろう。

 

 

「ああ。お大事にな、アルティナ」

 

「うん、ありがとう。じゃあね、明日夏」

 

「それでは、明日夏さま。お嬢さまを介抱していただき、重ね重ねありがとうございました」

 

 

 アルティナは手を振り、ユーディオスさんは恭しくお辞儀をして、この場から去っていった。

 

 

「気分転換で散歩してたはずが、色々あって、なんか逆に疲れたな」

 

 

 リーリヤとアルティナ、それから、クロエ。初めて会った気がせず、妙な感覚を覚えさせられる少女たち。一体、俺と彼女たちに、なんの関係があるんだ?

 

 

「考えても仕方ねぇか。今日はもう帰るか」

 

 

 これ以上散歩してても、気分転換にならなそうだからな。

 

 リーリヤと会った場所がある方向とアルティナが去っていった方向をそれぞれ一瞥したあと、俺は帰路につくのだった。

 

 

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