ハイスクールD×D 駒王学園の赤と緋の双龍   作:フレイムドラゴン

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Life.5 俺、生き返りました!

 

 

「また会ったわね、士騎明日夏くん。早速で悪いのだけど、ここで何があったのか、詳しく話せるかしら?」

 

 

 グレモリー先輩に訊かれた俺は自身の不甲斐なさからくる苛立ちを抑えながら事の経緯を説明する。

 

 

「・・・・・・ここに倒れてるイッセー──兵藤一誠が堕天使に殺されました。理由はイッセーに自分たちを脅かす可能性がある『神器(セイクリッド・ギア)』を宿していると判断したからです」

 

 

 それを聞いて、グレモリー先輩は確証を得たかのような反応してイッセーのほうに視線を移す。

 

 

「そう、やはりこの子には『神器(セイクリッド・ギア)』が宿っていたのね」

 

 

 それを聞いて、思わず内心で先輩に対して怒りが沸き起こるが、ぐっと堪える。

 

 

「──知っていたんですか? イッセーに神器(セイクリッド・ギア)が宿っていたことを」

 

 

 それでも、キツめ口調で先輩に言ってしまった。

 

 

「確証はなかったけど、一応目はつけておいたのよ。堕天使がこの子に接触したあたりからその可能性があるとは思っていたわ」

 

 

 どうやら、最初から天野夕麻──レイナーレが堕天使だったことにも気づいていたみたいだな。

 

 だったらッ! ──と、感情的になりかけるがなんとか頭を冷やす。

 

 俺の内心の怒りを察したのか、先輩は申し訳なさそうに言う。

 

 

「──ゴメンなさいね。堕天使のことは監視していたのだけど。・・・・・・私たち悪魔と堕天使の関係のこともあるから、おいそれと介入はできなかったの。一応は理解してもらえるとありがたいのだけど・・・・・・」

 

 

 悪魔、堕天使、そして天使は過去に大きな戦争を起こした。悪魔の人口が著しく激減したのもその戦争が原因だ。他の勢力も小さくない被害が出ており、互いに疲弊し、いまは停戦状態になっている。──だが、ほんのちょっとの切っ掛けで戦争を再開しかねない緊張状態だともいう。

 

 そのことを考えれば、たかだか一個人、しかも他人のことで不用意に悪魔が堕天使と関わるべきではないことは理解できる。

 

 

「・・・・・・でも、あなたからしてみれば・・・・・・納得はできないでしょうね・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・ええ。できたら、堕天使の行動を阻止してほしかったですよ。

 

 ・・・・・・・・・・・・もっとも、俺がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったんだがな・・・・・・。

 

 俺はふと、先輩にならイッセーのことを()()()()()()ことができる方法があることを思いだす。

 

 そんなことを考えている俺をよそに、先輩はイッセーのもとまで歩み寄ると、うんと頷く。

 

 

「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげるわ」

 

 

 その言葉に俺は驚く!

 

 

「意味はわかるでしょう?」

 

「ええ」

 

 

 上級悪魔が他種族を悪魔へと転生させる際にある道具が使われる。それが『悪魔の駒(イービル・ピース)』と呼ばれるものだ。

 

 『悪魔の駒(イービル・ピース)』には、死んだ者でさえも悪魔へと転生させることができる。つまり、イッセーを悪魔として生き返らせるということだ。

 

 

「──でも、なぜ?」

 

 

 『悪魔の駒(イービル・ピース)』には限りがある。だから、主のステータスにもなる下僕選びには慎重になってしまうものだ。

 

 正直、頼んだとしても、断られるだろうと思っていたのだが──。

 

 

「勘違いしないで。ただ、善意でやるわけではないわ。堕天使が危惧するような神器(セイクリッド・ギア)を持つこの子が欲しいと思ったからよ」

 

 

 なるほど。ちゃんとこのヒトなりのメリットはあるわけか。

 

 

「理由はどうあれ、イッセーを助けてくることには感謝します。ですが──」

 

 

 下僕を本当にただの駒のように扱う上級悪魔がいることがあり、先輩がイッセーをそんなふうに扱うかもしれないという一抹の不安を覚え、つい先輩を睨みつけてしまう。

 

 

「わかっているわ。あなたが考えているようなことはしないから」

 

 

 それでも──。

 

 俺はグレモリー先輩を真っ直ぐ見据えながら告げる。

 

 

「──仮にそのようなことをするようなら・・・・・・何があろうとも、あなたからイッセーを引き離す! たとえ、あなたが()()()()だろうと!」

 

 

 そう。先輩は実は魔王の妹でもあるのだ。

 

 それを聞いて、グレモリー先輩は目を細めて言う。

 

 

「・・・・・・それは、下手をすれば悪魔全体を敵にまわしてもかまわないと受け取ってもいいのかしら?」

 

 

 俺はそれに一切怯むことなく言う。

 

 

「・・・・・・覚悟がなければ、魔王の妹であるあなたにこんな啖呵きりませんよ」

 

 

 正直、悪魔全体を敵にまわしてタダで済むとは思っちゃいない。十中八九、死ぬだろう。

 

 それでも、イッセーに危害を加えようとするのなら、なにがなんでもかじりついてやる!

 

 そういう想いと覚悟をこめて、先輩に告げた。

 

 それを聞いて、グレモリー先輩は笑い出す。

 

 

「うふふ。あなた、おもしろいわね。いいわ、約束する。絶対にこの子のことは悪いようにはしないわ。我らが魔王さまに誓って」

 

 

 グレモリー先輩も真っ直ぐ俺を見据えながら言った。

 

 その言葉に嘘偽りがないことを把握した俺は、友人の恩人になるようなヒトに失礼な態度をとってしまったことを詫びる。

 

 

「すみませんでした」

 

 

 先輩は気にしてないと言うように手を振る。

 

 

「いいのよ。それだけ、あなたにとって、お友達が大事ってことだもの。じゃ、そろそろ彼を生き返らせましょうか」

 

 

 そう言い、先輩は紅色をしたチェスの駒を取り出す。

 

 このチェスの駒が『悪魔の駒(イービル・ピース)』だ。チェスを模して、『王』(キング)』以外の駒と同じ数──『女王(クイーン)』が一個、『騎士(ナイト)』が二個、『戦車(ルーク)』が二個、『僧侶(ビショップ)』が二個、『兵士(ポーン)』が八個の計十五個がある。

 

 グレモリー先輩が取り出したのは『兵士(ポーン)』の駒八個だった。

 

 俺は思わずそれに驚いてしまう。

 

 

「八個すべてですか?」

 

「ええ。こうしないと、この子を転生できないの。それだけ、この子に宿っているものが規格外ということよ」

 

 

 転生者のスペックが高い場合、転生させる際に必要な駒の数が多くなるケースがあるという。

 イッセーは本来、普通の人間だったので、ぶっちゃけてしまえば、駒ひとつで十分な程度のスペックでしかないはずである。

 

 先輩の言う通り、イッセーの身に宿っているものはそれだけ規格外だったということなのだろう。

 

 何も知らない普通の人間であるイッセーにそれだけ強大な力を扱いこなすのはまず不可能に近い。最悪、暴走して、イッセーのみならず、周りにいる俺たちもタダでは済まなかったかもしれなかった。堕天使が危惧するわけだ。

 

 グレモリー先輩は『兵士(ポーン)』の駒をイッセーの胸の上にすべて置く。

 

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、兵藤一誠よ。いま再びこの地に魂を帰還せしめ、我が下僕悪魔と成れ。汝、我が『兵士(ポーン)』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

 

 『兵士(ポーン)』の駒が紅い光を発し、ひとつずつイッセーの胸に沈んでいく。

 

 すべての駒が沈み、それに伴ってイッセーの腹の傷が塞がり──イッセーが息を吹き返した!

 

 

「ふぅ。これでもう大丈夫よ。あとはこの子を家へ帰すだけね」

 

「それは俺がやりますよ」

 

「じゃあ、お願いするわ。それから、この子には今日のことや悪魔のことは伏せておいてくれるかしら」

 

「──自力で自分の身の変化に気づかせるためですか?」

 

「ええ」

 

 

 確かに、自力で気づいていったほうが、自分の身に起こった変化も受け入れやすくなるか。

 

 それでも、パニックにはなるだろうが。

 

 

「頃合を見て真相を話すから、そのときはあなたも来てちょうだい」

 

「わかりました」

 

「それじゃ」

 

 

 グレモリー先輩は魔法陣による転移でこの場から去っていった。

 

 

「──さて」

 

 

 俺はイッセーを担ぐ。

 

 血まみれだったが、幸い時間も時間なので、人がいなくて助かった。

 

 俺はそのままイッセーを担いで家に向かう。

 

 道中、担いでいるイッセーに視線を向ける。

 

 

「・・・・・・神器(セイクリッド・ギア)、か」

 

 今回の事件が起こる原因となったものの名を呟いた。

 『神器(セイクリッド・ギア)』──聖書に記されし神が作ったとされる特定の人間に身に宿る規格外の力。イッセーが殺される原因になったものだ。

 

 その力は様々なものがあり、人間社会規模でしか機能しないものもあれば、あの堕天使が言ったように、種族規模に影響をおよぼす力を持ったものもある。

 

 そして、後者のほうがイッセーに宿っていたとはな。

 

 堕天使が種族規模で危険視したり、先輩の『悪魔の駒(イービル・ピース)』の『兵士(ポーン)』の駒をすべて使わなければイッセーを転生させることができなかったのことを考えると、相当規格外な力を持ったものがイッセーに宿っていたことになる。

 

 悪魔になったこともあり、イッセーはもう、普通の暮らしはできなくなった。

 

 イッセーが自分の身に起こったことを受け入れてくれるかどうか・・・・・・。

 

 俺も今後のことで兄貴たちと相談したほうがいいだろうな。

 

 

「さて・・・・・・千秋になんて説明するか。・・・・・・・・・・・・荒れそうだな・・・・・・」

 

 

 イッセーが一度死んだこと、悪魔として生き返ったこと、イッセーの身に規格外レベルの神器(セイクリッド・ギア)が宿っていたこと。説明することがたくさんあるな。

 

 それから家に着いて、すぐに千秋と鉢合わせた。

 

 予想通り、イッセーの状態に慌てたり、イッセーが一度死んだことにショックを受けたり、イッセーが生き返ったことに涙を流しながら安堵する千秋をなだめるのに苦労するのだった。

 

 

-○●○-

 

 

「おまえら・・・・・・マジで夕麻ちゃんのことを覚えてないのか?」

 

「・・・・・・だから、そんな子知らねぇって」

 

「何度も言うが、俺たちはそんな子紹介なんてされてないし──おまえに彼女とかありえない」

 

 

 学校の休み時間、俺は松田と元浜に夕麻ちゃんのことを訊くが、二人とも知らない──ていうか、初めからいなかったふうに言う。

 

 最初は俺をからかっているのだと思った。

 

 けど、一度真剣に語り合った結果、そうでないと痛感する。

 

 あの日──夕麻ちゃんとデートした日、俺は彼女とデートをして、彼女に殺された──という夢を最近見たんだ。

 

 それからだ。夕麻ちゃんの痕跡がいっさいなくなっていたのは。ケータイにあった電話番号もメアドも消えていた。

 

 夕麻ちゃんと過ごしてきた時間が全部嘘だったと、夢だったと言うのかのように・・・・・・。

 

 

「何の騒ぎだ?」

 

 

 そこへ、明日夏と千秋がやってきた。

 

 そういえば、夢の最後らへんに明日夏が出てきたな。

 

 

「な、なあ、二人とも! もう一度訊くけど、二人とも、夕麻ちゃんのこと覚えてるか!?」

 

 

 俺は二人に詰め寄るが──。

 

 

「・・・・・・夕麻? 俺ももう一度訊くが、本当に誰なんだ?」

 

「・・・・・・うん、誰のこと?」

 

 

 二人から帰ってきた答えは松田と元浜のと同じようなものだった。

 

 明日夏と千秋も夕麻ちゃんのことは覚えていない。松田と元浜と同じだ。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 そこへ、騒ぎを聞きつけて霧崎さんがやって来た。

 

 俺は霧崎さんにも訊く。

 

 

「なあ、霧崎さん。天野夕麻って子のこと、覚えてる?」

「・・・・・・天野夕麻さん? ううん、知らないヒトの名前だよ」

 

 

 霧崎さんも同じだった。

 

 

「おまえ、エロい妄想ばっかしておかしくなったんじゃね?」

 

 

 松田が憐れみの視線を向けながら訊いてきた。

 

 

「おまえと一緒にするな! 俺は確かに──」

 

 

 俺の言葉を遮り、松田が俺の肩に手を置く。

 

 

「いいから、今日は俺ん家に寄れ。秘蔵のコレクションを皆で見ようじゃないか!」

 

「それはいい! 是非そうしよう!」

 

 

 元浜も松田の提案に乗っかった。

 

 二人はグフフフといやらしい笑い声をあげて俺を置いて勝手に話を進めてしまう。

 

 

「二人とも、男の子なんだから、そういうのに興味があるお年頃なんだろうけど、もう少し場所を考えたほうがいいよ」

 

 

 霧崎さんがやんわりと注意を促してきた。

 

 そんな霧崎さんに明日夏が言う。

 

 

「・・・・・・無駄だ、霧崎。こいつらは言っても聞かねえよ・・・・・・」

 

 

 すると、松田と元浜が明日夏に食ってかかる。

 

 

「うるさい! 美少女を入れ食いしてるような奴には関係のないことだ!」

 

「・・・・・・そんなことした覚えも、やる気もねえよ」

 

「女子に人気がある時点で入れ食いしてるようなものだ!」

 

 

 明日夏と松田と元浜のやり取りを見て苦笑していると、千秋に袖を引っ張られる。

 

 

「どうした、千秋?」

 

「・・・・・・イッセー兄、大丈夫?」

 

 

 ・・・・・・千秋にまで、俺がおかしくなったって思われてんのかな? 真剣に心配そうに俺のことを見ていた。

 

 俺は千秋の頭をなでながら言う。

 

 

「大丈夫だよ。変なこと訊いて悪かったな」

 

 

 頭をなでられた千秋は安心したような表情になる。

 

 千秋って、明日夏や冬夜さん、千春さんになでられるとちょっといやそうにするけど、なぜか俺になでられるときはうれしそうにするんだよな?

 

 

「おい、イッセー! なに千秋ちゃんとイチャついてんだ!」

 

「せっかく心配してやってるってのに! ふざけるな!」

 

 

 松田と元浜が血の涙を流さんばかりに怒鳴ってきた。

 

 

「い、いや、別にイチャついてなんかいねえよ!」

 

 

 おもわず、千秋の頭から手を離してしまう!

 

 千秋のほうも顔を真っ赤にしちゃってるし!

 

 

「おまえら、少し落ち着けよ」

 

 

 明日夏が二人を諌めようとするが、松田と元浜の熱は冷めない。

 

 

「そんなに千秋ちゃんとイチャつけるんなら、彼女がいる妄想なんてしなくていいだろうが!」

 

「まったくだ! 何が夕麻ちゃんだ!」

 

 

 二人の怒りメーターがどんどん上っていくなか──。

 

 

「──いい加減、やかましいんだよ」

 

 

 明日夏のアイアンクローによって、二人は撃沈してしまった。

 

 そんないつも通りの光景にハハハと笑っていると、俺の視界に紅が映る。

 

 学園三年のリアス・グレモリー先輩が俺たちのそばを通り抜けていったのだ。

 

 そのとき、リアス先輩が微笑みながらこちらのことを見ていた。

 

 その瞬間、心まで掴み取られるような感覚に陥った。

 

 そして、不意に思い出した。──リアス先輩らしきヒトが夢に出てきたことを。

 

 

―○●○―

 

 

『変身! 花弁ライダーピンキー!』

 

 それから、松田と元浜に「これ以上、千秋ちゃんとイチャつかせるか!」と無理矢理松田の家に連れてこられて、松田の秘蔵のエロDVDとやらを見ていた。

 

 

「おおぉッ! これはモモちゃんの新作、花弁ライダーピンキー!」

 

「フフン、入手にはちと苦労したがな」

 

 

 二人がDVDに興奮しているのをよそに、俺はいまだに夕麻ちゃんのことを考えていた。

 

 やっぱりおかしい。数日間の記憶が全部夢でしたなんて・・・・・・普通ありえるか?

 

 仮にそうだとして、そのあいだの記憶はどこ行っちまったんだ?

 

 

「おい、どうしたんだよ、イッセー?」

 

 

 考え込んでいると、松田が話しかけてきた。

 

 

「おまえ、桃園モモちゃんのファンだろう?」

 

 

 桃園モモってのは、いま見ている特撮番組に出ているアイドルの名前だ。松田の言う通り、俺は桃園モモちゃんのファンだ。彼女の音声でいろんなシュチュエーションな起こし方をしてくれるという革新的な目覚まし時計を持っているほどだ。

 

 普段だったら、二人と同じようにテンションが上がっていただろうが・・・・・・ただ、いまは夕麻ちゃんのことで頭がいっぱいで、そんな気分になれなかった。

 

 

「そうだ! さらなるムーディーを演出するため、灯りを消そう!」

 

 

 元浜はそう言い、立ち上がって部屋の電気のスイッチを押した。

 

 

「おおっ! いい感じ!」

 

「だろう!」

 

 

 あれ? 部屋の灯り消えてなくね?

 

 

「なあ、消えてねえぞ」

 

「あん? なんだって?」

 

「部屋の灯り消えてねえだろ?」

 

「はぁ? おまえ、何言ってんだ?」

 

 

 松田と元浜がおかしなものを見るような目で俺を見てきた。

 

 よく見ると、確かに部屋の灯りは消えていた。──でも()()()。灯りが点いていたときよりもはっきりと部屋の中が見えている!

 

 

「・・・・・・悪い・・・・・・俺、帰るわ」

 

「お、おい。具合でも悪いのか?」

 

「・・・・・・ああ・・・・・・そんな感じだ・・・・・・」

 

 

 松田の家から出て、帰り道を歩く。

 

 

「・・・・・・やっぱり・・・・・・昼間よりはっきり見える」

 

 

 道中にあった路地を見ると、もう日が暮れてろくに見えないはずの路地の中がはっきりと見えた。

 

 それに、あの夢を見てからというもの、どういうわけか体から力が溢れてくるみたいな感じがするんだ。

 

 

『やだやだ! 買って買って!』

 

『そんなにわがまま言うと、置いてっちゃうわよ』

 

『やぁぁだぁぁぁっ!?』

 

 

 俺の耳に駄々をこねる子供と子供を叱る母親の会話が聞こえてきた。

 

 

「な、なんで、あんな遠くの声が聞こえてくるんだ!?」

 

 

 親子がいるのは、ここから百メートルは離れているコンビニだった。普通ならどんなに叫んだとしても、こんなにはっきり聞こえるわけがない!

 

 俺はわけがわからなくなり、その場から駆けだした!

 

 どうしちまったんだ!? 俺の体おかしすぎだろ!?

 

 当てもなく走っていると、とある公園にたどり着いた。

 

 

「・・・・・・ここって・・・・・・夕麻ちゃんと最後に来た・・・・・・」

 

 

 そうだ・・・・・・ここだよ。ここは・・・・・・夕麻ちゃんとのデートで最後に来た場所だ。そして・・・・・・彼女に殺された。

 

 

 ぞくっ。

 

 

 突然、背筋に冷たいものが走った!

 

 

「なんだ!?」

 

 

 振り向くと、帽子をかぶり、スーツを着た男がこちらに歩み寄ってきていた。

 

 

「これは数奇なものだ。こんな地方の市街で貴様のような存在に会うのだものな」

 

 

 な、なんだ! 体の震えが止まらねぇ!

 

 

「フッ」

 

「──ッ!?」

 

 

 男に睨まれ、おもわず後ろに飛んだ俺は、その飛んだ距離に驚愕する。

 

 ちょっと下がったつもりだったのに!

 

 

「逃げ腰か?」

 

 

 男が問いかけてくるが、答える余裕なんてあるわけがなく、その場から急いで逃げだした!

 

 その足の速さに再び驚愕する。明らかにいつもよりも速度が上がっているからだ。

 

 普通なら混乱するところだが、いまはありがたい!

 

 全力疾走で走っていると、周囲に黒い羽が舞い落ちてきた。

 

 

「羽!? 夕麻ちゃん!」

 

 

 夢で見た夕麻ちゃんの持つ翼のものと同じ羽だったものだから、一瞬夕麻ちゃんかと思ったが、羽の持ち主は夕麻ちゃんと同じ翼を生やしたさっきの男だった。

 

 男はあっさりと俺を追い抜き、俺の前に降り立った。

 

 

「下級の存在はこれだから困る」

 

 

 ま、また夢かよ!? これ!?

 

 

「ふん、主の気配も仲間の気配もなし。消える素振りすら見せず、魔法陣すら展開しない。状況を分析すると、おまえは『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」

 

 

 そういう男の手には、夕麻ちゃんのと同じ光る槍のようなものが握られていた!

 

 同じ夢なら、こんな男より美少女のほうが一億倍マシだぜ──って、こんなときまで何考えてんだよ俺は!

 

 

「安心しろ。苦しむまもなく、殺してやろう」

 

 

 男が夕麻ちゃんのように槍を振りかぶる。

 

 夢の通りなら、あの槍で俺は──。

 

 

「──死ね」

 

 

 ドォンッ!

 

 

「ぐおぉっ!?」

 

 

 男が槍を投げつけようとした瞬間、槍が急に爆発した!

 

 

「・・・・・・これは貴様のしわざ──ではなさそうだな」

 

 

 男がそう言うのと同時に、俺を跳び越えて、黒いロングコートを着た男が俺の前に降り立った。

 

 顔は見えないけど、その後ろ姿から男の正体が俺にはすぐにわかった。長い付き合いだからな。

 

 

「──今度は間に合った」

 

 

 黒いロングコートをなびかせながら言うのは俺の幼馴染みで親友──士騎明日夏だった。

 

 

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