ぐらんぶる転生最強もの(仮) 作:紅茶タルト
いつものように、エスプレッソを淹れて父へ持っていく。
「ありがとうな、霧火」
「うん」
私はラテ。あまーくしていただきます。姉二人には普通にコーヒーを用意しておく。ハリオ式のペーパードリップだ。
程なくして起きてきて、「ありがとう」と言って飲む。これが我が家の朝。いつもどおりの日常だが、今日はちょっとイベントがあるらしい。
「そうそう。昼になったら伊織を迎えに行ってくるから、店頼むな」
「うん。……久しぶりね……伊織君。元気にしてるかしら」
「うん」
「そうだねー」
「霧火は生まれてないでしょ」
従兄弟の北原伊織。こっちに居たこともあったようだが、あっちに行ってて、こっちに戻ってくるとか。父と姉二人は彼について知っているようだけれど、不思議なことに私には彼についての思い出がない。ひょっとすると彼がここに居たのが十年前であることと、私の年齢が関係しているのかもしれないが確証はない。
まあ原作もアニメも知っているから一方的には知ってるんだけど。
お昼になり、父が車を出した。戻ってくれば私に家族が増えることになるのだろう。
「従兄弟だけど、年齢差あるしおじさんって呼んであげようかな」
「うーん……やめてあげたら?」
伊織でいいか。
今日は常連客で賑わう日のようだ。彼らはダイビングサークル『Peek a Boo』のメンバー。
客と言っても連中の注文はだいたい酒だが。他のダイビングショップは知らないが、ここでは酒を出す。*1普通に缶や瓶のビールを売る程度だが、安いし持ち込みもOK。そんな学生のためのサービスだ。なんならつまみくらい私が無料で出せるが、彼らはだいたい酒ばかり飲む。意味がわからない。世の中にはそういう人もいるだろうけど、こいつらみんなだ。意味がわからない。意味がわからない。
私も配膳とかするので、店のマスコット的に活躍してます。
「おーい、さしみ大皿で」
「はいはーい」
おさしみは私の領域。ほんとは熟成をこだわりたいのだが、設備もないし注文もあんまりないのでそれなり。〆て二日くらい冷蔵していたのを捌きます。
三万円の砥石で研いだカミソリみたいな切れ味の包丁ですぱすぱやって、持っていきます。
「どーぞ」
「おう、サンキュー霧火ちゃん」
暇な時は勉強をします。忘れている部分も多かったけど、天才ロリになりたかったのでまあまあ頑張って勉強した。
「今はどんな勉強をしてるんだ?」
「ここ」
「ほう、三角関数か」
Oを原点とする座標平面上に、点A(0,-1)と中心がOで半径が1の円Cがある。円C上にy座標が正である点Pをとり――
「わかる?」
「いや、俺はやらなかった範囲だな」
「これセンター試験のだよ」
まあ大学なんて入っちまえばこっちのもんよ! なのかもしれないが。
ラテを飲みながらなんとかかんとか解く。これがギリくらいが私の現在の学力だ。ちゃんと教えてくれる人もいるし、大学生がいっぱいいるこれはなかなかいい環境である。
お酒を出したりしていると、そのうち父の車の音がした。これから彼の物語が始まるのか。
感慨があるようなそうでもないような。もうお客さん感覚も抜けた。私も彼もこの世界の住人であり、彼のことは彼のことだ。
「おーい伊織! どこに行ったー? 先に中に入ってるぞー」
「今行きまーす!」
おっ。今のが伊織か。ドアが開いて、まず父が入ってきた。
「ただいま霧火」
「おかえり」
「おう。留守番ありがとうな」
そして、次いで伊織がドアをガチャっと。
――中に広がる地獄。
「アウトォ!!」
「セーフッ!!」
「よよいのよいッ!!」
すっかりできあがって、脱ぎまくっている筋肉たち。浴びるように酒を飲んで、実に楽しそうだ。
一度ドアを閉めて、さっきのはうっかり別空間に繋がってしまっただけという可能性を信じてかもう一度ドアを開く伊織。
「よよいのよいッ!!」
「……違う! 俺が望んだ新生活とこの光景は百八十度間逆なんだよ!」
今どき珍しいしっかりと自分の感情を表現出来るいい若者だ。好感を覚えるね。
なんやかんや揉めているようだが、みんなの肉圧が強すぎるせいかロリは目に入らないようです。
じゃんけんに負けて残念そうに陰部を露出するメンバーを見て、ギャーと悲鳴を上げ、去っていく伊織。
「ふむ、ホームシックか……」
多少常人としての視点が残っている私としては突っ込むべきなのかもしれないが……まあいいか。
父から今のが新人候補であると知り、追跡する信治と竜次郎。片方裸だけど、まあ……大丈夫だろう。たぶん。ここらのポリスは慣れてるし。
「元気だねぇ、みんな」
「はっはっは。お前も走ってきたらどうだ?」
「ふふ。それもいいけど、ちゃんと挨拶したいと思ってね」
「ああ、お前は初対面だったな」
現時点で既に楽しい日々を送っているが、これから訪れるであろう更に騒がしい日々はそれなりに楽しみではある。家族が増えるのもいいことだ。
程なくして、捕獲されてくる伊織。そろそろ、私も顔を出そう。
「"久しぶりだね"、伊織」
「ん!? …………」
唐突に肉の群れから飛び出す私に、言葉も出ない伊織。私の可憐さに驚いているのだろう。
「……なんで女の子も裸なんだよ!!」
「ははは」
それはね、私が全裸系幼女だからだよ。
「なんでこの店は全裸ばっかなんですか!」
「なんだ後輩。お前は俺たちが好きでこんな格好をしていると思っているのか?」
「違うんですか?」
「否定はしない」
「私は好きでやってるけど」
「変態だ……」
「だって楽じゃん」
裸はいいよ! 特に私のような幼女は誰に迷惑かけるでもないし。
「まあ聞け後輩。この格好には理由があるんだ」
「そりゃ理由もなく全裸になってたら文明レベルは原始時代まで遡りますよ」
私はほぼノーリーズンだけど、口は挟まない。
「温故知新というヤツだな」
「突っ込みませんからね。……それで、全裸だった理由はなんなんですか」
「うむ。実はだな、タンク準備のじゃんけんをやっていたんだ」
PaB恒例、タンクじゃんけん。タンクはけっこう重いのでお客さんが使う場所まで運ぶ係をじゃんけんで決める。順番や当番制とかにするよりも、負けたから、という納得があるのはいいと思う。
「はあ、それで?」
「それでとは?」
「いや、タンク準備はわかりましたけど、それが全裸となんの関係が?」
「なにを言っている。野球拳をしたら全裸になるのが常識だろう?」
「あなた方は野球拳以外のじゃんけんを知らないんですか!?」
ふむ。なるほどなあ。
「みんな。つまり伊織はこう言いたいんだよ」
「わかってくれるか、君も全裸だけど」
「本来の野球拳は、脱がないんだぞ、って」
「なに!? そうなのか!」
「違う!」
「まあ身内のノリってやつだよ。ねえ?」
「ああ、まあ言ってしまえばそうだな」
「一番的確かもしれん」
脱ぎやすいムードが大きいよね。
「ひどいノリだ……」
「おーい。くだらないことを話してないでそろそろタンクを運んでくれ」
「ういーす」
「丁度いい機会だ。伊織も一緒に行ってみるか?」
「どこへですか?」
「海だよ、海」
ここで私がインタラプト。そっちへ案内をします。歩きながら自己紹介をしましょう。
「こっちだよ」
「ああ、ありがとう。……ええと、」
「私のこと、覚えてる?」
「いや……」
「そっか。……十年ぶりだもんね」
「すまん」
「ううん、いいんだ。私は古手川登志夫の娘、古手川霧火、八歳だよ。改めてよろしく」
「ああ、ってことは俺のいとこの……おい今すごい矛盾しなかったか」
「ははは」
竜次郎と合流し、台車にタンクを乗せます。私も一本手伝う。
「よく持てるな……」
「鍛えてるからね」
開いてるスペースに乗ります。歩くのは嫌いじゃないけど、こういうのはやっぱ楽しい。*2
「俺は寿竜次郎。伊豆大機械工の二年だ。もうすぐ三年だが」
「あ、同じ学科なんですね」
台車の上から、流れる風景を見る。……海、好き。まだまだ飽きない。
まだちょっとだけ観光ムード。実家なんだけどね。
人生を謳歌するのに伊豆はそこそこいい。そこそこきれいな海があって、東京ともそこそこ近い。
ちょっと遠いが、空港もないことはない。富士山なんかもあるぞ。都会過ぎず自然に寄りすぎず、住んでみれば丁度いい環境だ。
「――最初から自分ができるものだけ選んでいたらなにも始まらない。……大事なのは、お前が興味を抱いているかどうかだろ」
お、かっこいいセリフだ。
そろそろ目的地。おや、奈々華姉だ。海から上がってきてる。台車から下りて、お出迎え。
「奈々華姉ー」
ひょい、っと飛び降りる。三メートルくらい下の岩場へ。真似をしてはいけない。
「あっ! もー、危ないことしないの」
「平気だって。知ってるでしょ、私が怪我したことないの」
ぷりぷり怒ってるけど、私は元気が余って仕方ないんだ。
ぎゅーっと抱きつくと誤魔化されてくれる。私もびしょぬれだけど、かまわん。
「下見お疲れさまです。タンク置いてきますねー」
「ありがとー。……あっ、伊織君!」
二人で階段を上がる。
「いらっしゃい伊織君。大きくなったね」
「あっ、ええと……」
「ああ。伊織、私達のこと忘れちゃったんだって。冷たいよねぇ」
「もう、霧ちゃんはまだ生まれてないでしょ。伊織君、ほんとに私のこと忘れちゃった? 十年ぶりだもんね。しかたないかな」
「あ、いえ。……思い出しました、奈々華さん。久しぶりですね」
私のことは忘れちゃったのに、もう。知らないんだから。
奈々華姉の作業に伊織も付き合うようだ。まあちょっと話すんだろうし邪魔することもない。一人店に戻ると、中は相変わらずの盛り上がり。
「おう、おかえり」
「ただいま」
今更だけど、不思議とパンツははいてるやつの方が多い。まあチン見酒ってのは避けたいか。珍味は合うのにな! ガハハ!
その点私はすごいな。見苦しい点が一つもない。なんて美しい体なんだ。
「諸君! 今日は新入生の歓迎会だ!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
それにしても、なんでもかんでも酒だよねぇ彼ら。そんなに楽しいもんなんだろうか。
「いいか……逃がすなよ!」
「うおおおおおお!」
「をおおおおお!」
「おおおおおおおおお!」
ま、楽しいならいいさ。酒どうこうはさておき、伊織も歓迎されるのは嬉しいだろう。
その伊織は入り口でなんか叫んでるが。
「片付けお疲れさん」
「とりあえず服を着てください。あと菜々華さん! 霧火ちゃんのマッパはいいんですか! 子供とはいえ、女の子ですよ!」
「そうね……」
目を伏せる奈々華姉。
「あ、よかった。さすがにあれは……」
「これで風邪一つひかないんだから、丈夫に育ってくれてよかったわ……」
「俺の味方はいないのか!」
奈々華姉に不満のあろうはずもない。
「じゃあ、私は伝票整理してくるから」
「うああああー!」
そして拐かされる伊織。歓迎会と書いて……なんかかっこいいカタカナが振られそうなギグにご招待だ。
まあ年齢とかは……きっと何浪かしていると考えればよい。
「ま、カクテルとかも作れるから欲しかったら呼んでよ」
「ここはなんの店なんだ……」
ダイビングショップだよ。まあ、その、ちょっと……。
なんかうまいこと言えそうだけど言わないでおこう。
「俺は先輩がたみたいなノリには絶対に染まりませんから!」
↓
「だっしゃあー! ナンボのもんじゃい!」
「ヒュー! やるじゃねえか伊織!」
「三人抜きたぁ恐れ入ったぜ!」
チンポには勝てなかったよ……。
またたく間にパンツ一丁になった伊織。みせいね、じゃなくて若いからそんなに酒も飲んでないだろうに、よくやれるものだ。
全裸ーズを量産し、誇らしそうだ。まあ楽しいんならいいんじゃないかな。
私は本来この時間は部屋でゲームしたりするのだが、折角なので成り行きを見守ります。もうずいぶん昔のことですが、好きな作品ではあったので。
うーむ、不思議な気分だ。
「何人かかってこようと俺のパンツは――」
「あ、千紗姉おかえり」
「千紗ちゃんおかえりなさい」
「……ただいま」
そしてこのタイミングで幼馴染が帰ってくるという道化っぷり。見てるぶんには面白いけど、十年ぶりに会ういとことの新生活といえば、当然甘酸っぱいバラ色を想像していただろう。だが今そのルートが無情にも、消えた。……まあそのうちなんとかなるんだけど、かわいそうと言えばかわいそうなものだ。
あと、誤魔化すように親しげに肩に手を置くのもよくない。好感度が少なくともプラスじゃないとボディタッチは嫌悪感しか生まない。
手を払い、上着を奈々華姉に渡し去っていく千紗姉。
「じゃ、さようならゴミク……虫けら」
「話を! 話を聞いてくれ! うああああ……なんでこんな事に……」
悪い酒。
酒は飲んでも飲まれるな、ってね。……ま、飲まれるのが怖くて楽しく飲めるかって感じなんだろうけど。
奈々華姉は千紗姉の服に顔をうずめて嬉しそうだ。美人キャラが非攻略対象であることが確定してしまう姿を見て、伊織もショックを受けている様子。
見どころも終わったし、今日はねよっか。
……伊織、かわいそうに。
翌日、伊豆大。
酔いつぶれ、講堂前で寝ている伊織たちとそれを取り囲みぱしゃぱしゃやっているモブたち。しかもパンイチとは。
……こんなん夏だろうが凍死するので真似してはいけない。しかも四月だぞ。
竜次郎なんてパンツすら。伊豆でよかった。伊豆だから捕まらなかったけど東京だったら捕まってた。私ですら服を着ているというのに。……ずるいぞ!
……どうするつもりだろうか、竜次郎。
「う……なんだ、夢か……」
遅刻ギリギリのところで起き上がる伊織。まあ、間に合うか間に合わないかで言えば間に合うだろう。
すまーとふぉんを確認してと。
「げえっ! 遅刻寸前じゃないか! なにが"絶対遅刻しない"だよ――」
というところで人混みに気づく。このへんで残りも起きる。
「な? これなら絶対に遅刻しないだろ?」
「あんたはバカかあああー!!」
……ま、死んでないようだし帰ろうか。
驚いたことに、その日伊織は帰ってこなかった。……んー、帰り道がわからなかったのだろうか。
……まあ、なんとかしてるだろう。もう子供じゃないんだ。二十歳以下は"少年"だけど、だってあんなに酒を飲んでいるんだから。
三日目となるとさすがに帰ってきた。入口の方から三人のエプロン姿に突っ込みを入れている声がする。奈々華姉に付いて、私もそっちへ。
「おかえりなさい、千紗ちゃん伊織君」
「おかえりー」
「……菜々香さん"だけ"か」
「私の裸エプロンになにか文句でも?」
奈々華姉が父に今日の客の延期を伝え、仕方なく二人は服を着る。私はそんな軟弱なことはしないが、着る自由自体は尊重する。
そんなわけで昼食。みんなでテーブルにつき、焼きそばと目玉焼きをいただきます。あと紅生姜。
「おお? この紅生姜すごいうまいですね。このへんって漬物屋かなんかあるんですか?」
「あ、それ霧ちゃんが作ったの。霧ちゃんそういうのすっごい得意だから」
「へえ! これを霧火ちゃんが…………だめだ、すげー気になる」
ん、私だけまだ裸エプロンなのが気になるのか? まあそのうち慣れるさ。
ちなみに目玉焼きも私が焼いたぞ。
「さーて夜の飲み会まで空いちまったな」
「ああそうだな」
「伊織、夜までどうする?」
「なぜそこで俺に振るんですか……」
飲む飲まないの話をしているが、奈々華姉がなにか言いたげですよ。
ところで常人でも三日連続飲み会ってできるん?
「……伊織君。今日も夜遊びなんて許しませんからね」
「あの……奈々華さん……?」
「伊織君がウチに来て三日目だけど、知ってる? ……自分の部屋がどこにあるのかを」
もぐもぐ。ふーおいしかった。それにしても越してきて三日目で自分の部屋知らないって、すごい生活様式だな。
そんなわけで、断る口実ができた伊織は不参加になることができた。やったね。だが。
「なにいいさ、そういう事なら仕方ない」
「今日の飲み会は青海女子大学との交流会だしな。どうせ人数は足りるだろ」
そう言って、用意していた道具の片付けに出ていく二人。
服を脱ぎ、畳み、奈々華姉に土下座をする伊織。このタイミングで二人が戻ってきた。
「ここまでしても許して貰えませんか!」
奈々華姉はびっくりしてるけど、目的のためなら頭を下げるのを惜しまないの、私は男らしくて魅力的だと思うぜ。ちゃんと服を畳んでいるのもポイント高い。
そんな男らしい伊織に私から一つアドバイスがある。
「伊織。気持ちはとてもわかるんだけど……」
「……なんだよ?」
「予言するけど、なんとか許してもらってもうまくはいかないよ」
「……なんでそんなことが?」
「こういうのは事前にはっきり言うもんじゃないから言わないけど、がっかりしないよう覚悟だけはしておいた方がいい」
というか具体的な理由は覚えてないだけだが、たぶんポシャるかなんかしたんだよ。
困惑する伊織だったが、ここで伏せカード発動だ。千紗姉!
「伊織。……霧火の占いは当たるよ」
「いやまさか。占いだろ? 俺そういうの信じないからな……」
そして竜次郎と信治。
「どーする?」
「一応メンバーに連絡しとくか。だめになるかもって」
「向こうに確認もした方がいいか」
「そうだな」
「って、先輩方も信じてるんですか!?」
「だーって、なあ?」
「なあ?」
ま、日頃の行いってやつだね。
スーパー幼女は普通に占いもできるぞ。面白くないからあんまやらんけど。理由なんて知らないがこれが当たる。
「霧ちゃんって不思議なとこあるから」
そう言ってなでなでしてくれる奈々華姉。ふふん。
「だから、今日は諦めてそろそろ荷解き済ませちゃお」
「うう……わかりました……」
とは答えたけど、諦めてないんだろうなあ。
食器を洗い終え、様子を見に行く。もちろんエプロンは置いてきた。体が軽い。
とんとんとノックをする。二回は便所ノックなんて迷信だ。もちろん目上の人には三回が無難だ。目上の人は迷信深いものだ。
「おお? どうぞ」
信治か。部屋の主はいないようだが……まあいい。
がちゃりと。
「おお……こりゃすごいな」
「だろう」
なんということでしょう。なにもなかったであろう部屋はエロポスターエロビデオエロ本で見事にレイアウトされ。
「おー。なんか通学路でエロ本見つけて読んでる小学生男子の気分だ」
床に広げて置いてくれてるのもいい。
どうだろう、エロ本見つけた小学生男子VRなんて。視点下げんの。雨に濡れて端がしわになってるとか、細かいとこにこだわってさ。で、画像データは好きに入れられるの。そうしたら斜陽も斜陽なエロ本出版社もちょっと息継ぎくらいできるだろ?
……なんかもうありそうだな。
「そうマジマジ見られると」
「さすがに罪悪感があるな」
「そう気にするな。おお、フェチものもある。まあそんなハードでもないけど。お、引退作って結構ハードなの挑戦するイメージが――あ、普通だ」
「なぜ詳しいんだ……」
あー、そうだそうだ。この感じで離れに追いやられる展開だったな。
まあ、一旦スルーとして。ちょっと離れて観察しようか。
部屋の外で見ていると、伊織が奈々華姉を連れて部屋へ。
「ち……違うんです奈々華さん! これは……!」
そしてぎくしゃくした動きで出てくる奈々華姉。うむうむ、純真だな。
「このど畜生どもがぁーッ!!」
誤解は生まれたけど、赤くなった奈々華姉がかわいいのでいいと思います。
しばらく部屋で遊んで、頃合いを見計らって見に行こうとすると、千紗姉と出くわした。カラーボックスを持っている。
「あ、千紗姉。それ伊織に?」
「うん。収納ないと困るだろうから」
なんだかんだで優しい千紗ちゃん好き。付き添って入ると、伊織はお楽しみ中だった。
『OH! YES! OH! YES!』
「なんか、綱引きみたいだね」
「ブッ!」
「もうそれにしか聞こえないな」
おーえすおーえす。
実際英語圏の人にはおーいえすに聞こえて恥ずかしいとか。
無価値なものを見るような目でただ見ていた千紗姉だったが、お前も見るか? の一言に持っていたカラーボックスを伊織の頭へ叩きつける。
ギャグ漫画以外では真似をしてはいけない。
ちなみに、この世界はギャグ補正があるので心配ない。
「へー、裏もあるんだね。洗濯屋ケンちゃんってある?」
「俺は持ってないが……」
「卒業した先輩は持ってたなあ」
「霧火。混ざるな」
あー。どなどな。
千紗姉に連行されている途中、これからの展開を思い出してきた。ふうむ。
そんなわけで離れに来た。まあ女子力というやつだ。掃除しといてやる。雨合羽とかでホコリ対策はばっちりだ。
決定的なとこに介入するか仲裁すればこっちに追いやられるのを防ぐこともできるだろうが、何年もこの世界に生きていれば前世で見た作品の主人公への感情移入とかもない。部屋が変わる程度のことを防いでやる理由は特に見つからなかった。どうせそうしてもなんかやらかすんだろうし。改変してもそこは収束しそうだ。
そんなわけで掃除。ここは部室として使われているが、男どもは誰も掃除しないからホコリが多い。ただモノは少ないのでぱぱっと大掃除できるだろう。はたきでぱたぱたするの、好き。
掃除機かけてっと。畳も拭いて。……お、ハエトリちゃん。ちっちゃいクモです。かわいい。
でも飼えないのでお外に追い出してやる。手を近づけるだけで離れてくれます。なんて種類かわかんないけど、縦にぴょんぴょん跳んでじわじわ逃げていく。
うむ、ばいばい。
心置きなく掃除機をかけてっと。
「霧火? 掃除してるの?」
「あ、千紗姉」
音が気になったか。
「うん。いつ必要になるかわからないからね。たまには掃除しないと」
「ふーん。手伝う?」
「ううん、ほとんど終わったよ。ありがとう」
「そっか」
片付けだけ一緒にして、その後は部屋でゲームしていると伊織の部屋から引っ越しが始まった気配がしました。
おめでとう伊織。今日が君のインディペンデンスデイだ。
映画近いため応援のために書いたものです。でもなんとなく満足できずとりあえずチラ裏。
男っぽいけど前世の設定がないため性転換タグなし。お好みであるものとして扱って下さい。