ぐらんぶる転生最強もの(仮) 作:紅茶タルト
そんなわけで耕平がサインを得たりするイベントを終え運動会。雨が降りそうだったが、晴らした。日本では運動会と言えば平和なかけっこや綱引きをイメージする人が多いと思うが、例えば西アフリカの共和制国家ブルキナファソに於いては宗教的理由からハードな要素が入り、毎年述べ数十名が死傷する儀式的側面を帯びたものとなっていたらすごいよね。
今日ばかりは店もお休みです。家族一同揃っています。残念ながら来れないPaBメンも多かったけれど、信治と竜次郎は来ている。
当然摩耶とかも。カッチコチの耕平とかも。あと伊織愛菜梓。そんな感じ。
さすがに脱ぐなと言っておいた。
今日はなんの個性もない運動服に身を包む。鉄下駄くらいはいておきたかったけれど、綱引きがあるのでレギュレーション的にね。普通の靴に甘んじて帽子をかぶり、小学生気分を満喫します。
まあ私はどんな服でもかわいいのでよし。まず、みんなで上級生が作ったのであろう入場ゲートをくぐります。謎。
なーに儀式儀式。歩きながら手を振ると、みんな振り返してくれます。んー、気の所為か存在感あるなああの地帯。
「古手川さん古手川さん」
「なんだい?」
「音楽も作ってたんだね!」
「ああ、うん」
私はYouTubeのチャンネルを三つもっている。KIRIKA名義のFXやゲームのインドアチャンネルと、海とかのアウトドアチャンネル、そして曲関連。曲と他は分けていたけど、こないだ相互にリンクを張った。本当はもうちょっとかっこよく、実は私だったの! ってやりたかったけどべつにプランがあったわけでもないのでまあこんなもんだ。
「こっそりリンクしたけど、気づいた?」
「うん! どっちもフォローしてたから」
「おー、音楽好きなんだね」
おしゃべりしながらよくわからない行進をして、しばらく体育座りで待機となります。
アニメとかだと主人公が活躍するシーンだけ抜粋されるとこですが、実際は順番です。まずは徒競走ですが、二年生のあとに五年生、その次が私たち。学年によって距離が違いますが、私たちは八十メートル走ですね。学年によって参加する競技は分けられ、二年が大玉でリレーは六年という感じ。私たち三年生は他に玉入れと綱引き。意外とあっさりしている。
まあ全員活躍させようと思ったら一日じゃ終わりませんものね。
話の流れとしては借り物競走とかあれば面白いんだけど、ないなあ。
なんやかや宣誓とかを聞き流して、まずはラジオ体操が始まる。これは動的ストレッチなのでちゃんと理にかなっています。
ほぼ覚えてないけど、まあなんとかなるものだ。
まずは二年生が走る。次に五年生が走る。赤組白組があるけど、そこはべつにいいだろう。
そんなわけで私だ。三年女子、各クラスが並び――ぱんっ!
一人だけクラウチングスタートから飛び出した私は、当然後ろの足音を引き離す。
もちろん、加速する魔法は《
「斬影拳!」
ゴールテープに肘を入れ、一着。両腕を挙げて喜びを表現すると、まあまあの歓声。振り返るとみんなまだ半分ちょいくらいです。ンー、がまんしてたけど本気だすのってちょっと気持ちいいな。
「すっごい速かったね!」
「みんなぜんぜん追いつけないよ!」
「がんばった」
ちょっとおしゃべりして、出番まで観客席へちらばります。
「いぇーい!」
「いぇーい!」
摩耶とじゃれて、合流。
「霧ちゃんお疲れ様」
「霧火ちゃん、すごい速いな!」
「倍くらいの速度出てたよ!?」
「はっはっは。霧火は俺を持ち上げて歩けるからな」
「マジですか」
パパ。それじゃあ私が怪力みたいじゃない。もー、ぷんすこ。うれしい。
最近けっこう自慢なのよね。この体自体は嫌いじゃないし。
「へー! 私も抱き上げてもらったことありますけど、男の人でもいけるんですね」
「おう。最初びっくりしたけどな」
父と摩耶はけっこう仲がいい。
「俺もやってもらったな」
「俺も。まあ二人はさすがに無理だったが」
「いや、できる。本気出せば」
魔法ありならたぶん。力を上げたぶんそれに耐えられるよう骨とかの耐久力が上がるのかいまいちよくわからないけど。
なんやかやあって、玉入れ。
特に理由は見当たらないが、私は投げるのが得意だ。ばんばん投げ入れて三十個差で勝利。
ところでこれって、間違いなく楽しいけど間違いなくなんの競技性もないよね。
さて。
「どや」
「すごいすごい! 練習してたの?」
「才能。ふふん」
「どんどん入ったもんな。見ていてほとんど霧火ちゃんの独壇場だったよ」
「おう。でも私の前では独
「せん?」
「本来は擅なのよさ」
地面に書いてみせる。
「へー! てへんなんだ」
「ほー」
「知らなかった」
豆知識。むしろ正しく使うと伝わりにくいので通常の会話上は気にすることはないが、私の認識内では気をつけてもらおう。
「お、出番だ」
「行ってらっしゃい。がんばって!」
「いてきまー」
「次は綱引きか」
さて。TSUNAHIKIは基本、体重が重要になってくる。引っ張り続ける体力も影響はするが、要は地面との摩擦だ。
今回は鉄下駄なしチャートで重りを巻いたりもしていない。やっぱりフェアプレイじゃないとね。やや前の方の位置をもらってと。
「がんばろうね!」
「うん」
ピーと笛が鳴る。ほとんど五分の勝負だ。あとこの学校ではオーエスとか言わないらしい。まあやめた方がいいよね。心だけで言います。オーイェース! オーイェース!
「オーケーカモン!」
《
私が持った部分に念動力をかけ、自分の力と合成する。そーれぐいっと!
ずずっと真ん中の結び目が引き寄せられる。この魔法の持続的なバリエーションの牽引力はけして絶対的なものではないが、それでも大人くらいの力はある。拮抗していたところにそれが加わるのだから、当然勝負は決まる。
あーだのうわーだのの声をあちらから引き出し、怪我をさせないように優しく決着をつけた。
うむ。
なんやかんやでゲートをくぐって、なんやかやあって、
「儀式完了!」
自陣へ帰還!
「お疲れー!」
「お疲れ様」
んへへ。こんなに見に来てくれるって嬉しいね。張り切っちゃった。
「たー!」
「わっ」
摩耶に飛びつく。
んで、ほっぺにちゅ。
みんなにちゅっちゅ。愛菜は口にもちゅっ。
「んー!?」
そんで千紗姉奈々華姉にすりすりして甘える。
えっ、私幸せすぎない?
「ふへへ……」
顔面が緩みきっている自覚はある。しかしそれも仕方ないこと。なにせ今この世界で一番幸せなのは私なのだから。間違いなく、世界が私を愛している。私も私を好きだ。あとこの世界も好きだ。
残念ながら、人は世界のためになにかをしてやることはできない。だからただ感謝を捧げる。どんな理由があって私がここにいるのかまったくわからないが、とりあえず今は幸せだからありがとう。なんらかの存在がなんらかの意図をもって私に与えたとしか考えにくいこの複数の過剰な力が今の所なんの前振りにもなっていないけど、なんらかの悪意があったとしても面白がってるだけだと信じます。
みんな来てくれたのに特に借り物競走や父兄参加みたいな競技の前振りでもなく普通に普通の運動会が終わり*1、みんなで家へ。感謝を込めて、こしらえておいたカレーを温めて振る舞います。
「おいしすぎるぅ!」
「なんだこりゃ……涙が出るぞ……!」
「くっ……! これは、三期六話でららこが食べていた……!」
と耕平。
「あれチキンカレーじゃなかったっけ?」
「んー、コメンタリーで説明してたけど、監督的にはシーフードなんだって。その前に鶏肉買ってたから描写的には矛盾するんだけど」
少し離れたあちらの席の話だが、疑問に思ったので本人に振ると、どうやら合ってるらしい。
私のは当然シーフード。
「うわっ、お店のよりおいしいじゃん。どうやったのこれ?」
「自作ルー」
親指を立てて答えます。
仕組みとかは一切わからないが、私の料理はなんかうまい。
奈々華姉が同じように作っても私の方がうまいので、なんらかの補正が働いているようだ。……まあヨシ! 料理は好きだし。
「食後はコーヒー。……すごいよ、今日のは」
「あはは、ちょっとこわいな」
んで、その力が十全に働くよう、手網焙煎をした。
その結果は――
……この世には、異常な理に蝕まれた、君ら人類には思いもよらないコーヒーがあることを思い知らせてやる。
それはそれとして、店の前に大型車両が止まる気配。宅配である。奈々華姉が応対し――店の中に二つの四斗樽が運び込まれた。一つ七十二リットル入る、酒樽である。
「飲め」
「ウオオオオオオォォ!!」
見に来てくれた礼だ。
さっそくバールでこじ開ける。
「あ、摩耶もいるし今日は脱いじゃだめな」
「む、そうか」
「仕方ないな」
既に上を脱いでいるが。下から脱がないとは紳士的だな。
開けた蓋を乗せて、木槌を用意。
「摩耶もやる?」
「やるやるー」
二つ用意していた木槌を片方持たせて、私が優勝と書かれた樽、摩耶が寿と書かれた樽の前に立ち、
「せーの、よいしょー!」
ぱかーん。
このように、一旦バールで開けてから割ります。木蓋はしっかりはまっていて中身が出ないようになっているので、そのまま叩くと蓋に酒が押されてその圧と衝撃が樽本体に向かうことになる。木でできた蓋を割るために用意されたパワーが木でできた樽に向かうわけだから、やめた方がいい。
なんのセンサーかPaBメンがどんどん入ってきて酒樽に群がり始めた。私たちは脱出して、コーヒーのお時間が訪れます。
酒チームじゃない方に世界最高のコーヒーと手作りチョコチップクッキーをお出しする。
「ありがと。運動会の締めに酒樽って、すごい景気いいね」
「最近お金を使うことに決めた」
「へえ。……うん!?」
私が作り出した炒り豆からの抽出液を一口飲んだ摩耶が、その身を打ち震わせる。
なかなか出会うことは難しいが、お茶やコーヒーには、身悶えするような瞬間がある。旨味の暴力で味覚をぶん殴られるのだ。
本来本当にうまくいった時しかできないが、私の能力はそのクリティカル判定を高確率で引き寄せる、
最近なにかレベルアップしたのか、能力が追加されたのか。たまにそういうことはあるけど、大部分私にはアプデ告知ないからな。
「……これは、本当に世界一かも」
「でしょ」
あちらでは愛菜がくねくねしている。これ、極めたらうまさで気絶させられそうだな。
「ね、あっちの人、ライブに来てたよね」
「ああ、耕平ね。奥の方で頑張っててくれたね」
「そうそう! カフェにもいたよね」
「ふふ。今村耕平……あいつはどこに出しても恥ずかしい、一流のオタクだよ」
「ふーん?」
耕平はそわそわしたり不審者そのものだが、どうも摩耶を気にしているようだ。目が合うとビクンってなってる。
「すごい緊張してるでしょ」
「うん。さっきもすっごいカチコチで話せなかったな」
「まあ、そのうち慣れるよ」
「だといいなー」
摩耶は酒樽を囲む狂宴をしばらく興味深そうに見て帰っていった。ばいばい!
それまで下はがまんしていた面々も景気よく脱ぎ去り、私も脱いだ。
「霧火ちゃーん……なんでこのコーヒーこんなにおいしいの……」
「それはね、お前を食べるためだよ」
いい豆を使って研究したりしてるからだよ。
ふーむ、愛菜はうまいもの耐性がないのか。ずいぶんショックを受けている。かわいいな。
「霧火ちゃん狼なの?」
「かもよ?」
その可能性はある。まだ月を見て変身したことはないが、そういうエッセンスが混入されていてもおかしくはない。なんならそのうち追加されるかもしれない。
アプデやめて。
「……赤ずきんちゃんっぽいのに」
「でも狼に負ける気しないしなー」
噛みつき勝負とかでさ。なんの根拠もないけど勝てると思うんだよね。なんの根拠もないけど。
おや、耕平がうなだれている。
「どうしたの? まるで憧れの人とすぐ近くで会えたのに一言も会話ができなかったみたいな感じだけど」
「その通りだからそっとしておいてやってくれ」
「それは違う! 会話はしたぞ!」
「そうだったか?」
「ふふん――カレーの話をした!」
私を介してな。
まあ本人が満足ならいいだろう。
伊織と耕平も酒宴に混ざる。私が少しお昼寝して戻ると、不思議なことに八斗の酒はきれいに消えていた。強烈な
なお、八斗はおよそ四百人分である。
空になった樽を見ていると、うずうずしてきた。逆らわず飛び込むと、実にいいかんじサイズ。
ふふん、とドヤ顔になると奈々華姉がパシャリ。そうだろうそうだろう。私はかわいいからな。
きれいに飲み干されて、今はただ樽の内部をしっとり濡らしているだけの酒の感触がちょっと心地良い。これは酒入った状態で入ってみたいな。そっからみんな飲むんだ。……死ぬかな? アルコールで。下半身からの吸収で。死ぬな。
死んで困るものでもないけど、やめとこう。
「あ、伊織くん。はい、栞ちゃんからお手紙」
「ああ、ありがとうございます」
「千紗ちゃんと、霧ちゃんにも」
「うん」
「私にも?」
面識ないけど。
伊織の妹、北原栞。私はなんとなくどんなか知っているが、日頃の奔放な食生活が祟ってかまだ会ったことはない。
「あとこの荷物も。こっちは霧ちゃん、こっちは伊織くんね」
「どうも。……こっちも栞からだ」
「私は大盛堂」
開封すると、チーズワンホール。ほら、こういう食生活がいけないんだ。
早速かじりついていると、伊織は小さなダンボールからうさぎ人形を取り出した。ああ、覚えあるわ。盗撮人形。
……どうやって通信してるんだろうか。Wi-Fiかな? どうやってパス知ったんだか知らないけど。*2
んー、技術があればアクセスポイントからのハックとかもできるのかな? 面白そう。
さてお手紙。私の学年に気を使った漢字が使われ、三年生で習う範囲にはふりがなが振られているのがとてもいいと思いました。
内容は普通の挨拶。あと兄が迷惑をかけていませんか? みたいな感じ。軽いジャブだな。よしよし、お返事を書こう。たまにはお手紙を書いてみるのもいいものだ。
奈々華姉がレターセットを用意してくれて、私はうさちゃんの前で羽ペンとインクで手紙をしたためます。
フランス語で、愛をささやく詩を。
ポプリも入れておこう。持っていると少しずつ回復するらしい錬金術アイテムだ。
ふむ。……そうか、栞ちゃんか。
面白くなりそうだ。
ブルキナファソの運動会は日本では知名度が低いが、国際的には近年問題視されてそうだよね。あの国って運動会なさそうだけど。