ぐらんぶる転生最強もの(仮) 作:紅茶タルト
「おはよう千紗姉」
「おはよう霧火。ん」
近づいて、仕草で要求すると腰を曲げて顔を近づけてくれる。私はその頬に手を添えて、
ちゅっ。
しあわせ。
「奈々華姉」
「うん」
しゃがんでくれるので、ちゅー。
抱きつくと抱き返して撫でてくれるし、愛に飢えることはないすばらしい家庭環境です。
お風呂では胸を吸いあったりもしますよ。
さて、今日は……休みだな。なんやかや済ませたら、部屋でなんやかや作業をします。なんやかややることがあるのですね、転生者には。
しばらくして、どっか行っていた伊織が帰ってきた。なんか頑張ってきたみたいだけど、うまくはいかなかったみたいだ。ほとんど死んでいる。
「どう伊織君。水の中は楽しめそう?」
「いいえ、全く……」
ああ、プールで練習してたんだな。確かこの後は……、
そんなわけで、水族館である。
「ここでも脱ぐのか……」
当然。こんな時でもないと、水族館で裸になるのは難しい。ここまでは水着を着て来たけど、脱いで奈々華姉に渡して夜の水族館を楽しみます。当然裸足である。ぺたぺたと二人の前をゆく。そして、普通に楽しみます。
……ネムリブカ、好き。
昼間は底で動かないサメ。魚が近くを通っても反応しないんだ。
だいたいのサメはマグロ同様泳いでないと呼吸できないけど、この種はそうじゃないやつ。にしても極端だよね。
何度も来てはいるけれど、裸だと新鮮な気持ちで見られてなかなかに楽しい。無駄にくるんと回ったりしちゃいます。伊織の邪魔をしないように位置取って、まだやっててくれた売店を通る時は水着を着直したり、慣れたものです。
私というノイズはあったものの、伊織はなにかしら感じてくれたみたい。なんの役にも立てないのに付いてきたのは水族館を裸で楽しみたかったからオンリーです。裸は良いぞ!
日本にもヌーディストビーチとか作れんかねぇ。
私は海辺の子なので、海辺の子らしくよく海で遊びます。インドアも好きで、いつでも行ける近くの観光地に行かない心理から連日ではないもののけっこう遊びます。
ただ、今日はみんな忙しくて一人なので潜ったりはできません。まあ私なら大丈夫なんだけど、家族を心配させるのはね。
潜るとこで日光浴したりちゃぷちゃぷして遊んで、歌ったりしていると――後ろで気配がした。
暖かな陽光に照らされた一糸まとわぬ裸体はほんの少し日に焼け、太らず痩せずの黄金比のような体も相まり至上の健康美をそこに顕現させている。
その美の化身は歌声すら美しかったが、耕平たちの存在に気づいたのか歌を止めてしまった。惜しい思いが耕平の胸をよぎるが、そんな思いを噛み砕く前に美の化身は振り向いた。
一見して儚い印象を抱かせる顔、少女の象徴とも言える膨らみのない胸の先端はまだ色づいてもいない。
そんな、少女の美しさを限界まで詰め込んだようなその存在の視線が――耕平へと向いた。
耕平は目をそらした。紳士だとか、そういうことではない。ただ恐ろしくなったのだ。
完全に不可抗力だが、覗いてしまった。であれば当然あるであろう、羞恥、嫌悪。……こんな美しい存在にこんな不運で嫌われたら。そう思うと耕平の体は震えた。しかし――先程聞かされた言葉が彼にほんの少しの勇気を与えた。
お前は美形だ。
彼自身は興味がなかったが、確かに……その顔を悪く言うものはこれまで一人もいなかった。
それを信じ、それを武器に。きっと確実に声は裏返るだろうが、まずは挨拶をしよう。そう心に決めた時。
「今村耕平くんだね」
驚いて振り向き、もう一度見た少女の瞳は――羞恥も嫌悪もなく、ただ好奇心に輝いていた。
口元が笑みを作り、どうやら嫌われてはいないようだと安堵し――
「伊織から聞いてるよ」
「ん?」
「……あ、あの」
伊織が疑問のような声を上げるが、そんなことは気にならなかった。少女が自分に悪印象を持っていないことを知って、彼は心の底から喜んだ。話を通してくれていた伊織にも深く感謝した。今ならキスの雨を降らせた後顔面をぶん殴ってもいいほどだ。
「小動物をいじめるのが大好きな変態だって」
「北原貴様あああああああ!」
「知らんッ!! 知らんぞ!!」
「喧嘩はいいが、スーツは壊すなよー」
楽しそうな笑い声が響いた。
「ふふふ」
ちょっとしたいたずらをすると、思ったように動いてくれる。元気そうに叫んでいて楽しい。健康はいいことだ。
巻き込まれてる伊織がかわいそうだし、ほどほどでストップを入れる。
「冗談だよ。今村くんだよね? 私は古手川霧火。三姉妹の末っ子だよ」
立ち上がって挨拶。ふーむ、彼らのスタイルは。
「ほー、初体験か」
「ああ。まずはレギュでの呼吸からだな」
「それはめでたい。楽しんでくるといいよ」
耕平は……なんか固まってる。……ああ。
これははじらった方がいいのかな?
「そんなに見られると恥ずかしいかな」
「すっ、ごめん!」
「ふふふ」
まあ隠しはしないが。
「ま、行ってきなよ。きっと楽しいから」
顔を赤くしたまま信治にちょっと遠くへ導かれていく耕平。
なんというかな。不思議なことに、母性的な嬉しさがある。
ちょっと女の体に興味を持ち始めた息子がさ、風呂で自分の体をちらちら見る……そういう時、こんな感じで嬉しいのだろうな。そんな感じ。
伊織と竜次郎は近場で頑張るようだ。私はそれを見守る。
しばらく苦戦していた伊織だったが、やがて海底へ消えた。もう大丈夫なようだ。
そばに置いておいた防水かばんから水中メガネと水中カメラを取って装着し、私も海へ入ります。初めてのダイブをパシャリと撮ってあげて、と。伊織の後ろに備えている竜次郎の体をたぐって、私も底へたどり着く。やはり、海は中が楽しい。
残念ながら、私の年齢だとダイビングというものはできない。ただ、こうして潜って楽しむことはできる。
足元の岩を掴んで、水中に座ったりするのが私は好きだ。そのまま上を見たりするのも好きだ。寝転がるのも好きだ。ぼんやりした魚が体に触れるのも好きだ。差し込む光、音。何度やっても特別な時間を感じられる。
レギュレーターとかは装備できないが、幸い私は水中でも呼吸できる方だ。冷たい水もエイってやれば平気にできる。たまに人間アピールとして竜次郎のオクトパスから空気をもらうけど、本当はいつまでだって潜っていられる。
みんなの心配がなければ、私はずっとネムリブカでいられるんだ。
もし生まれた先の家族がアタリじゃなかったら、私はきっとそうしていただろう。……そのうち見つかって人魚に間違えられそうだ。
伊織は初回なので短時間で済ませ、戻る。私も店へ。
初めてを済ませた伊織はとても嬉しそうで、とてもハイテンション。千紗姉に絡んでいる。
装備の後始末もまだだけど……ま、どうせ酒盛りするんだろうし、洗ったりしてる間につまみでも作っておこうか。
ささっとシャワーを浴びて、刺し身なんかをこしらえる。あと、とっておきを焼いてと。
「はい、てきとーな魚の刺身」
「おおー!」
「さすがだな」
ビールでかんぱーい、ってし始めた四人にお刺身を出す。ビールは持ち込みだが、私が冷えたジョッキをサービスしました。
刺身は父に習い、お店っぽく盛り付けてるぞ。わさびはこだわりの本わさび! 醤油もいい感じのだ。
そんな感じなので自慢の料理を楽しんでほしいのだが、耕平はちょっともじもじ。むう。
「今村くん。私の体に見惚れるのはわかるけど、私の料理も楽しんでほしいな」
「すっ、すいません!」
今は裸エプロンだけど。お料理の時はね。
「なんだ、耕平は小さいのが好きなのか」
「ほう、いるもんだな」
「違いますよ!」
「違うの? 残念だなあ」
「ち、ちがっ!」
「ふふふふふっ」
かわいいなあ。
「耕平くん、って呼んでいいかな?」
「はっ、はい!」
「今日は伊織と耕平くんのためにとっておきを用意したから、持ってくるね」
「なんだ、俺らにはないのか」
「あんまり取れないんだよあれは」
持ってきてと。
「ほら、セミエビの酒蒸しと刺身」
「うおっ」
セミエビ。アーマードな感じのエビ。細かく言うとヒメセミエビだ。
二匹を一匹ずつ酒蒸しと刺身にして二人分に切り分けた。
「な、なんだコイツ……」
伊織は警戒した様子でセミエビを見る。頭部も飾ってるからだ。変な顔!
「これがセミエビ……」
「耕平くんは知ってるんだね」
「はい。伊勢海老に並ぶ高級食材だとか」
「なに!? これがか……!」
キロ二万五千円とか。養殖できないから。
「いいな……」
「伊織、耕平。この頭くれ」
「俺にも」
「あ、はい」
「どうぞ」
「さんきゅー。お、割ってある」
頭は両方酒蒸しにして割ってある。汁ものにするのがベストなんだろうけど、それは頭が余ったらやろうと思ってた。
即頭にしゃぶりついた竜次郎と信治のあとに続き、伊織と耕平が手を付ける。
「こっ、これは!」
「うまい! さすが高級食材……!」
ほぼ素材の良さだけど、手品がウケた時のように嬉しい。
「これは凄い……!」
「これも海のよさだ。まあ、潜水器付けての採取は禁止されてるから、ダイバーには関係ないかもだけど」
「って、もしかしてこれは霧火ちゃんが!?」
「まーね。家族に付き添ってもらって、いろいろ取って、こういう日のために水槽で飼ってるんだ」
「いろいろやってるなあ……」
いろいろやってるぞ。
「しかし、こうもうまいと……」
「ああ……」
「わかってるよ。ほら」
日本酒も用意した。年齢? なんとでもなるわ!
「酒蒸しのと同じやつ。一本置いとくから好きにやりな」
「おおおー!」
「なんて粋な……!」
一杯目は注いでやって、ってな感じでいい思い出を……とやっていたのだけれど、竜次郎と信治がなんか服を取り出した。スカートとか。伊織と耕平はなにやら嫌がっている。うーん、この後は確か――
「……ああ、男コンか。見に行くよ」
「嫌だあー!」
次の日。
「おはよう……」
「おはよう。はい水」
「さんきゅー……」
あの後かなり飲まされていた伊織。伊織と耕平は素直につまみを食べるので、私も作りがいがあった。
「おはよー」
お、梓。
「おはよう。いぇーい!」
「いぇーい!」
両手でハイタッチ。
「ラテ飲む?」
「飲む飲むー」
「へー、仲いいんですね」
「まあねー」
「まー初対面の時もこんなだったけどね」
「すごく波長が合った」
「あー、脱ぎっぷりか……」
それもあるかもだけど。
「エプロン借りるよー」
「はいな」
多分梓初登場の回なんだろうけど、あんま内容は覚えてない。なにするんだろ?
二人でキッチンへ行き、準備を手伝います。……あ、お好み焼きか。
春祭な。
店の裏には鉄板があります。海鮮を雑に焼いて食べたりにも対応してるわけですね。
お好み焼きにもいろいろレシピがあるが、簡単なものでは小麦粉、キャベツ、とろろ、以上でできる。水も要らない。
そこにお好みでトッピング、という誰にでもできる簡単料理だ。小麦粉ととろろはお茶碗三分の一くらい、キャベツはお茶碗一杯って感じのアバウト分量でオーケー。レッツトライ!
なお梓流はエビ、豚バラで、上に半熟の目玉焼きを乗せるスタイル。これを三人に教えるようだ。まあ私でもやれるんだけど、顔合わせだろう。
手は足りそうだし、私は今回よさそうだな。ゲームしよ。
三人は夕飯もお好み焼きになるくらい練習したようだ。店内はPaBのメンバーで溢れている。*1
「ミスコンなら霧火が出たぞ」
「霧火ちゃんが!?」
「優勝してたな」
「外部でもいいんですか……なら今回もそれでいいんじゃ?」
「さすがにずるいからって、一回優勝したら翌年は出場できないことになった」
「霧火ルールだな」
「ああ……小さくて可愛いのはずるいですよね」
「まあな。それに、あいつは歌って踊れるからな。パフォーマンスできない参加者は勝てん」
「なんでもできるんですね……」
勉強なんぞしながら、耳をダンボにして話を聞きます。
「まあここで売ってる店のイメージ曲CDも霧火作詞作曲だしな」
「そこまでできるんですか!?」
「……それって、霧火さんが歌ってるんですか」
「さん付けか。まあとやかく言わんが……歌ってるのは幹也と久司だな」
「先輩方が!?」
「カラオケで決めた」
「あの時は盛り上がったなー」
「霧火が脱いだら店員がすっとんで来て大変だったが。そうか、お前らまだ聴いてなかったんだな。よし」
竜次郎がセッティングし、曲をかける。
「おお……!」
子供が作ったとは思えない曲に、伊織も耕平も驚いている。それもそのはず、曲名は『Grand Blue』。OP曲だ。
楽器できる者は楽器を、あとはDTMで作った。あの時は楽しかった。
で、CDもついでに店に置いている。
べつに売り込んでないからたまにしか売れないが、家族とPaBでの評判はいい。店とPaBの連帯感を高めるのにもいいんじゃなかろうか。
ちなみに、
PaBのメンバーが二人をいじっている。アフロとハゲが照れている。アフロとハゲも照れるのだなあ。
ところで、耕平がちらちら見てくるんだけどなんだろうか……?
翌日。なんか知らんが、千紗姉がミスコンに出る気になったらしい。がんばれ!
ハズレ家族だった場合のエンディングは『It's Beginning To Look A Lot Like Fish-Men』が流れる中で海に消えていく主人公