ぐらんぶる転生最強もの(仮)   作:紅茶タルト

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第3話

「霧ちゃーん」

「はいはーい! すまんね、しばらく抜けるよ」

 

 画面の向こうのフレンドにささっと挨拶しゲームをやめて、水着を脱いで水中メガネをひっつかんで一階へ下ります。

 

「霧ちゃん。吉田さんのスタンプが溜まったから、お願いできる?」

「いいよー」

 

 下りると、常連さんがいた。吉田輝和(てるかず)さん。ちょっと髪が白っぽくなっているおじさんで、メガネを付けている。以前職業を聞いたのだが、おっさんの絵専門のイラストレーターだとか。わからん。

 ちなみにメガネの人は度付きレンズを入れられるダイビング用マスクがあるので安心だ。あんまりひどいのはオーダーメイドだけど、普通のは店にもある。

 隣にはもう一人いて、初めての人かな? 私を見て驚いている。なんだろう。

 一応スタンプカードを確認すると、確かに溜まっている。んー頼もしい。

 

「霧火ちゃん、このスタンプカードってなにか貰えるのかい?」

「いいことが起こるんだよ。楽しみにしといて」

 

 説明せず、店の裏に消えます。海に近づき、作業を始めました。

 

「ya gotha ia nog geb」

 

 このスタンプカードは私が作ったシステム。一万円ごとに一つ捺して、二十個溜まったら私が出動してこうする。

 

「ya gotha ia nog geb」

 

 私の能力の一つだ。

 

「なにやってるんだ?」

「ん? 伊織か。……ya gotha ia nog geb……おまじないだよ」

「おまじない……」

 

 手応えとかは無いから唱え続ける必要があるが、苦労などどうでもいいくらいの誰もが羨む最高の能力だ。

 

「ああ、占いとかもできるんだったな」

「まあね」

「あの時はほんとに合コン延期になったしな……」

 

 それは原作知識だけど。

 

「そうだ。掃除、ありがとな」

「ういうい」

 

 やあ、ごさ、いあ、のぐ、げぶ。

 

「伊織も来てたんだ」

「ああ、千紗。……このおまじないって、なんなんだ?」

 

 完全装備で現れる千紗姉。これがなにか訊かれてるが……ひみつだよ! ね!

 

「秘密」

 

 やあ、ごさ、いあ、のぐ、げぶ。

 

「見てればわかるから」

「そう、か……?」

 

 お楽しみに!

 

 やあ、ごさ、いあ、のぐ、げぶ。

 やあ、ごさ、いあ、のぐ、げぶ。

 やあ、ごさ、いあ、のぐ、げぶ。

 我は強く求める。ここへ、来たれ。

 

 唱えていると、やがて……、

 

「あ……」

「来たみたい」

 

 界面に背びれ。

 詠唱をやめ、水中メガネを装備し海へ走る!

 

「……まさか」

 

 背びれが沈み、尾びれが見えた。それで伊織も気づいたのだろう。あれがサメとかではないことに。

 千紗姉もついてきて、二人海の中。

 

 こんにちは、八号。

 

 

 

 ちまちま泳いで、お客さんのいる場所へ。特にどこにいるとか知らされていないが、私は"知っている物の位置がわかる魔法"が使えるので、それであちらに居る奈々華姉の装備を探知してそちらへ向かう。

 水中呼吸も魔法。冷たい水温も魔法で耐える。こいつを呼び出すのも魔法だ。

 まあ呼び出すだけだけど、イルカと友だちになるなんて容易いこと。私のような小さいのには警戒しないので、抱きついてなでなですればいいそれだけだ。それだけでめっちゃ楽しく遊べる。まあ人間が自分ら同様エラ呼吸でないことを知っているのか呼吸しろとばかりにちょくちょく水上へおしやってくるのは困ったものだが、常人には嬉しいことだろう。

 

 こいつのことは、イルカなので八号と呼んでいる。

 

 意味はない。そう呼びたいからそう名付けた。名前なんて意味が無いほうがいいものだ。

 千紗姉を置いていかないように気をつけつつ、八号に捕まってみたりして遊びながらお客のとこへ。

 んで到着。吉田さんと連れの人がびっくりした顔をしている。

 八号は私の友達だが、他の人も構ってくれる愛想のよさがある。なのでみんな満足して帰るのだ。

 嬉しそうに写真を取る吉田さんと連れ。私はそれに写らないようにちゃんと回避してあげます。恥ずかしいとかじゃなくて、児ポ法的に。あのクソ法があるせいで私は邪魔なのだ。

 

 八号をあちらに預け、私は私で楽しむ。

 千紗姉に捕まって沈ませてもらって、底でなんやかや拾って千紗姉が装備している素潜りネット*1に放り込みます。

 たまに人間アピールを挟みつつ、袋をいっぱいにしたらのんびりします。

 吉田さんたちをつついて遊んでいる八号を眺めたりして待っていると、一本目が終了。二本目に行くかもしれないが……まあ、私はこんなもんでいいだろう。

 やはりタンク交換(おかわり)に上がるあちらの組。その間にこちらはカニ(っぽいヤドカリの仲間)を一つ八号へ。迷わずぱくっと食べる八号。なんでも食うぞ。ぷかぷか浮いて待っていると戻ってきたので、私はこのへんで。

 ではの。

 

 

 

 子供である、というメリットは大きい。なので子供である、というデメリットも受け入れる。そういう主義で私は生きている。

 が、不自由を感じないわけではないので当然ストレスはある。多少は。

 だが、八号と遊ぶとそれは吹き飛ぶ。だってみんなイルカが好きだ。――まあ、漁師さん以外は。

 父も奈々華姉も千紗姉も当然大好き。おかげで家族みんな健康です。

 

 お帰りの際、誰かに話す時は"たまたま会えた"ということにするよう言い含める。スタンプカードは常連さんへの感謝から始めたことで、客寄せに使うつもりはないのです。

 シャワーを終えて部屋に戻る途中、伊織と出くわす。伊織は声を潜めて耳元で、

 

「イルカ……呼べるの?」

 

 なんて言って来た。

 気を使ってくれてるのはいいけれど、

 

「そりゃあ魔法使いだからね」

 

 私は普通のトーンで答えた。大っぴらに喧伝するものではないが、それほど真剣に隠しているわけでもなかった。

 

 

 

「なんだ信治、画面割れてるじゃないか」

 

 ひと仕事終えた信治*2にエスプレッソを振る舞いに行くと、彼はひびの入ったすまーとふぉんをいじっていた。

 

「ああ、昨日落としてな。まあとりあえず動くからいいんだが」

「大雑把な。貸しなさい」

「ああ」

 

 受け取り、部屋に戻り、

 

「《修理(メンディング)》」

 

 唱える。

 んで戻り、

 

「はい」

「おっ、ありがとう」

 

 画面の直ったすまーとふぉんを渡す。

 こういうことはよくやっているので、だいたいみんなわかっているだろう。直すとことかは見せないが、徹底して隠してもいない。

 まあまあ危ない気もするが、私は私の好きなように生きたい。

 

 

 

 春祭も近づいてきたが、大学なので講義なんかは普通にやっている。それを聞きに教室へ訪れ待っていると、少しして伊織と耕平も入ってきた。

 

「うおっ!? ……霧火ちゃんが……服を着ているッ!!」

「本当だ! 初めて見たぞ!」

 

 別に彼らの反応に何の非も無いのに"おいそれは流石に失礼じゃないか"とか言いそうになるのはどういう心理現象なのだろうか。

 こう言われたらこう返す、みたいなそういうテンプレートが円滑なコミュニケーションを生むのでそうする、みたいな感じかな。まあ日常会話なんて無難を選ぶものか。だが、私はそういうのに無闇に逆らう。

 

「逆によく私だとわかったね」

「まあ一瞬わからなかったが……」

「顔を見ればさすがに……」

「よっ、と」

 

 足のつかない椅子から下り、服を着ている私をお披露目する。必死にならない程度にポーズを取ると、ちゃんと反応が返ってくる。

 

「おお……似合うな」

「ああ。和服とは珍しい……」

 

 私の服ッ! それは和服だ!

 落ち着いた桜色、という感じで、そこに黒い本革ワンショルダーボディバッグを合わせている。可憐さにゴツい感じのものをぶつける、まあ普通のやつ。袴ブーツとかと同様の。ただ私の履物は普通に可愛い草履な。

 

「ふふん」

「いやあ、珍しいものを見た」

「ま、私なら大抵の服は着こなせるよ」

「じゃあ着ろよ……」

「はははははっ!」

 

 面白いことを言うやつだ!

 

「……って、どうして霧火ちゃんがここに?」

「そういえば……。学校は?」

「ああ、私って天才児だから。小学校だと学ぶことがないんだよ。で、ここにもぐってるわけ」*3

「……言われてみれば、ランドセル姿を見たことがない!」

「本当だ!? そういえば!」

「それは気づけ」

 

 ちなみにパンツははいてないぞ。

 

「私は二年目だから今まで講義がかぶらなかったんだろうけど、けっこう来てるんだよ」

「そうだったのか……ああ、それでミスコン出れたのか」

「ああ」

「かもね」

 

 明らかにもぐりとはいえ、実際に講義に顔を出している以上は部外者として切り捨てづらい……というのはあったんじゃないかなと思う。知らんけど。

 

「まあ本当は高校くらいの学力なんだけど……知ってる? 高校ってもぐりできないんだってさ。日本の教育制度の悪い部分だよ」

 

 あー! 高校くらいの化学実験してー!

 ここのはついていけないことがあるんだ。程よくないから効率が悪い。

 

「ま、小学生に負けないようしっかり勉強するといい。私は去年も受けたけど、この講義は面白いよ」

「お、おう」

「はい……」

 

 私はけっこう楽しかったが、伊織たちはあんまり楽しくなさそうだった。残念。

 

 

 

 大学入学の資格を定める法律である学校教育法施行規則第百五十条の四つ目には、文部科学大臣の指定した者とある。一から七まである中で、年齢制限の及ばないのはこれだけだ。

 なので文科省のTwitterに『指定して♥』とラブコールを送ってはいるが、梨の礫。大臣本人はTwitterもFacebookもやってないのだ。

 そんないじわるな大人のせいで大学生になれないまま、私は二年目の春祭を迎えた。

 これから何回迎えるんだろうか?

 

「伊豆春祭じゃー!!」

「イエーッ!」

 

 ……てなわけで、店番。私は別にやんなくてもいいのだが、特に見たいものもない。信治たちの誘いはあったが、ここに残った。

 肩車してもらって回るのは去年やって楽しかったけどね。

 

「いらっしゃーい」

「あっ、霧火ちゃんが作ってくれるの? やった!」

「おう。一枚三百円だよー」

 

 顔見知りもいます。キャラが立っているので人気者です。

 

「手際いいな……」

「魚介以外もできるとは……」

 

 料理好きやで?

 この場合特に意味はないが、食品衛生責任者の資格も取ってるぞ。静岡の場合年齢制限なしだ。けっこういい県なので転生先におすすめ。

 

「お疲れさん。今日はあっついな」

「あ、ども」

「すんません」

「ありがとう」

 

 客の切れ間に竜次郎がビールを持ってきた。私にはファンタオレンジ。わかってるじゃないか。まあ私は《寒暑耐性(エンデュア・エレメンツ)》という魔法で暑そうな着物でも快適だが、それはそれとしていただく。

 

「調子はどうだ?」

「ぼちぼちですね」

「商売敵がいるみたいで……」

 

 視線で示す先は、ティンカーベル。二つ挟んでまたお好み焼きという、なんとかならなかったのかという配置だ。

 

「ティンカーベルって?」

「男が美形揃いで女子比率ナンバーワンのテニサーだ」

 

 ペニスサークルというボケは去年やったから今年はやめとくとして。

 

「まったく、ちょっと行ってくる」

「あ、おい」

 

 客層が現金な女どもとはいえ、かわいい私よりも売れるなど許さん!

 

「工藤」

「ああ、霧火ちゃん」

「ちょっと確認するぞ」

「よろしくー」

 

 ……よし。

 

「オーケー」

「ありがとうっ」

 

 戻る。

 

「ガスの扱いは問題なかった」

「何を確認しているんだ」

 

 安全だが?

 

「あははっ、今年もやってるんだ」

「お?」

「ああ、梓さ――んんー!?」

 

 上着を脱いで現れる梓。常識のないやつだ。

 

「ああ、梓。まあ折角だからね。使いみちもないし」

「動じないな!」

「とりあえず着てください」

 

 千紗姉が上着を渡す。どうやらぶつかってなんかぶっかけられたらしい。

 耕平から洗った方が、との話がでるが、

 

「別にいいよ。どうせ夜には君らの吐いたもので汚れるし」

 

 とのこと。死なないといいが。

 なお、魔法があれば汚れた服もきれいになるぞ! そこらでシャツ買えばいいしやらないけど。別にどうしても使いたいわけじゃないもの。

 

「それで、今年もって?」

「ああ、霧火ちゃんね――」

「んっ」

 

 指で梓の唇を押さえる。

 んで、バッグから例のものを出します。

 

「じゃーん」

 

 伊織たちに見せる。

 

「……危険物取扱者? って……!」

「資格!?」

 

 どやっ! 危険物取扱者免状!

 

「国家資格よー」

「ちなみに、甲種の最年少記録な」

 

 補足ありがとうっ!

 危険物取扱者という資格は甲乙丙の種に分かれ、乙種は第一類から第六類まで分かれ、それぞれ酸化性個体や可燃性固体などの種別ごとの取り扱い及び立ち会いの資格となっている。甲種はそれら全部の取り扱い及び立ち会いを認める資格。立ち会いの資格がある人がいれば無資格者でも取り扱いができる。丙種はガソリンなどのみで立ち会い資格もなし。

 乙種には受験資格がなく、誰でも取得できる。甲種の受験資格は大学の単位や卒業以外にも乙種のうち四種*4があればというものがあるので、子供でもいけるのだ。実際、小学生で取ってる子はいる。小二や小三で。んで、それに小一の時の私がなんとか勝ったわけだな。……すげーやつもいたもんだ。

 他の国家資格で年齢制限のないものは第二種電気工事士と電気主任技術者と基本情報技術者試験くらい。第二種電気工事士は難しくないのでとりあえず取った。なお第一種は実務経験何年とかの条件があるやつなので無理。第三種電気主任技術者、いわゆる電験三種は勉強中だ。こっちは第一種まで無制限だけど、とりあえず三種だけでいいかな。

 基本情報技術者試験は……ちょい難しいかな。

 

「ニトロも硝酸も私に任せろ!」

「へー、すごいな。なんに使うんだ?」

「使えない!」

「……だよなあ」

「さっきみたいにガスとかの確認するくらいかな。それも無きゃできないわけじゃないけど」

 

 取ってよかったことはYouTubeで取ったどー動画出してそこそこバズったくらいかな。

 

「ま、ちょっとかっこいいでしょ?」

「まあな」

 

 そんだけだ。

 

 伊織と梓がシャツを探しにガンダーラ。

 私は何の不満もなくお好み焼きを量産する。そのうちブランクも埋まり、ひょいひょいひっくり返せるようになる。

 複数のお好み焼きを同時に管理しどんどん焼く。耕平が容器に入れ、千紗姉が売る。

 ンー、理想的! なんかこういうゲームやってる気分。お好み焼き・ハイになってきた。

 そのうちなんか忙しくなってくる。顔見知りがぞろぞろ来てくれたようだ。イェイ!

 ウッキウキでほぼ踊りながら作っていると、隣の耕平が梓に変わっていた。不思議!

 

「みんなありがとー!」

 

 ウェーブ突破!

 客の勢いも落ち着いた。ちらほら来るのを落ち着いてやっつけていく。

 

「ん、工藤か」

「やっ」

 

 ペニサーの会長、工藤。私は興味ないからよくわからないが、顔がいいらしい。その自惚れか、彼の笑顔には嫌なニュアンスが乗っているように思い、私は彼にあまりいい印象がない。単に彼の性格がクソであることを知っているからそう思うのかもしれないが。

 

「なんだ、まさか買いに来たのか? 自分のとこもお好み焼きなのに」

「ははは。それもいいけど、それより梓さんと遊びたくってね。この後どう? 時間ある?」

「古手川さん! 俺と遊ぼうよ!」

 

 ん、もう一人いたのか。

 ……ふむ。

 

「絶対楽しいから――」

「おいクソムシ」

 

 敵。

 

「おっ、……おいおい、……随分だなぁ」

「お前は、邪魔だ。私が楽しく料理をするのを、もう一分二十秒も邪魔している。五秒以内に消えないなら報復する」

 

 名状しがたい気分だ。殺すほどに怒ってるわけではないけれど、到底許せるとも思えない。機械的な怒りだ。

 ははあ。どうやら私、今生は幸せすぎて怒り慣れていないな。

 

「……はは、物騒だなあ」

 

 なにが楽しいのか、工藤は隣のやつと笑っている。五秒経過。彼らを苦しめるプランがふつふつとフライパンの上のパンケーキの泡のように湧き上がってくるが、実行する前に彼らの後ろに影がさした。

 

「よお……!」

 

 工藤とモブの肩を叩き、振り返らせたのは伊織と耕平。……口から酒をこぼしている。

 ……どこでなにをされたんだ。*5

 

「小学生に絡んでんじゃねぇよ色男……!」

「どうやら地獄を見たいようだな……!」

 

 あと服どうした。パンツ一丁だけど。

 わけがわからないが、そんなわけのわからない迫力に圧されたのか敵は去っていった。

 

「二人とも助かったよ」

「フッ」

「いえ」

「それで店番交代?」

 

 済んだ話、のようなムードだが、話は丁度いい。

 

「私は用ができた。ここで抜けるよ」

「あら、そう? おつかれー」

「ああ、じゃあ梓さんが付き添ったらどうですか?」

「いや、私は一人でいい」

「そうか? まあ、それなら……」

 

 エプロンを畳んでいると、

 

「ねえ、霧火」

 

 千紗姉。

 

「もしかして……怒ってる?」

「うん」

 

 なんというか、久しぶりに情熱を胸にいだいている気分だ。あーしてやりたいこーしてやりたいが溢れてくる。

 私ったら上手に報復できるかしら? 三倍返しはしてあげるつもりだけど。

 

「私はね、彼らに特別みじめな思いをさせてあげたいんだ。今日という日を彼らの心に刻みつけたい。……これって、恋かな?」

「違うと思う」

 

 愛かな。

 

「なんだ、それなら手伝うのに」

「霧火さん、俺、なんでもやりますよ!」

「なんで敬語なんだよ……」

「君らほんとにノリいいねー」

 

 ふーむ。思いついた単独プランだけで十分に報復できてしまうのだが……まあ、十二分でもよかろう。

 

「……よし。豚の血って調達できる? もしくはくっさい生ゴミとか。量は必要ないし、どっちかで十分。いっぱいあっても使い切れないから」

「合点!」

「頼もしい」

「あははははっ!」

「じゃあ、取っ手のある小さな入れ物をいくつか、いや三つ用意して。ありものが無ければ例えば紙コップにヒモ通すとかでいい」

「任せろ。幸い学祭中だ。工作道具はどこにでもある!」

「オーケー。私は私でやることがあるから、出来上がったら物陰に隠すなりして連絡して。異臭騒ぎにならなければいい」

 

 さーて、こちらも協力者を探しに行くかな。

 

 

 

 露天で焼きとうもろこしを買って、上を探す。こういうのは探すと居ないものだが……幸い見つかった。

 

「《動物魅了(チャーム・アニマル)》」

 

 電線の上のカラスが下りてきた。とうもろこしの粒を手に取り差し出すと、ぱくぱく食べる。

 水場に連れて行って水も飲ませて、肩に乗せます。

 この魔法は友だちになるだけなので言うことは聞いてくれないが、腹が満ちた以上は自由時間。しばらく付き合ってもらいます。

 

「《動物魅了(チャーム・アニマル)》っと」

 

 首尾よく両肩と片腕にカラスを備えた。私はお肌の防御力がちょっと高いので大丈夫だが、たぶん常人は痛いので真似をしてはいけない。

 カラス少女という珍キャラが誕生したところで、すまーとふぉんがぷるる。

 

『豚の血と紐付き紙コップ、調達できたぞ』

「はやっ」

 

 あっちはあっちで何者なんだ。

 

 だが、見せ場までまだ時間がある状態で準備が完了してしまった。とりあえず、ミスコン舞台の近くの草むらに豚の血やカラスは隠した。

 それから、千紗姉がなんだかんだで優勝した。普通の妹は姉にひどいことをされたことをなにか思うのだろうが、涙目のお姉ちゃんがかわいかったのでいいと思います。

 この辺りで私は「《インヴィジブル(不可視化)》」姿を消して、ちょっと工藤くんを地獄へ導く準備をします。

 地獄への道を善意以外の何かで舗装するのです。

 

 大体の流れは覚えている。工藤が男コンに出るわけだ。ペニスサークルのティンコーベルの会長が男コンに出るわけだ。なんやかんやあってステージから去るところを襲撃する。

 

「キレてる! キレてるよ! 冷蔵庫! デカすぎて固定資産税がかかりそうだな!」

 

 筋肉を見せつけるラグビー部に一通りの掛け声を済ませて、木陰に隠れます。

 そして一通りの成り行きを見守ると、予定通り工藤が騙されて伊織に告白し道化になる。

 

「もう十分笑ったんで、帰っていいですよ?」

 

 シメの一言を言われ、震えをこらえて舞台を下りようと一歩進んだところに、

 

「今です!」

 

 《動物会話(スピーク・ウィズ・アニマルズ)》で指示を可能にし、カラスにやってもらう。

 工藤の頭にフンがぽとりぽとりぽとり。盛り上がっていた会場は更に沸く。

 頭に手を当て、付着した落とし物を確認した工藤は面白い表情で舞台を下り――る前にもう一つ。

 

「《(グリース)》《(グリース)》《(グリース)》」

 

 唐突につるんと滑り、投げ出された脚から爽やかなユニフォームの下がパンツもろともつるんと射出され、陰部が爽やかに露出した。

 サイズ的にはどこに出しても恥ずかしくない代物だが、本体の方がもうどこに出しても恥ずかしい代物に成り果ててしまった。

 男も女も大爆笑の中、工藤は涙をこらえながら舞台を下りた。

 私はそれを追跡する。しばらく離れたところで、カラスに豚の血を投下させた。観客に見える位置だと盛り上がりに水を差してしまうので、これは彼の思い出に残すためだ。カラスが三羽なので紙コップ三つぶんだが、血というものは量以上の主張をする。

 

「うっ、あああああああっ!?」

 

 唐突に血まみれになった工藤はびっくりして踊っている。……無音カメラでぱしゃり。伊織と耕平と梓に送ります。

 んー、なんかマイルドに調整されたせいでカニが死んでないことになったのに仕返しをそのままにした結果猿がその罪以上にひどいめに遭いすぎるさるかに合戦をしている感じ。まあまだやるんだけど、あと一手で終わらせてやる。

 姿を消したまま近づいて、《グレーター・インヴィジブル(上位不可視化)》、工藤の血の付いてない部分を触って《伝染病(コンテイジョン)》、《インヴィジブル(不可視化)》。撤退。

 

 不可視化は効果時間が長いが、攻撃すると解けてしまう。上位不可視化はその逆。こうすることによって、姿を消したまま攻撃することができる。

 攻撃の内容は、指定した伝染病にすること。今回は――梅毒である。

 それも、工藤だけではない。目に入ったチンベルの男全員にやった。ところで性感染症ってアナルセックスの方がかかりやすいんだって?

 どんな評判が立つか、見ものじゃないか。

 

「おー、霧火。どうだった?」

「尊厳完全破壊」

 

 祝勝会教室へ向かい、勝利のブイと血まみれ工藤の画像を同時に見せます。

 

「ブヒャヒャヒャヒャ!」

「ゲハハハハハゴホゴホッ!」

 

 咳き込むほどにウケられるとやった甲斐があるな。今度は落とし穴とかに落としたいぜ。底には玉ねぎを腐らせておく。

 とりあえずデータはみんなに送信。幸せは分かち合わなくちゃ。

 

「こっ、こげん工藤会長じゃなかと!?」

「ん?」

 

 凄い化粧の人が私のすまーとふぉんの画面を見て興奮している。……ははあん。血まみれフェチか。

 

「画像欲しかとなら番号交換すっと?」

「……う、うん!」

 

 特殊なのって供給少ないからなあ。わかるわかる。ところで鹿児島弁合ってる?

 

「オッケー送信したよ」

「あいがと! うわー、うわ…………ぷふっ。これ、ないかけられちょっとな?」

「豚の血」

「豚の血!?」

 

 とこいでこん教室、ないごてドア壊されちょっと?

 ラグビー部の飲み方そんな激しいのか?*6

 

「……そいで、どうやったと?」

「豚の血入り紙コップをカラスが持ってってこぼしたんだよ。私は悪くない」

「芸しこんじょっと?」

「かもね」

「はー」

 

 んーと。ええと。よろしくケバ子。

 

「ま、おつかれー」

 

 言って、脱ぎます。

 

「ないごて脱いどっと!?」

「寝る。起きなかったら運んどいて」

「おう」

 

 和服は厚いので寝床によし。端の方に巣を作って横になります。

 運んでるとこ見られたらコトだけど、まあなんとかなるだろう。

 

 すやぁ。

 

 

 次の日。

 店番すっ千紗姉がわっぜ絡まれちょっ。ミスコン効果か。

 私の時こんなんなかったけどな?

 

「いけっママハハ」

 

 一匹のカラスがウンコ爆弾を投下する。十匹くらいまでは増量できるけど、それ完全に悪い魔女じゃん。やりすぎはよくないよやりすぎは。

 

「うわっ」

「ははっ、なにやってんだよ」

 

 結果としてウンコ不足だけど、信治たちが来てくれた。私がやってもいいけど、加減が苦手だ。

 来られない奈々華姉に代わって私が表彰式の写真を撮って、伊豆春祭は終わりました。

 

「そこの酔い潰れている私の彼氏に――」

 

 千紗姉がウンコ以上の爆弾を落としつつ。

*1
袋状の網。

*2
髪の黒い方。

*3
もぐり。基本的に大学敷地内は誰でも入れて、厳密な法的にはさておき講義も普通に受けられる。例外あり。ばれても大抵受け入れられるが、怒られたら出ればよし。

*4
三と五が必須で、一か六のどちらか、二か四のどちらかといった感じの制限。

*5
このシーンの前にラグビー部に飲まされている。アニメで口から流しているのは明らかに血だが、話が繋がらないのでおそらくはミス。漫画の方もかなり血っぽい色合いだけど、たぶん色の濃い酒なんだろう。その前のシーンでは女のいない合コンに絶望した伊織が涙を流すシーンがあるが、これもアニメでは血涙になっている。

*6
もしかして口から出ていたのは本当に血だったのかもしれない。説明のないドア破壊は漫画の方のミスかもしれないが。

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