ぐらんぶる転生最強もの(仮)   作:紅茶タルト

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第4話

 伊豆大食堂。千紗姉と昼食です。

 今日は和食。千紗姉は蒸した魚とかのヘルシーなのを好むので、そういうお弁当です。

 

「あーん」

「ん」

 

 いちゃいちゃ食べます。

 ほっぺにちゅーとかしつつ、かなりいちゃいちゃしながら食べます。

 モテない男連中が私達を見て精神力を回復しているのがわかる。実際、明らかに私達の周りの席の人口密度が高くなっている。遠くはスカスカ。彼らへのサービスでぴとっとくっついて見せると、千紗姉はなでなでしてくれる。

 なんやかやを満喫していると、伊織たちが入ってくるのが見えた。……なんでパンイチ?

 

「ちょっと行ってくる」

 

 お弁当箱に蓋をして、二人のとこに行きます。

 

「や、伊織。耕平くん」

「ああ、霧火ちゃんか」

「霧火さん」

「その手に持ってるのは?」

 

 なんか紙束を持っていたので訊いてみると、見せてくれた。

 ……おー。文字を切り貼りしたお手紙か。

 

「へー。これってファンレター? ラブレター?」

「キルレターかな……」

「想われてるねぇ」

 

 はーはー、あれか。千紗姉か。耕平はなんかとばっちりね。

 それは丁度よかった。

 

「二人とも、よかったらなんだけど、私のお弁当どうかな?」

「食べます!」

「へえ! 霧火ちゃんのお弁当かあ。嬉しいな」

 

 まあ手作り弁当なんて食べてるとこ見られた結果とか知らんけど。というかそれが見たい。面白そうだ。

 空いてるテーブルへ弁当箱を出す。ちゃんと男の子サイズを用意しといた。

 

「男の子って揚げ物とか好きだよね。そればっかじゃないけど、サンドイッチにしてみたんだ」

「おお! 肉だ!」

「魚だ!」

 

 サラダとかは男の子には不要かなと思うけど、ミニトマトくらいは食うよろし。

 脂質抑えめのも入れるべく、たまごきゅうりハムや、蒸したサバなんかも。レタスを挟んだりして野菜も加えて……なかなか難しいパズルだ。冷食という誘惑に打ち勝ったお母様たちは尊敬されるべき。

 お手拭きを渡そうと思ってたけど、もう野獣のように食っている。いいんならいいけど。

 紙コップに水筒から麦茶を注いであげる。ガブガブっとやる。

 うんうん、元気がいいなあ。

 

「キイイィタアハアアラアアアァクウン……」

「イイイイイイマアアアアアムウウウウラアアアアアクウン……」

 

 おや? と振り向くと……笑顔の好青年が二人いた。おかしいな、今の地の底から響くような声はどこからしたのだろう。

 

「こんにちは古手川さん! 僕、そこの二人と同じ学科の野島です!」

「同じく山本です!」

 

 私のことはそれなりに広まっているらしい。

 

「古手川霧火です。よろしくね、野島くんに山本くん」

「はい!」

「よろしくおねがいします!」

 

 ふうむ。礼儀正しいな。

 

「それでなんですけど……」

「うん?」

「お姉さんを紹介してくれませんか」

「早いわ童貞」

「ぐああああっ!」

「おお……」

「一刀両断だな……」

 

 そりゃモテんわ。

 

「それより、伊織と耕平くんに用があるんじゃ? 呼んでたよね」

 

 落ち込んでるようだが、知ったこっちゃない。童貞に落ち込んでる暇はないのだ。さっさと勃ち上がれ。

 

「そうだった……聞いてたと思うが、野島だ」

「山本だ」

「ああ。お前らも脅迫状か?」

「もう受け入れてるのか」

「やっぱお前ら普通じゃねぇな」

「それより、お前ら困ってるんだろ?」

「同じ学科のよしみで力になろうかと思ってな」

「マジで!?」

「お前らいい奴だな!」

 

 友情……じゃないなたぶん。

 

「たださ、代わりに教えて欲しいんだ」

「ん? 何をだ」

「あれだよあれ。……お前ごときでも彼女が作れるっていう催眠術だよ」

「あるんだろ?」

 

 あるよ。《人物魅惑(チャーム・パースン)》とか《催眠術(ヒプノティズム)》とか《示唆(サジェスチョン)》とか《人物支配(ドミネイト・パースン)》とか《制約(ギアス)》とか。

 一個あれば人間社会なんてどうとでもなるようなのがいっぱいあるぞ。

 

「お前ら喧嘩売ってんだろ」

 

 私におちんちんが生えていたらなんかしらやってただろうけど、幸か不幸かそうはならなかった。そのルートの場合、まず政治家とかを片っ端から洗脳してAVのモザイクを外していただろうな。

 それもいいけど、一回手を出したら楽しくなって理想の世界を作り始めるだろう。私は。

 その世界では誰も飢えず、乾かず。ついでにいろんな犯罪の被害を抑えるために警察の上の方とかも汚職ができないように洗脳して……その辺りで飽きて、別の方向に作り変えて、なんだかんだでラスボスになりそうだ。

 

 私って、そうならないよう今のこの環境に封印されてる可能性あるよね。

 

 野島山本は他にも連れがいたようで、四人集まってなにか相談している。伊織によると、二人を埋める場所の相談をしているんだとか。ビーチかな? 私が言うことじゃないが、まだ早くないか?

 まあ季節なんかに縛られるのは人生をつまらなくするだけかもしれないが。

 伊織たちに友達ができたようでなによりだ。千紗姉のところに戻るとしよう。

 

「あんな可愛い子に弁当までもらいやがって……!」

「甲斐甲斐しくお茶まで!」

 

 油も注げたようだし。

 

 

「ただいまっ」

「おかえり」

 

 昼食再開。の前に、千紗姉の胸に飛び込んで柔らかいのを味わう。ふにふにで気持ちいいぞ。

 胸元にすりすりして、なんらかのなにかをチャージしてから箸を取ります。

 うむ、さすが私って味。こだわりの一つとして、お米はしっかり研ぎます。その後ざるにあけた状態で吸水させるスタイル。研ぎすぎると栄養は落ちるけど、米に栄養を期待する時代でもないので味を優先するのが大抵の場合正しい。でも、健康のために玄米や麦を入れたくなる気持ちもある。人の心は矛盾に満ちているのだ。

 

 家に帰ると、伊織耕平が梓に土下座していた。その背中を踏み越えるが、微動だにしない。うむうむ、いいじゃないか。ちゃんと誠意があれば動じないわけだ。私はちゃんと荷物持ってるからそこそこ重いんだけど、やるじゃないか。

 

「んー、それだったら霧火ちゃんに頼めば?」

「ん? 私か」

 

 部屋に脱ぎに戻る途中、梓が私の名を出す。

 

「霧火ちゃんに?」

「いや、しかし……」

「霧火ちゃん、去年までは青女中心だったから繋がりはあるよー」

「青女? ああ、そっちにもぐってたのか」

「千紗姉居なかったからねー。梓には世話になったよ」

「なのに千紗が伊豆大入ってからほとんど来ないんだから薄情よねー」

「いや、それもあるけど伊豆大の方がもぐりの受け入れ度合いが高いんだよ。女子大ってちょっとセキュリティ意識があるみたいで」

「まー女子だからねー」

 

 そして見た目が悪いやつほど気にする! その通り! とかそっち方面(ダークサイド)の女子トークに行きそうになるのを精神力を振り絞ってこらえる。それは心がブサイクだ。

 みんながみんな本気で言ってるんじゃないとは思うけど、女子間はそっちのトークの方がウケがいいんだよ。

 

「それで、ええと……合コンかなんかセッティングしてほしいとかそんな話?」

「よくわかるな」

「頼めますか?」

「んー、……柔道部とかでもいい?」

「…………他が無理なら頼む」

 

 だってあっちの方が絡みやすいから。飛びついて登っても怒らないんだわ。

 

 私は滑り止めとして、とりあえず別のルートを選ぶよう。服を脱いだりいろいろして戻ると、なんか一人増えていた。

 

「ないごて脱いどっと!?」

「や。こないだぶり」

「なに!? まさかお前……」

「ケバ子か!?」

「だからその呼び方やめてって言ってるでしょ!?」

 

 お、仲間増えるのか。嬉しい。

 

「青女一年吉原愛菜。ティンベルを辞めてこのサークルに入会します!」

 

 てなわけで愛菜が仲間に加わったのだった。

 

「……で、なんで裸なの?」

「いいじゃん」

 

 べつに。

 

 

 

 食堂。男達(バカ)が集まって会議をしている。……カンニングかあ。

 善し悪しの問題を置くと、ちょっとロマンあると思う。昔は漫画もあったくらいには魅力ある題材だ。

 

 コロコロコミックで。

 ……今やったらコンプラ棒でタコ殴りだろうな。

 

「伊織。カンニングか?」

「ん、ああ」

「うわっ!? ……あ、古手川さん」

「や、野島くんに山本くん。……あー、ドイツ語かあ。言語学習アプリとかは使ってる?」

「アプリ? そんなのが?」

「Langleなんかがレベルを選べて適度に復習もさせてくれて効率的だよ。発音も教えてくれるし。青女では使ってる人ちらほらいたけど、こっちでは流行ってないのかな?」*1

「クッ! そんな裏技が……!」

「どの道今からでは間に合わん。問題はこれをどこに隠すかだ」

 

 やめといた方がいいけど、言うべきだろうか? んー。

 ああ、そうだ。

 

「なにやってるんだ?」

「タロット」

 

 占いを始めます。

 私が持つ大抵の能力に言えることだけれど、強すぎるのであまり使わないが私は占いもできる。

 ちゃんとしたやり方とかじゃなくてほとんどフィーリングだけど。

 

「よし。Herzrheuma。これ憶えといて」

「へるっ……なに? ドイツ語か?」

 

 おや、なんか人数増えてるな。まあいい。伊織のノートに綴りを書く。

 

「心臓リウマチ、という意味だよ。これテストに出る」

「出るかっ」

「ははは。Rheumaがリウマチね」

 

 サービス問題の内容は憶えてなかったが、間違いないだろう。

 みんな冗談だと思っている様子だな。だが、これが唐突に登場する。お楽しみに!

 

「変なことしないで普通に受けた方がいいと私は思うけど、まあバレないようにね。そうそう、二人とも伊織の同級生かな? 私は古手川霧火」

「あ、俺御手洗優です」

「藤原健太です」

「よろしくね」

 

 そんなわけで、ドイツ語のテスト。

 

「……なんで居るんだ?」

「お願いしたら受けさせてくれるよ」

 

 まあ私は全言語を理解できる魔法が使えるので言語系は満点以外ない作業なのだけれど、世界一語学に精通した幼女という評価はめちゃくちゃ欲しいじゃない。

 さらさらーっと書いて、裏に可愛いキャラを描きます。絵の練習もしてるので、なかなかいけます。けもフレのフェネックちゃんです。こっちにはあの作品も無いから、いつかアニメでも作りましょうかね。

 

 おえかきしていると、藤原(ちょっとガイルっぽいやつ)のカンペがひらりと宙を舞うのが見える。即座にペンを投げ、撃墜。

 

「グアアッ!」

 

 流れ弾が耕平に着弾。

 丁度教授が藤原の前に居る瞬間だったので明らかに見られたが……、

 

「ふむ」

 

 許したげて! ってポーズで待っていると去っていった。ガイルが感謝の目線を送ってくるが、たぶん再試だと思うぞ。

 

「みんな出来が悪いなぁ。……仕方ない、サービス問題を出そう」

 

 懐から予備のペンを出す。

 

「講義中の話から出題します。今から言う単語をドイツ語に訳して裏面に答えを書きなさい。第一問……心臓リウマチ」

 

 びくんとなる数名。

 そう……ゼミでやったやつだぞ。

 

 

 

「まさか本当に出るとは……」

「言うたやん」

 

 教授が去って、感想戦。

 

「さっきはありがとう、古手川さん。あれは死んだかと思った……」

「でもたぶん再試だよ」

 

 ガイル死す。

 

「で、みんなちゃんと書けた?」

「ぐっ……!」

 

 ショック顔の数名。ただ――

 

「ふ、ふふふ……」

 

 伊織を除いて。

 

「ふはははははっ!」

「なっ!? まさか北原お前!」

「あれを憶えて!」

「いや……。ただ――カンペに書いておいた……!」

「おお」

 

 そう言って突き出したカンペ。隅の方に確かに書き加えられた――

 Herzreum

 

「綴り間違ってる」

 

 伊織も死んだ。

 

 

 

 家。

 

「で、合コンはどうだったんだ?」

「散々でしたよ!」

「見てくださいこの写真!」

 

 愛菜にセッティングしてもらった合コンは上手くいかなかったらしい。写真を見ると、みんなひどい化粧をしている。童貞をもてあそぶな。落ち込んでる暇がないから顔には出さないが傷つきやすいんだぞ。

 愛菜はダイビングへの熱意を語るが…………私ですらPaBがダイビングサークルという認識は大きくない。どちらかというと飲みサーだ。

 他のダイビングサークルなんて知らないから、実際に潜る頻度はこんなもんだったりするのかもしれないが。

 単純に飲みの印象が強すぎるってのもあるかな。

 

「青海女子の一年、吉原愛菜です。ダイビングに興味はあったのですが――」

 

 愛菜の自己紹介を聞きながら飲む準備を(ぬぎぬぎ)するみんな。

 

「このサークルおかしくない!?」

「うん?」

「何を言っている?」

「いつの間に脱いだの!?」

 

 なんか愛菜は驚いているが。これがダイビングサークルだ。

 

「愛菜は脱がないの?」

「この子はずっと素っ裸だし!」

「どしたの愛菜」

「梓さん! みんななんで脱い――」

 

 振り返るとそいつものっぺらぼう。じゃなくて半裸の梓だ。この調子で一通りの洗礼を済ませていく。

 千紗姉の間接キスに飛びつく奈々華姉とか。

 ちなみに私も昨日お風呂で奈々華姉と、おや。千紗姉が新人に興味を示したようだ。女子チーム集まって基本のトークをしている。

 

「それにしても、服着ながら飲む人もいるんだねぇ」

「世界は広いな」

「ほらすっごい悪影響! もー! 今日は私の歓迎会なんだから、みんな服を着てくださーい!!」

 

 ……てなわけで。

 

「んー、むう……」

 

 ちょっと料理するつもりだったからそういうのを引っ張り出した。教育テレビで料理する女の子、みたいな感じのを。コック帽もあるぞ。

 ただ、かわいい服を着るぞ! ――というスイッチが入っていないまま着たから体がびっくりしている。落ち着かない。

 

「あ、かわいい……」

「おー。ほんと着こなすな」

「写真いいですか!」

 

 奈々華姉はすでにカメラを構えている。特に断る理由もないので許可すると、撮影会になった。多少のポーズ研究をしているのでそうそう飽きさせはしない。このあと使うでもないお玉とフライ返しを構えたりしてノリノリで受けて立つ。

 

「霧火ちゃん、ほんとなんでもできるな」

「すごいぞ。俺から説明するのもつまらんから言わんが、将来どうなるか検討もつかん」

「常になにかやってるよな」

 

 見て! 私の明らかに練習した動き見て!

 ちょっと首かしげてウインクとか、手でハート作ったりとか不断(ふだん)絶対やらないようなポーズもします。はじらいながらスカートをめくりあげたりもカワイイとは思うけど、児ポ法に配慮してやめておく。残念ながら子供はそういう表現の自由が制限されているのだ。そうしないことで損害される人権の方が深刻だからそうしているだけで、そのために表現の自由という基本的人権が損なわれていることもまた忘れてはならない事実なのだ。まったく、私が一番カワイイのは裸だというのに。自由に外出歩かせろ。

 今だってカワイさを爆発させたいところなのだけれど、姉が妹の裸写真持ってるのはセーフとしても耕平がなんかの拍子にバレたらまずいもんね。がまんがまん。

 

 一通りポーズを使い切ったらお料理に移ります。服着て料理するなんて初めてだ。

 まあそんなに難しいことはせず、とりあえずおさしみなんかを差し入れする。

 

「どうぞ」

「わっ、ありがとー……ってすごい豪華!」

「あら、マダイね」

「はいこちらあわびの酒蒸し」

「いいの? こんなに」

「いいのいいの。料理好きだから」

 

 信治と竜次郎にはこっち。

 

「はい。貝のおさしみ」

「見たこと無い貝だな。食えるのか?」

「毒はない」

 

 一枚貝に毒はない。

 

「おっ、うまいな。味が濃い。あわびみたいだ」

「普通にいけるな。歯ごたえがあって」

「へー。……あんな気持ち悪いのに」

「なにを食わせたんだ……」

 

 ヒザラガイ。

 

 伊織にはよくわかんないコエビをささっとかき揚げにして出す。イソスジエビとかサラサエビとかの、ぼくら観賞用ですが? みたいなやつ。エンゼルフィッシュを食わせるに等しい普通の人にとっては嫌がらせみたいな料理だが、伊織は普通じゃないので大丈夫だ。

 

「んー……」

「どう?」

「味のあるエビと薄いエビが混在してるな」

「やはりサラサエビはダメか」

 

 なるほどなあ。調べても"食える"くらいのデータしかないわけだ。

 

「ここらの海にはわんさかいるから気になってたんだけど、そうかダメか」

「まあ俺らで実験するのはかまわんが」

「俺にもなにかあるんですか……?」

「ふふ、待ってて」

 

 耕平にもお皿を持ってきます。

 

「どうぞ」

「ど、どうも」

「見た目は普通だな」

 

 そんな普通のおさしみを警戒しながら一口。

 

「……あ、うまい! なんです? これ」

「ヒラメです」

「……そうですか」

「ぷふー!」

 

 どうだろう、このうっちゃり。若手芸人にどこの部位と説明せず棒状の肉を出して、"うまいうまい! これなんですか?"とリアクション取る気マンマンで訊いたら"しっぽです"みたいな。

 まあまあオチもついたのでてきとうに作っていきます。普通さしみ、って魚をからあげにしてみたりする。変なのばかりだけど、私が勝手に作る料理はタダなので誰も文句は言わない。

 唐突に真面目にやったりもするけど。

 

「シタビラメのムニエルです」

「へー! ……わ、おいしい!」

 

 嘘は言ってない。シタビラメはササウシノシタ科とウシノシタ科の魚の総称なのでムスメウシノシタとかいう、まだ誰かが食ったという話のない魚でもシタビラメだ。

 だが、ふむ。そうかおいしいのか。

 

「カクテルはどう?」

「私モスコミュールでー」

「カフェ・ロワイヤルお願い」

「え!? ええと……スクリュードライバーで」

「あいあい。男連中は?」

「スピリタスで」

「俺も」

「混ぜろよ」

 

 るんるん気分でタンブラーを振ります。スクリューもモスコも同じウォッカですね。カクテルの時くらいは脱ぎたいが、まあ今日は歓迎会なのげがまんがまん。

 いろいろ用意してるせいで冷蔵庫はジュースなんかで圧迫されるが、私が楽しいんだからいいじゃない。タンブラーに氷入れるの好き。

 カフェ・ロワイヤルのためにコーヒーも淹れます。多少こだわりのコーヒーだ。

 

「おまたせー」

「待ってましたっ」

「ありがとう霧火ちゃん」

「あ、ありがとう……あ、おいし」

 

 奈々華姉のは今から作る。スプーンに角砂糖を乗せて、コーヒーカップの上へ。んで、角砂糖にブランデーをかけて、火花(スパーク)。指先から火花を出して着火する。初見さんもいるが、なーに手品手品!

 

「わっ」

「珍しいカクテルでしょ。このまましばらく待って……火が消えたら混ぜる。はい奈々華姉」

「ありがとう」

 

 あとスピリタスを二瓶。ええい水みたいに飲むな。

 

「本当にカクテルまで作るんだな」

「どうやって酒を?」

「Relentless*2と大盛堂*3だよ」

「あー。緩いな……ネット通販って」

「伊織と耕平くんは? 日本酒も焼酎もビールもあるけど」

「いや……いいのか?」

「お酒飲ますの好きなんだよ。気にしないで」

「よし、ビール!」

 

 迷いのなさがいいよね、伊織は。千紗姉は呆れ顔だけど。

 

 宴会を続けるが、ビールが切れた。冷やしてないのならあるし、魔法で冷やせなくもないけど……まあちょっと夜のおさんぽ行きたいし買いに行くなら付き合うかな。

 

「……あ、そうだ。いいのがあるんだった」

 

 あれ出しとこう。冷蔵庫から瓶を二つ取り出して、テーブルへ置きます。

 

「なんだ? これも酒か?」

「白いな」

 

 500mlくらい入る、密閉できるやつ。白い液体が入っています。猫のシールと兎のシールが貼ってある。

 とりあえず兎の方を伊織に注ぎます。

 

「さんきゅ。……ん? おお……少し酸味があるが、これは……!」

 

 伊織の顔が輝く。どうやらうまかったようだ。

 

「ん? どうした千紗」

「……行こう、吉原さん」

「あ、うん」

 

 おや、千紗姉。恥ずかしがっちゃって。仕方ない、私も行くか。

 

「……こっ、これは! まさか!」

 

 店を出る前、背後で耕平が驚く声。

 

「劇場版ららこ第十七弾であった――口噛み酒!」

「なにぃ!?」

 

 ららこなんでもやってるなあ。

 

「片方千紗姉に手伝ってもらったから、好きにやっといて!」

 

 奈々華姉が両手を鞭のようにしならせ瓶を狙う姿が見えた気がしたが、きっと仲良くやってくれることでしょう。

 

 

「戻る頃にはカラだよ」

「そんなわけないでしょ」

「いや、あのメンバーなら」

 

 むしろ全員には行き渡らないかもしれない。

 おや、千紗姉ったらちょっとすねちゃったかな? はんせいはんせい。

 

「あっ、あの」

 

 愛菜。

 

「……口噛み酒って?」

「米とかを噛んで、瓶に出す。唾液の酵素で発酵させて作る酒だよ」

「えー……」

「現代日本ではもう馴染みがないけど、他の国の部族的な人はまだやってて、今も時折芸人が飲まされたりするよ」

 

 観光部族かもしんないけど。もうそこでも廃れてんのにテレビ用に作って、そのギャラで普通の買って飲んでそうだ。考えすぎか?

 

「へー」

「けど……おいしいんだね。てっきり酸っぱいとかだと思ってた」

「…………あれ!? 法律は!?」

「法はさておきさ」

「置くの!?」

 

 アルコールが一パー行ってなきゃセーフ。計ってないからセーフ。

 コンビニに着きました。

 

「あっ、久しぶりー!」

「おひさ、藤田さん」

 

 顔見知りです。

 

「今日は服着てるんだね。やめたの?」

「いや、今日は付き合いで着てる」

「あはは、たいへんだねー。でもかわいいよ!」

「ありがとう」

 

 む、愛菜がすごい顔をしてるぞ。どうしたんだろうか。

 

「ちょっと古手川さん……!」

「なに?」

「霧火ちゃん、裸でここまで来るの!?」

「まさか」

「そ、そうだよね。さすがに裸でここまで……」

「水着は着てるよ」

「……海辺では普通なの?」

 

 さすがにここまで裸で来るのはねぇ。そうしたいのはヤマヤマだけど、いくらなんでも家から百メートルくらいが限界じゃないか?

 

「ん」

 

 ポケットが震える。奈々華姉からだ。私のいちごポッキー? いいよ食べて。

 ……ふうむ。なんだろう。

 

 買い物が終わったので出ます。子供らしく無駄にくるくる踊りながら歩く。

 

「元気だねー。……裸足だし」

 

 靴は置いてきた。ぴょんぴょん跳ぶと、結果的にスカートがまくり上がって私のカワイさが溢れます。

 

「パンツはこうよ!」

「あはは」

 

 私は夜の空気が好きだ。特にここらは潮風があって……海辺に住んでるな! 私達! って思える。

 猫のように塀の上に飛び乗って歩く。側転したり、バク転したり、逆立ちしたりもします。そのまま背中から倒れ込むように塀を下りて、着地。

 

「すっごい運動できるね……すっごい見えてるけど」

「霧火はなんでもできるから」

 

 こんな感じに、自分のことのように誇ってくれます。こんな姉がいると嬉しくなってがんばっちゃいますね。がんばりすぎて疲れたら抱きつくとなでなでしてくれるし、幸せすぎて尿が漏れそうだ。実際に私が尿を漏らしたかどうかはさておき、家に着いた。

 

「ただいまー」

 

 入ると、みんなじゃんけんしてた。

 

「どーしてそうなるんですか……!」

 

 愛菜がくずおれる。

 ……もうがまんできない! えーい!

 すぱーんと脱ぐ。やっぱり私はこれだろ! ええい泣くな愛菜よ。すぐ慣れるさ!

 

 口噛み酒は空っぽだった。

 

 

 

「新入生も増えたし、そろそろライセンス講習の準備を始めるか」

「ああ、そうだな」

 

 愛菜に免じて、みんなパンツをはいている。まあ私はパンツなんて軟弱なものは持っていないので水着だが。

 

「はあ」

「ライセンス、ですか……」

「それって早脱ぎの?」

「早飲みに決まってんだろ」

「どうしてそうなる」

「ダイビングに決まっているだろう」

「――ダ、ダイビング……!」

 

 あまりのショックにか、グラスを取り落とす二人。まあ、そうだろうな。春祭とかあったし時間置きすぎた。飲んでばっかだし。

 でも教本読まなかったのもどうかと思うぞ。てなわけで、説明を始め……、

 

 ――こうして、ようやく本格的にダイビングが始まるわけである。

 

 

 

 翌日。

 

「あれ? 霧火ちゃんも潜るの?」

「お? 勉強してるね」

 

 愛菜は年齢制限を知っているようだ。

 

「私は酸素とかなくても大丈夫だから奈々華姉にくっついて潜るよ」

「酸素なくて大丈夫ってなに」

 

 正確には空気タンクか。水中で呼吸できるだけなので酸素自体は必要ですわね。

 竜次郎がカメラを持っているけど、まあ裸で大丈夫だろう。なんとかするさ。

 私以外みんな装備して、いざダイブ。

 

 《波乗り(ライド・ザ・ウェイヴズ)》、《寒暑耐性(エンデュア・エレメンツ)》。

 水中呼吸と泳ぎを速くする魔法。冷たい水を平気にする魔法。

 ちなみに、他者にもかけられる。

 …………そんな日が来るだろうか?

 

 奈々華姉に掴まって、潜行する。奈々華姉も私が普通じゃないことはなんとなく知ってるし、言われればかけるのだが、発覚イベントとか済ませてないから……。

 展開的にそれが筋かな? という程度の理由で一応雰囲気程度には隠しているし(ノリで言ってしまうことはあるが)、奈々華姉としてもほぼ明らかとは言え多少なりとも隠そうとしているなら別に明らかにする理由はないだろう。分かってはいるだろうから誰か大怪我したとかなれば頼ると思うが、今の所そうはなっていない。

 もう隠すのもめんどうだから言ってしまいたいけど、言うのもめんどくさい。これが、必要ない状況下での魔法の存在だ。

 

 なので自分だけで利用するだけ利用して楽しみます。

 けっこう深い海底まで下ろしてもらって、手頃な石を拾う。こうすると片手が埋まるけど浮かずに済む。岩に掴まるのとは違い、岩がないところも行けるポータブルタイプだ。邪魔っちゃ邪魔だけど、仕方ない。ほぼ無装備だから。

 採取好きなので素潜りネットを持って、あと水中メガネだけは付けている。私の魔法はいろいろできるくせに水中で視界を確保、という簡単な効果を持つものが存在しないせいだ。

 一応、いけそうなのはなくもない。

 

 《代理人の視界(ヴァイキャリアス・ビュー)》。

 この魔法は指定した場所に術者に視覚情報を送る不可視の感覚器官を生み出す効果を持つ。……これ、なにもない空間にも置ける魔法なのだけれど、その場合前も後ろも同時に見ることができる。右も左も上も下も同時に。これを目と目の間にくっつけて設置すると自分の鼻とか見えるわけだ。当然よくわからないから前だけ見るよう制限が必要で、それはできるわけだけど、常に多少集中する必要がある。

 慣れれば普通の目と同じように使えるとは思うが、まだ体を動かしながらだとちょっと安定しないので急に視界が広がったりカクカク移動したりする。

 本来の視覚も目を瞑れば軽減はされるが消えるわけじゃないし少し邪魔。忙しくて楽しくないのでレジャー感が消える。

 

 《生命の泡(ライフ・バブル)》。

 全身を厚さ三センチくらいの泡で覆い、真空の中であろうと毒ガスの中であろうと呼吸できるようにする。ある程度の気温にも耐性を付ける。お風呂で試したところ、魔法的な作用なのか泡が浮力を阻害することはない凄い魔法だ。当然視界もオーケー!

 ただ、泡を纏うというのが見た目に表れすぎてこれを使うと魔法使いということを一ミリも隠せない。私はまだ一ミリは隠すつもりだ。いや半ミリ……まあスタンス的には。

 

 どうにも痒いところにだけ手が届かないが、この魔法体系の世界観的には魔法使いであるということを隠す必要がないんだろう。まあどうせタダで得た能力だし日常世界観に合わないからって損するわけじゃないが。

 ただ、大抵の主人公は合った能力をもらってるよなーと隣の芝。贅沢な話である。

 

 月面気分でぴょんぴょん跳ぶ。今回は新入生のためのやつなので、私はおとなしく奈々華姉と竜次郎の間辺りを離れないようについて行きます。

 後ろに倒れ、仰向けになって上を見るとこれがすごくきれい! なので私は時折こうして逆Smooth Criminal状態で跳ねる珍生物と化す。

 たいへん楽しいが、普通の人がやるとウニとか踏んで怪我をしかねないので私だけの遊びだ。

 

 おや、愛菜だ。海底から手をふると、そのうち私に気づいて口からぼわっと泡を出した。

 よしよし、ちょっと挨拶しよう。ネットに石を入れ、置く。んで、ぴょーんとジャンプし、竜次郎を足場に跳んで梓へ。両手をのばすと梓も伸ばしてくれるので、掴むとくるっと回されてリリース。奈々華姉へどーん。抱きついて、思い出したように人間アピールをします。

 あー、レギュでの呼吸好きだわー。……生きてる! って感じがするね。

 

 落ち着いたら離脱して石入りネットを拾って、採集を始めます。おっ、バフンウニ。ラッキー!

 ウニはムラサキ、アカ、バフン、シラヒゲをターゲットに。ガンガゼはちょっと小さいけどとっとく。

 岩についていたフクロノリをなんとなく採取。それほどうまいというものでもないが、海藻なんてそんなものだろう。

 ヒジキがあったがスルー。基準はその時おいしそうに見えたかどうかだ。

 おっ、あわびあわび。サイズオーケー! 普通は剥ぎ取るのに道具を使うが、私は私なので素手だ。

 こんにちは、ハコフグ。うまいらしいが、体表にはパフトキシンという毒を持つほか、たまに肉にも人が死ぬ毒をもってるのでとりあえず見送る。パフはハワイ語でハコフグのこと。なおフグではない。

 

 ふー。

 ……まんぞく。

 

 もののついでで取るには十分な戦果。重量も稼げたので石は捨てた。

 初心者まじりだし、そんな長時間は遊べないだろう。そろそろ浮上を始める。

 私の場合でも潜水病になるのかどうかよくわからないが、なるべく急浮上は避けている。泳いで段階的にちまちま上がっていきます。

 

「ぷはっ」

 

 ハロー、シャバのエアー。

 ちょっと潜ったりして様子を見ていると、やはり終わりのようだ。伊織たちも上がってきた。うむ、戻ろうか。

 

 

 

「すっ……ごい、楽しかったっ!!」

 

 愛菜もいい感じだったらしく、みんな笑顔だ。私もまあまあの収獲になかなか嬉しい。

 

「ほれ、あわび」

「うおっ」

「わっ、おっきい!」

 

 なかなか立派。これはうまいぞ。

 

「あれ、あわびって取っていいんだっけ?」

「ああ、そこは漁協と話して解決した」

「ほー」

 

 遊漁、というジャンルがあって、これは自治体によってルールがかなり異なるが、静岡ではやす*4漁もたも網漁も禁止されてはいない。楽しそうなのでやりたかったのだけれど、場所ごとの共同漁業権によりなんとこのへんではタコすらとれない。

 それはちょっとイヤなので、金を積んだ。

 

「さーて、みんな焼きそばでいい?」

「おお!」

「異議なし!」

 

 帰ってシャワー浴びてちゃっちゃと焼きそば。あと、おまけも。

 

「味噌汁?」

「さっき取ったフクロノリ。特別うまいってものでもないけど、せっかくだから舌でも海を味わうといい」

 

 まあ焼きそばとは合わないが、粋だろ?

 

「お、けっこういけるな」

「これは……しゃきしゃきして、俺は好きです」

「あっ、おいしい」

 

 ちゃんと出汁とったりしてるから味噌汁自体に自信がある。

 うむ、いい。

 ふう、うまかった。サンキュー海。

 

「霧火」

「ん? なーに、父よ」

 

 食事を終えると、父が現れた。焼きそば食う? と聞いてみるが食べてきたそうだ。なんだろう。

 

「あんまり遊べなかったろ? まだ遊びたいなら付き合うぞ」

「パパ大好き!」

 

 飛びつく。幸せすぎて涙が出てきた。

 その後はやす漁をした。トライデントで魚突きだ。めっちゃ楽しいのは間違いないんだけど、どうでしょう静岡県議会のみなさん。

 やす漁の時水中メガネ禁止って条項……なんとかならないですか。ここなんとかしてくれればもっと楽しいんですが。

 

「ウツボとったー!」

 

 私は工夫してるからいけるけど、常人はどうするんだろうか?

 

 

 

「というわけで、晩ごはんはハンバーグです」

「あれだけの大漁で」

 

 伊織は意外そうだが、自重しないと毎日魚になってしまう。私はいいけど。

 

「主にからあげにして弁当にするよ。お楽しみに!」

 

 ウツボとニザダイのからあげ。めっちゃうまいぞ!

 クロハギは煮付けかなー。明日な!

 

 

 

 そういえばこちらの世界の創作の主人公はどうなってるのだろう? 確認してなかった。

 ネット小説サイトを覗いてと。ええと、今の流行りは?

 

 ……。

 クソ野郎が能力も持たせられず地獄みたいな世界に行かされてひどい目に遭う。

 そんなのが量産されていた。

 

 隣の芝が赤い。

*1
架空。現実ではMemriseがあり、これが元。アプリ以外にウェブブラウザ版も。

*2
Amazonのボツ名。こちらではこの名前で活動しているが、Amazonほどうまくいってはいない。

*3
Amazonの日本版みたいなやつ。こういうリアルとの差異があると話を作りやすい。

*4
トライデント的なやつ。ゴム動力は禁止




漁業権ルールには解釈違いがあるかもしれない。特に共同漁業権。静岡県のサイトの説明はややこしい部類。
というか解釈違いから修正したりしているので矛盾する箇所があれば報告お願いします。
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