ぐらんぶる転生最強もの(仮) 作:紅茶タルト
テニス。
この世界のテニスは選手が分身したり空中浮遊したり巨大化したり大怪我したりしない。安全なスポーツだ。
「……ろす。ころしてやるころして……」
たぶん。
……まだ梅毒は発症してないだろうし、フンと血を浴びせられたくらいでずいぶん目が死んでるな。
「工藤くん、どうしたんだろうねー」
「どうって……ステージで丸出しになったの、逆恨みしてるんじゃない? あんなの自分の事故なのに。でも、あの時はスカっとしたけど、あれはちょっとかわいそうかな」
愛菜は同情的だ。よい子だねぇ。
しかし、あんなおちゃめないたずらにそんな怒るもんかね?
ティンベルからのお誘いがあり、私達はテニスコートへ来ていた。エサはミスコン男コンの二位賞金。工藤会長はネタ枠として二位になれたのでそれだ。勝てば合宿費用! やらない手はない。
奈々華姉の手配で私もテニスウェア。もちろんノーパンだ。PaBメンバーってわけじゃないから参加はないと思うが、コスプレ楽しい。
まずは前哨戦。信治&竜次郎のバディだ。ここは心配してない。
初撃。信治の波動球が相手のラケットに突き刺さった。当然、ガットが耐えられるわけもなく破壊される。
『フィフティーン・ラブ』
次弾。真正面に受けず、上手く返すが竜次郎のジャンピングスマッシュがコートに突き刺さる。
『サーティ・ラブ』
まあ、問題ないだろう。
しかし……工藤の様子が気になる。なんというか、表情が無い。全てを失ったかのような顔だ。
「あれ? そういえば他の先輩方は?」
「? さっきまであそこに……」
……これは、おっかないな。
毒でも盛られてたらコトだ。
「ちょっと様子見てきます」
「私も」
……と、いうわけで死屍累々会場。肝が冷えてどう蘇生するか考えてしまったが、どうやら生きているようだ。脈と呼吸を確認するが、問題なし。
しかしこれは……無水エタノールか? 危険なことを。スピリタスで十分だろうに。
「仕方ない。私が介抱しておくから、二人はあちらの様子を見といてくれ」
「あ、ああ」
「わかりました」
とりあえず水買ってこよう。
……しかし、こんなところで全裸とは、なに考えてんだこいつら。
「ほれ、ちゃんと飲め。飲まねば死ぞ」
「うう……すまねえ、霧火……」
「よい」
こいつらが酔い潰れるというのは、致死量に他ならない。もちろん放置すればの話だが。
工藤は危ない様子に見えたが、致命傷で済ますとは意外と理性が残っているようだ。死な安死な安。
そんなに悪いやつじゃないのかもな。……いや、愛菜にやったことはひどいか。
「ふう」
一通り水を飲ませた。上体を起こしている者もいるから、もう任せて大丈夫だろう。本人たちも対処くらい知っている。
あっちの様子はと。なんかさっきまでナイスバディとかナイスボディとか聞こえたけど。
上から覗くと、伊織チームと工藤チームがラリーをしていた。おお、いい勝負。
工藤は修羅みたいな顔で戦っている。これは……工藤優勢か。しかしあいつ、なにかぶつぶつ言っているな。
「《
不可視の感覚器官を任意の場所に設置し、その場にいるように聞く魔法。これを工藤の近くにやってと。
「勝たなきゃだめだ勝たなきゃだめだ勝たなきゃだめだ勝たなきゃだめだ勝たなきゃ」
あっ。解除。
こわっ。
試合は工藤が強いのもあるが耕平がどうにもならず、点を取られていく。耕平のスマッシュはボールにハエが止まりそうなスローボールを放つことができる特殊効果を持っているようだが、この試合ではよい方向に働かなかった。やれやれ。
「《
なら、私がやろう。
「らあ!」
へなちょこショットを貰い受け、相手のコートに突き刺す。慮外の速度で飛び込んだボールに対し工藤は懸命に迫るが、惜しくも逃した。
「すごいぞ耕平! 今のどうやったんだ!」
「フッ……俺にもわからん!」
降って湧いた謎の追い風に沸くPaBチームだが、ティンベルは見たことのない現象に凍りついている。テニスにはスマッシュのあとに加速する技はないからな。
悪いな、こっからはテニヌの時間だ。
耕平が打つ。
「《
耕平が打つ。
「《
耕平が打つ。
「《
耕平が打つたび、私が射出する。
耕平すら手応え以上の速度に首を傾げているが、かまうものか。
こうしているとすぐに勝負がつきそうなものだが、残念ながら耕平がそもそも当てることができなかった場合は見送るしかなく、それを狙われゲームは続く。
だがまあ伊織がカバーに慣れ始めたし時間の問題、と考えていたが……しかし。そんな予測もできない動きに、工藤は追いすがってみせた。
どんどん対処できるようになってしまう。テニヌ度を上げてラケットを回避できればいいのだが、残念ながらこの魔法は勢いよく射出する場合は使い切りだ。細かい動きはできない。
しかし……なんて透き通った目を。あれは観の目だな。なにやら、レベルアップさせてしまったような気がするぞ。主人公か? あいつ。
本性はどうあれ、今のあいつに悪意はない。憎悪もない。残ったのはテニスと梅毒だ。
あれがゾーンか。……いいものだな、スポーツマン。本性と持病はどうあれ。
「死ねええええ!!」
顔面狙いにも、表情を変えず避ける工藤。
まばたきもしない。……やるじゃない。
その部分には敬意を評すべきなのだろうが、私がこうしてこっそり勝手に首を突っ込んだ以上これは私との勝負でもある。そして私は勝負に負けるつもりがない。
「伊織!」
殺人サーブの構えの伊織に、親指を立てて見せる。
伊織は小さく頷き――ボールを上空へ打ち出した。
「なに!?」
工藤の相方が驚いて声を上げる。
宙を見上げる工藤のゾーンも解けかかっている様子だ。さすがに、これは驚いただろう。
高く舞い上がるボール。工藤の相方が着地点で待ち構え――
「《
突然の突風にボールが飛ばされ、対処できるはずもなく得点へ。
伊織とOKサインを交わす。
一度であれば偶然と言えただろうが、次も同じことが起こる。うろたえる工藤の相方が工藤へ声をかけようとし、
「工藤さ――」
言葉を詰まらせる。
工藤は……表情を変えないまま涙を流していた。
その内心は想像することも難しいが……普通に考えれば、自分の努力がこんなよくわからんなにかに踏みにじられるのがキツいんだろう。あまりの理不尽。無力感。まあわかるはわかるが……顔こわっ。
覚醒工藤はその後一度だけ打ち返すが、それは耕平でも返せる球だった。ゲームセット。
さて、仕上げだ。
《
これはレベル二の魔法だが、今日はもうレベル二の魔法力をほぼ使い切ってるので呪文名を省略することでレベル三の魔法力を使う小技。
この硬いもの対してのみ効果を発する音波攻撃は、対象物を一つに絞る限り不自然な音を発さない。つまり、あの記録用のカメラは前触れもなく唐突に壊れるわけだ。
フン!
「うわっ!?」
ピッコロさんの気分。
問題はSDカードだけど、これはチンベルメンバーが見つけて拾い上げたところでもう一撃加えて破壊した。幸い他に撮影してる人も見当たらないし、こんなもんで証拠隠滅は十分でしょう。
スカートを押さえ、飛び降りる。下まで四メートルくらいあるけれど、階段はめんどくさい。理由はわからないが私はこのくらいの高さは平気だ。
すちゃっと着地してみんなのもとへ。奈々華姉に"もー"とたしなめられるけど、楽しくてやめらんない。
健闘を称え合う面々。そしてアホどもは残った酒を干しに。チンベルメンバーも素直に賞金を渡し去っていくようだ。その途中、工藤と数秒目が合った。睨んでいるように見えたが、たぶん睨んでいるわけではない。形相がすごいだけだ。
あれだけでここまでダメージを負うとは想定外だったが、まあ直接的な私の被害はお好み焼きタイムの妨害とはいえ、愛菜は明確な悪意をもって傷つけたのだ。同情する価値はないだろう。
まあどの程度加担したか確認もしてないのに他のメンバーまで感染させちゃったのはやりすぎたから治してやりたいが……どいつが、とかわからない。手当り次第だったから。
……ま、部室にメッセージカードでも置いとくか。ティンベルの皆さんへ。梅毒を感染させてしまってすみませんでした。ついでに二十万円ほど置いとけば検査受けるだろ。ちゃんと紙幣の指紋も拭き取ってな。
工藤も治療しちゃうのが残念だけど、怒りのぶんだけ報復したなら怒りが覚めたら報復も緩めるのが筋というものだろう。
まあそれはあととして、今は空いたテニスコートで奈々華姉と遊ぶとしようか。
この体はテニスもできるのか、非常に興味深い。
放置しておけばほもさーくる。メッセージカードを置かれてしまうと性病ビッチに引っ掛けられたバカまみれのサークル。中には彼女がいるのに身に覚えのない性病、という者もいるだろう。
どちらがマシなのだろうか。彼女持ちにとってはほもの方がマシと思う。同性なら浮気ノーカンという判断はありうる。でもそれ以外は。
究極の選択。
アンチ・ヘイトタグをつけるべきなんだろうか。