ぐらんぶる転生最強もの(仮) 作:紅茶タルト
「古手川さんだ!」
「古手川さん! 久しぶり!」
久しぶりに小学校。小学校とは、初等教育を施すための学校です。一応在籍しているので、こうしてたまに来ます。
「神乃木さん、
「おはよう! 今日はどうしたの?」
「運動会の徒競走の選手を決めるって聞いてね。それでふらっと」
「そうなんだ!」
「古手川さんなら一等賞だね!」
たまにしか来ないけど、まあまあ人気者です。なにせ小学校においてYouTuberの地位は高い。そんな時代だ。*1
なお、服は着てます。モデルさん? みたいなのを。今どきのJSの世界ではこのくらいが求められるのです。どうせたまにしか来ないし毎回違う服を着てきてる。イタリアやフランスから取り寄せれば雰囲気の違いでハッタリをきかせられて楽だ。
私自身の好みとしては、ボーイッシュにパーカーとか好き。ポケットに手突っ込むの。
なんでも似合うから上から下までデニムなんてやってもかわいいぞ。私ってすごい。
一時間目、国語。といっても私に教科など関係ないのだが。授業を聞き流し、持ってきた問題集をやっつける。
算数もスルー。思うんだが、別に一時間目から来る必要はないよね。
音楽。音楽準備室の楽器を好きに触ってみるというもの。まず興味を持たせようという教育上の目的が感じられる。
なぜかドラムセットがあるのがよくわからない。ギターもないのに。
とりあえず木琴をもっきんもっきん鳴らす。
「はーあーるーのーおーがーわーはーさーらーさーらーゆーくーよー」
うむ。弾ける。
「古手川さん! どこがドの音なの?」
「ここだよ」
ぽんっと叩いてみせる。
「はい」
「ありがとー!」
アコーディオンは、っと。……ん、左手のボタンないのかこれ。
まああったら難しいし、なけりゃないでいいんだけど。
通常のアコーディオンには左手側にえげつない量のボタンがついている。このボタンを押すと低音だとか和音だとかを出せるわけだ。あの心を折るためにあるような悪夢みたいな配置図を見ればきっと奏者を尊敬できることだろう。
ま、これは単にピアノみたいなもんだけど。
……でもピアノみたいには弾けないな。
とりあえず、ふたりのきもちのほんとのひみつ。キルミーベイベーのED曲だ。
「へーんーあいがゆーきすぎて、ひーざーしたへすーべりこむ」
なんとなく弾ける。
この曲はこっちにないので、私のものだ。
いずれなるべくしっかり再現したい。
「んー」
この簡易アコーディオンは楽器としてのメリットは少なそうだ。
おや、オルガンが空いてる。学校用オルガンだ。
今度はゲーム曲。FFXの決戦。幸か不幸かこちらのFFはVIあたりから前の世界とは別なので、私は曲を使えるしこっちのFFも楽しめるわけだ。まだ手を出せてないけど、楽しみ。
決戦って曲のわりに負けなしのイベント戦なんよね。
うろ覚え地帯に突入してやめる。
木琴が空いたのでもっかいそっちへ。
「ふふふー、ふー、ふーふふ」
竹取飛翔。東方永夜抄だ。
最初だけゆっくりだけどすぐに指が爆裂する感じになる曲。ノープランで弾きはじめたけど、なんとなくスローな感じにしてなんとなく弾ける。
「あっ、それ東方だよね。古手川さんも東方好きなの?」
「ん、まあね」
東方はこっちにもある。多少曲が違ったりするけれど。
事情は知らないが、JSにウケているようだ。キャラ?*2
「永夜抄の曲が好きだな。趣があって」
「昔のだよね!」
「昔の……まあそうだね」
考えてみれば、私らが生まれる前の曲だ。
うーむ、ジェネレーションギャップ。
……いや、前世もそうだったかもしらんが。あんま覚えてないのよね……。
適当に遊んで時間。しばらくの休憩時間があって、ようやっと体育。体操服に着替えて、グラウンド。
今日は徒競走の選手を決めるので、一人ずつタイムを計っていく。……ちょっと計算外だ。複数人ならそれに合わせて加減ができるのだけれど、一人だと困る。気をつけないとリアルで"またオレ何かやっちゃいました?"をやることになる。キツい。
どーすりゃええねん。手加減なんて魔法ないぞ。
特に案もなく、すぐに私の番が来た。出席番号順なので、古手川は前半だ。
仕方なく、気持ち八割くらいに加減することにする。
ぱん、とスターターピストルが走りやがれを告げる。チッうっせーなやってやるよと走り出す私。
五十メートルくらいか。いくらか加減はしたが、そう時間もかからず走りきった。
まあ、その結果は……、
「すっごいはやかった!」
「すっげー!」
などの声と、ストップウォッチを睨む教師だが。
……またオレ、何かやっちゃいました?
去年は"まあいいか"と見送ったが、今年は家族サービスとして参加を決めた運動会。せっかくならとかっこいい種目にと思ったのは早まった判断だったかもしれん。
「古手川さんってすごくはやいんだね! びっくりしたよ!」
給食の時間もその話。タイムは聞いたので検索すると、どうやら私は上級生男子の平均くらいで走っていたらしい。*3
なろう系の目立ちたくないなーとか言ってる主人公が的に魔法を当てる試験で前のやつが見せてくれた威力を一切参考にせず的を後ろの壁ごと消し炭にするのってそんな責められることじゃないと思う。だって手加減の練習なんてしないから。一発勝負で小学三年生の上位の速度くらいの記録を出せる者のみ石を投げよ。
せっかくの給食だが、私は弁当にしている。今は選べて自由だよね。久しぶりに給食を、というのは転生あるあるかもしれないが、世代が違うから"そうそうこれこれ!"とはどうせならない。それに今生の私は食いたいものだけ食うというのを満喫しているのだ。それ以外のものを入れるスペースはない。
ちなみに今日の献立はハヤシライスとバターコーンコロッケときんぴらごぼうだってさ。そちらへの私からのコメントは差し控えるが、ちなみに私のお弁当は適当な魚の唐揚げとミニトマトと茹でてよく水を切ってタルタルソースまみれにしたブロッコリーと枝豆とわかめご飯だ。
枝豆はピックに刺してまとめてある。デザートに冷凍のだけどチェリーもあるぞ。栄養バランスに詳しくはないが、これだけ野菜が入っていればいい感じだろう。*4
「こんどの動画はなにするの?」
「知りたい!」
「んー、今考えてるのはゲームセンターに行ったり、工場見学したり。今まで通りゲームや海でもいいんだけどね」
ゲームは配信で新作を普通にプレイする他、前の世界にないレトロゲーをやってみたり翻訳されてない洋ゲーを訳しながらやったりいろいろしているが、特に人気のあるのはマイクのあるタイプの撃ち合いゲーで"撃たないで!"とか"どうして私を殺すの!?"とか言って隙を作って撃ち殺す遊び。主に海外の配信者を狙っているため、リトルデビルなどと呼ばれている。
言語問わずいろんなとこに顔出すからまとめ動画なんかもあるぞ。私の配信を見て本当に子供かと驚くまでがテンプレだ。
「でも、私海が見たいなー」
「うんうん」
「おお」
不本意ながらゲームとかがウケているが、私の気持ち的メインコンテンツは海系。そっちが評価されるのは素直に嬉しい。
「海きれいだもん!」
「きらきらして、宝石みたいだよね」
「ねー」
ふむふむ。
「反応が落ち着いちゃったから寝かせようと思ってたけど、撮ってはいるんだよ。どんなのが好き?」
「ゆっくりしたやつ!」
「海の中で、いろいろするやつ」
「ほー。なるほど、参考にするよ」
予定はあったけど、好きでいてくれる人は大切にしなきゃだね。
昼休み。両腕に一人ずつぶらさげたりして私のパワーをおもちゃにして遊びます。
背中に一人乗って、肩車までするともう普通の速度で歩くくらいしかできないけど、子供なんてなんかに乗ってりゃ楽しいものです。
最後に掃除して、低学年は終了だ。
「せんせーさよーなら! みなさんさよーなら!」
というような帰りの会があって、さらば。
「なっ……!」
伊織が手に持っていた教本を落とす。ちゃんと勉強しているようでなによりだ。
「なにかな」
「霧火ちゃんが……ランドセルを……! しかも洋服を……!」
「小学生様だぞ」
小学生とは、小学校で初等教育を受ける者のことで、学校教育法上は児童と区分される生命体である。なお、中高生は生徒。それ以上が学生である。
高校生は書類の身分の欄に学生と書きがちだけど、そこを気をつけると一目置かれるかもしれないぞ。
「和服という可能性がある上で発される"洋服"って珍しいな。ま、ちょっと運動会の準備にね。私はべつにいいんだけど、私の運動会を見たい姉と父がいるからね」
「その年で家族サービスか」
「まーね。去年はめんどくさくてやんなかったら残念そうだったから」
「そっか。確かに……楽しそうだな、霧火ちゃんの運動会!」
いい笑顔で、伊織。
うう、立派なロリコンに育ちおって。今私の裸を見せてやるからな。
脱いで下りると、耕平もいた。あと信治。
「や、耕平くん」
「あっ、……どうも、霧火さん」
「ふむ」
耕平は目をそらしたりと挙動不審だが、問いただすほどのことでもない。
それより、なんかの話をしていた様子だったが。そっちを訊いてみた。
「ああ、いいバイトが見つかってな。伊織と耕平にもどうかと思って誘いに来たんだ」
「あー。費用ね。それに沖縄行って帰るだけじゃつまんないもんねぇ」
「そうだな。合宿とはいえ、折角の沖縄だ。金がなくて楽しめない、なんてのはもったいないだろう」
後輩思い。
「まあ頑張りなよ。オチは見えてるけど」
「それって予言か?」
「それもだけど……単純に予測できるからね」
だってぜったい力仕事じゃん。
軽くシャワーを浴びて部屋へ戻る。PCを起動して、やることは動画編集。先日の撮った動画をあれこれする。
今回は水着を着た私が海底の石を拾い集めて漁礁を作る動画。石を積んで山を作って、その隙間に小さな生き物が住むわけだ。地味ーな動画だけど、子供なのと息継ぎが五分ごとなのが魅力。時折五分ごとの人間アピールすら忘れるので、"もっと呼吸しろ"のコメントがテンプレとなっている。
撮影者はヒマなPaBメンバーと頭に付けたGoPro。ここから上手いこと繋ぎ合わせるわけだけど、こんなもんどうせ正解なんてないのでてきとーにやる。
一重積んでは父のため。二重積んでは母のため。石を積んでるうち小魚なんかは割とすぐ集まってくるので、撮影しておいてここで解説を入れたりする。
「キヌバリ。ハゼの仲間だよ。食べれるけど、こんな小さいのをわざわざ食べるってほどの味はないよ」
「メジナ。刺身、煮付け、焼いても汁物にしても唐揚げにしてもおいしい万能選手。ここらではみかんをエサにして釣ったりするんだよ」
「こっちの変なのはヒザラガイ。八枚に分かれた殻を背負っていて、一見おいしくなさそうだけどアワビっぽくておいしいよ。ただ硬いから薄く切ること。殻を取るのが面倒なのもマイナスかな」
画面の中の私が漁礁を作り終える。楽しそうにしているのが実にいいね。
これで六つ目のマイ漁礁。すなわち漁礁造り動画も六つ目。海がきれいだからなんとかなってるけど、そろそろもう一つ要素ないとつらいよねぇ。
仕上げに解説に字幕をつけて完成。英語と、日本語もだ。こういう気遣いが大事。
私が好きな海を多くの人に知ってもらいたいから、そのためにやれることをやっている。
「ふう」
一息つく。うーむ……魚突き動画の編集に移るべきか、ゲームでもするか。それとも勉強にしようか?
そうだ。奈々華姉とちゅーしよう。
「奈々華姉! 奈々華姉!」
店番をしていた奈々華姉におねだりポーズをすると、笑顔で顔を近づけてくれる。ちゅっ。はむはむ。
すりすり。なでなでしてくれる。
「好き……」
「大好きだよ、霧ちゃん」
ちゅー。ちょっと舌も入れます。れろれろ。
……こういうことしてると幸せすぎて涙が出てくるんだけど……ひょっとして前世の私、不幸だったんかね?
まあいいか。すりすり。
今日は奈々華姉と寝よう。
奈々華姉にも脱いでもらってるので、おっぱいを堪能しながら目覚める。いい朝だ!
コーヒーを淹れてみんなのお目覚めを待ちます。みんなが起きてきて、朝食を作ります。私は女勢用に昨日から漬けといたフレンチトーストを。奈々華姉が男勢用の焼き鮭とかそういうのを。やっぱ男の朝はたんぱく質がなければね。
「それにしても、霧火ちゃんのコーヒー……すごいうまいな」
「いい豆使ってるからね」
あまりにもめんどくさいから機械焙煎だけど、ハンドピッキング*5は魔法で従者を呼び出してしっかり惜しみなくやらせてるし、いわゆる、という感じの豆を使っている。うまくないわけがない。
和食なのでお水も出してと。こっちのフレンチトーストにはお茶を合わせる。今日はルイボスティーを淹れます。
「伊織くん、まだお疲れみたいね」
「ええ……ちょっとは軽くなるかと思ったんですが、起きてみると体バッキバキで」
「大変ね……」
「もっとたんぱく質が欲しいなら燻製肉かチーズ出すけど」
「あ、お願いできるかな。肉がいい」
「はいはい」
引っ越しのバイト、やっぱキツいんだろうな。
がっつり食わせよう。
「ははは、伊織は痩せているからなぁ。急に力仕事は厳しいだろう」
「そうなんですよ。俺にはもっと知的な仕事が合うと思うんですが」
「チ的?」
「字が違わないか?」
「合ってるわよ?」
「そうか」
千紗姉が言ってるのは痴的か恥的か。
どちらにしろ合いそうだ。
食後はラテを飲みながらお勉強。《
この魔法さえあれば人生はイージーモードだろう。
耕平がへろへろーっとやってきて椅子に座ってぐでーっとし始めた。隣には伊織もいる。
こういう疲労ってどう回復するんだっけ? 《
「今日はいったいどうしたのよあんたら」
愛菜がやって来た。ついでに梓もさっきからあっちで飲んでる。
「おう……ケバ子か」
「ケバ子ゆーな!」
「ちょっと金に困っててな」
「稼ごうとすると難しいもんだ……」
「お金って合宿費用?」
「あれ? 二人ともトッキーにバイト紹介してもらってなかった?」
そこから語られる、キツいバイト話。
そして飲んでなくなっちゃった話。
「そりゃお店で飲んだらそうなるよ」
「そうなるからうちでは凝った料理出さないんだよ」
「なるほどな……」
「学生への配慮か……!」
だから私が勝手に料理や酒出してもオーケーなわけで。
「しかし、霧火さんの言う通りか……」
「確かに、きれいにオチたな……」
「なーに? 霧火、また予言したの?」
「それほどのじゃないよ。ただ、こうなることは予測できるじゃん?」
「あはは。なら言ってあげればいいじゃん」
「学生のうちはバカやってればいいんだよ」
「おっとなー。それでトッキーは?」
「使ったぶんをまた稼いでくるそうです」
「あんたらもそうしたら?」
「あんなキツいの連続は無理だ」
「ライセンスあれば私が雇うんだけどね。まあそのために合宿行くわけだけど」
「なに!? いくらだ?」
「まず金額を訊くんだねー伊織は」
「一人頭二万円」
「二万!?」
「そっ、それはいったいどんな仕事で?」
「私が海で遊んでるのを見守る仕事。私一人だと家族が心配するからねー」
「は、はあ……」
「PaBのみんな、金欠の時はお世話になってるよー。私とかはお酒もつまみももらってるから受け取りにくいし半額にしてもらってるけど」
素直に受け取ってくれりゃいいんだけど、さすがに小学生からは受け取りにくいんだろう。
「しかし、霧火ちゃんは……なんでそんなに持ってるんだ?」
「お金をかい?」
「ああ」
「昔から、占い師に対する突っ込みとしてこんなのがある。どうしてロトの番号を占わないんだ? って」
「……まさか」
「ふふ……そう。FXと株だ」
「ロトじゃねーじゃねーか!」
「ははは」
保護者の協力を得られるなら、小学生でもそういうのを始めることはできる。
占いがあれば負けはないし、豪ドル辺りで飽きるまでひと暴れしたわけだ。
つまり、私は金に困ることがない。
シリアスな話ならこういう便利過ぎるキャラは作者の邪魔になるので処分されます。
「伊織と耕平くんさえよければ、二日、その気になれば日帰りで五万円それぞれに出せる仕事もあるけど」
「五万!?」
「それはどんな!」
「私ね、久しぶりに富士山に登りたいんだ」
「富士山? それなら……」
「五十キロ歩けば着くから、そこから登って下りて戻る。ちょっとハードだから男の子がいないとね」
「徒歩か! いや、無理だろ……」
いけると思うけどな。まあこれはそのうちで。
「霧火ちゃんすごいんだね……。ところで、寿先輩は? いませんけど」
「ブッキーもバイトだってさ」
「バイト?」
「あの人が?」
てなわけで。
「いらっしゃい。……ん?」
「やほー、遊びに来たよんー」
バー。
まあ、私はいないんだが、そこは現代機器の力。
梓にiPhoneとカメラとマイクを埋め込んだクマちゃんを持たせた。
が、特に言うこともないな。私もカクテル作るし、参考になればと思ったんだが。
なんだかんだで伊織たちがバーテンになる。
「私はスクリュードライバーで!」
「スクリュードライバーか」
「了解」
そう言って、二人はなかなかの手際でお決まりのギャグをやる。いや、他でやったのはこち亀くらいかも。
「こないだ霧火ちゃんが作ってくれてたでしょ! その時そんなの入ってなかったよね!?」
「あれか!」
「じゃあドライバーはなにに?」
「かき混ぜるんじゃないか?」
「混ぜるのはマドラー! 工具はいらないの!」
そうそう。だから、どこにあったそれ。
『伊織、耕平くん。スクリュードライバーはводкаとオレンジジュースだよ』
「ヴォトカ?」
「ウォッカですか」
からかわれてると思って涙目の愛菜はかわいいけど、かわいそうだからね。
『愛菜。二人は本当にバカなんだ。かわいそうだろう? だから怒らないであげて』
「うう……ほんとに?」
『うん。でも、そんなとこがかわいいんじゃないか』
どうにかフォローしてあげた。
「なあ、耕平」
「なんだ北原」
「俺らは今、褒められてるのか?」
「わからん」
二人もそれを察してバカアピールをしてくれたので愛菜が納得してくれた。
一応こうして参加してみたが……ただバーに行くだけのことに参加してもあんま面白くないな。私関係ないし。
「このぬいぐるみは……?」
「ああ、この子は奈々華の妹の霧火。未成年だから遠距離で参加ってわけ」
「へえ。今の技術って面白いね。よろしく、霧火ちゃん」
『よろしく、マスター』
たぶん、キャスターのサーヴァントだ。
『ほう! 桜リキュールを』
「うん。それを升に入れてね」
『なるほどなるほど。梓には升も似合いそうだ』
オリジナルカクテルを教わる。
お互い、人に酒を飲ますのが好きなようで気が合った。
早速桜リキュールと升をポチっと。時間的に今回は微妙だけど、静岡は早ければちゃんと注文の翌日届きます。この部分が人間の住めるところとそうでないところを分ける。
なんやかんやあって、梓によると伊織と耕平は裸の関係だという話が出る。ああ、そういやそんな話あったな。まあ伊織がゲイだろうがバイだろうがヘテロだろうが私はどうでもいいのだけれど、女に興味ないと千紗姉や愛菜が悲しむかもしれんしゲイではない方がいいのかな。千紗姉が嫁に行くと奈々華姉が悲しむけど、まあその時は私がなんとか慰めックスしよう。
翌日。
「霧火ちゃん……富士山の話だけど」
「お、行く?」
「……行こう」
覚悟を決めた様子の伊織と耕平。
行ってくると家族に伝えて準備を終え、こうして私達は即座に旅立った。
私の場合水着でも富士山は登れるのだが、山に対しても敬意を払うのが紳士淑女。舐めきったスタイルで登るわけにはいかない。ましてや古くから霊山として敬われてきた富士山が相手となっては、一部の隙もない登山服で向かう他ないだろう。
あとカメラ。いいやつな。
バックパックもおっきいぞ。伊織たちにも道中買ってあげよう。
あまり加減もせず、駆け足で向かう。常人の足なら一泊することになると思うが、伊織たちならもしやと思う。速歩であれば富士山麓まで十時間掛かり、登山下山を除いても往復二十時間掛かる。だが、走ればこれは半分にできるわけだ。
登山が往復八時間とすれば、計十八時間となり十分に日帰りが可能。ちょっと無理をさせてしまうかもしれないが、要らない気遣いで若者の時間を無駄にさせるわけにはいかない。
「霧火ちゃん! そんなに急いだらバテるんじゃ……」
「もう少しゆっくり行きませんか!」
「大丈夫大丈夫。あ、もしかして二人とももう疲れちゃった? ごめんね、ペース落とそうか?」
「俺はまだ平気だけど……」
「俺もです」
「そう? ならよかった」
一旦止まってすまーとふぉんで確認すると、今の所時速十キロほどで走れてるようだ。うむ、この調子で行こう。
変化が訪れたのは一時間後。つまり、約十キロ走った頃だ。
「マ……マッテ」
「ハァッ、ハア……!」
およ?
速度を緩め、止まる。止まるというか、足踏みはする。せっかく温まってきた体を冷ましたくない。
「どうしたの?」
と訊くが、なんとなくわかる。バテたんだろう。鼻水垂らして物凄い形相だ。
残念だ。どうやら二人とも、疲れたりするタイプの人類らしい。
「ハアッ、ハア……」
「ッハ、……ッフウ……」
「三十秒くらい息を止めると息切れは収まるよ」
三十秒後。
「ふう。……本当だ……」
「こんな技が……」
「もう疲れちゃった? んー……」
周囲を見渡すと、鰻屋と焼肉屋。
「どっちがいい?」
「肉で!」
「鰻で!」
「肉食べて鰻重テイクアウトしよう」
カロリーを取らす。
遠慮なく食べてくれるのは嬉しい。走る上では不向きだが。
こうなっては日帰りは無理だろう。諦めて宿を予約し、二日に見直す。
そんな感じで強行軍を続けたが……半分もいかず、二人は弱ってきてしまった。
「……仕方ないなあ」
タクシーを止めて、後部座席に二人を押し込む。荷物を乗せて、助手席に乗り込みシートベルトを締めながら家の住所を伝える。これも動画にしたかったんだが、常人には無理なことなんだろう。今回は諦めて宿の予約をキャンセル――
「……ふじ、さんまで……」
――しようとしたところで、後部座席から声が。
二人の声は揃い、当初の予定とは違うもののとりあえずの続行を伝えてくる。
伊織よ。耕平よ。君たちはそんな、死にそうな顔になってまでも私に付き合ってくれるのだな。
もはや覚悟は問うまい。私は運転手に宿の場所を伝え――
そして翌日。
「ただいまー」
「おかえりなさい霧ちゃ……キャー!?」
二人を広いとこに置いて、部屋へ。荷物を置いて、戻ります。
「ずいぶん痩せたな」
「忠告しておくべきだったな。霧火の全力に付き合うと俺たちでもキツいって」
奈々華姉が心配そうに見守り、信治と竜次郎が二人を介抱している。それぞれを抱えあげて、口にビール瓶を差し込んで――それ大丈夫?
「ゴフッ!」
「おお」
「生き返ったな」
「よかった……」
奈々華姉。あなたにまでボケられると私が突っ込まなきゃならなくなるんだけど。
結局帰りも大部分でタクシーを使ったが、まあやれるだけやってくれたのは評価する。色を付けて六万円をそれぞれのパンツにねじ込んでおこう。なるべく食わせるようにしてはいたが疲労で食えなくなって二人は痩せ、パンツにも隙間ができてしまっているがまあ意識はあるし大丈夫だろう。あるよね? そうだ、お礼を言っておこう。
「伊織、耕平くん。今回は付き合ってくれてありがとう」
「……あ、あ……」
「……は」
よしよし。
「今度はタクシーなしで行こうね」
耳元でそっと囁く。
さーて、さっそく今回の動画を編集しなくっちゃ!
「伊織! 耕平!」
「どうして急に……!」
「二人ともこんなに萎れて……!」
それとも海で遊ぼうかな? いやー、山もいいけどやっぱ海が一番だわ。
夜。
疲れ切っていた伊織と耕平もお粥と酒で回復し、どうやら友達の家に飲みに行くようだ。
頬はこけてるけど、立って歩けてる。すごいやつらだ……。ほんとはさっき意図的にとどめを刺したのでとりあえず心配する素振りはしておいたのだけれど、その時。
「ああ、霧火ちゃん。また、一緒に富士山行こうな!」
と言ってくれた。あれは嬉しかった。耕平も喋る元気はないまでも親指を立ててくれた。
よしよし、燻製持ってけ。おつまみだ。
「ああ、そうそう」
「うん?」
「なんですか?」
「その飲み会、山本くんもいるんだよね?」
「ああ、いるな」
「あいつですか。あいつがなにか? ああ、殺しておいた方がいいですか?」
「そうじゃなくて。……ええとね、ずっと思ってたんだけど、さすがにあの服装はかわいそうだからさ……私が、山本くんはたぬきに化かされてあの服着てるの? って言ってたって言っておいてくれないかな?」
「ああ、あいつは好きでモテないんだよ。少しでも女がよってこないように、ああして身を守ってるんだ。……そっとしておいてあげないか?」
「お前は悪魔か」
まあ好きでやってるならいいけど、あのセクハラみたいな髪型はやりすぎだと思う。公共の迷惑だ。せめてスキンヘッドにしたら……ああ! だめだ! 問題は顔か!
「じゃ、強く生きてって言っといて」
「ああ、わかった」
「わかりました」
顔じゃなあ。軽々しく整形しろとか言えないもんな。
……むう。
ちょっとかわいそうだから、優しくしてあげよう。
千紗姉と寝た。ふにふにするのに丁度いいサイズのおっぱいを心ゆくまでふにふにするうちに意識が落ち、ふにふにしながら目覚める。
残念ながら裸にはなってくれないが、まあ十分だ。
今度隙があれば愛菜のも触らせてもらおう。
外に出て、朝日に体を晒す。
んー……暖かい。自然の中で生きてる感じがする。涼しい朝の空気も好き。
おさんぽいこう。
海岸沿いを歩く。残念ながら砂浜とかじゃないけど、一キロちょいビーチが続いている。これが私のおさんぽコースだ。
家から離れるけど、海だからセーフ。海パワーだ。
いるか浜堤防と小さな堤防の間には海水浴場もある。こっちじゃなくてあっちにも海水浴場はあるけど、あっちは石ゴロゴロ。こっちは砂利じゃりじゃりだ。
ワイキキみたいにできんものか。でも砂持ってきて埋めるって、自然破壊感はあるよね。波で侵食されて、そこにあるはずのない砂が海底に散らばるのも大丈夫なのかどうか。どっかで小さな生き物が困りそうだ。
観光>自然 となった時にやるんだろうな。あれは。
おや、釣り人だ。
「おはよう」
「おは、うぉっ」
釣りだけに魚ってね。
挨拶を済ませ散歩続行。そのうち岬が見えてきて、引き返します。気分が乗った時は登ってその先の山林も楽しむんだけど、今日はいいかな。
小石を拾って、海に投げる。全力で投げる。ぱーん! といい音が鳴って楽しい。
次、野球ボールくらいの石を拾い、上へ投げ……、
「フンッ!」
全力で拳を叩きつける。
そんなに飛ばず、ぽちゃんと落ちる。
拳がちょい痛い。
なんとなく満足。
戻る途中、釣り人が伊勢海老を釣ってるのをみた。そして逃していた。このくらい許してやればいいのに、共同漁業権よ。
戻ってきた。
他にもやりたいことはあるのだけれど、みんなが起きてくる時間だ。コーヒーを淹れよう。
「おはよう、霧火ちゃん」
「おはよう霧火」
「おはよう奈々華姉、父」
今日は奈々華姉がごはんを作る。普通の納豆とかのやつ。そこに私が昨晩から仕込んでおいた魚介スープも添えて完成だ。ごちゃごちゃ詰め込んだやつ。
んー! いい! 寸胴いっぱい作ったから後でPaBのみんなにも出そう。
「おお……! すごい、複雑でわからないけど、とにかくうまい……!」
「霧ちゃん、たまにこういうの作るんだ」
「冷蔵庫がいっぱいになってきたらぶち込むのさ」
「それでこの味になるのか。ああ……なんだか海から歓迎されてる気分だよ」
「ははは、伊織もようやく海の男になれたか」
「儀式なんですかこれ?」
ちなみに鍋の中は見ない方がいいやつだ。
さてさて、今日はなにをしようかな。青女でも冷やかそうかな。
「セイッ!」
自分の何倍もの体重を物ともせず背負い投げる。《
「んごー!」
牛のような声を出して背中から落ちる柔道部員。私の力が強いのは確かだが、体型差があるので基本的には投げさせてもらっている。
今もこういうことをしに、たまに青女に来ます。大学とも部とも無関係な子だけど、裸足柔道着で来るような小学生を無碍にはしない。当然ちゃんと足をきれいにして、神棚に礼をして、押忍。こういう礼節というのは得をすることもあるからやっておいて損はない。
ついでに投げてもらう。巴投げからの、華麗な着地。
次に袈裟固めされて、今回は相手が一年生のかわいい子だったのでちゅっ。
「!?」
「どっせーい!」
投げ飛ばす。
「あたー!?」
「はははっ! 荒草ぁ、お前気ぃ抜いたな?」
「あー……そりゃ驚きますって……すごい力だ……」
セクシーコマンドーである。
しばらく遊んでもらって、テンプレート的なゴリラ部員の肩車で構内を闊歩。かるーく聴講させてもらって今日のところは帰る。
押忍を交わし合い、修行のように走る。
「おかえりなさい」
「ただいま」
シャワーを浴び、お昼寝。イメージ的にはんごーとかごがーとかいびきを立てながら。
目を覚まし、ベッドから天井に蹴りをするように飛び上がり、一回転し着地。意味はない。店へ下りると、伊織たちがいた。
「ああ、霧火ちゃん。これからダイビングショップに行くんだけど……」
「ふむ」
考える。
……ああ、これはあれかな。ダイビングコンピューターと大根を間違える下り。でも安全に関わるダイコンを私が千紗姉に買わないわけがない。店ので伊織たちのも足りるし、そういう話はたぶんなかっただろう。単純にそろそろ見といた方がだね。
「私はいいかな。楽しんでおいで」
「そっか。まあ霧火ちゃん装備付けないしな」
「そゆこと」
見送る。
さて。んー、なにしようかな。
「奈々華、霧火と海行ってきたらどうだ? 店番なら俺がやるから」
「パパ大好き!」
イケメンすぎる。抱きついて、嬉しくって出た涙をエプロンで拭きます。処理できない喜びは涙腺から溢れるのだ。
あとたまに尿道からも。
今日は魚突きスタイル。やす、素潜りネット持ち、ゴーグルなし、頭にGoProだ。魚突き動画の素材撮り。あとちょっと、石をネットに入れておく。獲るたび捨てるのだ。
付き添いは奈々華だけなので、カメラは私のこれ一つ。したがって水着もなし。
早速海に飛び込んで、潜って行きます。
最初に目についたのは、砂場で休んでいるトビエイ。本来はもうちょい深いところにいるが、時折こうして浅いところに迷い込んでくる。煮付けにすると肝が奇跡のようにうまいけど、ちょいデカいので帰りにいたら突こう。
見つけ次第がつがつ獲っていくスタイルの方が見ていて面白いのだろうけど、私の体格とのバランスの問題でそうもいかない。一回獲った魚に紐を通して数珠つなぎに、とやってみたらしんどいことしんどいこと。獲物の重量に体が持っていかれる。やるにしても帰りだ。
ウツボ発見。これは突かずにはいられない。ちょい長いけど、構うまい。えいっと突いて、軽く格闘してネットに放り込む。
次、アオウミガメ。
かわいい。
奈々華姉に持っててもらった水中マスクを受け取り装着。しっかり見ます。近くにいたくらげをやすの柄で口元に持っていくと、ぱくっ。
うむ。かわいい。
ちょっと一緒に泳いだりするけど、そんなに珍しいもんでもないので次に行く。なにせこのへんに二頭住んでるうちの片方だ。
ちょっと深くへ行って、ウミウシと出会う。ウミウシは
砂地に行くと、ホウボウがいた。なかなかのサイズ!
ホウボウは虫みたいな六本足で海底を歩く魚。きしょいがうまい。きしょいけどうまいから突こう。奈々華姉に水中マスクを渡し、いざ。
なんとか急所に当て、ネットに放り込む。そこでマゴチを見つけた。平べったい魚で……おおっとデカい。
デカいけどうまいやつなので突く。ヒラメも突く。もうネットはほとんどいっぱいだけど、ヒラメを口で保持し続行する。もう帰ろうかなとマスクを付けると、立派な伊勢海老が目に入ったのでゲット。もう禁止の時期になるのでありがたい。
頑張って浮上して、浅いとこでアオリイカをゲット。ゆっくり海面へ上がり、思い出してトビエイを突いて終了。しばらく格闘したけど、負けることはない。
気づけば人間アピールも忘れてたけど、動画的にはなんらかのトリックだと思ってくれるだろう。
よし今回の動画はノーカットでいこう。
「おお、大漁だな」
「明日はシーフードカレー」
お魚の処置をしてと。PaBのみんなにスープを振る舞ってと。よし、ルーを作ろう。
瓶詰めにしておいたスパイスをミルサーに叩き込む。粉末にしてくれる機械です。む、クミンが足りないな。部屋へゴー。
鉢植えにいくつか種を植え、栄養剤をかけるとニョキニョキ。早回しで成長するので、完熟したあたりで収獲。錬金術で作っておいたとっても便利な栄養剤だ。
気候とかの条件は無視できないからなんでもかんでも育てられるわけじゃないけど、一部でも賄えるのは楽。
収穫したクミンをフライパンで煎ってミルサーへ。バターはグラスフェッド。小麦粉に、今回ははちみつを加えてと。
「ただいまー」
「おお……? カレーの匂いだ」
「おかえり。明日はカレーだよ」
「おかえりなさい。いっぱい買ってきたのね」
「はい」
みんななにかしら持っている。ああ、これからみんなバイトするのだろうな。
翌日、早速バイトに行った面々。千紗姉も。私はお金あるけど家族間のお金のやり取りってあんま、ね。
奈々華姉には愛菜の写真をお願いして、私は私でなんやかや。カレーを作って帰りを待ったり、釣りをしたり忙しいのだ。
「おう」
釣りをしているとたまに現れる客に挨拶をし、竿を引く。
「む、サバか」
この時期のサバは……まずい。
そんなこと言って、そりゃ海辺の住民からすればまずいかもしれないけどうちら観光客が食べれば十分おいしいんでしょー? みたいなノリは通じないほどシンプルにまずい。
「それ」
首を折ってとどめを刺し、ぽい、っと放るとお客さんがそれをついばんだ。
気分的にはお友達なあいつは、サギ。でっかい鳥だ。
「しばらく沖縄行くから」
通じずとも言う。
「ぐぁー」
お返事あり。
ただその時に鳴いたというだけのことが、なんとなく嬉しい。そんなもんだ。
「ぐぁー」
私も返事を返して、釣りを続けた。
703-9606-0 ふたりのきもちのほんとのひみつ
東方、ゲームの存在を知る前に曲を聴いてこれは!と好きになったがSTGも格ゲーも苦手なので次第に疎遠になり。ここを掘り下げるのにはデータのアップデートが必要になる。
他の作品でも全裸主人公書けないかなーとか思っていたけど、既にソウナンですか?で書いてたのをようやく思い出した。途中まで書いて投稿してない。
バー、けっこう昼間からやってるのかね? 漫画では千紗なし。アニメでは千紗あり。いた方がテンポがよくなりそうなシーンがあるからそのせいか。それとも画面に華が欲しかったのか。