戦艦探偵・金剛~比叡の悲劇~   作:瀬場拓郎

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エピローグ

 結局、比叡の事後従犯の容疑は、宗助に騙されていたこともあって無罪放免となり、すぐに釈放されることになった。

 野々江はともかく、宗助は情状酌量の余地があるとして、刑はうんと軽くなるらしい。今後の裁判次第ではあるが、少なくとも一、二年は刑務所の中で過ごすことになりそうだった。

 珍授荘の経営は田島に移って今も続いている。ただし事件がマスコミで広まってしまったため、名前を変える必要に迫られた。

 さて、比叡はというと―――。

 

 

「本当に行くのかい?」

 田島ががっかりしたような顔で言った。それを見ると比叡は少し心が揺らぎかけたが、歯を食いしばって、再び決心を固めるように、

「はい、もう決めましたから」

 と、鞄を片手に靴を履き、玄関ロビーから立ち上がった。比叡の服装は、ここへ来た時と同じ、艦娘の装束へと戻っていた。

「あんなことがあったから無理も無いし、こっちも本当は引き留めちゃいけないんだろうけどねぇ」

 田島は俯きながら、

「あんたは、結構みんなから好かれていたんだよ。女将さんだって、あんたを若旦那の嫁にしてやろうと思ってたくらいなんだ」

「ヒエッ、それじゃあ、みんな私と宗助さんが付き合ってたこと知ってたんですか!」

「隠し通せていると思ってたのかね。あんたも若旦那も鈍いねぇ」

 比叡は顔を赤くして俯いた。

「その顔だと、まだ未練があるようだね?」

「ええ、まぁ」

「だったら………」

「それでも、やっぱり行かなくちゃ。やっぱりここは、私にとって旅の途中だったんです。こういうことが起こったのも、そうした縁なのでしょう」

「そうかい」

 田島はため息をついて、

「じゃあ、体には気を付けるんだよ」

「お世話になりました」

 そう言って、比叡は頭を下げた。覚悟を決めたはずなのに、最後は涙声になってしまった。田島も涙ぐんで、

「元気でねぇ」

「田島さんこそ、お達者で」

 比叡は玄関へ向けて歩き出す。今日も照り付ける程の日差しが地面へ降り注いでいた。セミの鳴き声が洪水のように森の中をこだましている。ふと、遠くの方で太鼓の音が聞こえた。

 ああ、そういえばもう夏祭りの季節だっけ。

 数日前に神社の前で思ったことと、そっくり同じことを比叡は思い返す。

「最後に旅の安全を祈願しておきますか」

 

 

 神社へと辿り着く。そこは数時前に来たときよりも、祭りの飾り付けが進んでいて、大工が境内の中に大きなやぐらを組み立てていた。毎年、あのやぐらを中心に、みんなで盆踊りをやっていたことが思い出される。

 でもこの夏は、その中に私の姿はない。

 そう思うと切なさで胸が締め付けられるような思いになった。

 いけない、こんなことじゃ駄目だ。

 神社の本堂へ向かい、賽銭箱に小銭を投げて鈴を鳴らし、二礼、二拍手、一礼する。

「祓い給え、清め給え、守り給え、幸え給え………」

 三度唱え、旅の安全を祈って後にする。ふと、絵馬掛けに奉納された絵馬が目についた。

「あら?」

 比叡はその中に、何だか見慣れた筆跡を見つけたのだ。

 これは………。

 近づいて手に取ってみると、それは金剛の筆跡だった。そこにはこう書かれてあった。

『比叡が自分の幸せを見つけられますように』

「ううっ、ああっ………」

 比叡は大粒の涙を流して、絵馬を握りしめた。

「お姉様、ありがとう………ごめんなさい………」

 

 

 同時刻、東京都、金剛探偵事務所にて。

「ん?」

 金剛は口に運びかけたアイスティーのコップを止めて、自分デスクの後ろ、晴れ渡った青空を振り返った。

「どうしましたぁ? 先生」

 五月雨は飼い猫のフーちゃんを膝にのせて、自分とフーちゃんをうちわで扇いでいた。

「いや、比叡の声が聞こえたような気がしてネ」

 比叡の名前を出すと、五月雨の顔に暗い陰がよぎったが、あえてそれを吹き飛ばすように明るい調子で、

「もう、暑さのせいで幻聴が聞こえてるんじゃありません?」

「そうかもしれないデース」

 そう言って金剛はアイスティーを飲んだ。

「そろそろエアコン、いえ、扇風機くらい買いましょうよ」

「そうだネ。そうすれば熱い紅茶が夏でも飲めるデース」

「恐ろしいことを言わないで下さい」

「にゃーん」

 同意するようにフーちゃんが鳴くと、アイスティーの中に入れた氷がカランと音を立てた。

 

 戦艦探偵・金剛 ~比叡の悲劇~ 了

 

 

 

 

 

 




後書きダヨ!
刑事コロンボや古畑任三郎のように、罪を犯した比叡が金剛に追い詰められる話だと思った人、先生怒らないから感想欄で手を挙げなさい。
二次創作だからそんな高度な真似はしないだろうと思った?
野々江さんが犯人だと金剛が宣言したとき、素で驚いた?
驚いただろうな。なんせ思いついた本人も驚いたからね。
ピクシブにはあと二作あるけど、出来が良くないからここに載せないよ。
それじゃあね。また何かいいのが思いついたら来るよ。バイバイ。

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