2回戦第5試合。ユウイの次の相手はまたしても少年だった。ピクリとも笑わない険しい表情。他を寄せ付けない孤高のオーラ。少年の持つ雰囲気はまさに勝利に飢えた野獣である。
「ユウイー!頑張ってくださーい!ほらっセンカも!」
「わ、私はあまり大きな声は――――」
応援席からの声援を受け、ユウイはフィールドコートに立って相手のトレーナーと向き合う。
「行け!ドダイトス!」
相手が繰り出したポケモンはドダイトス。ユウイも早速ポケモンを出そうとする。が、モンスターボールに手をかけたタイミングで邪魔が入った。
「ピッカ!チュー!」
ピカチュウが立ち塞がるように乱入したのである。どうにも「オレを使え!」と訴えているようで……
「ピカチュウ?…もしかしてやる気なのか!?」
「ピッカピカピッカ!」
自信に満ちた顔付きでピカチュウは尻尾を地面に打ち付ける。大船に乗っていろ。雰囲気だけはそんな感じである。
だが、ユウイはそっとピカチュウの耳元に手を添えた。どうしても確認したいことがあったからだ。
「ゴホンッ、やる気を出しているところ悪いんだけど…ホントにいいの?向こうのドダイトスとは相性最悪だけど?」
「ピッカ!」
問題ない!と言わんばかりにピカチュウは全身に電気を走らせる。自信満々。意気揚々である。
「そこまで言うのなら、まぁ、いいんだけど……」
両者のポケモンが出揃ったところでついに試合は開幕。直後、ピカチュウは一直線にドダイトスへと突っ込んでいった。
10秒後。
「ぴっか~」
目の前で目を回すポケモンが一匹。ピカチュウだった。
「だから言ったのに。ドダイトスとは相性が悪いって」
「ぴか~」
ピカチュウはなおも放心している。ユウイはため息交じりに息を吐いた。
「どういうつもりだ?」
「はい!?」
声の主は対戦相手のトレーナーである。
「不利とわかっていながら電気タイプのポケモンを繰り出した上に無策にも突っ込ませるとは……勝つ気がないのなら試合に出場なんてするなッ」
厳しい一言。やはりこの人は苦手だ、ユウイは心の底からそう思った。
「シンジさん、でしたっけ?そういうことは試合に勝ってからどうぞ」
「何だと?」
ユウイは2体目、つまりは最後のポケモンを繰り出した。ゼニガメである。まだ1試合目の疲労が残ってはいるが一番使いやすいと考えた。
そうして試合は再会。直後、ドダイトスは“はっぱカッター”でゼニガメを攻め立てる。対してゼニガメは相手の攻撃をなんとか交わし、“みずでっぽう”をお見舞いする。命中するもドダイトスにはあまり効果はなし。技の選択を間違えたかと誰もが思ったところで、ユウイは次の攻撃を指示した。
「ゼニガメ!“れいとうビーム”!」
攻撃は再び命中。“みずでっぽう”で元々濡れていた身体に“れいとうビーム”がクリーンヒットし、ドザイトスは戦闘不能となった。
「ちっ……ドダイトスの身体のデカさが裏目に出たか」
「これで1対1です。勝負はわかりません」
「…おまえ、それだけの知恵と実力があるのなら、なぜ最初から発揮しない?」
「い、いや~それはもう過ぎたこと、ということで……」
シンジなるトレーナーが出した2体目のポケモンはエレキブルだった。ゼニガメに対して電気タイプのポケモンをぶつける。当然と言えば当然の選択である。
試合再開。瞬間、エレキブルは先手必勝と言わんばかりに“かみなり”で反撃。後手に回ったゼニガメは相手の攻撃を交わすことができず“からにこもる”でやり過ごした。それでも相当なダメージである。エレキブル有利。誰もがそう思ったが、意外にも試合はここから一進一退の攻防を続けることとなった。
そして、いよいよバトルは終盤戦である。
「エレキブル!“かみなりパンチ”!」
「ゼニガメ!地面に向けて“みずでっぽうだ”!」
エレキブル接近の瞬間、ゼニガメの“みずでっぽう”が地面に激突し砂埃が舞い上がる。
「また煙幕か……ッ」
「ゼニガメ!そのまま“バブルこうせん”!」
「エレキブル!姿を現す瞬間を逃すな!“ひかりのかべ”でこらえ、そのまま“かみなりパンチ”だ!」
エレキブルは周囲を警戒する。刹那、ゼニガメは地面を割って姿を現すと、相手との距離を瞬く間に詰めた。
「“あなをほる”!?地上からの攻撃と見せかけて……ッ」
煙幕はブラフ。ゼニガメは地上ではなく地中から攻撃を仕掛けていた。そのままエレキブルに突進し、体当たりする。“ひかりのかべ”が間に合わず、エレキブルはダメージを受けて体勢を崩すも、最後に“かみなりパンチ”をゼニガメにお見舞いした。気合いで放ったかのよう一撃だった。
両者はそのまま地面に倒れ込む。息を飲む観衆。空中に舞う砂埃。軍配は……
「勝者!シンジ!」
名前が呼ばれた瞬間、会場は溢れんばかりの歓声に包まれた。稀にみる熱戦であり、今日一番の大歓声だった。
「ああ~おしかったですねー。もう少しだったのに」
「……」
「…センカ?」
「ううん、何でもない……」
ユウイがゼニガメを抱き上げる姿をセンカは静かに見つめていた。