この日、誰もが待ち望んだ決勝はマサラタウンのサトシとトバリシティのシンジという顔合わせとなった。
決勝の舞台に恥じない激闘。お互いが持てる力を十二分に発揮した熱戦は僅差でサトシが勝利する。審判が優勝者の名前を告げた瞬間、会場は拍手と歓声の渦に包まれ、観客の熱気は最高潮に達した。
これにてオモシキ大会は終焉。後は表彰式を残すのみである。
だが、誰もが高揚感に浸る中、センカだけはどこか浮かない顔をしていた。
「はぁ……あっ――――」
ため息交じりに通路を歩いていると、目線を下げていたからか、前を歩く人に気付かずぶつかってしまう。
「ごっごめんなさい!考え事をしていてつい」
「気にしないで。私もよそ見をしていたし」
ぶつかった相手の女の子は落ちていた荷物を拾い上げ、そっとセンカに渡してくれる。
「ひとりなの?」
「いえ、連れが二人います。でも今は表彰式を見ていて」
「そう。良かった」
「え?」
「浮かない顔をしているから、誰かとはぐれたのかと」
「や、やめてください。もうそんな歳じゃないです」
あわあわと胸の前で手を振るセンカ。その反応に相手は軽く笑った。
「何か困り事?」
「困り事というか、なんというか……」
センカは通路からセレモニーが行われている会場に視線を泳がせる。目線の端で表彰台に立つ人物を捉え、迷いながらも言葉を紡ぐ。
「……サトシってすごいですよね?今大会も優勝しちゃうし、決勝であんな壮絶なバトルを見せられたら誰だって惹かれちゃいますよ。雲の上の存在というか、まさに太陽そのものって感じ……きっとああいう人は明確な夢や目標があって、常にはるか遠い未来を見つめているんだろうなって……そう思うんです」
「…あなたにもそういった夢や目標が……?」
センカは静かに顔を振る。
「私じゃなくて…私の…知り合いの話です。実力はある方だと思うんです。頭だって悪くない。だけど、いつも自分を表に出そうとはしなくて、いつだって物事を無難に片付けてしまうというか……」
その子の生き方を見ていると、どうしようもなく胸がざわつく。許せない気持ちになる。とセンカは言った。
「昔はもっと違ったんです。出会った頃はもっと自分勝手で、わがままで、やりたいことに正直だったと思うのに」
「…その子に、昔のように戻ってほしいってこと?」
「……どう…なんでしょう?それもわからないから、こんなふうに胸の奥がモヤモヤするのかもしれない」
一瞬の沈黙。
私はなぜ通路で会った見ず知らずの人に胸の内を打ち明けているのだろう。時間が経過するにつれて、センカは冷静になっていく。次第に今やっていることも無意味なことに思えて、適当なところで会話を切り上げようと思いはじめた。だが
「幸せ者ね、その子」
相手の言葉に意表を突かれる。
「…どういうこと…ですか?」
「勝手なことを言うようだけど、あなたみたいな心配してくれる人が側にいるのなら、その子はきっと大丈夫よ。気休めかもしれないけど……それにね、あなたはあいつを買いかぶりすぎ」
「あいつ…?」
「サトシのこと……まぁ確かに大きな夢は持ってるかもしれないけど、ううん、むしろそれしか持っていないようなやつだけど、あいつはあいつ、あなたはあなた、その子はその子よ。それに、確かにあいつは太陽みたいに騒々しいやつよ。だからこそ忘れちゃダメ。太陽が目立っているのはこの星に一番近いから。太陽よりも輝いている星は世界にはたーくさんある。そうでしょ?」
センカは茫然と立ち尽くす。
「…あ、あのっ……マサラタウンのサトシのことを知ってるんですか!?」
腐れ縁、と彼女は言った。当然、センカは名前を教えてほしいと食い下がる。
「…世界の美少女、名はカスミ――――」
「…え?」
「なーてね♪」
舌を出しおどける彼女。そんな彼女の姿はとても輝かしく、素敵だった。