ポケットモンスター・ジ・アース   作:HirakeGoma

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09  闇色の祭神

緑深き迷宮の森の中、“ホオキ”と“ナノ”は水のせせらぎが聞こえる川岸を上流に向かって歩いていた。

「あーあー薬草取りとかやんなっちゃう。どうせならジトも連れて来れば良かったなぁ」

「ジトは男の子だから天夜祈願の準備があるじゃない。あまり無理させちゃだめよ」

「もうっほんとホオキってば甘いんだから……まぁそんなホオキだからみんな頼っちゃうんだろうけど、ちゃんと嫌なものは嫌って言わないとダメよ?祈願祭の踊り子だって正直やりたくなかったんでしょ?」

「そんなことないよ。流れ者の私を良くしてくれた上に儀式の大役まで任せてくれて、集落のみんなにはすごく感謝してる。本当よ?」

「…そう?まぁホオキがそう言うんだったら……あーあー私も早くホオキの歳になりたいなー。それでね、祭壇でホオキと一緒に踊るの。儀式初の看板娘ダブル祈願ってやつ!」

まだあどけなさを残しながらも、ナノは屈託のない笑顔をつくった。

“天夜祈願”とはこの地に伝わる儀式の一種である。数年に一度、集落の人間を神に生贄として捧げることと引き換えに、この地を天変地異から守ってもらうという趣旨のもので、遠い昔には生贄を湖の底に沈めていたとか、祠の近くに生き埋めにしていたとか、様々な逸話が残る非常に不穏な習わしである。

ただし、ナノは儀式に対して恐怖を抱いたことは今までに一度もない。踊り子が生贄役であることはわかっているし、大変な役回りであることも認識しているが、現在は祭壇で踊りを披露するだけであり、当然命の危険などないことも経験上知っている。実際、ナノの知る踊り子役を担ってきた娘たちも命を落とした事実はなく、集落内または集落を出て生涯を送っている。それをナノは知っていた。

むしろ彼女にとって踊り子は憧れの的だ。みんなが注目する中、祭壇上で踊りを披露する。それは大人へと駆け上がる一種の通過儀礼のように思えて仕方がなかった。

そして近く、この地では当の天夜祈願が行われる予定である。慣例では踊り子役には集落一の器量好しが選出されることになっている。そして今回その大役を任されたのがホオキだった。

 

ホオキは本当にすごい。隣で彼女の横顔を眺めながら、ナノはふとそんなことを思う。

「だけど神様って悪趣味よね。ホオキもそう思わない?」

「どうして?」

「だって村一番の美人を生贄によこせなんて…案外神様の正体は鼻息荒いおやじなのかも」

「こーら、ナノはすぐにそういうことを言うんだから……それにね、長老様に聞いたことがあるんだけど、どうやら祠に祭られている神様って若い女の子の神様みたいよ」

「ええ!?それじゃ若い女の神様が綺麗な女性を生贄に欲しいってこと!?…うあぁ…なんだか神様の闇を見た気分……」

「ふふっ案外遊び相手が欲しいだけなのかも?」

ホオキはクスリと笑った。ホオキにしてはいつもより楽しそうで弾んだ笑顔。ナノも釣られて口元を緩めた。

だが、すぐにホオキの表情は一変する。前方の一点を見つめていたかと思うと瞬時に顔を硬直させた。

「…あれって………」

「うん?えっ?あっちょっとホオキ!」

ホオキは川岸を駆け抜けるとそのままの勢いで水の中へと入った。幅の広い川ではあるが、ここ数日は雨がないため深さはそれほどない。どこまでも穏やかな流れが続く中でホオキは()()に近づいた。

「…どうしてこんなところに―――」

直後にナノが追い付く。

「ホオキってば急に走り出してどうしたっていう……ええっ?!誰この子!?」

目の前には一人の男の子が倒れていた。身体の半分を水に沈めながらぐったりとして。

「まだ暖かい…ナノ少し手を貸して―――」

「あっうん!」

二人は男の子の身体を抱きかかえると岸へと引き上げる。男の子は意識がないのかピクリとも反応を示さなかった。

「どうしてこんなところに?上流から流されてきたってこと?」

ナノは早口に疑問を並べる。対してホオキは冷静だ。

「…わからない。けどこの子だいぶ水を飲んでるみたい。息もしてない」

「えぇええ!?」

「おまけに右腕と左足の骨が折れてる……もしかしたら岩山の上から落ちてきたのかもしれない……」

「上からって…いったい何メートルあると思ってるのよ!?そんなことって……!?」

とにかく人を呼んできてほしい。ホオキはそうナノに頼んだ。

「わ、わかった!ちょっと待ってて!」

ナノは動揺しながらも頷き返すと一目散に来た道を戻っていく。

 

後に残ったのはホオキ一人。彼女は名前も知らないその子に向かって何度も何度も話しかけた。意識を取り戻してほしい。そう切に願いながら。

それでもその子からの反応はまったくなかった。

やがてホオキはその子の顔に手を当てると、少しだけ上へと傾け気道を確保する。

「大丈夫だよ。君は助かる、必ず助けるから」

瞬間、彼女はそっと男の子の口を覆った。

 

 

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