血染めの鋼姫   作:サンドピット

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久々にUSUMやってクチート厳選で色違いが出たので記念に。
頭の中を空っぽにして読む事をお勧めします。


順応力の高い奴は戦闘狂の気がある。

 転生したらクチートだった。端的に現状を説明するならそれが正解だと思う。

 

 本当に唐突に、目が覚める様にこの意識が芽生えた。辺りを見渡し視界が低い事に違和感を覚え、斑点模様の割れた卵の殻を見つけた。

 その卵は自分がすっぽり収まるくらいには大きく、その内部は先程まで中身が入ってたかのように湿っていた。

 

 嫌な予感がしたので辺りに水溜りでもないかと振り返ると、ガッと何かが卵にぶつかった。

 ぶつかったのは、いや、卵にぶつけたのは自分の体長と同じ位の朱色の大顎だった。大きな黄色いまんまる模様と、真っ白な牙が特徴的なそれは自分の身体の一部であり一番の特徴と言えよう。

 

 水溜りで自分の姿を確かめるまでも無かった。――これクチートやんけ。

 

 しかも色違いである。

 

 

 

 

 

 目の前の光景が現実だと信じられずのた打ち回ること数分。

 暫く暴れて落ち着いた所で現状の把握を優先する事にした。

 

 まず、今自分が動かしているこの身体はクチート、それも色違いの個体である。何故それが分かるのか、それは前世の記憶という物が備わっているからだ。

 前世の自分がどんな奴だったのか、何をしていたのか、性別すらおぼろげだが、その中でもあるゲームに関する知識だけは鮮明だった。

 

 ポケットモンスター。略称であるポケモンの名で人々に親しまれているそのゲームは幾つものシリーズ作品を出しており、その中にこのクチートというポケモンが存在する。

 つまり十中八九この世界はポケモンの世界だ、と思う。確証は無いが。

 

 次に何故クチートになっているのか。これはおぼろげな前世の知識を探るに輪廻転生という奴なのかもしれない。

 もしかしたら自分はただのデータでここはゲームの中なのかもしれないが、考え始めると怖くなってくるので一先ずポケモンが当たり前にいる現実世界とだけ考えておく。

 

「クチィ……」

 

 溜息を吐くと鳴き声の様な何かが口から出た。鈴の様な心地良い高い声だ。とそこまで考えてはたと気付く。

 

 ――性別ってどっちだ?

 

 前世の性別は分からないが、ガブリアスやらボーマンダやらかっこいいポケモンばかり使っていた記憶があるので多分男だったのだと思う。

 ちらりと確認した限りクチートとしての今世では♀らしいので一人称を私とかに変えた方がいいだろうか? いやどうせ喋れんし俺で良いか、何となくしっくりくるし。

 

 さて、転生したらクチートになっていた訳だが、ここはどこの地方なのだろうか。前世の記憶はオメガルビーまでのものしか無い為、もしアローラ地方とかだったら非常に困る。

 なので割と馴染み深いホウエン地方が望ましいのだが……。

 

(こんな森ゲームにあったか?)

 

 東西南北深い森。当然だが見覚えは一切無かった。

 

 ……。

 まぁ不思議ではない。ゲームはあくまで主人公が歩む道程しか描写されない。本来なら目に見えない場所にもポケモンがいる自然があっても不思議ではないし何なら描写外の自然の方が多い可能性まである。

 これが何を意味するのか。トレーナーにすら会えず高レベルのポケモンに鎧袖一触で屠られる可能性が高いという事である。

 

 冗談ではない。前世の俺が満足して死んだのか定かでは無いがせめて寿命の続く限りは生きさせて欲しい。

 

(となると現状優先すべきは……)

 

 戦闘を重ねてレベルアップし、そこらの野生のポケモンに負けないくらい強くなる。

 そして適当なトレーナーの手持ちになって命の危険から遠ざかる。

 これを急務にしよう。トレーナーの手持ちになったはなったで悪の組織と関わる可能性もあるが……まぁ大丈夫でしょ。

 

(しかし強くなるか……)

 

 思い返されるのは前世で行ったレート個体用の厳選の日々。今回強くするのは自分自身なので厳選はもう不可能だが、技構成や努力値など今からでも手を付けられるものは多い。

 そうと決まれば使える技を把握して自主鍛錬だ。ポケモンバトルはもうちょい後でいいかな……。

 

 

 

 

 

 クチートは大体のはがねタイプの例に漏れず攻撃、防御が比較的高く、低い素早さが特徴的なポケモンだが、まず大前提として種族値が高い――種族として強いポケモンという訳ではないのだ。

 それを覆すのがメガシンカ。トレーナーの存在が必要不可欠だが、種族値を合計で100も上昇させ、自身の特性も変える強力なシステムだ。

 そしてクチートのメガシンカ後の特性は「ちからもち」。攻撃のステータスが二倍になるという脳筋の権化みたいな特性だ。

 

 いやぁ、レート戦で相手の威嚇持ちクチートとウチのガブリアスの対面でメガクチートが地震を耐えて返しのじゃれつくでワンパンされたのは衝撃的だった……と考えて新たな疑問。

 

 俺の特性って何だ? 自分の事ながら微妙に分からない。「いかく」……ではない気がするし「かいりきバサミ」という訳でもない。では夢特性の「ちからずく」かと言われると首を傾げざるを得ない。

 

「チィ……?」

 

 ……まぁいいか、どうせメガシンカを主軸に使うなら何だって良い。

 さて今使える技の確認でもしようかという所で、クゥと可愛らしい音が自分の腹から鳴った。

 生まれてすぐだから暫くは何も食わなくてもいいかと思っていたのだが、思考に耽りすぎてたか。仕方が無いのでオレンのみでも探そうかと立ち上がり、後ろから何かが近付いてくるのを感じ取った。

 

「――チッ!」

 

「ココ!」

 

 すぐさまその場を飛び退き振り返ると、そこには一体のキノココがいた。

 

(キノココ、って事はホウエン地方で間違いなさそうかな。しかしキノココか……)

 

 キノココはレベル技でキノコのほうしという命中率100%のねむりごなを撃ってくるのだが、流石にそこまでレベルが高いと思いたくはない。

 もしかしたらただ珍しい色のクチートと仲良くなりに来ただけかも――

 

「コッコ!」

 

 ですよね知ってた。どうやら縄張りに入ってきた部外者を排除しに来たようである。

 仕方無い、よーいどんで逃げられる相手でも無さそうだ。初めてのポケモンバトルと行こうか。

 

 

 

 

 

 キノココの繰り出す技を見極める為、距離を取り観察する事を優先する。

 

「キーノッ!」

 

 俺がその場から飛び退くと同時にキノココが身体を震わせて黄色い胞子をばら撒いた。

 

(開幕しびれごな、えぐいな)

 

 粉系の技は振りまくだけで相手に飛ばす事は出来ない。よし覚えた。

 

 当然キノココがしびれごなを撒いて終わる訳がない。

 漂うしびれごなからキノココが飛び出し、こちらに向かって飛び出してくるが、攻撃してくるだろうと当たりを付けていた為余裕を持って回避した。

 

「ノ"ッ」

 

 自分の攻撃が空振りに終わった事に驚いているらしきキノココをよそに俺は考えを巡らせる。

 今のキノココの技はずつきか? いや、多分体当たりだ。そして、ゲームでは命中率が100%だった技もこの世界では彼我の状況によって回避する事が出来る。覚えておこう。

 

「キーッ!」

 

 一度も攻撃してこない俺に侮られていると感じたのかキノココが再度突撃してくるが、今度はギリギリまで引き付け――

 

「クチィ!?」

 

 キノココがたいあたりで俺の側に近付き、そのまましびれごなを使ってきた。

 嫌な予感に従って慌てて回避しなければしびれごなを吸っていたかもしれない。やっぱ油断はするもんじゃないな。

 

 あぁでも、少し楽しいな。これが闘争本能って奴かね?

 だが本能に呑まれる訳には行かない、あくまで冷静に、慎重に。

 

(……いやでもA上げの補正欲しいから「ゆうかん」に行った方が良いのでは?)

 

 余計な思考を振り払い、観察を続ける。

 キノココは一度も俺に有効打を与えられていないにも関わらず、たいあたりとしびれごな以外の技を使う素振りを見せない。

 温存している可能性も捨てきれないが、十中八九それ以外の技を使えないんだ。

 

 確かしびれごなを覚えるのが5レベルからの筈なのでこのキノココは5レベル前後の個体だと思う。

 

 これで相手の情報は出尽くした。そろそろ攻勢に移ろう。

 

「クッチチ」

 

 ポケモンとしての本能が技を使えと煩いんだ。

 

 自分が使える技が、誰に言われるともなく理解できる。

 ならば使おう、これから主力となるであろう技を。

 

「ココ!」

 

 変わらず体当たりをしようとしたキノココ。その視界から外れるように、弧を描くように全速力で駆け抜け、視界外から俺の大顎を全力で叩きつける。

 

 “ふいうち”

 

「ノコッ!?」

 

 奇襲染みた技を受けて転がるキノココ。

 

(今のが技を使う感覚か)

 

 適当に殴りかかるのとは訳が違う。技を出す感覚も、自身の技でダメージを与える感覚も、技を出してPPが磨り減る感覚すらも心地良い。

 

(生粋の戦闘民族だなまるで)

 

 まぁ戦闘狂に成り下がる程ではないので冷静な思考を保てているのはありがたいが。

 しかし、レベル技の筈のふいうちを使えるという事はタマゴ技なのだろう。真っ当な攻撃手段と一緒に産んでくれたどこの誰とも分からぬ親に感謝する。

 

「……ノォコ」

 

 俺が何処かのクチート(或いはメタモン)に感謝を捧げているとキノココがふらつきながら立ち上がる。

 ふいうちが強力な技とはいえ使うポケモンは1レベルのクチートだ。瀕死にさせるには他の技を織り交ぜて何度か当てなければならないだろう。

 

「チチッ!」

 

 こうして初めてのポケモンバトルは佳境に入っていった。

 

 




元人間という異物が絡んだせいで相手に二の足を踏ませる「いかく」をする勇気も己の弱体化を跳ね除ける「かいりきバサミ」を育てる事も何も考えずリミッターを外して「ちからづく」で攻撃する獰猛な思考も失われ、代わりに普通のクチートが持ち得ない特性を獲得するに至りました。
それに関してはまた次回。

主人公はORをやり込み、USUMは未経験。
作者はUSをやり込み、ORASは未経験。
何故自分の知識が使える地方にしなかったのか……。

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