血染めの鋼姫   作:サンドピット

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鋼統一パにエンペルトを入れると途端に安定感が増した。貴重な特殊型というのもあるけど炎受けできるのがとてもよろしい。


ぶっ倒れそうになる前に水分補給しろ。

 

 靴の爪先で床を叩き、バッグを背負い直して身支度を整える。

 ダイゴの腰には三つのモンスターボールが入ったボールホルダーが付けられていた。

 

「ふぅ……、よしっ」

 

 深呼吸を一つ零したダイゴはフエンタウンの中心へと足を運ぶ。

 その足取りからはカナズミやキンセツの時以上の緊張感が窺えた。当然だろう、油断など出来ようものか。

 

 ――俺達は今日、フエンジムに挑む。

 

 フエンタウンの中央、ゲーム知識で言うなら本来のフエンタウンが存在するえんとつ山の麓にフエンジムは存在する。

 ジムリーダーは炎使いのアスナ――ではない。

 

 ここもまたカナズミジムと同じくアスナの親族がジムリーダーを務めていた。さりとて得意なタイプに変わりは無く、テレビを見る限り使うポケモン自体もそう変わりは無さそうだった。

 であればやる事に変わりは無い。いや、もしタイプや使うポケモンが変わっていたとしても俺達がすべき事は一つだけだ。

 

(全力を尽くす)

 

 なぁに、生まれてから今までずっとやってきた事じゃないか。今更改まって緊張感を抱く事は無いさ。

 

「……ここか」

 

 ダイゴがフエンジムの前に立つ。

 右手でボールホルダーに触れ、ダイゴは三つ目のジムの扉を開けた。

 

 

 

 

 

 温泉の熱気が辺りを支配する中、一人目のジムトレーナーはドンメルを繰り出した。

 対するダイゴは額に汗を滲ませながらフォートに先陣を切らせる。

 

 トレーナーに不利なフィールドを意図的に作り集中力が削がれた状態でどこまで精確に指示を出せるか。ここフエンジムはその理念の基設計されていた。

 無論試練であって無茶振りになってはならないため、足下も温泉だとか室温がサウナ並みという事は無いが、それでも慣れないチャレンジャーを苦しめるには十分な環境だった。

 

「ドンメル! はじけるほのお!」

 

「バレットパンチで潜り込め!」

 

 両者の指示が交錯し、それに突き動かされるようにフォートとドンメルが動く。

 息を吸い込み高温の火の玉を吹き出そうとするドンメルの機先を制しフォートが弾丸の様な拳を身体に叩き込む。

 

 “バレットパンチ”

 

 “はじけるほのお”

 

 互いの攻撃が至近距離で命中する。ドンメルの火の玉がフォートに当たる事で幾つもの火の粉に分散しダメージを増やしていく。

 

(やっぱ根本的に相性が悪すぎるな、レベル差で何とか耐えられてるけどあんな至近距離で何度も食らってたら持たないぞ)

 

 無理もないとは俺も思う。フォートにとって初めての炎技なのだから。

 今まで何だかんだで効果抜群の技を受けた事が無かった。突破したジムは岩と電気だし、俺達での模擬戦は互いに対する有効打が無い。……いや、かみくだくは悪だから一応フォートの弱点ではあるが何気にフォートの物理耐久が高いため比較的余裕で受けられてしまう。

 

 その点初めての経験だっただろう、自身の硬さが意味を成さない攻撃と言うのは。

 

「離れずメタルクロー!」

 

「もう一度はじけるほのお!」

 

 フォートの両腕が鈍色に輝き、鋼鉄の爪が相手のドンメルに突き刺さる。

 ドンメルは顔を歪めつつも指示通りはじけるほのおをもう一度フォートに向けて吐き出した。

 

 だが。

 

「避けろ!」

 

「……メッタ!」

 

 それはもう見たと言わんばかりにフォートが素早く回避し、飛散した火の粉も硬度を増した片腕で防御し事無きを得た。

 

「決めろ、しねんのずつき」

 

「くっ、ふんえんだ!」

 

 背中のコブを振るわせるドンメルよりも早く、念動力を纏い加速したフォートの頭突きがドンメルに直撃し、相手を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたドンメルが復帰する気配が無い。怯んだか?

 いや、これは――

 

 “急所に当たった!”

 

「まじ、かよ」

 

 ――フォートの勝利だ。

 

「よく頑張ってくれた、戻れフォート」

 

「くっ、お疲れドンメル。……運が悪かったのもあるが、それ以上にあんたが強かった。頑張れよチャレンジャー」

 

 そう言ってジムトレーナーは道を譲った。

 

(少し指示に粗が見えたが、多分わざとだろうな。……これを後五回、ジムリーダーを入れれば六回か)

 

 見た所あのドンメルはレベル20より少し上辺りの筈、ならマグニチュードを覚えていただろうし、それにふんえんを使う素振りを見せていた。

 レベル差は仕方無いにしてもやろうと思えばフォートを近付けさせずダメージを重ねる事もできただろうが、それはジムトレーナーの仕事ではないという事だろう。

 

「……すまない、次はシルキーに任せる」

 

 汗を滴らせながらダイゴがそう言った。傷薬の類は買い込んでるので体力は全回復させられるがフォートのコンディションが著しく低下している。

 復活するまで俺が頑張ればフォートもその内元気を取り戻すだろう。

 

「よぉチャレンジャー、水分補給は済ませたか? 頭クラクラだと指示遅れるぜ?」

 

「――大丈夫、へっちゃらですよ」

 

 二人目のジムトレーナーが行く手を阻む。不敵に笑う彼はモンスターボールからロコンを繰り出した。

 対するダイゴは宣言通り俺の入っているボールを投げた。

 

「さぁ、行こうか。シルキー!」

 

「クッチチチ!」

 

 こんな所で行き詰っていられない。手早く済ませよう、ジムリーダーまで全速力だ。

 

 

 

 

 

「――ほう」

 

 カナズミのサツキから面白い子がうちのジムを突破したと聞いていた。何でも珍しいメタングと色違いのクチートを持つ少年だと。

 興味を持った。だがそれだけだった。将来有望なトレーナーの報告はいつもの事だったから。

 

 今こうしてその少年を目の前で見て、私は認識を改めた。

 

「中々どうして、トレーナーとしての力はあるらしい」

 

 温泉の熱気を取り入れたジム内部で頭が鈍る事無く精確な指示を出せている。

 見た所少年の得意タイプははがね、これはサツキが言っていた事と合わせて間違いないだろう。相性が悪い相手に物怖じしないのもポケモンとトレーナーの絆の為す賜物だろう。

 だが。

 

「……何かに甘えているな」

 

 ポケモンのレベルも、動きも。どこか偏りが見える。少年もポケモンも何か同じ物を心の拠り所としているのだろうか。

 別にそれ自体は問題ないしむしろ推奨すべきだ。守るべきものや向かうべき目標があればそれだけ心は強くなる、心の持ちようによっては幾らでも強くなれる。

 

 それが不安定な柱に寄りかかるような依存でなければ。

 

「彼らの核は、あのクチートか」

 

 あの色違いのクチートに対して少年もメタングも全幅の信頼を置いている。まるでクチートさえいれば大丈夫だとでも言うように。

 

「どれ、柱を揺らしてみようか」

 

 少年よ、そのクチートは「こいつさえいれば勝てる」希望か? それとも「こいつが負ければもう勝てない」最後の砦か?

 前者であれば構うまい、後者であれば……いや、私が口を挟む事ではないか。

 私に出来るのはポケモンバトルだけだ、これで少年を確かめるとしよう。

 

 

 

 

 

 ジムトレーナー六人は俺とフォートが蹴散らした。

 レベル差もありそこまで苦戦はしなかったが、これが普通のフィールドであれば更に楽に片付けられただろう。

 

(やっぱり熱気がきついな)

 

 温泉の熱で徐々に息が詰まっていく感覚は人もポケモンも変わらないらしい。このジムの作りを見て子供にさせる様なものではないという人もいるかもしれないが、それは少々お門違いだ。

 ポケモンバトルに必要なのはトレーナーの指示なりポケモンの実力なりが挙げられるが、そもそもの大前提として「トレーナーが無事」でなければならない。

 

 砂漠や火山、洞窟に海上などあらゆる悪環境でも変わらず野生のポケモンはやってくる。そういう場所に行かないのが一番だが、それでも向かう時トレーナーが命を落とす確率を少しでも下げるデモンストレーションとして各地のジムは存在する。

 

 ちなみにダイゴどころかシルキーすら与り知らぬ事だが、遠い異国のガラル地方ではそういった自然の脅威をワイルドエリアという形で実現している。

 明確に区分された自然では若いトレーナーを日夜振るいに掛ける役割を担っているが、鳥籠のように無理矢理押し込まれたポケモンも多々いる中で縄張り争いが絶えない為、極端にレベルの上昇した「各エリアの主」に殺されるトレーナーも稀に出るのだとか。

 巡回トレーナーの影響で死者は年々減っているが、果たして自然を管理するのとしないのと、どちらがマシなのだろうか?

 

 閑話休題。

 

 行く手を阻む壁は全て俺達が壊し、最奥に控えるジムリーダークレナイを残す形となった。

 どこかアスナを彷彿とさせる赤い髪を持つ女性の元へダイゴは辿り着く。黒いTシャツに短パンだけという凄い格好の上、熱気でTシャツが肌にぺっとりと張り付きボディラインが分かりやすくなっているが、ダイゴは疲労でそれ所では無いらしい。

 

「やぁ、体調は平気かな? チャレンジャーダイゴ」

 

「皆それ聞いてきますね……。大丈夫ですよ」

 

「一応ポケモンリーグ公認でジムの運営をやっていてね、バトルと関係ない所で脱落者を出す訳には行かないのさ」

 

 微妙に皆が優しいのは良心の呵責も少なからずあったのだろう。

 クレナイが咳払いを一つ零し、纏う雰囲気を一変させる。

 

「残る私を倒せば晴れてフエンジム突破だ。さぁ、手合わせ願おうか」

 

 そう言ってクレナイはキュウコンを繰り出した。

 

「――私に希望を見せてくれ」

 

 相対するクレナイは燃え上がるほど情熱的な笑みを浮かべ、ダイゴを迎え入れる。

 フエンジムはここからだ。

 

 




凄い悪役っぽい事言ってるけど若いトレーナーに大怪我負って欲しくないだけです。
おかしい、当初の予定ではフエンジム終わってる筈なんだが……。余計な話付けすぎたね。

ガラル地方
・「管理された自然」を持つ地方の中では最大の自然であるワイルドエリアを内包する地方。
・管理されたと銘打ってはいるが強力なポケモンがわんさかいるせいで世代交代のサイクルが異様に短く、もはや人の手を離れ蟲毒の様相を呈している。
・人間が通り過ぎるだけであればワイルドエリアの主達も特に干渉しないが、無遠慮に縄張りに踏み込んだ愚か者は繰り出されたポケモンごと捻じ伏せる。
・ワイルドエリアを作ったからこんな事になったとワイルドエリア廃止を声高に掲げる者もいるが、異常にレベルの高い主をどこに解放するかという話になると途端に声が小さくなる。(他地方に放流すればいいとのたまった者は袋叩きにされた)
・現状主が縄張りから出る気配が無く、未だに誰の手にも渡っていないという事実が死者を出す原因にもなっている。

ワイルドエリア魔境だよなぁという考えから膨らんだ独自要素。一応ダンデがチャンピオンになる前の想定だけど流石に考えてて修羅過ぎると思った。
まぁ無敗のチャンピオンなら何とかしてくれるでしょ(他人事)

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