光球は墜ち、ほのおタイプのポケモンの勢いは止められた。
「逆境、だな。それでこそ燃えるというものだ、上空にはじけるほのお!」
「バレットパンチで掻い潜れ!」
マグカルゴの放つはじけるほのおが放物線を描き、空中で炸裂し火の粉を広範囲に散布するがフォートは弾丸の様な速度でマグカルゴの前まで辿り着き、その拳をマグカルゴに突き立てた。
“バレットパンチ”
「ふんえん」
「メタルクロー!」
マグカルゴと付かず離れずの位置を保ちながらフォートは鋼鉄の爪でマグカルゴの殻を引き裂いていく。
灰煙がフォートを包み込んでも怯む事無く攻撃を加え続ける姿は鬼神もかくやといった有様だった。
「更にふんえん! フィールドを覆い隠せ!」
「ッ! 警戒を絶やすな、フォート!」
噴出される煙の量は加速度的に増えていき、すぐに辺り一帯を包み込むほどに膨れ上がった。
(不味い、どこから攻撃が来るかが見えない)
だがこれだけの煙幕を張ったのならしたい事も見えてくる。マグカルゴはそこまで早いポケモンではないため位置を誤魔化して技を連発するという方法はしないだろう。
じゃあ何を隠したいのか? 恐らくはタイミングだ。
最大火力を奇襲に等しい形で叩き込む。相手の狙いはそれだ。ではその最大火力は何か。
(何度も見てきただろう。オーバーヒートに決まってる)
クレナイは勝負を決めに来た。この攻撃を凌げばフォートは勝てる。
なら僕のすべき事はタイミングを見極める事だ。
「マグカルゴ、――やれ!」
「か――」
わせ、と言いかけて止める。……音が微妙に違う。これは、はじけるほのおだ。
「受け止めろ!」
咄嗟に指示を出した。
「受ければ体勢を崩すぞ? 悪手だったな。――トドメだ、オーバーヒート!」
パァン、という何かが弾ける音と共に立ち込める煙の一部が晴れる。そこには左腕ではじけるほのおを受け止めたフォートの姿があった。
はじけるほのおの反動で左腕は弾かれたが、まだフォートは完全に体勢を崩した訳じゃ無い!
「右に避けろ、フォート!」
マグカルゴの姿が見えた訳じゃ無い、ただの勘で指示を出し――直後にそれが正しかったと悟る。
“オーバーヒート”
フィールドの大部分が超高温の炎によって焼かれ、灰煙の殆どが掻き消えた。オーバーヒートを撃ち、殻を赤熱化させたマグカルゴもまた姿を現した。
「決めろ! しねんのずつき!」
「――メッタァア!!」
焼けた左腕をそのままに、念力を纏ったフォートがマグカルゴに突撃する。
既に技を撃ち尽くしたマグカルゴは避ける事も防ぐ事も出来ず――
“しねんのずつき”
――マグカルゴは、地に伏した。
「私の負け、だな。あぁ、完敗だ」
「……よっしゃぁあああ―――!!!」
僕は、僕達は、クレナイに勝利した。
「――クチッ」
唐突に目が覚めた。視界の先には知らない天井。
(何か前もあったなこの件……。ここは何処だ)
いや待て、何となくフエンタウンで泊まってた宿の一室に似てるような?
「クチチ……クゥ?」
パニックになりそうになる直前で直近の記憶が全て蘇る。
俺達はフエンジムに挑んで、ジムトレーナーを蹴散らし、そしてジムリーダーのクレナイに挑んで――
(そうか、負けたんだ。俺は)
コータスをボコボコにして、キュウコンをぶっ倒して、それで相打ち。我ながらかなり暴れたと思う反面、もう少し巧くやれただろうと反省すべき点もある。
悔しい、自分の力が及ばなかったと真正面から突きつけられて逃げ出したくならない者はいないだろう。
だがそれでも俺は敗北を受け入れる。みっともなく泣きじゃくると言った真似は絶対にしない。
少なくとも、隣でダイゴが寝ている今だけは。
(一緒の布団で寝てる……俺が目を覚ますのを待ってて面倒くさくなってそのまま寝た、とかそういう感じかね?)
ダイゴは俺が瀕死になった後どうしたのだろうか。めげずに戦って、あわよくば勝ってくれたら嬉しい。
もし負けてたら、まぁその時はその時だ。ゴリゴリレベリングして上からぶん殴ってやればいい。あんまりしたくないけどな。
そりゃ強くなるのは第一だけど、強くなるならダイゴも含めて皆でだ。俺達だけレベルを上げてたら意味が無い、チャンピオンダイゴとしての力が弱くなるのは何よりも避けたい事だった。
(まぁ今更っちゃ今更だが……お?)
「……ん、しるきー?」
我らがダイゴがお目覚めになられた。調子はどうかな?
「おはよう、シルキー。――勝ってきたよ」
それは良かった。
「皆のお陰で、勝てた。……ありがとう」
うん、役に立てたのなら良かったよ本当に。頑張ったな。
ダイゴの背中をポンポンと叩いてやる。それはそうとしてここは何処なのだろうか。
疑問を浮かべると同時に部屋の向こうから足音が聞こえる。
「お客さん、起きましたか?」
「あぁ、シルキーも目を覚ました。大丈夫だ」
それなら、という声と共に襖が開けられ、一人の少女が入ってきた。
燃えるような紅い髪を後ろで束ね、ダイゴも着ていた和服っぽい何かを着ている少女はカラカラと小気味良く笑った。
(アスナだ……)
想像していたより幾分か幼いが、クレナイに似たその姿は紛れも無く未来のジムリーダーアスナだった。
そのアスナが仲居の様な格好をしているという事は、ここはクレナイの経営している宿か? というか宿経営してたんだな。
「ここは私の、というか私の旦那の経営してる温泉宿だ。一先ず一泊二日で入れたから宿泊日数を追加したければ旦那に言ってくれると助かる」
アスナの後ろからクレナイが顔を出し、そうダイゴに告げる。とりあえずの疑問は氷解した。
「しかし、本当に良いのか通常の値段で? こっちとしては詫びも兼ねて幾らか割り引いても良かったのだが」
「予約無しで泊めてくれるだけありがたいですよ、これ以上は流石に貰いすぎです」
「だが……」
「ほら、お客さんもそう言ってるんだから良いじゃないお母さん。半額どころか無料にしようとしてたってお父さんにバレたらまた怒られるよ?」
「それは困るが」
三人の話し合いに耳を傾けながら体の調子を確かめる。
体力は全回復してるがあれだけ炎を浴びたのだ、ココドラの様にどこか変形していてもおかしくない。……あ、大顎の歯が欠けてら。
「ふむ、ではこうしよう。宿泊期間中、私の手が空いている時に稽古をつけようか。これなら問題なかろう? アスナ」
「まぁ、良いと思うよ。それよりお客さま、昼食は如何しましょう?」
「あぁ、頂けると嬉しいよ」
ダイゴが俺の方を見て続ける。
「勿論皆の分も一緒にね」
豪勢な昼食を皆で食べた後、シルキーはフォート達と共に中庭へ向かった。
俺も行こうかと立ち上がりかけ、クレナイがそれを押し留める。
「フエンタウンを出た後は何処に向かう予定だ?」
「え? ……色々な場所で石を探しながらえんとつ山をぐるっと回ってとりあえずハジツゲタウンまで行こうかと」
それなら平気か……? と呟くクレナイは意を決したように告げる。
「砂漠にはあまり足を踏み入れるなよ、あそこは今魔境になっている」
聞く所によると砂漠では今二匹の主が縄張り争いをしているらしい。森や草原と違い、マーキングで付けた匂いは砂と共に流れ去り境界線が曖昧になる為、小競り合い程度の衝突は日常茶飯事の様だ。
「普段と砂漠の様子が違ったから深部で何かあったのかもしれない、何事も無ければいいのだが……。まぁとは言え砂漠の奥にまで足を踏み入れなければ良いだけの事、すぐに逃げれば縄張り争いに巻き込まれるなど万に一つも無かろうよ」
……ハハハと笑うクレナイの言葉で嫌な予感が五割り増し位に膨れ上がったが、それはそれとして。
「どのみち主を相手に逃げられる程度には強くならないといけない、か。稽古をつけて貰っても構いませんか?」
「あぁ、私も研鑽を重ねなければいけなくなったからな。……そうだ、アスナも参加させるか。どうせ私の跡を継ぐのはアスナだろうしな、よしそうしよう」
ジム戦をしている時は気付かなかったが、どうやらクレナイは若干暴走列車の気がある様だった。
その後クレナイとアスナも交えて幾度か模擬戦を行ったが、勝率は六割程度と微妙な数字になった。
しかし、そうか。……砂漠か。
砂漠には化石が眠っているという話もあった様な気がする。
――行ってみるか。
フエンジム、完! もう二度とここまで描写細かくしねぇ。
戦闘描写になるとやりたい事がどんどん増えて文字数嵩むから苦手なんですよね……、もっとスマートな戦闘を書きたい。
リザルト
シルキー:かいふくのくすりをダイゴに返却、コータスを六割削る、キュウコンと相討ち。
ココドラ:コータス撃破、マグカルゴを四割削る。
フォート:キュウコンを二割削る、マグカルゴ撃破。
割合は大体こんなもんかなと適当に考えてるけどココドラもかなり頑張った。もうちょい出番増やしても良かった気がするけどまぁそのうちどっかで活躍するでしょ(他人事)
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