やっぱ最後にはメガクチートが使いやすいと感じる今日この頃。
事の発端はフエンジムを突破し、クレナイからバッジを貰うと共に自身が経営する温泉宿の宿泊を勧められた所まで遡る。
一先ず頑張ってくれたシルキー達を回復させるためにポケモンセンターへ向かい、三つのモンスターボールをお姉さんに預けておく。
回復までの少しばかりの待ち時間をどう潰そうかと悩んでいる内に、懐のスマホが着信音を鳴らした。表示された名前は……ムクゲ。
「父さん? ……もしもし」
『ダイゴ、私だ』
何の用かという疑問を一旦隅に置き、通話に出ると予想通りの硬い声が帰って来た。
「どうしたの急に?」
『いや何、今どこにいるのか気になってな』
父にしては珍しい要領を得ない言葉に首を傾げる。
「今はフエンタウンだね、ついさっきフエンジムを突破したばかりだよ」
『凄いな、思っていたよりもハイペースだ。無理はしてないだろうな?』
「うん、シルキー達が頑張ってくれたお陰でね。僕ももっと強くならないと。……それで、どうしたの?」
『あぁ、ダイゴに頼みたい事があってな』
近況報告から本題へと移る。引き伸ばしもせず切り替えられるのはムクゲの強みだろう。
『フエンタウンにいるのなら話は早い、砂漠に行って化石を取ってきてくれないか?』
「化石?」
鸚鵡返しに聞き返す。ムクゲの欲求は僕の想像を超えていた。
『デボンコーポレーションの提携企業が化石研究所を持っていてな、古代のポケモンの復元実験に化石が欲しいと言っているんだ』
「……大まかな経緯は分かったけど、砂漠に化石は無いんじゃないか? あそこには骨格を押し固める地層も無いし古代のポケモンの骨があったとしても既に風化してる」
『実はな、つい最近砂漠の近辺で遺跡が見つかった。化石研究所はそこに化石が眠っていると考えているらしい』
「あー……、研究員に頼めば良いのに話を僕に持ってきたのはその為か。化石収集と共に遺跡の情報収集も頼みたい、と」
『そうだ。研究員では不可能と、逆に言えばダイゴなら可能だと判断した。だが……、先程の発言を翻すようだがお前の安全が第一だ。このホウエンでも危険度の高い砂漠に、お前を行かせる必要は無いからな。一週間で答えを考えてくれ』
手のひらを返すような言葉だが、ムクゲはあれで父親らしさを常に意識している人だ。今の発言を鑑みて危険地帯に息子を送り出すに等しいと思い直したのかもしれない。
その不器用な優しさが、僕は好きだった。ムクゲが父らしくしようとするのなら、僕も息子らしくあろう。
「……父さん、もし父さんなら、危険だと分かったら行かない?」
『……いや、私であれば行く。どれだけ危険でもそこに希少価値の高い石があるのであれば取りに行く。そして無事に帰ってくる』
「僕もだよ。知ってると思うけど、僕の石好きは父さん譲りだからな。――行くよ、完璧にこなして来るさ」
『……ありがとう、ダイゴ』
カエルの子はカエル、とはちょっと違うかもしれないけど、僕も父さんも石に関しては危険など承知の上で行動する。
自分の足で見つけて初めて手に入れた石に充足感を得るのだから。遺跡に眠る化石、何とも心躍る響きじゃないか。
(まぁシルキーと初めて会った時はその好奇心のせいで死にかけたけど)
あの時に関してはそのお陰でシルキーと会えたのでノーカンである。
とまぁこんな具合で、砂漠には最初から興味を持っていた。
クレナイに釘を打たれようともその決意は変わらない。
「という訳で砂漠に行こうと思う」
「……チィ」
温泉宿で一泊した後、部屋でのんびりしているシルキー達に向けてそう言った。
ココドラとフォートは何も言わず頷き、シルキーだけは胡乱気な目をこちらに向けてきたが特に拒絶はしなかった。
出来る事ならずっとフエンタウンにいたいが、僕達の当初の目的を考えるとそれは不可能で、とっとと先に進むべきである。
区切りを付ける為にも父の願いを聞いてあげようと思う。
「お客様がお帰りですよー」
アスナの案内でこの温泉宿の窓口まで歩く。僕とそう歳の離れていないこの少女は何が琴線に触れたのかクレナイとの模擬戦後しきりに話しかけてくるようになり、スマホの連絡先一覧に彼女の名前が加わった。
連絡先を交換する際のやけに生暖かいシルキーの眼差しが印象的だった。
「またいらしてくださーい!」
滞りなく会計は終了し、アスナに見送られながら温泉宿を後にした。
この温泉宿はジムリーダーとその夫が経営しているという特別感から名が広まっており、トレーナーやブリーダー、ポケモン自身に対するサービスが豊富に揃っておりフエンタウンでも屈指の人気を誇っている。
(予約ありきでもまた来るのは難しそうかな……)
まぁ生きていればそのうち来る事もあるだろう。そんな事を考えながら僕達は下山した。
登山がロープウェイなら下山もロープウェイ、という訳では特に無く、老人に配慮して段差は殆ど無いにしても徒歩で移動する必要があった。
そもそもがえんとつ山の麓にあるから言うほど移動距離は無いけどな。
さて、以前と違い砂漠に入る事を目的としている以上今の様なラフな格好で入るのは自殺行為に等しい。
割と有名な話だが、砂漠などに向かう際は薄着で風通しを良くするよりも帽子や重ね着などで極力日光を遮った方が体力を消耗しなくて済む。
(こんな事もあろうかとバッグに着替えを詰め込んでて助かった)
キンセツシティやフエンタウンで買い足した事が功を奏した形になった。
「ここが砂漠、か」
視界一杯に広がる砂の海、木々や草花など一つも生えていないのに大自然の力強さを肌で感じ取れるほどの雄大な光景だった。
「シルキー、フォート、ココドラ、ここからは皆で行こう」
僕の手持ちを全て解放し、砂漠を進む。
陽の光を遮る物が無く、熱砂が足を絡め取るがこの程度では止まらない。フエンジムで嫌と言うほど経験したからな。
砂漠を歩いて行くとサンドやサボネアの姿が見えたが、迂回して対処する。
別に戦ってもいいのだがあまり時間を掛けてはいられないとダイゴは判断した様だった。俺もそれには同意するので何も言わずダイゴについて行った。
「岩が増えてきたな……」
ダイゴの言葉通り、先程まで砂の海と言っていいほどきめ細やかな砂ばかりであったのに、今は点々と小さな石が辺りに転がっており荒野に似た雰囲気を醸し出していた。
(ここら辺とかちょっと大きい石がゴロゴロあるな、これとか)
「……イー」
「クチッ!」
無作為に持ち上げた石は擬態したイシズマイだった。そっと元あった場所に戻す。
しかしあれだな、他地方のポケモンであるイシズマイがいるって事は割と奥まで進んできたのかね。
海外から輸入されたポケモンは船で運ばれた後何処からか逃げ出した、或いは逃がされたポケモンは各地に散って大自然の生態系に溶け込んでいく。
ただ、あまりに凶暴だったり元々あった生態系を破壊しかねないポケモンは、そのフィールドにいた主に狩られていくのが殆どだそうで。
(まぁ何世代か経てば性格の違いも出てくるし、主もそれは止めないらしいけど)
主はそのフィールドの王にして管理者にして抑止力だと、旅館に置いてある本で見た。あくまで家を荒らされたくないだけだから思ってるより仕事はしてないとも書いてあったが。
それはそれとして。
地層の事はあまり知らないが、柔らかい砂から硬い砂が多くなってきた所から徐々に人工物と思しき石材が転がり始めた。
遠目に見た限り、小さめの石はイシズマイの家に、大きい石材はイワパレスの家になっているが、ダイゴが言うには何か祭壇か祠に使われていた物の様に見えるらしい。
「その割には石像や石柱が一つも転がっていないのが気になるが……全部風化した? それならあの石材が残ってる理由は……」
久しく出ていなかったダイゴの研究者としての一面が独り言という形で噴出する。
石像や石柱、か。確かに様々なポケモンシリーズで石を積み重ねただけという人工物は殆ど無かった。遺跡やら祭壇には石柱や石像が大量に配置されていた。
主な所で言えばシンオウの山頂に造られた祭壇や、イッシュの砂漠に沈む遺跡などが挙げられるだろう。
そういう所から考えれば、装飾の類が一切無いのは……製作者が異常に少なかったか、或いはそれを怖れたが故に装飾を作る余裕が無いままに封印したかのどちらかだと思う。
自分でもガバガバな推論だと自覚はしているが、メタ的な視点で考えると後者の可能性が高いように思えてならない。
ホウエン地方、砂漠の深部、謎の人工物。……どうにも脳裏にあるポケモンの姿が過ぎる。
「――あれが、そうか」
先頭で立ち尽くすダイゴの視線を追って、悪い予感は当たるのだと知った。
砂漠にぽつんと、されど存在感を放つ小山ほどの岩窟と、それを等間隔で取り囲む六つの尖った岩。それは役目を終えた物の墓場にして、かつて恐れ、怖れ、畏れられていたモノの集積場。
封印されたポケモン、レジロックの眠る場所だった。
(そうか、ここで見つかるのか)
砂漠遺跡、小島の横穴、古代塚。それが準伝説クラスのポケモンの眠る場所だ。ゲームでは割と道中にあった為にこの世界でも存在は知られているかと思っていたが、どれだけ本を読んでもその三箇所の記述は見つからず。
であれば何処にあるのかと考えていたが、何てことは無い、ただ常人では辿り着けない場所にあったのだ。
ダイゴとフォート達と共に砂漠遺跡の前に立つ。入口は開いていなかったという事は、おふれの石室にはまだ誰も辿り着いていないという事だろう。
……いや、まぁ各地の遺跡の鍵が深海を通った先にあるとか誰も思わんだろうが。そう考えると悪の組織連中の手に渡らないから安全な方だな。他の地方の準伝説はレジ連中に比べると管理が杜撰だな、シンオウの三精霊とかがっつり掘り起こされてたし。
目当ての物を見つけたダイゴがテンションを上げて近辺の調査を開始したのを見て、俺達はダイゴの後を付いて行く。
――アアアアアアアァァァァァ……。
「……クチッ?」
その時、耳に何やら歌声の様な音が聞こえた。
気のせいかとダイゴの方に向き直るが、その歌声は徐々にこちらに近付いてくる。
嫌な予感がする。すぐにでもここから離れねばならないと直感が囁く。
「……チィ――」
ダイゴに伝えるべきか否か、その一瞬の逡巡で、――天秤は傾いた。
開きかけた口を閉じて、生存本能に従いダイゴを巻き込むように前転する。
直後、全身の体力を奪わんとする灼熱の風が吹き荒れ、遥か上空から砂漠へ向けて何かが追突した。
「――ット!?」
爆風、轟音、舞う砂煙、揺らめく陽炎。いち早く体勢を立て直した俺は、誰よりも先に全てが収まった場所にいたそれと目を合わせた。
両目を覆う赤いカバーに、蜥蜴を思わせる鋭いフォルム。そして本来の物と比べ異常なまでに、それこそ太陽の光すら透けそうな程に薄い翼と尻尾を持つその竜は、俺達を認識すると剃刀の様な両の翼を震わせた。
――ァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!
歌声と思っていたものは、その竜の――フライゴンの羽ばたきであった。
フライゴンは中空に留まる事無く地面に四足を降ろし、狼の様な低い姿勢でこちらを威嚇する。
……仮に分岐点というものがあるのなら、ダイゴ達は目当ての物を見つけた時点ですぐにここから離れるべきであった。
この遺跡のある場所が既に何らかのポケモンの縄張りであると想定しなかった為に、ダイゴ達は致命的なまでに選択を誤った。
呼吸すら侭ならない程の重圧を放ちながら、フライゴンは咆哮する。
「フゥ、ラァアアアアアアア!!!!!」
“さばくのぬしがあらわれた!”
砂漠の主
・フライゴン、主その1、子沢山な皆の父さん。
・ワルビアル、主その2、子分達が大量にいる。
・イワパレス、主その3、居住可能な移動要塞。
・―――――、主その4、単騎で他三匹と渡り合う。
・大体フライゴンとワルビアルが砂漠で縄張り争いを繰り広げ、イワパレスがそれに巻き込まれているが、最近になってあるポケモンが割り込んできて争いが泥沼化している。
ぶっちゃけて言うと砂漠の主は海の主の次に強いものとして考えているので三匹全員とんでもないご都合主義を抱えております。具体的に言うと特性とか……。四匹目に関してはマジでやべー奴だし。一応意味の無い強化という訳では無いですけどね。
フライゴンの詳細はまた次回。
感想くれたらとても嬉しい。