血染めの鋼姫   作:サンドピット

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こっちのふいうちを変化技とか交代で透かされると台パンしたくなる。やっぱメガクチ運用するならトリルが安牌だな。


砂塵の精霊、陽炎に揺らめいて。

 

 フライゴンというのは、数あるドラゴンタイプの中でも異質な存在であった。

 大体のドラゴンタイプに共通するように三段階進化するポケモンで、フライゴンはその最終進化系だ。

 

 では進化前はどうか? フライゴンの幼体であるナックラーはドラゴンタイプを持たず、ビブラーバに進化して初めてドラゴンタイプが追加される。

 三段階進化で似た様な事例はキングドラ系列のタッツーなどが挙げられるが、それらと共通するのは幼体は特別強い訳では無いという事だ。

 

 途中からドラゴンタイプを獲得した者と、幼い頃からドラゴンタイプを持っていた者。最終進化まで行った時、より強くなるのは後者の方だ。

 元より竜であるから強い。故にフライゴンよりもガブリアスの方が強い。

 

 さて、ここまで語り、何が言いたいのか。……異常なのだ、砂漠の主にガブリアスではなくフライゴンが君臨している事が。

 

 確かにフライゴンは砂漠の精霊と揶揄されるポケモンだ、生態からして砂漠での活動に特化している。

 だが、それは砂鮫と言われるガブリアスとて同じ事。同条件であれば、ガブリアスがフライゴンに勝てない道理は無い。

 

 ――本来であれば。

 

 幾度と無く覇権争いが繰り広げられ、しかしガブリアスは一度も土俵に登れてすらいない。

 であるならば、砂漠の主に君臨するフライゴンは産まれながらの力の差を容易に覆す程の力を持っているに違いないのだ。

 

 畏れよ、しかして恐れる勿れ。今目の前に降り立ったドラゴンは、二分化されて尚広大な砂漠を統べる王の一人なのだから。

 

 油断や萎縮は、己の喉笛を食い千切られる隙と知れ。

 

 

 

 

 

 一瞬の空白。

 

 直後、真っ先に動いたのは――

 

「ッ! シルキー、メガシンカ!」

 

 ――ダイゴであった。

 開幕速攻のメガシンカ。持ちうる手を出し渋れば即座に負けるという鮮烈なイメージがダイゴの脳裏に刻まれた。

 

 そこで恐怖に竦む事無く動けたのは、今までの旅路の経験故か。いずれにせよ、ダイゴは最悪手だけは免れた。

 シルキーの持つキーストーンが光り輝き、朱色の繭に包まれる。

 

「――フッ」

 

 シルキーが繭を破るまでの数瞬の隙を狙い、フライゴンが翼を震わせる。

 

「ココドラ、まもる! フォートはバレットパンチ!」

 

 フォートが高速でフライゴンに近付き、その拳を振るう。

 

 “バレットパンチ”

 

 だが、フライゴンはその攻撃に何の痛痒も見せず、攻撃に移った。

 振るわれた翼からは尋常でない熱量の豪風が吹き荒れる。

 

 “ねっぷう”

 

 “まもる”

 

 メガシンカに移行中のシルキーの前でココドラが障壁を展開し、熱風を遮る事で何とか初撃を凌ぐ事は出来た。

 ココドラが身を挺して庇ってくれたおかげでシルキーは朱色の繭を引き裂いて一対の大顎を持つ姿へと変化した。

 

 同時にフライゴンの側にいたフォートが尻尾を打ち付けられてダイゴの方まで吹き飛ばされる。

 ここまで、たったの五秒の出来事であった。かつてない程目まぐるしく変化する戦況に、ダイゴは早々に結論を出した。

 

 ――今の僕達では確実に勝てない。

 

 これよりダイゴの意識は迎撃戦から撤退戦へとシフトした。

 

 

 

 

 

 不味いな、メガシンカする為に殻を纏っててあまり見えなかったが、あのフライゴン俺がメガシンカする一瞬の隙を突いて攻撃しようとしたよな?

 始めて見る物に対する対応力が異様に高い。思い切りが良いと言い換えてもいいだろう。

 

「クッチィ!」

 

 フォートを後方に下げ、代わりに俺が最前線に出る。

 

「アイツには今の俺達じゃ勝てない! 撤退戦を念頭に――」

 

 ――ァァァァアアアアア!!

 

「――ふいうち!」

 

 フライゴンの羽ばたきで砂が巻き上がる。再びねっぷうを放とうとするのを悟り、ダイゴの指示を受けて砂漠を駆ける。

 二つの大顎を振るいフライゴンの視界外から強襲を仕掛け――

 

 ――攻撃が外れる。

 

(……は?)

 

 一瞬の思考停止、それを突くように真横からねっぷうが叩き付けられる。

 衝撃に備える時間すら与えられないままに吹き飛ばされるが、俺の思考は別の所に向いていた。

 

(さっきふいうちを打った時、フライゴンは避けたり受け流したりといった回避行動は取らなかった。ただそこにいたのに俺の攻撃が当たらなかった)

 

 明らかにフライゴンのいなかった方向からねっぷうが飛んできたのも不可解だ。絶対に何らかのからくりがある。

 そう考えながら空中で姿勢制御を行い砂漠に着地する。

 

「――ッチ」

 

 鋼鉄製の牙が生えた大顎が融けそうな程に熱を持っている。ぶんぶんと振り回し、両方の大顎から息を吐き出して排熱する途中で、ココドラが動く。

 

「ココドラ、やれ!」

 

 “いわなだれ”

 

 ココドラが空から多数の岩を呼び出しフライゴン目掛けて落としていくが、全てが避けられていく。みきりの様な技を使っている訳じゃ無い、純粋に速いのだろう。

 そして、岩を避ける姿を注視して漸く、フライゴンの違和感に気付けた。

 

 ココドラのいわなだれを避ける際、僅かに身体が揺らいだ。輪郭がぶれたと言い換えても良い、まるで陽炎の様に。

 

(フエンタウンに行く前に出会った時、あの時からヒントはあったんだ。このフライゴンは陽炎を自在に作り出せる)

 

 あの時、ナックラーを迎えに来たとき姿が見えなかったのは、陽炎で自分の姿を隠していたからだ。それはつまり姿を完全に隠した状態から俺達を奇襲する事も出来たという事。

 自分の位置を誤認させ、攻撃を避け続ける特性。……まずいな。

 

 ――勝てないな、こりゃ。

 

 そもそも特性の発動条件すら分からないんじゃ対策の打ち様もない、隙を見て逃げる方が良いだろう。

 この結論に一足早く辿り着いたダイゴの成長を嬉しく思いつつ、再度前線に出る。

 

 見えないのなら戦い方を変えて喰らい付こう、流石に音までは誤魔化せないだろうしな?

 

 

 

 

 

 一度冷静になれば、ポケモンのこの身体は戦闘に順応してくれる。

 俺から見てフライゴンは本気で俺達を排除しようとする素振りを見せていない。本気を出す前に倒してしまえるという自負か、そもそも積極的に殺す気が無いのか、何れにせよ逃げるのならば一度フライゴンの猛攻を緩めなければならない。

 

「ココドラ、いわなだれ! フォートは岩を砕いて飛ばせ! シルキーは――好きに動いて良い!」

 

 任せとけ。

 

 集中力や時間の問題で基本的にトレーナーが一度に指示できるポケモンは二体までだ。それ以上になると指示が追いつかなくなり、戦線が崩壊する。シングル、ダブルはあってもトリプルバトルが無いのはそういう理由からだ。まぁイッシュ地方辺りまで行くと擬似的なトリプルバトルをするようなやべー奴もいるが。

 ココドラとフォートを満足に動かし切る為に、ダイゴは俺を動かす事を止めた。自分の好きに動けと、任された。

 

 決して思考放棄ではない、その方が生き残る確率が高いと信頼されての事だった。

 

 ――アアアアアァァァァ……。

 

 音がする。フライゴンの異質な羽ばたき、本物がそこにいるという証明だ。

 音は、風は、真っ直ぐにこちらに来る。俺を吹き飛ばす気なのだろう。

 

 “かみくだく”

 

 ならば真っ向から受け止めてみようと二つの大顎を構え――

 

 

 自身の大顎が斬り飛ばされる死の予感がした。

 

 

 “つるぎのまい”

 

 瞬時に技を取り消し、剣舞でフライゴンの直線上から回避した。フライゴンは高速で滑空しながらバレルロールを行い、その直線上にあったココドラの降らした岩が真っ二つに切断された。

 

(……なるほど、その羽は飾りじゃあない訳だ)

 

 長時間ホバリングし続ける厚い翼を捨て、剃刀の様に極限まで薄くした羽。流石にガラス細工の様に脆いとまでは思っていなかったが、まさかここまでとは。

 そして気付いた。相手の隙を窺い意識の空白を突くふいうちと、自身の姿をずらして自分は広い視野を保ち続けるフライゴンとでは致命的に相性が悪い。俺の強さの半分くらい削られてしまうが、……それならそれで打つ手を考え直そうか。

 

「フォートはしねんのずつき! ココドラは直線上にいわなだれ!」

 

 ダイゴは避ける位置を限定させて空間として擬似的に可視化する作戦に出たようだ。なら俺は更に相手の選択肢を潰そうか。

 輪郭を歪ませながらいわなだれを左に回避したフライゴンの上空に跳び、飛んで逃げるのを防ぐ。

 

 “かみくだく”

 

 “しねんのずつき”

 

 前方と上空からの同時攻撃を前にして、フライゴンは一瞬だけ俺を見て――

 

 ――フォートの方に突撃した。

 

 “とんぼがえり”

 

 自身の身体を乱回転させて翼と尻尾を振り回し、フォートに大ダメージを与えると共にフォートを足蹴にして上空にいる俺の方に飛び、真下の砂漠へと叩き落とした。

 

 たった一つの行動で全てを引っくり返したフライゴンがとんぼがえりの勢いをそのままに上空へと翔ける。

 場の重圧が、膨れ上がる。

 

「――ッ! フォート!」

 

 ダイゴが体勢を崩したフォートを下げようとするよりも早く、

 

 竜が宙に身を躍らせた。

 

 

 ――ァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!

 

 

 歌声が響く。今までと比べ物にならないほどに永く、大きく、高らかに。

 それはまるで流星のようで。

 

 “ドラゴンダイブ”

 

 盛大な爆発音と共に、砂漠の一角に砂煙と陽炎が昇りフォートを中心に巨大なクレーターが出来上がるのを俺は止められなかった。

 

 

 

 

 

 戦闘不能の四文字が脳裏を過ぎる。

 

 あまりにもあっけない展開に足が竦む。

 もし、もしもあのドラゴンダイブを俺が受けたら、無事でいられただろうか。いや、分かってる、フェアリータイプにドラゴン技は効きはしない。これは絶対だ。

 ……その筈だ。自分でも言い切れない程の威力があのドラゴンダイブにはあった。

 

 そしてフライゴンは、次はお前だとでも言うようにこちらを見る。最悪壊滅すらありえるかと考え、

 

 ――遠方から巨大な岩石が飛来する。

 

 それを機敏に察知したフライゴンは、この戦闘で初めて大きく回避する。それはあの巨大な岩石がフライゴンの本体を捕捉した事に他ならず。

 

 ――ナァァァァ……。

 

 直後、この戦場に似つかわしくない間延びした声が聞こえた。……? この鳴き声、何処かで……。

 

「――ラァイィィ……」

 

 フライゴンが苛立たしげに声を上げる。怒りと、少しの焦燥に支配されたフライゴンの視界には、最早俺達の姿など写っていなかった。

 

「フゥラァアアアアア!!」

 

 “ねっぷう”

 

 ゴウ、とフライゴンが羽ばたき、何度か受けた灼熱を辺りに撒き散らしながら飛び立った。

 視界が砂と風で阻まれ、回復する頃にはフライゴンの姿は影も形もありはしなかった。

 

(見逃された、のか?)

 

 一瞬聞こえたあの声はナックラーの鳴き声だ。自分の子に危険が迫ったからそれを優先した、という事だろうか。

 それはつまり先程までフライゴンは遊んでいた、という事で。

 

「……クッチィ」

 

 ドッと疲れたような感覚を味わいながら、メガシンカを解除する。妙な気疲れを起こしながら俺とココドラはフォートの元に走るダイゴの後に続くのだった。

 

「お疲れ、フォート。無理させてごめんな、やっぱり早く逃げればよかったな」

 

 まぁ仕方あるまいて。あれに背中を見せたいとはとてもじゃないが思えない。

 当初の目的を達成できなかったのは残念だが……ん?

 

「チィ、クチチ?」

 

「ん、あぁ、これかい?」

 

 ダイゴの手には妙な模様の入った石が握られていた。その模様は何かの生物の骨のようにも見え、まぁ有体に言えば化石だった。

 

「さっき岩が飛んできただろ? それが遺跡に当たって外壁が少し剥がれてな、そこに化石が転がってた。あの岩何だったんだろう、ストーンエッジか?」

 

(いや、多分あれはがんせきほうじゃねぇかな)

 

 がんせきほう、岩タイプのギガインパクトの様な技でありながら異常なまでに覚えるポケモンが少ないという妙な技だ。

 覚えるポケモンは、ドサイドンとイワパレスの二種類のみ。どちらにしてもあのフライゴンを精確に射抜く技量を持っているポケモンと会いたくは無いな。

 

「――チィ?」

 

 バサバサという羽ばたきが聞こえた。音からしてあのフライゴンでは無いだろうが、もう今日はこれ以上戦いたくないんだが。

 などと考えていると遠くから一匹のエアームドが飛んできて、近くに降り立った。

 

「アーッム」

 

「コッコ?」

 

 驚くべき事に最初にコンタクトを取ったのはココドラだった。何やら感じ入るものがあったのかは知らないが、一先ず敵ではないという事でいいのだろうか。

 

「これは良い、このエアームドに先導してもらって砂漠を抜けられないかな」

 

 ダイゴはダイゴで警戒心の欠片もない。……はがね使いの直感か?

 何にせよ、今日は激動の一日だった。暫くフエンタウンには行かないが温泉にでも浸かりたい気分だった。

 

 




実はこのぽっと出のエアームドかなり仕事してたりする。
今回の戦闘でフライゴンが受けたダメージは初撃のフォートによるバレットパンチのみです。フエンジム以来の全部戦闘回だったけどフライゴンのヤバさを伝えきれたかちょっと心配。

【種族】フライゴン
【性格】ゆうかん
【特性】うすばかげろう
【レベル】75
【持ち物】なし

【技】
・ねっぷう
・とんぼがえり
・じしん
・ドラゴンダイブ

「うすばかげろう」
・場が「ひざしがつよい」状態で発動する。
・特性発動中、自身に対する全ての技の命中率が0.8倍となる。
・特性発動中、場でほのおタイプの技が使用された際、自身の回避率が一段階上昇する。
・天候の有無に関係なく自身の全ての接触技の威力が1.2倍に上昇する。
・天候が変化した場合特性が無効化され自身の回避率及び自身に対する命中率が元に戻る。

ふゆうする為の翼を捨て、用無しとなった己の翼と尻尾の先端を薄く、剃刀の様に磨き上げた異常個体。
その為戦闘スタイルが地面に四足を付けて蜥蜴の様に移動するスタイルとなっている。
別に飛べないと言う訳ではなく、高所からの滑空やねっぷうによる揚力を掴む事ならむしろ普通のフライゴンより得意。
天候による制限を受けるがマジでクソみたいな特性を持っており、未経験、経験済みに拘らずとんでもない運ゲーを相手に押し付ける。
何気に「自身に対する全ての技の命中率が0.8倍となる」がイカレてる。そこまでしないと勝てない相手がいる訳だが……。
ちなみにフライゴンは一切気付いていないが、実は特性かたやぶりで完封出来たりする。

まぁこんな感じのやベー奴が後二、三体控えております。正直これを基準に話を書くと世界観がドラゴンボールになるので暫く自重したいと思います。ここまでヤバイのは砂漠と海だけだから安心してね!

感想くれたらとても嬉しい。

書くとしたら閑話だけど他の砂漠の主の話とかいる?

  • 構わん、書け。
  • いや、書くな。
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