血染めの鋼姫   作:サンドピット

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アンケで閑話欲しいという意見が多かったので書きました。一先ずはフライゴン編。

閑話故にいつもと比べて文字数が少ないです。御容赦くだされ。
(あと他作品と若干展開が被ってる気がしないでもないけどよくある展開だし御容赦くだされ)


閑話 ある砂漠の日常、陽炎の主。

 

 

 私は人間が嫌いだ。

 

 自己の利益の為なら躊躇いの欠片も無く他者を食い潰すから。

 そんな人間の下で生まれた私も、嫌いで仕方が無かった。

 

 

 

 

 

 ホウエン地方の砂漠の半分を統べる、フライゴンの王は少々疲れ気味に溜息を吐いた。

 自分の頭を悩ませる存在が、かつて苦汁を飲まされた人間とついでに自分の息子だと分かれば溜息を吐きたくもなろうものだった。

 

 幼少期、この砂漠で一匹のナックラーと出会い共に生きてきた。死にたくない、死なせたくない一心で強くなり、共にビブラーバへと進化した。

 自分がおかしいと気付いたのはすぐの事だった。

 妻と異なり長時間飛べない。そもそも何故か翼が薄い。羽ばたき一回するごとに自分の輪郭がぼやけていく。そして、同時に進化した筈の妻と比べて桁外れに強い自分の力。

 

 すぐに気付いた。これは本来得られた筈の物を捨て去って、更なる力を手に入れた結果なのだと。妻も愛想を尽かすのではと思ったが、特に離れていくなんて事は無かったのが救いだろうか。

 それからはこの力を家族の為に振るった。自分の妻や子供達を狙う忌々しい者共を追い払う為に使い続けた。

 

 我が子をエサにしようとするメグロコやワルビアル共は念入りに潰した。自身の縄張りに入り、あまつさえ妻に手を掛けようとした人間は背後から切り刻んだ。

 恐ろしい事など何も無かった。当然だ、恐れを振り払うためにこの力を得たのだから。

 

 ――そんなある日、一匹のナックラーが産まれた。

 

 妻とこさえた我が子は沢山いるが、誰もが妻の血を濃く引いているのか自分と同じ様な力に目覚める事は無かった。それどころか異常なこの力を恐れている節さえ感じられた。

 一匹のナックラーを除いて。

 

 そのナックラーは吐く息がやけに熱く、呼吸する度に僅かではあるが輪郭がぶれているように感じられた。

 

(私と同じ力を持つ子だ)

 

 すぐに分かった。この子なら、自分と渡り合える。この子なら、自分を超えていける。砂漠の主として、誰にも奪われない力を手にすると、そう思った。

 のだが。

 

 まぁ異常なまでに活発的だこと。

 

 自分も同じ力を持っているからか父である自分に恐れを抱かないのは良いにしても、恐怖心をタマゴの中に置いてきたのではと思うような行動ばかりであった。

 

 兄弟姉妹と喧嘩は日常茶飯事、食料調達に出かける妻の尻尾にしれっと噛み付き妻が気付くまで空中遊泳を続けたり、砂漠の入口辺りまで歩いて人間に飯を集りに行ったり、ふと目を離せばメグロコ共に転がされているのに鳴き声一つ上げないどころか何故か楽しそうにしてたり、駄目だって言ってるのに遺跡を掘り起こそうとしたり、最近やって来た妙に強い新参者に喧嘩を売りに行こうとしたり。

 終いには縄張りに入り込んだ人間と三匹のポケモンを叩き返そうとしたらノコノコ付いて来た上にエアームドに攫われて適当な所に投げられるし……。

 

 滑空は得意だが、やはりと言うか長距離飛行に関してはひこうタイプの足下にも及ばない。これは流石にどうしようもない。生まれながらの物であるし、そもそも自分は大空を捨てた身である。

 だからスタミナが尽きる前に撃ち落とそうとした直後にエアームドは我が子を砂漠に落とした。急降下し、荷物を置いて、急上昇し、Uターン。流石に瞬きもの間にあれほどの曲芸飛行をされては追いかける事も出来なかった。そして我が子は殺されるかもしれなかったのに終始楽しそうに笑っていたのだった。

 

 全てのケースにおいて自分が回収しに行くのにどれだけの労力を掛けるのかあいつは分かっているのだろうか? 分かってないんだろうな。だから繰り返すんだろうな、あいつはな。

 妻はあの子を自分に良く似ていると笑うが、流石にあれほど縦横無尽、自由奔放が似合う子が私似だとは思いたくは無かった。

 

 砂漠の主たるフライゴンの王は、上手く行かない育児に頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 私は、あるトレーナーの下で生まれた。

 最初に見たのはフライゴンの姿ではなく、無機質な目をした人間と煌々と燃えるシャンデラの姿。

 

 周囲には私と同じ様な生まれたてのナックラーが並んでいて、人間は私の前でこう言った。

 

「お前は要らない」

 

 私は逃げ出した。

 人間が怖くなって、そこにいればどうにかなってしまいそうで。だから私は決死の思いで走り続けた。

 

 シャンデラの蒼い焔が恐ろしかった。容易く処分という言葉を使うあの人間が怖ろしかった。背後から届く他のナックラー達の声に恐怖した。

 何をすればあの恐ろしい人間から逃げ切れる? どうすれば私は安らぎを手に出来る?

 

 考えて、考えて、考えて。やがて答えを持った。自分が持っている物を捨てて、代わりに今の自分では届かないような力を手に入れよう。

 余りに荒唐無稽であるが故にその答えを私は心の奥底に仕舞いこんで、蓋をした。

 

 やがて野生のポケモンから逃げ惑っている内に砂漠に辿り着き、私は一匹の同族に恋をして。とっくの昔に蓋をしたその願望は、進化と共に溢れ出た。

 

 生まれた場所を捨て、沢山の兄弟達を捨て、翼を捨て、大空を捨てた。

 それでも私にはまだ、失いたくないものがある。妻が、我が子が、この砂漠が。

 

 何もかも捨てて得たこの力は未だ衰える事を知らない。

 

 きっとあの人間が今も生きているからだ。人間が私達の安らぎを脅かそうとしているからだ。

 そんな事はさせない。もっと力がいる。私一人では足りない。もっと多くの、砂漠を守れるような力がいる。その為には、あの子には私以上に強くなって貰わなくては……。

 

 私は人間が嫌いだ。

 

 何もかも捨て去って自分だけの物を手に入れたと嘯く癖に、自分の為だけに何も知らぬ子供に力を求めるその姿が、己の力を継ぐ子供を求め続ける私と重なって見えてしまうから。

 

 私は、私が嫌いだ。

 

 




人の悪い面を見て恐怖しその悪意から身を守る為に人と同じ事をしていると自己嫌悪に浸る一匹のフライゴンのお話。
こいつに関しては本編で大体書きたい事を書いてるというのもある。

異常個体:“薄羽陽炎”
・最初にその存在が観測されたのは111番道路。
・観測当時は羽が紙の様に薄いビブラーバがいるという事で進化時に問題が起こった個体と思われていた。
・ポケモンリーグ所属者が確認し、接触を図ろうとするも近くにいた通常個体のビブラーバと共に威嚇され、接触は困難とされた。
・後に砂漠の奥地で羽と尻尾の先端が異常に薄いフライゴンと通常個体のフライゴンが発見され、その能力の特異性から異常個体に認定された。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

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