血染めの鋼姫   作:サンドピット

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前話がちょっと短かったので間髪いれずにイワパレス編。
ついでに伏線回。いつにも増してご都合主義だらけ故、回収し切れるかは不安。


閑話 ある砂漠の日常、要塞の主。

 僕は人間が好きだ。

 

 幼い頃に僕を連れて世界を旅した男がいた。まるで訪れる未来を見てきたかのように語ってくれた色々な話は、とても輝かしく思えた。

 人には悪い所もあるのだと男は言っていたが、そんな男の元にいたからだろうか。どうしても人間を嫌いにはなれなかった。

 

 

 

 

 

 ホウエン地方の砂漠を歩いて回る、イワパレスの王は自分に付いて回っていた彼の旅立ちに思いを馳せていた。

 命を救ってくれたという恩だけで自分に付き従っていた彼もしたい事を見つけたのだと思うと自分の事の様に喜ばしく思えた。

 

 一番最初に彼を見つけたのは何時だっただろうか。

 

 そうだ、何時もの様に砂漠で遊ぶイシズマイ達に自分が背負う塔を掃除して貰っていた時の事だった。

 突然目の前に傷だらけで今にもひんしになりそうなエアームドが墜落してきたのだった。

 

 助けを求める者には手を差し伸べよ、かつて自分を捕まえたトレーナーの話だった。そのトレーナーを好ましく思っていた自分はそのエアームドを助ける事にしたのだった。

 

 乾燥させた木の実をエアームドに食べさせ、消毒液は持っていないので流水で傷口を洗う。墜落したのがきめ細やかな砂で溢れる砂漠だったから良かったものの、荒野の様な硬い砂漠にでも墜ちていれば、いや、そもそも自分の前に墜落しなければそのまま死んでいたかもしれない。

 ポケモンが持つ再生力も相まって、献身的に処置を施した半日後には喋れる所までエアームドは回復していた。

 

 エアームドが言うには逃げてきたらしい。自分達の住処から。

 ある日、エアームドの群れが住む山をとあるポケモンが襲来した。立ち向かう者は皆喰われ、逃げようとした者は皆墜とされた。

 老体も、幼体も、雄も、雌も、その悉くが襲来したポケモンの前に没した。襲来から僅か一時間の出来事であったと言う。

 

 目の前のエアームドはその群れの唯一の生き残りで、必死に隠れて他のエアームドの群れに助けを求めに行こうとしたらしい。

 だが、いざ飛び立った所でそのポケモンはエアームドを撃ち落とそうと攻撃を放った。助けを求める余裕は無いと判断し、ひこうタイプとしての強みを最大限に生かしてそのポケモンを振り切り、砂漠まで逃げてきたと、エアームドは語った。

 

(襲撃者はひこうタイプを持っていない?)

 

 かつてのマスターから聞いた事がある。様々なタイプを持つポケモンはそれ自体が長所の一つであり、ひこうタイプ以外のポケモンはひこうタイプ程上手くは飛べないらしい。

 つまり襲撃者はひこうタイプを持っていないにも拘らず、複数のエアームドを相手に食事を行い、逃げに徹するエアームドを撃ち落とし、短時間で殲滅せしめたという事である。

 

 あまり考えたくはない事だな。それからエアームドは襲撃者と会いたくないからと自分に付いて行くことを決めた。

 今まで生きてきた環境から変わって生き辛いだろうとは思ったが、それ以上にエアームドがいるお陰で得られた利益があった。

 

 そもそも自分の戦闘スタイルは防御を固めて超遠距離から狙撃を得意とする物だ。その為に単なる岩ではなく自ら作り出した塔を背負っているのだ。

 射程距離はその日の調子によってまちまちだが、まぁ大体視界の範囲内であれば届くから……この平坦な砂漠であれば1キロメートルは届くだろうか? まぁそれは安定した命中率を犠牲にした数値に過ぎないが、エアームドのお陰でそれも変わった。

 

 上空を飛び、対象の座標を精確に把握し、風の動きも読める目と頭の良さのお陰で自分の迫撃は命中率が向上した。恐らくエアームドはするどいめを持っているのだろう、砂煙や蜃気楼程度では決して揺らがない瞳を。

 この砂漠でやけに大きい的を背負っているからか、フライゴンとワルビアルの小競り合いに頻繁に巻き込まれる身としてはエアームドの存在はかなりありがたかった。

 

 砂漠にあのポケモンが現れるまでは。

 

 その日はやけに自分の目の調子が良かった。それ故に自分は誰よりも早くそれに気が付いた。

 遠くの荒地でメグロコが屯しているのを横目に眺めつつ何時もの様に砂漠を渡り、――砂漠の一角が消滅した。

 

 何が起きたか呆然とする前に己の背負う塔に閉じこもれたのは奇跡だろう。

 塔の隙間からそっと様子を伺い、砂漠の中心でメグロコを貪り食らうそれを見た。

 

 それは正しく暴虐の嵐と呼ぶに相応しい者だった。腕の一振りで無防備なメグロコが千切れ飛ぶ。

 

 あれは、自分たちとは違う場所にいる存在だった。

 

 それは正気を失った獣と呼ぶに相応しい物だった。その目に知性を宿さずただ本能のままに動く。

 

 あれは、自分たちとは違う場所にいる存在だった。

 

 配下のメグロコを殺された事で姿を現したワルビアルの王に視線を向けたそれを尻目に、自分は気付かれぬようにその場を去った。

 今回ばかりは巻き込まれるのは御免であった。

 

 

 

 

 

 あれが襲撃者なのだろうと予想はしていたから、エアームドがこの砂漠を離れたいと言い出したのに驚く事はしなかった。きっと自分を喰いに来たんだ、取り逃した獲物を殺すために砂漠まで追いかけて来たんだとエアームドは怖がっていたが、……はてさて、あの獣にもはやそれだけの思考能力が残っているかどうか。

 ともあれ逃げたいというのなら止めはしない。新天地の目処が立つまでは面倒を見てあげよう、そう思ってエアームドを連れて砂漠を巡り、

 

 ――そこで運命を見た。

 

 砂漠遺跡の傍らで、人間嫌いのフライゴンの王を相手にまだ生きている人間。興味を引かれた。人間は好きだったから。

 何より、エアームドが見た事も無いようなキラキラした目をしていたから。

 

 だから手頃なタイミングまで待った。

 何時もの様にエアームドに空を飛んでもらい、距離を、座標を、風向を教えてもらう。爪で砂漠を掴んで微調整を重ね、背中の塔から超硬度に圧縮した岩の塊を射出する。

 

 “がんせきほう”

 

 それは過たずフライゴンの王の身体を捉え、しかし直前で察知したのか大きく身を翻して回避した。

 行き場を失ったがんせきほうが砂漠遺跡に直撃するが、かつてのマスターの言葉が本当ならばあの程度で壊れはしないだろう。

 

 それに自分はエアームドの旅立ちの手助けをしただけだ。

 

 こちらに注意を向けたフライゴンを人間から離す為に、何故か近くにいたナックラーをエアームドは足で掴んで高々と掲げた。

 すぐに空中でのドッグファイトに移行したエアームドを見やり、背中の塔を背負い直してその場を後にした。

 

 あれならエアームドは無事にあの人間と合流できるだろう。恩は十分返してくれた、お前はもう自分のしたい事をするといい。

 

 己の子に等しかったエアームドの門出を祝おうか。

 

 

 

 

 

 僕は、イッシュ地方であるトレーナーに捕まえられた。

 彼は人間基準で言うなら子供である筈なのに、その目にはやけに知性と理性が宿っているように見えた。

 

 それからマスターと僕は旅をして、やがてイシズマイだった僕はイワパレスへと進化した時から、マスターはしきりに「主人公は何時来るんだろう」と呟いた。

 何を疑問に思っているのか分からなくて、僕はマスターに聞いてみた。

 

 彼は「まぁお前ならいいか」と色々な話をしてくれた。

 

 イッシュ地方を救う少年少女の物語。それは今までに聞いた事の無いお話で、刺激的で、感動的だった。

 何よりも、まるで見てきたかのように語るマスターの目がとても好きだった。

 

 最後には決まって「これは本当になるかもしれないお話だ」という言葉で終わった。僕はその話の主人公に会ってみたかった。

 そう懇願するとマスターは驚いたような顔をして、「そうだな、会いに行きたいな」と笑った。

 

 色んな地方を旅して回った。カントーを、ジョウトを、ホウエンを、シンオウを、カロスを、アローラを。

 

 あらゆる場所を巡り、僕達は強くなった。あらゆる景色を見て、美しいものを知った。

 そして、全ての地方でマスターからワクワクするような物語を聞いた。各地に眠る恐ろしい伝説のポケモンの話を聞いた。

 少年少女たちの輝かしい英雄譚に心を躍らせた。それ故に残念だった、全ての地方において主人公は生まれてすらいないのだと知って。

 

「なぁイワパレス、どうやら俺の語った物語は未来に起こる話らしい」

 

 ある日の夜、僕の背負う岩に乗って星を見上げるマスターはそう言った。

 

「俺は伝説の、英雄譚の見届け人になるんだって思ってたけど、タイミングが合わなかったな」

 

 笑うしかねぇなと言って笑ったマスターの声に湿り気が混じるのを、僕は聞かなかった事にした。

 

「……なぁ、今まで話した物語の殆どが、人間と人間の争いだったろ? お前は人間をどう思う、醜いか?」

 

 少し考えて、首を横に振る。

 

「じゃあ、綺麗か?」

 

 少し考えて、首を横に振る。

 

「そうだ、人間ってのは醜いだけじゃない、綺麗なだけじゃない。お前たちポケモンと同じ様に喜怒哀楽、色んな感情を持ってる。ただ人間は、少しばかり感情の振れ幅が大きいだけなんだ」

 

 どうか人間に失望しないでくれ、イワパレス。きっとお前が目を輝かせるような物語が、未来に待ってるから。

 

 その言葉は僕にとって大切なものだった。天寿を全うして尚、マスターは僕の心の支えだった。

 だから僕は棺を作った。少しでも高い所から色んな景色を見れる様に。

 

 僕は人間が好きだ。

 

 マスターは僕に善意を教えてくれた。あの包み込むような優しさが大好きで、自分の子や他のポケモン達にもかつてのマスターと同じ様な接し方をした。そして今、エアームドは羽ばたき、美しいものを見せてくれた。

 

 僕は、マスターが好きだ。

 

 




人には悪い面と良い面の両方がある事を知り善意には善意を返す事を学んだ砂漠を徘徊する一匹のイワパレスのお話。
かつてのマスターは主人公にはなり得なかったが、それでも相棒の心には輝かしい記憶が刻まれた。

【種族】イワパレス
【性格】ずぶとい
【特性】ふらくようさい
【レベル】75
【持ち物】空のモンスターボール

【技】
・てっぺき
・シザークロス
・がんせきほう
・はかいこうせん

「ふらくようさい」
・場が「ひざしがつよい」または「すなあらし」状態で発動する。
・特性発動中、自身の防御力の実数値が二倍になる。
・特性発動中、自身の技の反動を無効化する。(自傷ダメージや次のターン行動不能など)
・天候の有無に関係なくねむり、こおり、メロメロなどの行動不能になる状態異常を無効化する。
・天候が変化した場合特性が無効化され自身の防御力及び自身の技の反動無効が元に戻る。

正直こいつもこいつでトンデモです。晴れでも砂でも輝ける上にちからもちの防御版という物理受け特化型。フライゴンもワルビアルも物理しか持ってないので死ににくさで言えば砂漠でもダントツです。
あとイワパレスがフライゴンの陽炎を突破してがんせきほうブッパ出来た理由ですが、エアームドの特性するどいめが原因です。観測手エアームドと砲撃手イワパレスの連携は、正しく不落要塞と呼ばれるに相応しいコンビでした。

異常個体:“不落要塞”
・最初にその存在が観測されたのは111番道路。
・通常種の様に立方体に切り出した岩を背負うのではなく、石製の塔を背負っている特異な個体だった。
・ポケモンリーグ所属者が交戦を開始するとイワパレスの石塔及びイワパレス本体が異常な硬度を獲得した。
・遠距離からエスパーポケモンの力を借りて石塔を解析した所、がんせきほうの様に超硬度に圧縮されたものだという事が分かり、内部に人間の骨格が一緒に固められている事が分かった。
・その後何らかの手段で解析者を察知したイワパレスは、石塔の先端を傾け、明らかに届かない筈の解析者の元まで迫撃砲の様にがんせきほうを連射した。
・異常な防御力と射程距離、連射性能から異常個体に認定された。異常個体名を“石棺要塞”に決定。前述の要項削除を要請する。イワパレスの背負う石塔の内部情報の公開は余計な混乱を招くと思われる。異常個体名を“不落要塞”に変更されたし。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは敵意を持っての接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

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