血染めの鋼姫   作:サンドピット

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砂漠編最後の閑話になるワルビアル編。
そろそろ本編に戻りたいので四体目の主の閑話は全カットになります。
が、まぁ今回の話で殆ど予想は出来るのでは無いでしょうか。


閑話 ある砂漠の日常、黒曜の主。

 俺は人間の事なんざどうでもいいと思ってる。

 

 だってそうだろう? 近寄ってくる羽虫なんぞ少しの苛立ちこそ覚えても一時間後にはすっかり忘れてる。

 弱い奴らの事を何時までも覚えてはいられない。逃げるなら放って、立ち向かうなら潰す。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 ホウエン地方の砂漠の半分を手中に収めるワルビアルの王は退屈しているとでも言いたげに欠伸をした。

 今日こそいつも自分を苛立たせるあのフライゴンを叩き潰して砂漠の唯一の王になる、と言う気分にはなれなかった。

 

 砂漠故に常に砂が流動し、縄張りが曖昧になる事で子分達が例のフライゴンの子供へとちょっかいをかけに行くという何時もの流れも今日は無かった。

 

 あまりにする事が無かったので、何時もと違う今日について考える。はて、今日は何か特別な日だっただろうか。

 最近ワルビアルへと進化した自分の息子に心当たりは無いかと聞くが、特に思い当たる節は無いとの事。

 

 記憶に無いのなら、これは本能による物だ。今日何か良からぬ事が起こる。

 

(……見回りにでも出るか)

 

 些か面倒ではあったが、それ以上の面倒事――例えばフライゴンとイワパレスが結託して強襲を仕掛けるなど――を未然に防ぐと考えれば動こうという気分にはなった。

 子分を数匹連れて、塒にしていた穴倉を後にした。

 

 ふと、何とはなしに己の腕を見る。

 他のワルビアルの様な細い腕ではなく、焦げ付いた砂の色に染まった大きな腕。子供の頃から血で血を洗う……とまでは行かないにしても毎日の様に殺し合いをして得た力だ。この腕だけは俺を裏切らない。

 自慢の黒腕はワルビアルへと進化し砂漠に住む全ての同族を傘下に加えても決して衰える事は無く、砂漠の統一のための大きな力になると思っていた。

 

 だが、それが淡い夢だと知ったのはこれからすぐ後の事だった。

 

 ――血の匂い。嗅ぎ慣れた匂いだ。

 

 同族の血と臓物の匂い。喰った喰われたは自然の連鎖だが、それは同時に己の縄張りを荒らしているという事に他ならない。

 子分と共にその場へと向かい、自分の眼にそれが写った。

 

 自分の両腕の様に輝く様な黒では無い、むしろ逆の、光を飲み込むような黒。

 正気など無いかのように爛々と光る目に、恐ろしく歪な翼。良く目を凝らせば全身に多大な傷を抱えている事が分かった。

 

 己の子分の血を啜り肉を食らうそれを見て、自分は普遍的ながらもまるで獣の様に思えた。

 

 故に苛立ちを覚えた。ここまで虚仮にされて黙っていられるものか。どこぞより流れた新参者だろうが、恥も外聞も無く自分の子分を貪る浅ましさを許した覚えは無い。

 連れてきた子分に技を使わせる。

 

 “すなあらし”

 

 辺り一帯を砂塵が覆い、照り付ける日光を遮った。ちらりと遠くで塔を背負うイワパレスが居た気がしたが、気のせいと判断し目の前の獣に向き直る。

 砂を纏う事で己の一対の黒腕が限界までその膂力を上昇させる。この感覚は砂鰐故の物なのだろうな。

 

 天候が変化して漸くこちらに気付いた獣に向けて、右腕を振るう。

 

 “ばかぢから”

 

 キュゴッ、という奇怪な音と共に、砂漠の表層が弾け飛ぶ。己の腕は砂塵を纏う事でより広範囲に技を広げる。それは何処まで行ってもただの拳でしかない筈のばかぢからとて同じ事。

 同じ力で、ただその技の及ぶ範囲だけが格段に上昇する。すなあらし下での自分の攻撃は、どこぞのフライゴン以外は避ける事すら叶わない。

 

 筈だった。

 

「……ザザザザァァァ」

 

 何かが軋んだ様な鳴き声は己の左から聞こえた。

 ――避けられた?

 

 沸騰する様な苛立ちが沸き起こり、すぐさま冷水を浴びせたように冷静な思考を取り戻す。

 

「ビィアッ!」

 

 “すなじごく”

 

 “ストーンエッジ”

 

 “がんせきふうじ”

 

 子分達に遠距離技をとにかく撃たせる。全部避けられるだろうがそれならそれでいい。

 出来る限り技を撃たせ続け、自分は砂漠の中に身を潜める。

 

(あれだけ腹が減っていたんだ、群れたワルビルは格好のエサだろうよ。――今)

 

 ドッ、と何かが砂漠に押し付けられる音がした。一匹餌食に掛かったらしい。好都合だった。

 

 “あなをほる”

 

 押し倒されたワルビルの下からその獣へと襲いかかった。

 地雷が爆発したような衝撃は上に重なる砂を吹き飛ばし、まるで砂で出来た間欠泉の様に相手の動きを阻害する。

 

 獣の首を掴んで砂漠へと叩きつける。間髪をいれずに次の攻撃へと移ろうとして、

 

「ザザザザザ」

 

 目が合った。

 

 “ばかぢから”

 

 “りゅうのはどう”

 

 “りゅうのはどう”

 

 “りゅうのはどう”

 

 砂塵を纏った黒腕の一撃と、三条に分かれた暴力的な生命エネルギーが激突する。

 巻き起こった爆発による爆風を振り払って相手の居場所を探す。

 

(この俺と互角、どころか僅かに押し負けた)

 

 正気を失い、全身に傷を負って尚この強さ。本来の力を取り戻せば、ともすれば自分よりも――

 

 いや、ダメだ。それは駄目だ。

 それだけは看過出来ない。漸く、漸く砂漠の頂点に君臨する所まで来れたのに、ぽっと出の獣風情に邪魔されるのか。また遠のくのか。

 許せない、許しはしない。ここを逃せばこいつはさらに強くなって自分の目の前に立ちはだかる。

 

 その前に、ここで叩き潰す。

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 最早業炎にまで膨れ上がったそれをあえてこの身で受け、反撃とばかりに今自分が立つ砂漠ごと獣を粉砕せんと右腕を振るった。

 

 “しっぺがえし”

 

 己の後手の一撃によって砂漠がまたもや爆発した。まるで己の弱気を消し去るかのように。

 

 砂塵は尚も舞い続ける。王と王との死闘の跡を、風と砂が洗い流していく。

 

 

 

 

 

 産まれて物心ついた時から俺は戦いに明け暮れた。

 来る日も来る日も同族同士で争い、時には殺して肉を喰った事すらあった。それだけ強くなりたかった。

 

 何故強くなりたいのか? 理由なんて無い。競い争い殺し合い、力を手にして己こそが最強であると声高に叫ぶ生まれながらの戦闘狂。ポケモンとはそういうものだ。

 だから俺も強くなる事そのものを目的として生きてきた。

 

 強くなる事が目的から手段に替わったのは俺がワルビアルへと進化してからだった。

 

 砂漠を歩いていると何やら妙に赤い格好に身を包んだ一人の人間が立ち塞がった。

 いつもなら吹き飛ばしてそれで終わる。だが、今回はどうもそういう気分にはなれなかった。

 

「うぅむ、こいつでは少々力不足だな。何処かに強いポケモンはいないものか……」

 

 その言葉は俺の神経を逆撫でるに十分過ぎる一言だった。

 

「ほう、立ち向かって来るか。――やれ、バクーダ」

 

 

 

 

 

 ……勝負は一方的に終わった。

 

 あの男の繰り出したバクーダが繰り出す焔は、今まで受けたどの技よりも熱く、己を焼き融かした。

 それこそ己の両腕が焦げ、黒く染まる程に。

 

 戦いとも言えぬ蹂躙の末、男は俺に興味を無くしたのかすぐにその場を去った。何をしに来たのか、何を求めてこの砂漠へとやってきたのかまるで不明瞭なまま、ただ邪魔だから蹴散らしたのだ。

 今までの俺の様に。

 

 煮え立つ怒りを覚えた。

 

 何故俺を見ない、何故俺に興味を持たない、俺は強いんだ、俺は凄いんだ、俺を見ろ、俺を見ろ。

 

 子供の癇癪の様な事を思い、されど身体は動かない。そうしている内にあの男は去っていった。最後まで俺を見る事無く。

 死にたくなるくらい悔しかった。もっと力が要る、あいつを殺して見返してやれる様な力が。

 

 燻る腕は黒曜の輝きを宿し、舞い散る砂嵐は例外無く俺の思うがままに動く様になった。

 どれだけの時間が掛かってもいい、砂漠の頂点に君臨して誰からも恐れられる王になる。

 

 それにはあのうざったいフライゴンが邪魔だ。外からやってくる人間共も邪魔だ。ぽっと出のポケモンなんぞ一番邪魔だ。何もかも俺が強くなる為の踏み台にしてやる。

 それで俺が一番強くなって、俺以外の全てに恐れられるような王になって。そうしてもう一度やって来たあの男の手を、今度は俺から突っぱねてやるのさ。

 

 ……ちなみに、あの時身体が動かず死に掛けていた俺を通りすがりの変な形をしたイワパレスが甲斐甲斐しく治療してくれたが、それはそれで悔しかったので今でも見つけたら縄張り争いに巻き込んでやっている。

 あんなのは覚えてちゃいけない記憶だ、二度と負けてなるものかと決意したのもあの瞬間だった。

 

 俺は人間の事なんざどうでもいいと思ってる。

 

 俺が誰よりも強くなる事でしか俺は俺の価値を証明出来ないんだ、弱い人間に捕まるなんざ死んでも御免だね。

 強く、強く、誰よりも強くなって、そんであの人間を殺してやるのさ。てめぇが見下したもんに見下されるのはどういう気分だって言ってやる。

 

 俺は、俺が強くなる事以外はどうでもいいと思ってる。

 

 

 




人の事など興味ないと言いながらかつて己を倒した人間を殺す為に砂漠の王になる事を望む一匹のワルビアルのお話。
どうでもいい割には結構人間に執着してる事にワルビアル自身気付いてないです。赤い格好のバクーダを使う男、一体誰なんだ……。

【種族】ワルビアル
【性格】いじっぱり
【特性】こくようのうで
【レベル】75
【持ち物】なし

【技】
・あなをほる
・しっぺがえし
・ばかぢから
・げきりん

「こくようのうで」
・場が「すなあらし」状態で発動する。
・特性発動中、自身の攻撃力が六段階上昇する。
・特性発動中、自身の使用する全ての技が全体攻撃となる。
・天候の有無に関係なく自身のタイプ一致技の威力補正が2倍に上昇する。
・天候が変化した場合特性が無効化され自身の攻撃力及び自身の技の全体強化が元に戻る。

断言しますが、この砂漠における最強個体です。常に子分を連れており、すなあらしを絶やさない状況を作って敵対者を蹂躙するスタイルを取ります。場が砂嵐になるだけで容易に抜きエースになるやベー奴です。
最強と言いましたが、砂漠の主三匹とも天候によって異常個体の力を得るので、晴れの時はフライゴンが、砂嵐の時はワルビアルが最も強く、イワパレスはどちらでも特性が発動するので安定した強さを持っています。

異常個体:黒曜頭首
・最初にその存在が観測されたのは111番道路。
・異常な程に縄張り争いを重ね、通常種より遥かにレベルの上昇したワルビアルがいるという民間からの情報を獲得。
・ポケモンリーグ所属者が交戦し、要注意個体としてマーキングを塗布。その後一時的に行方不明となった。
・再びその個体を発見した時、ワルビアルの両腕が黒く染まり異常な肥大化を確認した。
・天候が砂嵐状態の時に発現する尋常でない膂力の上昇と攻撃の広範囲化から異常個体に認定された。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

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