激動の一日を越えて暫く。
あの後うちのコドラと意気投合したエアームドが晴れてダイゴの仲間に加わった。順調にダイゴらしい手持ちが整ってきた感じがするな。
……そう、コドラだ。あの災害みたいなフライゴンと戦ったココドラは戦闘終了後にコドラへと進化したのだった。
確かココドラからコドラに進化するのがレベル32からだった気がするのであの戦いで一気に32レベルまで上昇したという事になる。えげつねぇな。
かくいう俺とフォートもレベルが上がっている感じはする。それでもフォートがメタグロスに進化するには届かなかったし、俺もじゃれつくを覚えるのはもう暫く掛かりそうだけどな。
話をエアームドに戻そう。
仲間になったエアームドは特性するどいめを持っていた。がんじょうかと思っていたがあのフライゴンの陽炎を見破る事も出来たらしいから一概にどっちが強いとは言えないな。
あと技はまきびし、ステルスロック、はがねのつばさ、ふきとばしの四つを持っており、もうあからさまに昆布戦法やれと言われている様な技構成であった。
しかし技の偏りが凄まじいな。これだけサポート一辺倒だとあの砂漠で生き残るのは難しいだろうに、自分がサポートに集中できるポケモンとコンビを組んで砂漠で暮らしていたのだろうか?
ともあれ、新しい仲間が加わった俺達はえんとつ山をぐるっと周り、113番道路を通ってハジツゲタウンまで来たのだった。
進化前の小さい姿からは想像出来ないくらいに大きくなったコドラの上に座って、俺は大顎の様子を確かめていた。
進化しても俺を慕ってくれたままなのは嬉しいが、流石にもう抱きかかえられはしないな。そのうちもう一回進化するだろうし。
あ、模擬戦でココドラに対して力加減を誤って背中の甲殻が裂けたままだった例の傷跡は進化した事で元に戻った。あのままだと流石に可哀想だったから良かったよ。
(にしても酷いなぁ、これ)
怪我の具合で言えば俺とフォートの方が酷いものである。
フォートは全身に無数の切り傷、俺は大顎の歯が爛れて再び冷え固まった。どちらも鋼鉄の身体だというのに容易く体に残るダメージを与えたあのフライゴンの力を改めて実感する。
(普通はポケセンで完治するんだがなぁ)
痛みはもう無いので大人しく木の実を食って安静にしてろとのお達しである。
後はダイゴに歯磨き(研磨的な意味で)して貰うしかないかな。一応メガシンカすればダメージが左右の大顎に分散されるので戦えない事は無いがね。
「クァ……ッ」
「コォッド?」
欠伸を一つ零し、コドラの背を撫でる。何事かとこちらを見るコドラに、何でもないと首を振った。
現在ダイゴはハジツゲタウンで買出しに出向いており、フォートとエアームドはダイゴの方に付いて行っている。
ポケモンセンターの庭で二匹揃ってボーっとしてるのは暇なので別の事に考えを巡らせるとしよう。
ホウエン地方には至る所に主と呼ばれるポケモンがいる。至る所にっていうかぶっちゃけると各道路に強さの差はあれど主が一匹いる。
問題となるのは主の中でも殊更強い個体、そしてそんなポケモンが一つのフィールドに複数いる場合である。
あの後ダイゴがポケモンリーグのホームページを見ると普通に異常個体の存在が公開されていた。「先に見れば良かった」とはダイゴの言である。
ともあれその情報を見るに異常個体が主として君臨し、尚且つ複数体存在しているのは砂漠と海の二箇所だけであった。
(それも本当かどうか怪しいもんだけどな)
事細かな情報の、不自然な点が一つ。ホウエン地方の各地に主と少数の異常個体が存在すると先程述べたが、りゅうせいのたきだけが異常個体及び主は存在しないとされている。
そんな訳が無いだろう、りゅうせいのたきはドラゴンタイプが蔓延る魔境だ。どいつもこいつも気性が荒く、縄張り争いをしない理由など何一つ無い。
まぁチルタリスの様に温厚な例外はいるが……、にしたって強い奴らの中でも一際強い奴は如何したって出てくる訳で、異常個体はおろか主すらいないのはあり得ないのだ。
となると考えられるのは情報規制だ。それがポケモンリーグからかりゅうせいの民からかは置いといて。
(また急にエンカウントするのは勘弁して欲しいんだが)
わざわざりゅうせいのたきを通る事自体避けても良いのだが、残念ながらダイゴの石好きが発動する可能性が高いためにこうして祈るしかなかった。
「――シルキー、コドラ、ただいま」
様々な荷物をフォートの身体に載せたダイゴがポケモンセンターに帰って来た。
お帰り、ダイゴ。
ポリポリと硬い咀嚼音が響く。
俺がおやつを食べている音だ。
カリカリと硬い物を慎重に削る音が響く。
ダイゴが俺の大顎を磨いている音だ。
ポケモンセンターに常設されている休憩室を借りてダイゴは俺の大顎を元に戻そうとしてくれており、それを邪魔しない様に俺はポロックを食べていた。
いやしかし美味いなポロック。ペットフードみたいな感じかと勝手に嫌厭してたが、口当たりが軽く前世で食ってたお菓子と同じ位美味しかった。
前世で何食ってたっけ俺、あの、何だっけ、サクサクしてた奴。……うぅむ、産まれて五年と経ってないのに認知症か? まぁいいや。
とは言えポケモンの身体は大概何食っても美味しいと感じる。いやまぁ味の好みはあるけど、現に今俺が食ってるポロックも苦い味だし。
そりゃまあ原材料が木の実中心なら美味しくはなるだろうさ。何をどうすればポケモンのコンディションが上昇する食い物に化けるのかは知らんが。
あ、そうそう。ポロックで思い出したが、ホウエン地方の各地にポケモンコンテストの会場があり、ゲームの時と同じくここハジツゲタウンにもその会場は存在する。
だが俺達、というかダイゴはコンテストに出る気は無い。以前ミクリに伝えたようにコンテストには向いてないと自分で判断していた。
「そりゃ僕もシルキー達の魅力を皆に伝えたいとは思うけど、ミクリの様な技術を持っている訳では無いし今からその技術を高める時間も無いよ。流石に力不足のままコンテストに参加できると考えるほど馬鹿じゃないさ」
だ、そうで。やるとしたらチャンピオンになってからだろうけど、その時には恐らく最強のコンテストマスターが爆誕している筈だ。具体的に言うとミクリの身内。
そんなこんなでハジツゲタウンに留まる理由も無いので俺達が回復したらすぐにでも出発する予定なのであった。
「よし、とりあえず融けて固まった部分の整形は終わったよ。後は新しく鋼鉄層が形成されるのを待つだけだ、フォートもそうだけど暫く無理はさせるつもりは無いから安静にね」
「クチット」
善処すると呟いて手元のポロックを口の中に放り込んだ。
座り込んでいた場所から立ち上がり、ダイゴを見ると何となく微妙な表情をしていた。
「……最近フォートとシルキーが何を言ってるのかぼんやりとだけど分かってきたよ」
「クゥ?」
なんだ急に、善処じゃなくてちゃんと休んでろと言いたいのだろうか。
「いや、それはもういい。考えるより先に身体が動くタイプなのは知ってるからね」
だから本題はそこではなく。
「コドラ、……いや、ココドラと初めて会った時の事を覚えているかい?」
「チィ」
忘れるわけが無かろうよ。あれだけの怪我をして、あんなに体力を消耗して、生息地から遠く離れた場所にたった一匹で倒れていた。
人間の可能性もあるが十中八九野生のポケモンが襲ってきて巣を離れたと結論付けた筈だ。
「うん、じゃあエアームドがココドラと特別仲が良さそうだったのは覚えてる?」
そりゃあ直近の出来事だし。だがあれは俺らの中で一番取っ付きやすかったのがココドラだったというだけでは? 何やら意気投合していたが……。
「フォートが聞いてくれたんだけどね、エアームドは自分たちの住処をあるポケモンに襲われたそうなんだ。そのポケモンから逃げるために砂漠まで飛んできたらしい」
それは、まるで――。
「うん、ココドラの境遇と良く似ている。そうだよ、ココドラもエアームドと同じくたった一匹のポケモンに住処を滅ぼされたんだ。そして二つの住処を襲ったポケモンは同一個体に違いない」
そうか、だからエアームドはココドラによく懐いていたのか。同じ境遇の似たもの同士だったから。
「僕は、コドラとエアームドの住処を滅ぼしたポケモンを倒したい。コドラとエアームドが敵討ちをしたいのかは分からないけど、――それでも」
一生会う事は無いかもしれない。あのフライゴンよりも強いかもしれない。出会っても為す術無く倒されるかもしれない。
それでも?
「それでも」
「クッチチ」
それを聞いて笑みを零した。決して折れることが無いその精神は何よりもダイゴらしかった。
ならばもっと強くならなければならないな。せめてあのフライゴンと対等に渡り合える程度には。
窓の外からフォートとコドラ、そしてエアームドが遊んでいる所を眺めながら、俺は何とはなしにそう思った。
ポロックはポケモンセンターに設備が置いてありますが、普通に店で売ってたりします。綿菓子みたいなもんですね。
甘い、辛い、苦い、渋い、酸っぱいの五種類が売られており、ポケモンだけでなく人が食べても美味しく感じるように味の調整が為されているのでおやつとして食べる人もいるらしい。
え? りゅうせいのたき? あそこは主も異常個体もいない至って平和な場所さ。そりゃドラゴンタイプのポケモンは沢山いるけど、そこまで特出した力を持ってる奴はいないよ?
りゅうせいの民がそう言ってたんだから間違いないだろうさ。
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