助けてダイゴさん。
ただ殴りあうだけじゃない、先を読んで技を選択し、自分の行動の幅を広げると同時に相手の選択肢を狭める。
技の使い方一つ取ってもゲームとはまるで違うのだと再認識させられる。
たとえばダーテングの使うふきとばし。
ゲームであれば控えのポケモンに強制交代させ、野生のポケモンが相手ならそれだけで戦闘が終了するほど相手をぶっ飛ばす技だった。
だが、ダーテングは手加減してふきとばしを使う事で的確に間合いを広げ次の技へ繋げたり、地面に向けて放つ事で土煙を起こし擬似的な煙幕として活用したりとかなり巧く使っている。
そういった応用はゲームの知識による固定観念に囚われている俺ではまだまだ思いつかなかったものだった。やはり戦いから学ぶものは多い。
自分の攻撃を最小限に留めるダーテング、相手の攻撃の悉くを避ける俺。ついでに全体技などダイゴさんに届きそうな攻撃を不発に終わらせ、といった目まぐるしい攻防を続け、ダーテングの攻撃の手が止んだ。
「ダーテン、ダァグ」
それだけ出来れば十分だろう、そう言いたげにダーテングから敵意が薄れる。
何が十分なのか、と返そうとするのを抑え、ダーテングが俺の背後にいるダイゴさんを指して続けた。
「ググ、ダァーッテ」
未だに俺はポケモンの言葉は何となくしか分からないが、今だけはダーテングの言いたい事が分かった。
自分を前に守りたいものを守りきった事を誇れと、そう言いたいのだ。恐らく俺がこの少年についていこうとしている事を見抜いた上で。
ダーテングが暴風と共にこの場を去った。どっと押し寄せる疲労など気にならないまま、俺はダイゴさんの元へと足を進めた。
(ダイゴさんと出会ってテンパったな……、俺の強さとか二の次でまず避難させるべきだった。木の実あげたら許してくれるかな)
結局後半から使わなかったもう一つのオボンの実を大顎から取り出して、表面に付いた大顎の分泌液(多分よだれ)を自分の身体で拭って、その場に座り込んだままのダイゴさんにあげる。
(……いかんなぁ、意識が朦朧としてきた。たくわえるとのみこむ覚えたら体力とか気にせず戦えたのかなぁ)
「――君が助けてくれたの?」
そんな言葉が聞こえた気がしたが、聞き返す前に全身の力が抜け、ダイゴさんに覆いかぶさるように倒れ意識が途絶えた。
森の中を駆ける、駆ける、駆ける。
「間に合ってくれ、どうか……ッ!」
宝物――綺麗な石を沢山詰め込んだ瓶を提げ、僕は傷だらけになり眠るように気絶した色違いのクチートを抱えて家まで走っていた。
クチートの平均体重は12キロくらいだっただろうか。それより幾らか軽いとはいえ子供の身には負担が大きいが、そんな泣き言を言っている暇は無い。
「この子は僕を守ってくれたんだ」
そう、このクチートはダーテングから僕を庇ってくれた。
もしかしたらこの子とダーテングが縄張り争いをしていて、たまたまそこに僕が紛れ込んでしまっただけなのかもしれない。
それでもこの子はダーテングと共に僕を排斥するでもなく守ってくれた。
「絶対に助けるから!」
幸運な事に帰り道で野生のポケモンに遭遇する事は無く、何事も無く家まで辿り着いた。
乱暴に玄関の扉を開けた僕の元に母さんが何事かと駆け寄る。
「随分早かったね、何かあったの――ってどうしたのそのポケモン!?」
「森で僕を助けてくれたんだ! トレーナーズカードを持ってないからポケモンセンターには行けない、何とか助けられないかな?」
慌ててクチートの事を話すと母は真剣な目をして僕からクチートを受け取った。
「……ダイゴの恩人なら絶対に助けなくちゃね、任せて。……ところで森ってどういう事かしら」
「あ」
「後で話、聞かせて貰うわね」
恐ろしい事を言って母はクチートを抱えて自室へと向かった。
デボンコーポレーション社長である父の妻、ツワブキ・ミカゲは元ポケモンセンター勤務者であり、約束を軽々しく破る事が酷く許せない人だった。
……まぁ母さんの言いつけを速攻破ったのは自分なので折檻は甘んじて受け入れよう。
そう思いながらも身の震えが暫く止まらないダイゴであった。
深海から浮かび上がるように、俺の意識が浮上する。
薄く目を開けて周りを見ると慣れ親しんだ森――ではなく久しく見てなかった建築物の中のようであった。
(……知らない天井だ)
すわポケモンセンターか、と思ったがそれにしては医療設備が少ない。勿論この世界のポケモンセンターを見た事が無いので断定は出来ないが、何となく違う気がする。寝かせられてるのも診察台じゃなくて普通のベッドだし。
さてどうしたものかと薄目を開けたまま考えていると誰かが扉を開けて入ってきた。
(やばっ)
慌てて目を閉じ眠っている風を装う。
「あ、起きた?」
「タブンネ~」
「……部屋に入っても寝たふり、か。聞いてた通り野生にしては酷くしんちょうな子ね、いじっぱりやおくびょうな子だとこうはならないわ」
おくびょうはA下がるのでちょっと……。
じゃねぇわ、流石に寝たふりがバレてる状況でまだ続ける度胸は無い。大人しく起きて部屋に入ってきた人の方を向く。
その人は女性にしては高身長でピンク色の髪を一つに纏め、ホウエン地方では滅多に見ないタブンネを連れていた。
「初めまして、私はミカゲ。こっちのタブンネはフラウ。ダイゴがあなたを連れてきたのよ。……にしても最初は大怪我かと思ってたけどその色は生まれつきなのね、色違いなのかしら」
「……クッチ」
……そうだ、ダイゴさんは無事か? いや、話を聞く限り俺を抱えて家まで運んでくれたらしいから元気か。
(ともあれダイゴ少年が無事で良かった)
半ば身から出た錆とはいえ少しでも傷ついていたら申し訳が立たなかった。
思わず安堵の息を零すとミカゲがクスリと笑った。
「本当にいい子ね、それに優しい子。……うん、決めた。――ダイゴ! そんな所で聞き耳立ててないで入っておいで」
何かを決心した様子でミカゲは振り返り部屋の扉に向かって呼びかけた。
一拍置いて不安げにダイゴさんが入って来る。
改めて見るとやはり銀髪と言うより空色と言った方がしっくりくる髪色をしている。成長と共に銀髪になっていくのかね。
……そして冷静になった今、どこかダイゴさんに惹かれている自分がいる。これが恋かどうかはさておいて、理由は多分俺がはがね、フェアリーのクチートだからだ。
既に鋼タイプ使いとしての片鱗が芽生えているという事だろう。
「……その、体は大丈夫かい?」
頷く。
「助けてくれてありがとう、クチート。あの、これ食べる?」
そう言ってダイゴさんに差し出されたのはオボンの実。……これ俺があげた奴だ。食べずに取っておいてくれたのか。
少し嬉しくなり、俺は座っているベッドの隣を叩きダイゴさんに座るよう促す。
おずおずと俺の隣に座ったダイゴさんからオボンの実を受け取り、半分に割って片方を渡した。
「あら」
「……いいの?」
渡されたオボンの実に驚いたようにダイゴさんが俺の方を見る。
俺は頷きを返し、ダイゴさんの頭を撫でてみる。
「チッチ」
「うわっ! どうしたの急に!」
「あらあら、今日出会ったとは思えないくらい懐いてるわね。やっぱりその子ウチで保護しましょうよ」
「保護? それって母さんの手持ちになるって事?」
「それなんだけどね、――ダイゴ、ポケモントレーナーにならない?」
それから俺はツワブキ家に置いて貰える様になり、ダイゴさん――今更だけどまださん付けする歳じゃないか――はポケモントレーナーへ向けて勉強するようになった。
決め手は俺と一緒にチャンピオンになりたいからかと思えばそうではなく、ミカゲ母の「このクチート色違いだから野生に放しても迫害されるんじゃないかしら」という一言だった。
実際はあの森で結構上手くやっていて帰っても特に命の危険がある訳では無いのだが当初の目的の一つである強いトレーナーの手持ちになるという目標を達成したので訂正する必要は全く無い。
という訳で近い将来ダイゴの手持ちになる事が決定した俺はニート同然の暮らしを送っていた。
ミカゲのフラウと共に家事を手伝ったり、庭で身体が鈍らない程度に動いたりする以外はほとんどツワブキ家の書庫に篭もっていた。
未知の言語ではあったものの、文法などは日本語と一致すると分かったのでたまにダイゴに読み聞かせしてもらっている。
そこまでして何を知りたいかというと、メガシンカやわざマシンの有無を知りたかった。
メガシンカの起源は何か。正直XYのストーリー覚えてないから詳しい事は分からないが、とにかくカロス地方から広まったのは間違いない。
存在が発覚してメガストーンが各地で認識されるようになったのか、カロス地方からメガストーンが輸入されてきたのか、俺は間違いなく前者だと思う。
(これを見たら、なぁ?)
俺はダイゴから貰ったペンダントを掲げる。
薄紅色の球状の宝石で、内部に捻れた黒の模様に一部黄色が差してある不思議な石だった。
ダーテング「あいつ森出てったで」
コノハナ「うせやん」
ツワブキ・ミカゲ
・元ポケモンセンターのお姉さんでイッシュ地方で働いていた。
・デボンコーポレーションが他地方に企業を伸ばす際に社長であるツワブキ・ムクゲと知り合った。
・意気投合してからは早いものでポケモンセンターを辞めムクゲと結婚しホウエンへ。
・現在はダイゴの母兼ムクゲの秘書みたいな事をしており、多方面にその辣腕を振るっている。
オリキャラやね。ポケセンの詳しい事は捏造で書いていくしかないけど流石に野性のポケモンが死に掛けてたらトレーナー以外も利用しても良さそうとは思う。
今回はより信頼できる相手が身内にいたのでツワブキ家で処置。
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