幾つかの種明かしと、遥か過去を知る者のお話。
カツリ、カツリ、カツリ。
何処かの海上で、本来有り得ない音が辺りに木霊する。
音の正体は、私が足下の海面を凍らせて、あたかも海面の上を歩いてるかのように見せているが故の氷を踏みしめる音であった。
どれほど海を渡り歩いただろう。辺りに霧が立ち込め始めた時になって漸く、私は足を止めた。
両手を足下に向けて、局所的に海水を引かせ外から海水が流れ込むのを押し留める。
極一部とは言え大質量の水を操作し続けるのは途方も無い念動力が必要になるが、私は例外だ。これが海以外であればこうも行かないだろうけども。
目の前に深海へと続く穴が完成したのを確認して、その穴を下っていく。
海水を凍らせて階段を作っても良かったけれど、穴の維持に力を使いたかったから横着してそのまま飛び降りる。
下っていく途中に見えた様々なポケモン達の姿も、最深部まで来れば徐々に姿を減らしていく。如何なポケモン達でも、全員が全員深海に適応出来ている訳では無いのだ。
今回用があるのはその深海に適応したポケモンの一体な訳だけれども。
『……どうした、巫女よ』
目の前に一匹のジーランスが現れる。そのジーランスは他の個体とは異なり、水草の生えた岩を纏う特異な個体だった。このジーランスは歴史そのものと言っても過言ではない存在だ、それと同時にある封印を解く鍵でもある。
そのジーランスは人間が使うような言葉を用いて私に話しかけてきた。
「忠告と、確認に」
ジーランスに合わせて私も人間の言葉で返す、と言ってもテレパシーの応用ではあるが。……人間の言葉を覚えるのに私でもかなりの時間を要したのだが、このジーランスは一週間で言葉の意味から発音まで全て覚えたらしい。少々発音は古臭いが。
『こんな所まで降りてきて、巫女自ら忠告とはな。ワシは何もしていないぞ?』
「分かっています、まずは確認を。お触れの石室に辿り着いた人間はいますか?」
『いいや? 今まで辺りを見てきたが、人間がここまで来た試しは無い。ついこの前小島の横穴辺りまで泳いでいったが人間が来た痕跡も無かった。この地に三つの遺跡がある事自体知ってる人間はおらんのではないか?』
このジーランスのつい最近は信用ならないが、嘘を言っていないのは分かった。
それでは困る。力も無い、信念も無い人間があれらを手に入れるのは困るが、そもそもあれらの存在を知覚すらされないのはもっと困る。
俄かに焦りを浮かべる私を見てジーランスは訝しげに答える。
『まさかあれらを解き放つつもりでは無かろうな? あれらは昔ワシの友が封印した物だ、ワシとあのデカブツを鍵に周到なまでにこの地に封印したものぞ? 巫女よ、何を考えている』
「……あの二体の封印が解け掛かっています」
『――何?』
言葉足らずな私の言葉に、ジーランスは動きを止める。
大陸の化身と大海の化身。昔ホウエンでその二体が暴れていた事をジーランスは知っている、覚えている。
『奴らは、巫女達が封じた筈だろう』
「えぇ、彼らの半身はあの祠に閉じ込めました」
私とあと二体の巫女で荒れ狂う大陸の化身と大海の化身を鎮め、眠らせた。
力を奪い、拡散する特殊な洞窟に二体を閉じ込めようとしたのだが、彼らの力は眠りについて尚強すぎた。その洞窟では抑え切れない程に。
だから私達は、彼らの力を肉体と魂の二つに分け、魂の方を洞窟――目覚めの祠に封じ込めた。力の源である紅色の珠と藍色の珠すら引き離して、最悪の場合永遠に封じ込める心積もりで。
「ですが二人の人間によって一瞬ではありますが、封印が解け掛けた」
目覚めの祠とおくりび山、遠く離れた場所で同時に起きた騒動で珠と彼らの魂が共鳴した。直ぐに収まったとはいえ、あの様子では珠を目覚めの祠に持って行っただけで魂が復活し、己の身体へと帰還するだろう。
「断言しますが、最早彼らの復活は避けられないでしょう。五年後か、十年後かは分かりかねますが、しかし確実に目覚めの時が来る」
『……それまでにあれらを解き放ち、戦力として数えろと。そういう事だな? 話は理解したが……』
うぅむ、と唸るジーランスに一押しする。
「大丈夫です、海を渡っている時に彼女に良く似た気配を感じました。多分子供でしょうね、その子が人間に付いて行ってましたから一体はその人間が使いこなせるでしょう」
『となると鋼は問題ないか、良かろう。ワシの方でも期待が持てる人間を探しておく。何年後かに人間を連れてあれらの封印を解き放っておこう。……しかしあやつが子供とな、お前は子を成さぬのか』
「海を鎮めるこの役目は私しかこなせませんよ」
そういう事を言ってるんじゃないんだが……、と呟くジーランス。意図は理解している、母親にはならぬのかと、そういう事を言っているんだろう。
だが無理だ、私が平凡な幸せに身を寄せれば直ぐに調律は取れなくなってしまう。そうなった時に、愛を知ったから、子を成したから、親になったから、幸せになったからと後悔したくは無いのだ。だから私は奏者に、巫女に徹する事を選ぶ。
「それに、私と番になれそうなオスも見つかりませんし」
『はぁ……、そこまで言うのならもう何も言うまい。だがな、その左目を誰かに託す事すら考えられないのか?』
ジーランスの言葉に、思わず私は左目を押さえる。
普通の右目とは違った、虹色の左目。私に科せられた役目の象徴たる左目。私がこの姿でいられる、巫女と呼ばれる存在でいられる左目。
これを、誰かに託す?
「それこそ無理ですよ、この重さを誰かに背負わせる事なんて出来ません」
『……そう、か。分かった。しかし巫女よ、折角ここまで来たんだ。この深海に、巫女の音色を聞かせてやってくれんか?』
「勿論、そのつもりで来ましたから」
海に手を伸ばし、海水の形を整えて凍らせる。それは人間が使うような楽器で、横笛に近い形をしていた。
十分な仕上がりになった事を確認し、氷の笛に口を付ける。
深海に静かなる調べが響き渡る。その音色に釣られるように一匹、また一匹と観客が姿を現した。
その最前列で私の曲を聴くジーランスの、私を気遣うような視線を見て見ぬ振りをして。
……行ったか。
蒼髪黒衣のサーナイトは、あのどうしようもなく不器用な巫女は一曲披露した後海上へと戻っていった。散り散りに元の場所へ戻っていく深海の仲間達には目もくれず、ワシはあの巫女の事を考えていた。
あの巫女に限った話ではないが、あの虹色の左目は絶えず途方も無い力を循環させ、巫女に強大な力と途方も無い時間を与える。
どう見ても正常な力の流れではない、今すぐにでもあの左目を刳り貫くべきだと始めて会った時は思ったが、巫女は大切な物を抱えるように離さないものだからそのうち説得を諦めた。
……いや、あの子にとっては大切な形見そのものなのだろうな。
ワシは遠い昔に生まれ、ある人間と共に暮らしていた。
豊かな大地と穏やかな海の狭間で暮らすその男は、自らを渚の民と呼んでいた。モンスターボールなんてけったいな物が無くてもワシと男は友でいられた。
渚の民の村は少ない人口ながらも発展した暮らしをしていた。それはワシの友が三体のポケモンの主であったから。
鋼の巨人、岩の巨人、氷の巨人の三体を持つワシの友は渚の村で皆に慕われていた。
良い労働力として使われていた、と言ってもいいだろうに友は巨人達を村の皆の為に使っていた。
どんどんと村は発展し、何時しか街へと渚の民は育っていった。誰からも慕われ、誰からも愛され、誰からも敬われる。そんな存在にワシの友がなっていった事が自分の事の様に嬉しかった。
それはワシよりも後に仲間になったあのデカブツとて変わらない筈だ。巨人どもは感情を持っていないから知らんが。
友の子供もまたワシの友足り得る存在となり、巨人達やデカブツも何代にも渡って友の子孫の力になってきた。
何にせよ渚の民の街は順風満帆だった。……それがいけなかったのだろうか。誰かの癪に障ったのであろうか。
眠りについていた大陸の化身と大海の化身が蘇った。それらは怨敵を目の前にしたかのように争い始め、世界を塗り替え続けた。
渚の民の街も被害を受け、干天と嵐天が交互にやってくる大災害に民は次第に疲弊して行った。それ故に、民がワシの友に頼るのは当然の事だったのだろう。
お願いします街長さま。
私たちを助けて下さい。
この街を救って下さい。
街長さまならあの天災を止められる筈でしょう。
巨人たちならあの天災を止められる筈でしょう。
どうか力の無い私達を守って下さい。
お願いします。
お願いします。
民の願いを、祈りを、呪いを、友は無視する事が出来なかった。その重荷を放り投げるには、今代の友は若すぎたが故に。
故に友は三体の巨人を全て使い大陸と大海の化身共を止める事にした。
日々の力仕事では決して発揮される事の無かった巨人の強大な力が発揮され、化身の被害を抑える事には成功したが、それでも決して勝つ事は出来なかった。
ワシも、あのデカブツも一緒に戦ったがどうしても勝ちには届かない。逃れようの無い敗北が脳裏を過ぎった時、巫女達は現れた。
蒼い輝きは大海の化身を抑え、紅い輝きは大陸の化身を鎮め、金色の輝きは天空の龍神を連れて化身達を打ち倒した。
民が巫女だ何だと騒ぎ立てる中、ワシの友だけは巨人達の危険性に気付いていた。
巨人達はポケモンではあるが、同時に意思無き兵器だ。仮に己の死後巨人達が悪用でもされれば死んでも死に切れないと判断した友は巨人達を封印する事にした。
石室には友の悔恨と希望が刻まれ、封印の鍵はワシとデカブツに託された。遠い未来、勇気ある者が、希望に満ちた者が、永遠の巨人達を従える事を信じて。
それから何百年、もしかしたら千年という途方も無い時が経った。
陸の巫女と空の巫女にはあの時以来会えず終いだったが、海の巫女とはその後も交流を続けていた。
色々な話をしてくれたよ。巫女達もかつては人間と共に暮らし、心を通わせていたのだと。その話をした時に左目に手を添えていたのを覚えている。
きっとあの左目は、その人間との絆を繋ぐ宝物だったのだろう。だから容易に手放す事が出来ずにいる。
だが、縁も時には呪いとなる。仲間に頼る事も出来なくなる程に雁字搦めに縛られてしまったあの子を見て悲しみを覚えるようになったのは何時からだろう。
『……ワシには分からんよ、そんな使命なんて背負った事も無いからな。だが、ワシの友の様にどうすればいいのか分からなくなっているのだろうとは思う』
ゆったりと泳ぎながらワシはある場所へと向かう。そういえばこの言葉も、友に習って覚えたのだったか。
あぁ、懐かしい。最早何もかも、思い起こされるべき過去の産物だ。
『だがお前達はそうあろうとはしないのだな』
辿り着いた場所は深海の中でも一際穏やかな場所。
深海の砂漠とでも形容すべきそこの中心に、それはいた。
酷く巨大な蒼い身体に大きな手の様なヒレを持つクジラの様なフォルム。何処となくあのデカブツを彷彿とさせるが、あれよりも格段に生物としての格が違う。
決して覚めぬ筈の眠りにつきながら海の王と呼ばれても納得してしまう威圧感を持つポケモン。
――カイオーガ。
巫女の仕事は二つある。
一つはグラードン、カイオーガ、そしてレックウザと呼ばれる伝説のポケモンを決して目覚めさせぬ様にする事。
もう一つはもしその伝説のポケモンが目覚めてしまった場合決死の覚悟で再び災厄を齎さぬ様にする事。
『巫女が使命を果たす日が近付いてきた。ワシにとっては十年なんかあっと言う間だ。お前達にとってもそうだろう』
させるものか。
『今更しゃしゃり出て、何もかも壊すなどワシが許さぬ。強き者達を集めて過去の産物として叩き返してくれるわ』
眠っている奴相手に啖呵を切るなど阿呆らしいと自分でも思うが、こいつらが再び暴れるとなれば怒りも湧き上がろうものだった。
この海底砂漠にはワシ以外のポケモンは決して近付かない。魂を抜かれた抜け殻として眠っていて尚、恐れを抱かせるオーラを周囲に放っているからだ。
だが魂が戻れば、目覚めた瞬間にここは荒れ果てるであろうな。他のポケモン達も何匹死ぬか……。
さて、あのデカブツや、他の海域の主にも話を通しておくか。強い力を持つ人間を探せ、とな。
何年かのタイムリミットまでに準備を整えるべく、ワシは海底砂漠を後にした。
後には、ごぽり、と穏やかな呼吸を行い続ける大海の化身だけが眠っていた。
目覚めの祠は強大な力を封印する為の場所でしたが、封印出来るのは一匹分だけ。二匹も入れる余裕はありませんでした。
そこで三匹の巫女は、大陸の化身と大海の化身の魂だけを同時に目覚めの祠に封じ込める事にしました。
肉体と魂は半身とも呼べる大切なもの、それなら二つ入れても一匹分にしかならなかったのですから。
全ての力を失った二匹の肉体はそれぞれ、火山と深海の奥深くで深い眠りにつく事になりました。めでたし、めでたし。
――とある巫女の語り継ぐ詩より。
……はい、この世界でのグラカイの封印方法、ゲームの物とはまるで違います。珠が必要な所は変わりませんが、復活場所が目覚めの祠じゃなくなってます。
これの何がやばいかと言うと、カイオーガはともかくグラードンのスタート地点が最悪な場所になります。グラードンの身体を眠らせれるような火山、何処にあると思いますか?
【種族】ジーランス
【性格】おだやか
【特性】れきしたいせき
【レベル】80
【持ち物】なし
【技】
・ハイドロポンプ
・もろはのずつき
・みがわり
・じしん
「れきしたいせき」
・天候が晴れの場合、自身の攻撃と防御が三段階上昇する。天候が雨の場合、自身の特攻と特防が三段階上昇する。
・特性ノーてんき、またはエアロックの効果適用中自身の素早さが六段階上昇する。天候の変化或いは特性の無効化で、上昇した能力値は元に戻る。
・自身の技でHPが減少しない(反動、コスト含む)
・接触技を受けた時、被ダメージが二分の一に減少する。
異常個体:“歴史顕現”
・最初にその存在が確認されたのは134番水道。
・通常のジーランスに比べ分厚い岩の鎧を纏った個体であり、決まった縄張りを持っていない。
・ポケモンリーグ所属者がキナギタウンへ向かった際に遭遇。ジーランスは所属者を一瞥し興味を失ったように深海へと潜った。
・回遊性のポケモンであるのか、それからジーランスの目撃情報が増え、再び所属者と遭遇を果たす。
・バトルを行っている最中にエスパーポケモンの力を借りてジーランスの甲殻を調査、最低でも1000年は生きている事が判明した。
・くれぐれもジーランスを怒らせるような事はしない様に、あのジーランスは何かを探しているように見える。それを邪魔した挙句体表に付いている宝石に目を晦ませた阿呆の様に厳罰処分は受けたくは無いでしょう。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは敵意を持っての接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。
こちら、鶴鵠様考案の異常個体となります。
ジーランスは絶対出したかったので渡りに船でしたね。ちなみに、ジーランスが度々言ってるデカブツも異常個体です。
【種族】サーナイト(■■■■■■■)
【性格】おっとり
【特性】みなものそうしゃ
【レベル】90
【持ち物】なし(■■■■■■■■・■■■■■■)
【技】
・ムーンフォース
・めいそう
・てだすけ
・いやしのはどう
・しんかいのしらべ
異常個体:“蒼海巫女”
・NO DATA
感想くれたらとても嬉しい。