血染めの鋼姫   作:サンドピット

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メリークリスマス!(遅い)
前回に引き続き日常回です。誰が何と言おうと日常回です。


車酔いと船酔いはレベルが段違い。

 何か見ない間にダイゴとシラナミが凄い意気投合していた。

 

「シラナミさんのサーフィンとても格好良かったですよ、あんなに派手に飛べるものなんですね!」

 

「ハハハ、ありゃスターミートルネードって技だ。俺の相棒の助けがあって初めて飛べる技だが、一緒に波に乗ってる感じがして好きなのさ」

 

 何だそれ、ちょっと見てみたかったな。やっぱり一緒に付いて行くべきだったか、なんて考えながら寝転がっていたコドラの背中から起き上がる。

 

「さて、改めてムロジム突破おめでとう。楽勝とは行かなかったんだって? トウキの奴ちょいと大人げ無い所あるからなぁ」

 

「ありがとうございます、と言うか知り合いなんですか?」

 

「あぁ、俺もムロタウン出身だからな。まぁ悪友みたいなもんさ」

 

 なんと。妙に体格ががっしりしてるなと思ったらムロタウン出身だったのか。

 サーフィン以外の用事というのも実家帰りとかだったのかもしれない。

 

「しかし、ダイゴのポケモン達……何つーか、妙に偏ってないか?」

 

「皆偶然仲間になってくれたポケモン達なので偏らせるつもりでは無かったんですけどね。……そういえば自分から捕まえに行った事は無かったな」

 

 俺も、フォートも、コドラも、エアームドも、まぁ明け透けに言ってしまえばドラマチックな出会いでダイゴの仲間になった。勿論その後も皆に慕われているのは偏にダイゴの人柄の良さ故ではある訳だが。

 そしてシラナミが言うように俺達は全員はがねタイプであり、いわタイプやじめんタイプのポケモンはいなかった。コドラはいわ複合だけども。

 

 以前ダイゴと一緒に現在発見されているポケモンの図鑑(冊子タイプだ、機械タイプはまだ開発中らしい)を眺めている時、ダイゴが「いわやじめんにはあまり惹かれないかな」と言っていたのを思い出す。

 完全にダイゴは鋼統一に舵を切ってしまっていた。一体何が原因だというのか。

 

 と、ここまでタイプの偏りにマイナスイメージを持たせる様な言い方をしてしまったが別にこの世界に限って言えば別に悪い事ではない。

 寧ろタイプが偏るのが普通なのだ。虫取り少年がむしタイプのポケモンを集めるように、格闘家がかくとうタイプのポケモンを集めるように、ジムリーダーが、四天王が自分の得意タイプのポケモンを集めるように。自身の最も得意とするタイプのポケモンでパーティを揃えた方が楽なのだ。

 

 そもそもからして様々なタイプを育てられる主人公やチャンピオンがぶっ壊れの才能マンだらけなのだ。

 

(まぁそれほどの才能でも無ければ主人公やチャンピオンなどやってられないんだろうけどな)

 

 つまりだ。ダイゴの様々なタイプを育てられる才能をはがねタイプに集約したのなら、一点特化という面では原作のダイゴを大きく上回る長所となり得るのだという話だ。

 タイプの一貫性は出来てしまうが、そこは俺達がサポートしてやればいい。俺のやりたい事は生まれてからずっと変わらない、ダイゴの力になりたいだけだ。

 

「んじゃまぁ、ここでやり残した事が無いんなら船に乗るか?」

 

「そうですね、皆もそれでいいかい?」

 

「クゥッチ」

 

 了承を返し、コドラの背から降りる。帰りくらいは、ダイゴと一緒に海でも眺めていよう。

 

 

 

 

 

 ホウエン本土とムロタウンを繋ぐ回遊船に揺られながらダイゴと一緒に海を眺める事暫し。

 滅多に船に乗る事は無かろうが、自分が船酔いしない性質で本当に良かったと心から思う。

 

 ちなみにこの世界で船ってどうなのと聞かれれば、普通に造船技術が発展してるくらいには便利な交通手段である。

 カントーの著名な造船技術者によって野生のポケモンに船を襲わせない技術が広まってからは船の開発が大いに進んだという。

 

 まぁその技術も有効なのは普通のポケモン相手であって普通じゃない奴は余裕で船襲うけどな。具体的には異常個体兼フィールドの主。

 

「しかし、あっと言う間だったな」

 

「クチー」

 

 ジム戦が速攻で終わったのもあるが、ダイゴが珍しく石探しに繰り出さなかったのが大きいだろう。

 お眼鏡に適わなかったか、単純に忘れてたか……。どちらにせよ趣味に費やす時間が少なかった為にシラナミと同じタイミングで船に乗り込む事が出来た。

 

「ん、あれ? 遠くのあれホエルオーじゃないか?」

 

 ダイゴの言葉に顔を上げ、海の先を見つめる。水平線の向こうには水色の巨大なポケモンの姿。かなりでかいがホエルオーに違いあるまい。

 ……いやでかいな? 結構遠いので目測では正確には分からないが、それでも全長16mはある気がする。背中で思いっきりポケモンバトルが出来るくらいには広い。

 

 正直ゲームの知識が当てにならないと分かった時点で図鑑の説明にも疑心暗鬼だったのだが、ホエルオーに関しては脚色の無い情報だったようだ。

 

(……あ、潜った)

 

 海の中に消えるホエルオーを見送りつつ、手すりから降りる。

 潮風に晒され俺の紅い大顎が何となくごわごわしてきた気がする。そんな直ぐに錆びはしないがあまり気の良いものでは無いわな。

 

「ん、じゃあ中に戻ろうか。ちょっと肌寒くなってきた」

 

「クゥ、――ット?」

 

 ――。

 

 何か聞こえる。

 

 水平線の向こうから微かに聞こえる音、深海を思わせる軽やかで深い調べ。

 

 歌じゃない、この世界で初めて聞いた演奏だ。

 

 何処か懐かしさを覚えるその音に、かつて流星の滝で聞いた歌と同じく心の内から郷愁の念が溢れ出る。

 

 この曲も、何処かで――

 

「――シルキー?」

 

 ダイゴの声で俺の意識は現実へと帰還する。

 未だに夢うつつな頭を振ってダイゴに付いて行く。フォート辺りは連日の船旅で飽きてるだろうし部屋に戻って構ってやろう。

 

 微かに聞こえていた笛の音はもう聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 船から下りた時の地に足が着いていないような不快感は当分慣れる事は無いだろう。

 トウカの森とトウカシティの合間にある104番道路の船着場、そこから降りた俺達は少々グロッキーであった。船酔いしないとはいえ慣れない渡航を往復したのだから体力の消耗も已む無しである。

 

「んじゃま、ここいらで分かれるとするか」

 

 港に全員降りて一段落着いた時、シラナミがそう言った。

 

「え、てっきり一緒にトウカシティに行くとばかり……」

 

「言ったろ? 短い旅路だが宜しくってな。今までバックレてたんだがちょいと知り合いの団体から召集が掛かってな、ムロタウンに行ってたのもそれ関係だ」

 

 だからダイゴに同行は出来んな、すまん。そう言ってシラナミはわしゃわしゃとダイゴの頭を撫でた。

 何の団体なんだろう、サーフィン同好会とか?

 

「まぁ、なんだ。ダイゴがポケモントレーナーとしてホウエン中を旅するんなら、そのうち会う事もあるだろうさ。それが五年後か十年後かは分かんねぇけど。――負けんなよ! 未来のチャンピオン!」

 

 別れと再会を告げる言葉と共に、シラナミは去っていった。

 正直人柄を見るには短い時間ではあったが、それでも気持ちの良い男だった。ダイゴも懐いてたし。

 少なくとも悪い人じゃ無さそうだ。旅を続ければまた会えるだろうな。

 

 仮の再会時期が妙にアバウトなのは気になるが、シラナミも特に理由あっての会話では無いだろう。

 

「クゥ」

 

 とりあえず地味にショックを受けてるダイゴを立たせてトウカシティへと向かう。

 トウカシティのジムリーダーは原作主人公の父親でもあるセンリだが、それは原作主人公がホウエンに引っ越してからの話。

 

 もしかすると今はセンリがジムリーダーじゃ無いかもしれないな。だからと言って油断する要因とはなり得ないが。

 

(とはいえ、相手がノーマルタイプなら相性とか考えずに単純な殴り合いになるだろうからその点では心配はしてないけども)

 

 こちとら旅の途中で休憩がてら特訓してレベル上げをしている。そこらのポケモンを殴り倒すよりかは経験値効率は良いと自負しているぞ。

 ……しまった、次のジム戦でコドラを出す約束を取り付けるの忘れてた。トウカシティに着いたら言っておかないと三日は不貞腐れる事請け合いだろう。

 

(俺は別にいいけどそれでダイゴの指示聞かなくなっても困るからなぁ……)

 

 不貞寝したまま動かないコドラの機嫌をダイゴと二人で一緒に取る絵面を想像する。

 一瞬それでも良いかと思ってしまったが、あまりにコドラが可哀想だ。

 

 このまま行けばトウカシティに着くのは夜になるだろうし、ジムに挑むのは明日からだな。

 

 

 

 

 

 ホウエンの中心で、轟々と砂嵐が吹き荒れる大砂漠。

 そこで一匹の大鰐と暴竜は三日三晩に渡る死闘を続けていた。

 

 戦闘経験は暴竜が、狡猾さは大鰐が勝っている。

 暴竜に理性は無く、大鰐の配下は悉く喰い尽くされた。

 

 徐々に自身の身体が削り落とされていく様な闘争の末、生存本能からか暴竜が逃げ出した事で砂漠の争いは集結した。

 

 大鰐――黒曜の主、ワルビアルは是が非でもここで暴竜を殺すつもりだったが、ワルビアルも深い傷を負ってしまい暫く回復に専念しなければならなくなった。

 惜しむらくはこの砂漠で暴虐の主を逃してしまった事。状況はどうあれ「逃げ出した」以上もう自分と相対する事は無いだろう。災害の芽を摘む事が出来なかったのは業腹だが、やり直す事は不可能だった。

 

 ――そして、暴虐の主は。

 

……ザザザザザ

 

 軋んだような三つの鳴き声で不協和音を奏でながら、砂漠の洞穴の中で身体を休めていた。

 もしその鳴き声を意味ある形として聞き取れていたなら、背筋が粟立つほどのおぞましい怨嗟を感じ取れた事だろう。

 

 ――あぁ忌々しい。あの滝を、あの渓谷をただ追われただけであればどれ程良かっただろう。

 ――我ら竜が秩序の下に生きるなど反吐が出る。弱肉強食が世の常である事など、誰に言われるでもなく分かりきっている筈だ。我々竜は尚の事。

 ――……だが、だがあの滝の竜は全て吐き気のする平和とやらに傅いた。全て、あいつのせいだ。あの、竜の身体を持ちながら精霊の力を宿す、あの巫女がァ!!

 

 流星の滝に続いて大砂漠でワルビアルによって付けられた傷跡が、己の理性を一欠けらながらも取り戻す切っ掛けとなった。

 その結果得たのは現状への更なる怒りというどうしようもない物ではあったが。それでも暴虐の主は思考を続ける。

 

 ――腑抜けた竜など竜に非ず。あの巫女に致命傷を負わされた後は、理性無き身で傷を癒す為に流星の滝の腑抜けた同胞を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。山の麓の岩窟に住まう鋼の怪獣共を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。荒地を根城とする鎧を纏う鳥共を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。大砂漠に辿り着き群れを成していた大地を泳ぐ鮫竜を喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。無駄に数の多い砂鰐の群れを喰い尽くした。傷を癒すには足りなかった。

 

 足りない物を補うように、失った物を求めるように、何もかもを喰らって満たされぬ欲望を満たそうとしている内に、――あのワルビアルと出会った。

 結果は今更詳しく語る必要も無い。暴虐の主は巫女に付けられた傷跡をなぞるように再び致命傷を負った。

 

 それで、振り出しに戻ったのか? いいや、まさか。

 

 喰らった血肉は今尚己の身体を廻っている。力を取り戻す日は直ぐそこだ。

 だが、それでは駄目なのだ。あの巫女の強さの源を知らねば待っているのは同じ事の繰り返しだ。

 

 あの巫女が他の個体と違う点は色と姿形、そしてタイプと虹の左目だ。

 最初の相違点はともかく、後の三つは互いに関係している筈だ。恐らくそれの中枢を担うのがあの虹の左目の筈。

 

 では次の疑問。あの左目は何だ? あの虹の瞳から漂う匂いは嗅いだ事がある。人間とポケモンが共鳴する時に発する絆の匂いだ。だがあの巫女にトレーナーはいない筈。……一旦置いておこう、あの左目さえなければどうとでもなるという仮定が立っただけで十分だ。

 

 で、あるならばどうするか。こちらもトレーナーの力を借りて同じ力を手にするか?

 

 ――脳裏を過ぎった選択肢に理性が消え去るほどの怒りを覚える。

 ――先程も言った筈だ。腑抜けた竜など竜に非ず。奴等の様に牙の折れた蜥蜴へと成り下がるつもりは毛頭無い。だが、ではどうすればいい?

 

 ……。

 ……あぁ、そうか。

 ……簡単な事だ。ずっとそうしてきたじゃないか。

 

 あの巫女の、虹の左目と同じ力を持つポケモンを捕食すればいい。

 

 幸い、この身は喰えば喰うだけ力を増す。同じ力を手に入れれば、同じステージに立つ事も可能になるだろう。

 

ザザザザザザザザザザザ

 

 単純な答えを見つけた悦びに、思わず牙を剥き出しにして嗤う。

 あぁ、あぁ。こうなれば簡単だ、ずっと己がしてきた事を続ければいい。余計な事に頭を使わなくとも良かった。それが分かっただけで久しく気分が高揚する。

 

 だから。

 

「――目標発見。全身に走る裂傷は未だ癒えておらず、通常固体と比べ遥かに発達した肉体。間違いありません、サザンドラの異常個体です」

 

ザララララ……

 

 お前の様な弱者でも余さず喰ってやる。己の糧と成り果てろ。

 

「……えぇ、討伐指定個体に繰り上げを要請します。チャンピオン辺りに直談判して、……はい? えぇ、私はこれからの話をしてるんです。私は死ぬでしょう、分かってて近付いたんですけどね。じゃ、後はよろしくお願いしますよ、――部長」

 

 さぁ、己の歩む道を阻む全てを喰らい尽くそう。

 己の牙が、いつか巫女の喉笛を捉えるその日まで。

 

 




暴虐の主、サザンドラは流星の滝から砂漠へと移り住んできました。今の所、作中で最も獣らしく最も碌でもない異常個体ですね。

【種族】サザンドラ
【性格】きまぐれ
【特性】みつくびおろち
【レベル】80
【持ち物】なし

【技】
・りゅうのはどう
・かえんほうしゃ
・バークアウト
・ラスターカノン
・りゅうせいぐん

「みつくびおろち」
・一ターンで一つの技を三回使用できる。追加効果の判定も三回連続で行う。
・攻撃技を連続して使用する度に技の威力が上昇する。(一回目1.0倍、二回目1.1倍、三回目1.2倍)
・―――――
・―――――

異常個体:“天喰暴竜”
・最初にその存在が確認されたのは石の洞窟。
・当個体が洞窟を出た後、最奥部でボスゴドラ12匹、コドラ20匹余り、他大量のココドラが喰い尽くされている事が発覚した。
・その後113番道路にて濃密な血の匂いがすると通報を受け調査に向かった所、40匹以上のエアームドが喰い殺されていた。
・暫く位置情報が途絶えるも、111番道路の砂漠にて深手を負ったフカマル、ガバイトが人間に目もくれず何処かへと逃げたという情報がポケモンリーグへと届いた。
・リーグ所属者が調査に乗り出した所ガブリアスの群れの幾つかが全滅、少なくとも30を超える数が当個体の餌となっていた。ここで切り上げさせていれば
・その後“黒曜当主”との長期に渡る縄張り争いが発生し、当個体は逃走。逃走場所にリーグ所属者が向かい戦闘を開始する。一時間後、リーグ所属者の通信が途絶えた。すまなかった
・人間への被害、生態系の大きな乱れの原因になり得るという観点から当個体を討伐指定個体へと認定する。四天王、チャンピオンへは別途資料を配布します。
・ジムリーダー、ジムトレーナー、及び全てのポケモントレーナー、ポケモンレンジャーは如何なる理由があろうとも接触を控えたし。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。

現在開示出来る情報はリーグ所属者兼異常個体観測部門に属する女性が戦闘中に調べ上げ、情報を送っていました。
使える技が五つある事も、三連続で攻撃出来る事も、技を撃つ度威力が上がる事も。
それでもまだ足りなかった。

(実は当初の予定ではこのサザンドラにスケイルショット覚えさせようとしてたとは口が裂けても言えない)

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