血染めの鋼姫   作:サンドピット

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少しずつエンジンを掛けていく。


禍福は絡み合う蟒蛇の如し。

 ヒワマキシティ、他の街と比べ自然と一体化した街となっており、ある種カナズミシティやキンセツシティとは対極に位置する街である。

 

 ではそこまで栄えていないのかと言われればそういう訳でもない。

 自然と一体化した街である以上、住民の持つポケモンもひこうタイプやくさタイプなどが主流となっており、ポケモンの力を借りて街を豊かにしているのだ。地味にきのみや野菜などの生産量はトップクラスだったりする。

 

 加えて秘密基地に関する物品を取り扱っているのも特色の一つと言えるだろう。

 ホウエンのトレーナーにとっての必需品、第二の我が家と言ってもいい秘密基地はポケモンと共に旅を続ける者に人気だ。

 

 安全地帯を自由に作り出すに等しい秘密基地だが、ダイゴは特に興味が無いらしいから今回はスルーするが。

 

 キンセツシティでの一件もありダイゴはジム戦に注力している。趣味の珍しい石集めもジム戦後に回す予定であるらしい。そしてそのダイゴよりも更に張り切っているのがコドラだ。

 トウカシティではちゃんと活躍していたのだが、まぁ進化が間近な事もありもっと活躍したいのだろうな。幸いにして相性有利のジム戦だ、出番は多くなるだろう。

 

 さて、そんなこんなで速攻ジムに行くつもりだったのだが、少しだけ休憩してから挑む事になった。

 純粋にダイゴの疲労が蓄積してきたのと情報収集を行う為だ。

 

(最近忘れがちだけどダイゴもまだ子供なんだよな。むしろ短期間でここまで進めただけでも凄いよなぁ)

 

「トレーナーさん、ジム戦前にうちのきのみはどうだい?」

 

「あー、じゃあおすすめの物を頂けますか?」

 

 観光も兼ねてヒワマキシティ内を練り歩いているとダイゴが果物売りに話しかけられた。

 無難にモモンの実を購入し俺と一緒に分けて食う事にした。

 

「しかしトレーナーさんも間が悪かったねぇ。今うちのジムリーダーがポケモンリーグに呼ばれて招集が掛かっててね、ジムにはいないんだよ」

 

 何と。

 

「え、じゃあ今はジムに挑めないんですか?」

 

「いや、ジムトレーナーの一人がジムリーダーの代理をやってた筈だよ。代理ジムリーダーを倒せば普通にジムバッジは貰えるね」

 

 間が悪かったけど運が良かったね、と笑う店主に相槌を打ってダイゴと俺はその場を後にした。

 

「どうしよう、ジムリーダーが帰ってくるまで待つか?」

 

「クッチチ」

 

 何時帰ってくるかも分からんしそのままジム突破していいんじゃないかね。

 あんまりのんびりしてるとミクリから恨み言吐かれかねないぞ。

 

「っはは、そうだった。まだミクリとの戦いが残ってるもんな、じゃあヒワマキシティは手早く終わらせよう」

 

 こりゃ俺やフォートの出番は無いかもしれんな。まぁ別にいいんだけど。

 

 そう思いながら俺はモモンの実を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 青果店の店員が言っていた通りヒワマキジムのジムリーダーはジムトレーナーの一人が代理として務めていた。

 

 先発として出たエアームドで敵陣を掻き乱し、後続のコドラが相手の手持ち全員をボコボコにして勝利を収めた。

 物凄く雑になってしまったが相手は苦笑するだけでジムバッジをダイゴに渡した。

 

 聞けばジムリーダーがいない今日を狙ってジム戦を挑みに来たトレーナーが数人おり、彼らにも同様にボコボコにされたので仕方ない事だと諦めたらしい。可哀そうに。

 

「草の根掻き分けての探し物は私達ひこうタイプ使いの得手とする所なんだけど、今回の仕事はジムリーダーでも難航してるらしくてね。あの人が帰ってくるまではずっと代理だよ」

 

 帰ってくるまでに幾つジムバッジ渡す事になるかな……、と遠い目をするジムトレーナーにダイゴは「頑張ってください」としか言えなかった。

 

「ところでその仕事って何ですか?」

 

「んー、一応緘口令掛かってるから教える事は出来ないかな。ただ、もし君がここからトクサネシティへ向かうのならすぐにでも通り抜ける事をお勧めするよ、野生のポケモンを捕まえるなんて寄り道はせずにね」

 

「それはつまり……、いえ、ありがとうございました。僕達はすぐにトクサネシティに向かいます、ジムリーダーの仕事頑張って下さいね」

 

「あぁ、うん。頑張る……」

 

 何か危険な物を探していると暗に伝えてくれたジムトレーナーに感謝したダイゴは、手を振るジムトレーナーに応えてヒワマキジムを後にした。

 

 さてさて、色々な物が繋がってきたな。

 ヒワマキシティのジムリーダーが駆り出されている依頼内容は十中八九異常個体、もしくはそれに準ずる個体の鎮静化。ただまぁジムリーダーが動かされる案件である以上対象は異常個体と断定していいだろう。

 その異常個体はヒワマキシティに来る前にダイゴと戦ったトレーナーが言っていたものと同一個体である可能性が高い。出回っている情報や目撃場所を考慮しても無関係とは思いづらい。

 

(しかし問題はポケモンリーグのサイトにある異常個体のうちどれがそれに当たるのかが分からん事な訳だが)

 

 大まかな予想は出来るが候補が多すぎる。

 そもそもからして異常個体の大半はそのエリアの主な訳で、ここ周辺の主なエリアにも当然異常個体が複数存在する。力量は大体トウカの森のダーテング達と大差ないレベルではあるが。

 

 問題は主な縄張りを持たない異常個体達だ。

 海に生息するみずタイプのポケモン、空を飛ぶひこうタイプのポケモン、これらの異常個体は決まった場所から大いに離れる個体ばかりである。

 

 ひこうタイプを例に挙げれば、喉元から多種多様なきのみを実らせ戦闘時にはオボンの実やラムの実を食いまくる“空挺菜園”と呼ばれるトロピウスであったりとか。

 (恐らく)ピントレンズらしき人工物を片眼鏡の様に装備し、てんのめぐみときょううん、そして本来持ち得る筈の無いクリアボディの特性を併せ持つとされる“天運白姫”と呼ばれるトゲキッスであったりとか。

 

 そんなまかり間違っても遭遇したくないような奴が、結構頻繁にホウエン中を飛び回っている。これもほんの一例でしかないのだから、目的の異常個体を特定するなど不可能である。

 

(結局は相手が何であれ遭遇しないように祈るのが最適解になるんだよな)

 

「チィ」

 

 溜息を零しながらも結論を出した俺が何か言うまでもなく、ダイゴは今日中に進める所まで進む事を決めた。

 体力回復の為ポケモンセンターの庭で寛いでいた俺とフォート、あとコドラとエアームドをボールに回収してヒワマキシティを出る事にした。

 

 

 

 

 

 ここからトクサネシティに行くには巡回船のあるミナモシティを通る必要がある。

 ヒワマキシティから東に抜け、120番道路と121番道路を通ればミナモシティに辿り着くのだが、この120番道路が尋常でなく広い。

 

 面積的にはフエンタウン近郊の大砂漠の約半分程なのだが、背の高い木や小山などが点在し視界、踏破性共に劣悪である。

 一応主な往来はポケモンの力によりゴリ押しで整備されているのだが、周辺に生えている木が広葉樹ばかりなせいで一度道を外れれば複雑に絡み合った根っこで足を取られまくる事請け合いである。

 多分ここが一番俺の知識から乖離しているフィールドではなかろうか。

 

(まぁ、こうなってる理由に心当たりはあるが……)

 

 120番道路には古代塚と呼ばれる遺跡が存在する。大砂漠における砂漠遺跡と同列の物であり、そこにはレジスチルが存在する。

 正直に言ってしまえばレジスチルだけはダイゴの手に渡したい。はがねタイプであれば、準伝説という括りのポケモンであっても使いこなせるのではないかと思っている。

 

(まぁ肝心のお触れの石室の封印が解かれてないんですけどね)

 

 こればっかりは仕方が無い。まだ人間に見つかってない遺跡達だが、砂漠遺跡が異常個体のイワパレスのがんせきほうでびくともしなかった点を鑑みるにポケモンによる強引な遺跡荒らしは不可能だろうし。

 

 ……。

 

(静かだな。ポケモントレーナーが誰もいない)

 

 今までの道路では勝負を仕掛けてくるポケモントレーナーが多かれ少なかれいたのだが、120番道路では一人も見かけない。

 

「――あれ?」

 

 ダイゴが困惑の声を零す。モンスターボールの中からだと少しばかり見えにくいが、どうやら道が二手に分かれているようだ。

 片方は今まで通ってきた道路として整備されている道。もう片方は視界の確保すら難しい森の中へと続く獣道。

 

 本来なら気にも留めないような岐路に、ダイゴは足を止めて獣道の先を見詰めていた。

 

「僕を、呼んでる?」

 

 ふらり、と。

 ダイゴが獣道の方へ足を進めた。

 

 不思議な事に、整備されていない筈の道はダイゴの足を取る事は無かった。まるで小石や木の根がダイゴに道を譲っているかのように。

 そうして暫く進んで、ダイゴの言っていた「自分を呼ぶ声」というものが俺にも聞こえてきた。

 

 ――鋼の導き手よ。

 

 ――封じられた私の元へ。

 

 歌とも音色ともつかぬそれはダイゴを呼び続け、ダイゴもまた声のする方向へ進む。

 やがて獣道から開けた場所に出た。

 

 木漏れ日が差し込む空間に、巨大な一枚岩で出来た遺跡。そしてそれを囲うように六つの石塔が静かに鎮座していた。

 静謐を湛えるその場所にあるそれを、俺だけが知っていた。

 

「……これ、砂漠にあった物と同じ……?」

 

(――古代塚だ)

 

 ダイゴが言ったように、砂漠遺跡の物と同じくたった一体のポケモンを封印するために作られた遺跡だ。

 しかし、砂漠遺跡の時とは何かが違う。あの時は自力で見つけたが、今回はそもそもダイゴも120番道路を探索するつもりすら無かった中でこの場所まで招かれたのだ。

 

 他ならぬこの古代塚そのものに。

 

 ――資格を有する者よ。

 

 ――この封を解き放て。

 

 男とも女ともとれるその声が頭に優しく響く。

 何が起こっている? 俺の知識が全然役に立たない事は今更だが、これは想定を超えている。

 深海のあの封印が解けない限り三つの遺跡に関するイベントは無かった筈だ。……一体、何が。

 

「……僕は何をすればいい」

 

 ――歴史と大洋に力を示せ。

 

 ――石室を目指し封印を塗り替えよ。

 

「……何を言っているのかさっぱりだ。とりあえず覚えておくよ」

 

 ダイゴが頭に手を当てて答える。

 俺も正直分からなかった。向こうから交渉してくるとは思わなかったが、石室で封印を塗り替えろというのはお触れの石室に行って遺跡を活性化させる事を指すのだろう。

 

 では歴史と大洋に力を示せとは? 最初はグラードンとカイオーガの事かと思ったが、カイオーガを大洋と言うのであればグラードンを歴史と称するのは些か不自然だ。

 恐らくまた別の何か、俺の知らない何かがあるのだろう。こうも分からない事だらけではダイゴに大きな動きを提案する事も憚られる。

 

 結局今出来る事は無いかと考えた辺りで、声の雰囲気が一変する。

 

 ――悪しき魂を持つ者が迫っている。

 

 ――鋼の導き手よ、ここから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ザザザァララアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怨嗟にも似た咆哮一つで、静謐は破られた。

 

 闇を織った様な三対の歪な黒い翼、かつて見た異常個体のフライゴンを上回る巨躯にこちらを見据える狂乱を宿す六つの眼。

 三叉の鎌首を擡げ、狂喜の笑みを浮かべて俺達を睥睨するそれは、俺の知識にあるそれよりも異質極まる姿だった。

 

 おぞましいまでの威圧感を振り撒きながら、そのモンスター、サザンドラは古代塚に降り立った。

 

 

 

 

 

 酷く今更だが、俺はこんなでも、このポケモンの世界に生まれて結構過ごしている。

 ついこの間一歳の誕生日を迎えた身でもあるのだ。

 

 だからまぁ、かつて俺が暮らしていた日本と比べても治安が悪いと言わざるを得ない環境にも慣れて、適応できていると思っていた。

 

 実際そうだろう。俺を拾ってくれたダイゴの力に依る所ばかりではあるが、俺達が揃えば向かう所敵無しみたいなもんだったからな。

 だからまぁ、正直に言ってしまえば慢心していた。ポケモンという超生命体の力に甘えて、いずれチャンピオンとなるダイゴの隣にいる事に甘えて。

 

 そんな慢心も砂漠で例のフライゴンと遭遇した時は引き締め直したよ。この世界には俺なんかよりも強い奴は一杯いるんだって。

 それでも、いずれは俺とダイゴで更に強くなって、あのフライゴンを倒せるようになるんだと息巻いていた。

 

 うん、俺とダイゴで、だ。

 この際もう一つ暴露しようと思うが、俺はダイゴの最初の相棒であるという事実に途方も無い優越感を抱いていた。

 

 誰だって、ポケモンに転生したなら強い奴に捕まりたいと思うだろう、それがチャンピオンなら猶更。

 例え物珍しさからであっても、チャンピオンの手持ちになるというのは決して揺るがない安住の地に等しいのだから。

 

 だが蓋を開けてみれば、幼少期のダイゴの一番最初のポケモンになる事が出来た。勿論そうなるようにある程度演技とかもしたが、正直効果が出るとは思ってなかった。

 本当に奇跡だったんだ。

 

 本来ならダンバルがそこにいる筈だった場所に座る事に少しも罪悪感を覚えなかったかと言えば嘘になる。

 それでもそれを上回るほどの法悦に全身を震わせた。

 

 俺の為にはがねタイプの知識を身に着けようとしている、()の為にポケモントレーナーになろうとしている、()の為にジムリーダーに勝とうとしてくれているっ、私の為にチャンピオンになろうとしてくれているッ!!

 

 そんな冷静になれば馬鹿馬鹿しいと一蹴されそうな事を本気で考えていた。

 初めてメガシンカした時にダイゴの為に動ける事が幸せだと思った事があるが、それはこういう分不相応な想いが入り混じっていたからなのだろうね。

 

 迷惑だろうから決して表には出さないが、私はダイゴの事が好きだ。好き、の一言で括るには面倒くさいあれこれが絡み合ってるけども。

 そしてそれと同じくらいフォート達の事も好きだった。

 

 一応言っておくがダイゴが彼らに構う事で心の底から嫉妬した事など一度足りとてありはしない。

 異物なのは私の方なのだから、私に嫉妬する権利など無い。彼らはダイゴが本来使っていたポケモン達だ。彼らにもまた、憧れに似た感情を持っていた。

 

 

 

 それでも相棒は(シルキー)だ。(シルキー)なんだ。

 

 

 

 ……そんな事を思い続けていた報いか。いや、運命の修正力とかそういうあれかもしれないな。

 

 分かる事はたった二つ。

 

 このまま私が動かなければ、ダイゴ達は殺される。

 

 そして、私がダイゴ達を逃がす事に全力を尽くせば、彼らの生存と引き換えに私は殺される。

 

 私がどちらを選ぶのか、最早これ以上語る必要はないだろう。

 

 




古代塚さん、近年稀に見る天才にウッキウキで話しかけたら釣り餌にされてしまう渾身のガバ。

最近バトルが少なかったのはVS“天喰暴竜”サザンドラが控えていたからです。
なのでヒワマキジムもボッシュートになります。

途中さらっと出てきた二体の異常個体は活動報告の募集案から拝借致しました。

“空挺菜園”トロピウスは無銘様から、
“天運白姫”トゲキッスはすぷりんぐ様からの異常個体案です。
話の展開の都合上異常個体観測部門からの報告書を載せられない事をお許しください。

最後の独白は今まで書いてなかったシルキーの心情というか深層心理です。全体を通してお姉さん的立ち位置を獲得してるシルキーはダイゴの相棒になれた事が嬉しくて仕方がなかったというお話。まぁ誰だってそうなるとは思うけどね。
一番最初に選ばれた相棒がお前だって言われれば誇らしくもなるさ。

前回のアンケで75%の人が「エタるな」と言ってくれたので需要はあるんだなぁと思いながら途切れないように投稿続けていきます。
それとは別に情報出るまで脳内補完しとくって人が結構いて嬉しい限りです。あんましネタバレして驚きが薄れる様な事はしたくないので助かりました。
だとしてもなるべく早く情報出すようにはしますがね。

次回以降はもしかしたら文字数とかブレるかも……。
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