血染めの鋼姫   作:サンドピット

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割と長い時間待たせた癖にやや短めです。申し訳ない。


吞めや喰らえや赴く儘に。

 

 

 そもそもの話として。

 

 俺がこの異常個体のサザンドラを知っていたか否かと言われれば、否である。

 

 例の砂漠で出会ったフライゴン、“薄羽陽炎”を始めとした主な異常個体はダイゴと一緒に調べている。

 その中にこのサザンドラの情報は無かったし、コドラとエアームドの故郷を襲った奴はいるかと聞いても二人とも首を横に振ったのでそれらしき情報は皆無であった。

 

 ……まぁもしかしたら、と思う可能性も無い訳ではなかったが。

 

 もはや改めて語る必要も無いが、このホウエンには至る所に異常個体が存在する。

 そもそものホウエンの地が広いため誤魔化されてる節があるが、ポケモンリーグのホームページにある異常個体まとめを見ると軽く眩暈がしてくるくらいには多い。

 

 だが、ホウエンで唯一異常個体やフィールドの主が「表面上は」存在しない地域が存在する。

 

 流星の滝を含めた秘匿された山頂である。

 

 ゲームでは実際に訪れる事は無かったが、ドラゴンタイプのポケモンが跋扈する魔境にして秘境と呼ばれている。

 であるにも関わらず異常個体どころかフィールドの主が存在しない訳が無いので十中八九誰かが情報規制しているのだろうなという結論に至った訳だが。

 

 目の前の、明らかにそこらの異常個体などよりも強いサザンドラを見てこう思う。

 

 ――こいつ流星の滝出身じゃね?

 

 話は変わるが。

 

 異常個体とは何か、という自論を語らせて欲しい。

 一年そこらで考えた自論なので穴だらけなのは自覚しているが、ともかく。

 

 異常個体とは、読んで字のごとく通常のポケモンとは生態や行動、強さが異常な程隔絶しているポケモンである。

 どこからが通常種でどこからが異常個体なのか、という分かりやすい境界線の一つが特性だ。

 通常種の特性とは異なる、言ってしまえば様々な能力をいっぺんに詰め込んだ欲張り特性を持っている奴が異常個体である。例外も無い訳では無いが。

 

 ではその特性を獲得するのは何故か、と問われれば「必要に駆られたから」に他ならないだろう。

 

 飢餓や、逃避や、闘争の果てに壁を超えるべく己の存在そのものを作り替えたポケモン。

 定められた限界を突破したポケモンこそが異常個体と呼ばれる存在になり得ると、俺はそう考えた。生まれつき異常個体である奴や戦わずして異常個体へと変貌する奴もいるだろうが、そのどれもが既存の枠組みから外れているという共通点を持っている。

 

 で、あるならば。

 

 ホウエンでも屈指の魔境、ドラゴンタイプのポケモンが蔓延る流星の滝にて、サザンドラへと進化する程に闘争を積み重ねてきたにも関わらず、まだ足りないとばかりに更なる力を身に着け異常個体へと変貌する事を余儀なくされたこいつは。

 一体どれ程の力をその身に宿しているというのだろう。

 

 

 

 

 

 通常のクチートと違い、俺は背を向けて大顎を前面に押し出すポーズを取らずに戦う。

 これは背を向けた状態で戦いにくいという人間としての感性と、出来るだけ敵を視界に収めていたいという慎重さ――ともすれば臆病と言い換えられそうな感情の発露によるものだった。

 

 そんな俺の戦闘スタイルが、この先一秒でも多く俺を生き永らえさせるのかもしれないと思うと、己の慎重さに少しばかりの称賛を送りたい気分だった。

 

「サザザザラララァァァ」

 

 金属をこすり合わせた様な金切り声を上げるサザンドラ。

 それは威嚇の様にも、歓喜の雄叫びの様にも思えた。一体何をそこまでサザンドラを駆り立てるのか、何故そうまでして、俺が持つ二つの石を求めるのだろう。

 

 サザンドラの右腕の頭が俺の背後を見据え、左腕の頭が周囲を確認する。依然として本体の頭はこちらを睨みつけるのみ。

 

(……両腕の頭と視界を共有してるのか? そういう脳機能を持ってるのは本体の頭だけだったような気がするけども……)

 

 だとしたら死角なんて無いに等しいだろうな……。まぁ、勝てる可能性が更に低くなっただけだ、今更気にはしない。

 

 そうして何かを見つけたのか、或いは何も見つからなかったのかは知らないが、周囲を見ていた両腕の頭もこちらを向き三対の視線が俺を貫く。

 

 空気が、変わる。

 

「ササザザザ」「ザザザラララ」「ララララアアア」

 

 三つの頭がそれぞれ思うがままに口を開き、不協和音を奏でながら天を仰ぐ。

 

 ……手が震える、息が浅くなる。

 サザンドラの行動に引っ張られるように上空を見上げ――後悔した。

 

 “りゅうせいぐん”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 “りゅうせいぐん”

 

 夥しい数の流星が、周囲一帯を更地にせんと降り注ぐ。

 全身が総毛立つ様な焦燥を覚えた。

 

(――まずいまずいまずい!)

 

「チィイアァァアアアアア!!」

 

 “ふいうち”

 

 少しでもりゅうせいぐんを散らそうとサザンドラの頭部にふいうちを仕掛けようとした。

 実の所、どのようなドラゴンタイプの技であってもフェアリータイプを有する俺にダメージは与えられない。レベル差で覆せない世界のルールである事は薄羽陽炎との戦いで分かっている。

 だが、りゅうせいぐんだけは駄目だ。

 

 フェアリータイプはドラゴンタイプの技でダメージを受けないが、ドラゴンタイプの技による副次的効果は受ける。

 三回分のりゅうせいぐんが降り注ぐ余波だけでも、メガシンカして尚小さい俺の身体は遠くへ吹き飛ばされるだろう。

 

 吹き飛ばされて大きな隙を晒した直後にどうなるかなど想像に難くない。ましてや相手がサザンドラであれば尚の事。

 

 故にせめてりゅうせいぐんが降り注ぐ前にその力を弱めようと攻撃を放ち、

 

「――サァアラララ」

 

 容易く受け止められた。

 

 考えてみれば当然の事で、ふいうちとは相手の視界から外れる行動を取り認識外から攻撃を加える事で先手を取る技だ。

 逆に言えば相手の視界を振り切れなければふいうちの強みは殆ど失われてしまう。

 

 一つの頭から逃れても残る二つの頭が俺を追従する。こちらを絶対に見逃さない相手にどうやって不意を打てばいいというのだろう。

 

(……時間切れだ)

 

 斯くして、流星群が降り注ぐ。

 

 

 

 

 

「……今の音、確かに聞こえたな?」

 

「はい、近いです。すぐに向かいましょう」

 

 

 

 

 

『おーおー、派手にぶっ放しおって全く……。本当に間に合うのか?』

 

『間に合うかどうかはあの子次第では? 行きますよ』

 

 

 

 

 

 耳鳴り。

 

 ポツポツと降り始めた雨に打たれ、即座に身を起こす。

 

 辺りを見渡しても木や草は何も無く、ただ荒れ果てた大地が広がるばかり。

 その中で唯一無事だった古代塚の上に乗ったサザンドラが、己の力を赴く儘に振るえる歓喜に打ち震えていた。

 

「……チィ」

 

 最悪だ。

 

 この短時間の間ではあるが、サザンドラの異常個体としての性質、その方向性を理解した。

 

 三つの独立した頭を持つ事で視界を三倍に拡張し死角を無くす。その上で三回同時攻撃で超広範囲に及ぶ殲滅を得意とするポケモンだ。

 ふざけているのかと言いたくなる理不尽さだが、異常個体の時点で今更である。

 

 問題はそんな広域を殲滅する手段を有する相手に遮蔽物が無いフィールドを作られてしまったという事だ。

 断言しよう。今この瞬間に、俺の勝ちの目は無くなった。

 

 “ラスターカノン”

 

 “ラスターカノン”

 

 “ラスターカノン”

 

 鈍色の光がサザンドラの三つの口腔を照らし出す。

 俺は直撃を避けるべくふらつく足を抑えて荒地を駆けた。

 

 “つるぎのまい”

 

 地を割るような銀閃が迫り来るのを間一髪で避ける。

 だが、一つのラスターカノンを避けた先には残る二つのラスターカノンが避け切る事が出来ない所まで肉薄していた。

 

「――ヂィッ」

 

 二条の銀閃が我が身を穿つ。掠り傷であるにも関わらず体力がごっそりと削れた気配がした。

 このサザンドラはりゅうせいぐんを三回撃っている。つまりこの時点で特攻が六段階下降している筈なのだ。

 

 だというのにサザンドラの攻撃からは威力の減衰など微塵も感じない。いや、或いは減衰しているからこそ掠り傷で死なずに済んでいるのか。

 真偽はどうあれ、かつて無いほどに強い相手であるというのは身をもって理解した。

 

(フェアリータイプ持ちじゃなかったらとっくに死んでたな、あぁ……)

 

「クチッ」

 

 ――クソッタレが。

 

 不安、恐怖、諦念、その他諸々を吐き捨てて、静かに息を整え――

 

「ザララララァアアアアアア!!!」

 

 “バークアウト”

 

 “バークアウト”

 

 ――翔ける。

 

 バークアウトという技は自身を中心として球状の衝撃波を広範囲に広げる技だ。当然ラスターカノンの様に避けられる物ではなく、被弾しないように動くなら後ろに下がるしかない。

 だが、予感がした。

 

 後ろに下がればそれまでだと。

 

 前に進め、退路などありはしない。

 誰かにそう言われた様な気がして、俺は荒れた大地を駆け抜けた。

 

 高速で広がっていく衝撃波が目前まで迫る。

 まずはこの壁を超える。ぶっつけ本番だが、決めなければ。

 

 走り抜けながら前方に跳躍し、バークアウトに接触する直前で二つの大顎を勢い良く振りかぶる。

 

 “じゃれつく”

 

 過去最高レベルで上手く決まったじゃれつくがバークアウトと激突し、膨れ上がる衝撃波の勢いを弱め拮抗する。

 バークアウトは全方位に広がる技であり、それ故に全体的に薄くなっている。衝撃波に薄いとかあるのかという疑問はあるが、同じ技であれば干渉できる事もあるので物理的な障壁と同じ扱いで良いだろう。

 

 相性有利に加え、攻撃力が二段階上昇、更に急所に当たった時と同じ感覚がした。これだけの要素が揃えばたとえサザンドラの放つバークアウトだとしても綻びを作り打ち破る事が出来る。

 

 城門に破城槌を叩き込むが如き一点突破で迫るバークアウトの一部を打ち破り、その間を潜り抜けてほぼ無傷で突破した。

 だが無効化出来るのは一回だけだ。残りの攻撃は吹き飛ばされないように耐えるしかなかった。

 

「――ヂィッ」

 

 悪意の波動が身体を蝕む。大顎を地面に固定してどうにか耐えるが、それでもかなりの痛手になってしまった。

 これにあと一回耐えなければならない。……オボンのみを食いたい。

 

 ……。

 

 …………来ない。

 

 いや待て、本当に三回技を使用したのか?

 初回のりゅうのはどう、ダイゴに向けて撃ったかえんほうしゃ、辺り一帯を更地にしたりゅうせいぐん、俺を仕留めにかかったラスターカノン。そのどれもが三回同時攻撃だったからそういうものだと思っていたが……。

 

 サザンドラの特性は「三回同じ技で攻撃する」ではなく「三回行動できる」だとしたら。

 

 その可能性に思い至った直後に顔を上げて前方を注視するもサザンドラの姿はそこにはなく、死の気配は背後に現れた。

 

(――しくじった)

 

 背後を振り返れば、中央の頭がその口腔に紅蓮の炎を蓄えているのが見えた。

 スローに感じられる世界の中で、俺が思ったのはただ一つ。

 

(ダイゴ達、ちゃんと逃げられたかな)

 

 “かえんほうしゃ”

 

 サザンドラの口から業火が放たれる。頬に付いた水滴は、炎によって大気の一部へと溶けていった。

 

 




どうも、最近漸くスマホを手に入れ、過去にウッキウキで入れた伏線がスマホから見た場合だと即バレしてる事に気付いて呆然としてました。どうすっかな……。
まぁただの隠し要素みたいな感じだったし別にいいか。

という訳でVSサザンドラです。ターン制バトルで複数回攻撃をさせてはいけない(戒め)ハンデ兼応援の到着を早める為に初手りゅうせいぐん×3してもらいましたが結果的にシルキーの強みが殆ど潰される形になりました。こいつ本当に理性無くなってんのか?

ただどうしたってシルキーには荷が重すぎる相手である事には変わりはありませんでした。
話は変わりますが、最初のシルキーの異常個体に関する考察、あれ殆ど正解です。幾つかの例外はあれど根幹に関わってくるのは「経験」と「状況」と「意志」に他なりません。
それら全てが揃い、そのポケモンが己の「方向性」を自覚した瞬間に既存の枠組みから外れ、世界に定められた限界から逸脱する事が出来るのです。

たっぷり時間を貰いこの先の展開を吟味させて頂きました。次回をお楽しみに。

感想くれたらとても嬉しい。
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