血染めの鋼姫   作:サンドピット

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一か月すっぽかしてスマーン!
今回だけは一話に全部詰め込みたくて文字数がどんどん増えてしまった。その影響で視点変更が多いです、読み辛かったらごめんね。
それでもキリが良いとは言えないけども、細かい事は後書きにて。


舞えや謡えや天地の神楽。

 

『シルキーはさ、僕がチャンピオンになったらしたい事って何かある?』

 

『クチッ? ……クゥー、チッチ』

 

『……考えた事も無かったって、気持ちは嬉しいけどチャンピオンになる事がゴールじゃないからな? 将来の夢とは少し違うけど、やりたい事とか無いのかい?』

 

『……チィック』

 

『コンテストに出てみたい、か。ふふっ、ミクリが喜びそうだね。しかしコンテストかぁ、そのうちシンオウ地方に行ってみるのもいいかもしれないね』

 

『チッチク?』

 

『うん、シンオウ地方にはホウエンと同じくらいポケモンコンテストが盛んらしいよ、ミクリが言ってた』

 

『クチィ』

 

『そういえばイッシュ地方にはコンテストとはまた違うポケモンの舞台があるらしいよ?』

 

『チィト』

 

『うん、皆で一つの劇を作るんだってさ。ちょっと恥ずかしい気もするけれど、』

 

『あぁ、何時か世界中を旅してみたいな。……約束だ』

 

『チチチ』

 

 

 

 

 

 それは在りし日の記憶。

 

 ダイゴと共に未来を語り合った、チャンピオンのその先へ目を向け始めた最初の会話。

 

 ここからだ、シルキーの心の中に「ダイゴをチャンピオンにする」以外の目的が芽生えたのは。

 

 別の地方に足を踏み入れて、珍しいポケモンと出会ったりダイゴと共に綺麗な石を見つけたり、独自の文化に触れて皆で体験してみたり。

 トレーナーを見つけてポケモンバトルを申し込んで、勝って喜びを分かち合ったり、負けて悔しさを噛み締めたり。

 

 それでもダイゴや皆と共に笑顔を浮かべて日々を過ごして、生きていく。

 

 きっとそういう事を幸せと呼ぶのだろう。

 

 あぁ、嗚呼。その幸せも、死んでしまえば泡沫と消えてしまうだろう。

 ダイゴは悲しむだろうな。フォートやコドラ、エアームドもきっと。

 

 ……ふざけるな。

 

 かつて誓った筈だろう、ダイゴを幸せにするのだと。

 そう言った自分自身が命を投げ捨て、剰えダイゴを幸せにする事を忘れ諦めるなど。

 

 自分で自分が許せなかった。

 

 ――ならば如何する?

 

 サザンドラを倒すんだ。この手で、この身で。

 

 ――出来る訳が無い。だからお前は死を覚悟したのだろう。

 

 情けない事に特大の未練が出来てしまった。これでは死ぬに死ねないな。

 

 ――お前に何が出来るというのか。

 

 今までやってきた事と変わらないさ。私達の道を阻む壁は悉く、砕き壊して前に進む。

 

 ――まるで我儘なお姫様の様ではないか。

 

 そうだ、私は我儘だ。どれだけ辛くとも、何が必要だとしても、それが叶うなら躊躇いも無く己の願いが叶う道を進む。

 

 力が欲しい、サザンドラを退けてダイゴの元へと帰る力が。

 

 ――忘れるな、お前がその姿でいる限り、ダイゴはお前の事を信じている。それさえ覚えているのなら、力はもうお前の手の中にある。

 

 ……もう、迷わない。

 

 不退転の意志を心に宿し、死の淵へと向かう現実世界に帰還する、その間際。

 

 

 

 

 

 ――ガチリ、と。何かが外れる音がした。

 

 

 

 

 

 煌々と燃え盛る業火に飲み込まれる寸前、最早反射的に二つの大顎で防御しようとするも片方が間に合わず。

 

 走馬灯を見終えた私の、防ぎ遅れた顔の左半分に、紅蓮が触れた。

 

 ――痛みが全身を駆け巡る。

 

 フエンジムで受けた炎などぬるま湯の様な物だと錯覚してしまうほどの熱に全身が晒される。

 絶え間無く私の身体を包む炎によって碌に息も出来なくなり、鋼の身体が徐々に融けていくのを感じ取る。

 

 だが。

 

 あぁ、それでも。

 

 身体の奥から、心の底から、魂の深い所から、湧き上がるこの衝動が今受けている痛みを苦しみを押し流す。

 意識を内側へ向ければ感じ取れるのだ、ダイゴが私の事を想っている事を。

 

 ジリジリと体毛が焦げ付き、全身がやけどに包まれていく。

 

 そうだ、私はまだ一人じゃない。ダイゴの力を受けて、戦っているんだ。

 お前を、超えて。

 

 ガードの遅れた顔の左半分は特に酷く、紅い前髪部分が灼け、左目の瞼がひり付き始めた。

 

 私は帰るんだ。ダイゴの元に。その為に必要な物があるのなら幾らでも差し出そう。

 だから。

 

(――だから、全てを打ち砕く力を)

 

 パシャリ、と。

 水気を帯びた何かが潰れる音がした。

 

 そして同時に大顎の隙間から光が漏れ出し、力が大きく増幅する。

 

 “じゃくてんほけん”

 

 炎が収まった先には、嘲笑を浮かべるサザンドラの姿。

 欠けた視界に収まるその黒竜の姿を見て、私は笑った。

 

(やっとだ、やっと近づけた)

 

「ヂ、ッグ」

 

 喉が焼けたのだろう、掠れた声しか出なくなった事に、されどその事すら最早どうでもよくなった。

 

 私は否定する。道を阻む壁を。目の前に立ち塞がった理不尽を、不条理を。

 

 私は拒絶する。己自身の弱さを。ここで死に、二度とダイゴと会えなくなる未来を。

 

 示せ、その名は。

 

 

 

 

 

――はがねひめ――

 

 

 

 

 

 サザンドラは歓喜に満ち溢れていた。

 

 巫女と同質の力を持つ存在の待ち伏せに成功し、何故か二つに分かれていたその力を餌の方から一つに纏めてくれた。

 人間の方も少しくらいは腹の足しになったのかもしれないが、巫女の力を喰らい手に入れる事が最優先だったから邪魔の入らないように逃がしてやった。

 

 狭かった森を吹き飛ばして抵抗する相手を炎で焼き、やっと喰らえると息巻いた瞬間。

 

 ふと覚えた違和感がサザンドラの頭を冷やす。

 

 何かがおかしい。そう感じたサザンドラは警戒を表に出さず目の前の餌を見続けていた。

 

 ――ここでサザンドラが少しでも理性を持っていれば、この違和感の正体に気付いただろう。いや、そもそももっと早くに気付くべきだったのだ。

 

 サザンドラはかつて流星の滝にて巫女と呼ばれるポケモンに敗北を喫した。

 復讐の為に滝を抜け、数多のポケモンを喰い尽くし、それでも足りない力を補うために巫女の持つ物と同質の力を喰らう事に決めた。

 

 そして二つに分かれていた巫女の力の根源に行き付いたのだ。

 ……おかしな話ではないか。巫女を弑する為に巫女の力を手に入れるなど。サザンドラは考えが及ばなかった。

 

 二つに分かれていた巫女の力を一匹のポケモンが手に入れた時、己を退けた巫女の力をそのポケモンも手に入れると、サザンドラは微塵も考えはしなかった。

 

 サザンドラは誰にも悟られずに人間を殺し、巫女の力が二つに分かれている状態で一つずつ喰らうべきだった。

 だが理性無き今、サザンドラにそれが分かる筈も無く。

 

 前触れ無く立ち塞がった抗えない不条理という名の「経験」を、死地を彷徨い己の弱さを痛感した「状況」を、絶望や理不尽を乗り越え進み続けんとする不屈の「意志」を。

 

 全てを糧として、餌でしかなかった一匹のポケモンが紅に染まる鋼の姫へと進化を遂げる。

 

 未だ成りかけとは言え、不退転の輝きを宿す右目はかつて見たものと酷似していて。

 その力の奔流こそサザンドラの追い求めていた力だった。

 

「ザララララァアアアアアア!!!」

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 警戒はすれど、己を退けるに足る力はまだ備えていないと判断し、抵抗する暇を与えずに目の前の餌――クチートを喰らう事に決めた。

 両腕の頭も含めた三つの口腔から炎を吐き出して先ほどの様に焼いてしまおうと考えた。

 

「――ヂィッ」

 

 “つるぎのまい”

 

 クチートが流麗に舞い、二つの大顎を薙ぎ払うように三条の炎と激突し――

 

 ――二つのかえんほうしゃが掻き消えた。

 

 何が起きた? 何をした? サザンドラの思考に空白が生まれ、残るかえんほうしゃを間一髪で躱したクチートがすぐそこまで迫っていた。

 

 “あくのはどう”

 

 “あくのはどう”

 

 “あくのはどう”

 

 “じゃれつく”

 

 近づけてはならないと本能が叫ぶ。距離を取りたいが為にあくのはどうを同時に三つ放つ、が。

 がむしゃらに振り回した二つの大顎によって放ったあくのはどうの内二つが容易く打ち破られた。

 

 ここまで来てサザンドラは理解した。両腕の頭から放たれる二つの技を全て無効化されていると。

 

 目の前に躍り出たクチートの二つの大顎を振るわれ、サザンドラは頭部を弾き飛ばされた。

 ただの狩りでしかなかった筈の戦闘で初めて受けた手傷であった。

 

「サザザザララララ!!」

 

 距離を取る事は諦めた。認めよう、このクチートは餌では無く己の喉元に届き得る存在だ。

 故にこそ、半ば諦めていた闘争を始めよう。

 

 互いに喰らい合う闘争こそがドラゴンの本質だ。絶え間無く襲い来る渇望の、少しばかりの慰めとなってくれ。

 

 

 

 

 

 黒い嵐と見紛う程に、攻撃の苛烈さが増していくサザンドラ。

 その攻撃を紙一重で躱す度に、私の中で膨らんでいく全能感を抑えきれなくなっていく。

 

 私の意志に応じたのか、それとも最初からそのような才能があったのかは不明だが、サザンドラの最も厄介だった三回同時攻撃を封じる事が出来るようになった。

 

 左右の首からの攻撃は脅威ではなくなった。となれば注意すべきは中央の首のみで、攻撃の密度は三分の一となる訳だ。

 であれば私が避けられない道理は無い。

 

 今なら目で追えなかったサザンドラの移動も認識できる。同じスピードで移動できる訳では無いが、反応出来るようになっただけで随分とやり易くなった。

 

 “じゃれつく”

 

 距離を離そうと動き始めるサザンドラの首元に大顎を噛み付かせ、絶対に離れないようにしながらもう一つの大顎を顔面にフルスイング。

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “つるぎのまい”

 

 サザンドラの首元から大顎を放し、その場で回る様に舞って左右から迫る炎を掻き消した。

 思い返されるのはかつて戦ったコジョンドの動き。あそこまで流麗に動く事は出来ないが、それでもあの経験が無ければもう少し苦戦していただろう。

 

 回る様に舞い、サザンドラの攻撃すら踊りに加えていく。

 避けては殴りを繰り返し、彼我の体力差は徐々に縮まっていく。嫌という程痛い目にあったのだ、慢心も油断も決してありはしない。

 

 サザンドラが距離を取らずに真っ向から向かってくる。

 地を這う様に滑空し、そのまま突撃してくるのを何とか視界に収め、吹き飛ばされる間際に二つの大顎を使いサザンドラの身体に張り付いた。

 

 そのままサザンドラは上空へと飛び立ち、急降下。

 

 大顎で食らい付いた私の身体を掴み、地面へと叩きつけた。

 基本的にポケモンバトルに於いては相手のわざが主なダメージ源となるが、それは相手の技以外でダメージを受けない訳じゃない。

 すなあらしやあられでもダメージを受ける様に、環境からも少量ながらダメージを受ける。高速で地面に叩きつけられれば当然怪我を負うのだ。

 

 問題は地面に叩きつけられたダメージでは無く、それをサザンドラが攻撃手段として使い始めたという事。

 

(焦ってるな? 先程まで成す術無く死にかけていた奴に攻撃され続けて。どうした、随分と形振り構わなくなったじゃないか)

 

「――ヂィッ、ククッ」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で上手く喋れないが、それでも口角は独りでに吊り上がる。

 漸く、漸く辿り着いた。お前と同じ所まで。

 

「……ザザザラララ」

 

 サザンドラは右腕の顎で私の首を抑えつけ、中央の口腔から鈍色の光を放たんとする。

 

 “ラスターカノン”

 

 “ふいうち”

 

 鈍色の光を吐き出す間際に大顎を使ってサザンドラの口を塞ぐ。

 メガシンカにより増幅された力で強引にラスターカノンの行き場を無くし、暴発させた。

 

「ド……ラ……」

 

 “じゃれつく”

 

 口から煙を出しふらつくサザンドラの頭を大顎で殴り、拘束から逃れた。

 そのままサザンドラに追撃を仕掛け、相手の残り少ない体力を削りに掛かる。

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 “かえんほうしゃ”

 

 サザンドラが距離を取るために三つの頭を振るい炎を撒き散らすが、もはやそんなもの目晦ましにすらなりはしない。

 

 “じゃれつく”

 

 三条の炎の隙間を掻い潜りサザンドラの腹部に大顎を振るう。

 

 “バークアウト”

 

 “バークアウト”

 

 “バークアウト”

 

 三つの衝撃波が私の身体を押し流さんと迫るが、氷の壁を割る様に二つのバークアウトを粉砕した。

 

 “じゃれつく”

 

 残るバークアウトにゴリ押しで突っ込み、サザンドラの頭部に追撃のアッパーを入れた。

 頭を揺らすサザンドラは三対の翼を動かそうとしても上手く行かずその場に崩れる。

 

 ――今しかない。

 

「ヂィイアアア゛ア゛ア゛!!!」

 

 灼けた喉から裂帛の雄叫びを上げ、再度サザンドラに接近する。

 下から掬い上げるように二つの大顎をかち上げ、サザンドラの身体を浮かせ、そのまま水平に吹き飛ばす。

 

 “じゃれつく”

 

 かつてない程に綺麗に決まった。会心の一撃といって差し支えないそれを受けたサザンドラは未だ傷一つ付いていない古代塚へとその巨躯を打ち付けた。

 濛々と立ち込める砂煙の先を、ふら付く身体を大顎で支えながら睨みつける。

 

 ここまで生きていられたのが奇跡だった。

 ダイゴの元へ帰るという意思がそうさせたのだろうか。意志の強さが力となったというのなら、ダイゴへの愛と生への執着がサザンドラへと食い下がる程の力となったのだろうか。少しばかり恥ずかしいが、それでも誇らしい気持ちになった。

 

 あぁ、だが。

 

(……まぁ、無理だわな)

 

 砂煙の先にはサザンドラが翼を羽ばたかせて浮遊していた。

 何故か左腕の頭だけが生気を失ったように動かなくなっていたが、そんなものは些細な物だ。

 

 力を求め、相手の強みを潰し、同じ土俵に立って、それでも尚立ち塞がったのは彼我のレベル差だった。

 純粋な戦闘経験が、体力の差や攻撃力の差となって圧し掛かる。それは、小細工や急ごしらえの力では埋める事の出来ない絶対的な物だったのだ。

 

 幸か不幸か、力を使い過ぎたせいで最早意識を保つ事すら侭ならなくなってきている。意識を残したまま喰われるという事は無いだろう。

 それでも、それでも。

 

(あぁ、死にたくないなぁ……)

 

 尋常じゃない倦怠感に襲われて、意識を手放す。

 

 その間際。

 

 

 

 

 

『間一髪、いや、ギリギリ間に合わなんだか』

 

 深紅の彗星が降りしきる雨を縫ってサザンドラへと突き刺さる。

 

『すまぬのぅ、随分と遅れてしまった。後は妾達に任せて、眠ると良い』

 

 その彗星はやや黄色がかった体毛と薄紅色の髪、そして深紅に染まる二つの大顎を携えていた。

 そう、その姿はまるで。

 

(メガ、クチート……)

 

 虹色に光り輝くその左目を見て、私の視界は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

『……眠ったか』

 

 糸が切れた人形の様に力尽きた色違いのクチートを受け止め、そっと地面に寝かせる。

 無理矢理力を引き出したせいで体中がボロボロだ。それどころか絶え間無く湧き出る力が暴走を起こさぬようにと急激に魂の器が広がっている。

 

 己と同じ容姿だった時点で察してはいたが、この娘もあの石を持っている様だ。

 取り敢えずこのままだと暴走するだろう力の矛先を彼女の持つ虹の石へと向ける。単なる応急処置にしかならないが、それでも延命は出来るだろう。

 

 

『これでいいじゃろ。さて、と』

 

『あら、まだ死んでいなかったのですね。あなたの娘さんは中々に優秀な様で』

 

 背後から、空から降り立った友が話しかけてくる。

 

 黄金の体毛と白金の羽毛に包まれた鳥の様な姿を持ったドラゴンタイプを持つポケモン、一般にチルタリスと呼ばれる存在だ。

 色違いな上、己と同じく通常種から外れた容姿とこれまた同じく虹色の左目を持つこいつを一般と言っていいのかは謎だが。

 

『あぁ、自慢の娘じゃよ。母親らしい事は何一つしてやれなんだが……』

 

『私には巫女である貴方が何故子を為そうとしたのか分かりません。使命を成す事が私達の役目でしょうに』

 

『言うてくれるな金天の、何百年と生きていると寂しくなってくるんじゃ。お主も何れ分かるじゃろ。さて、妾の用事はこれにて終了、後はお主の用事を手伝う事になるが』

 

 そう言って友と共に辺り一帯を更地に変えた悪餓鬼の方を見る。

 向こうは何やら友を見て暫く静止していたが、徐々に負の感情を露わにし始め臨戦態勢を取り始めた。

 

 これは……、恐怖、焦燥、憤怒、それと憎悪か。どうやら友は尋常でない憎しみを抱かれている様だ。

 

『お主何したんじゃ』

 

『私は愛を持って接していたつもりなのですがね。――さぁ、帰りましょう

 

 友の声を聞いたサザンドラが一瞬自我を失ったが、即座に意識を取り戻し右腕と本体の二つの頭からかえんほうしゃを放とうとする。

 

『……あら、あらあらあらあらあら』

 

『弾かれたのぅ。妾達の様な精神力を持っているのか、そもそも聞いておらんのか』

 

『一瞬効いていたので完全に聞いていない訳では無いでしょう、恐らく自我を確立させた両腕の頭部が原因でしょうね』

 

『あぁ、耳があるのは中央だけか。良く考えるのぅ』

 

 効果があるのは間違いないが、左右の独立した意志を持つ頭が中央の頭を正気に戻す。友の声に対してここまで効果的な対策も無いだろう。

 無論それを封じられたとて友には幾らでもやりようはあるが、通常のサザンドラにとっては単なる四肢の延長線でしかない両腕の頭に自我を持たせる程の根深い執着心は称賛に値する物だ。

 

『かつて私に敗れた時必死に考えたのでしょうね、どうすればこの私の命を脅かす事が出来るのか。三つの意志を一つの身体に宿したのも、瀕死へと追い込まれる攻撃を受けても手数と引き換えに行動を続けられるようになったのも、全ては私と戦う為だけに』

 

 友が謳う。英雄を讃えるが如く。

 

『尋常から外れた攻撃回数も、同じ攻撃を続ければ続ける程力が増すそれも、ただの副産物でしかありません。貴方の力は生存力に特化している、その力を振るう前に倒れ伏してしまわないように。そこまでの力を引き出し、理性の欠如と飢餓欲求だけの反動で抑えたのは奇跡と言っていいでしょう』

 

 他のポケモンや、人間ですら知らないような情報をつらつらと並べていく。

 

『ですが、分かりませんね』

 

 ふと、友が心の底から不思議そうに問う。

 

『何故その程度の力で私を倒せると思ったのですか?』

 

 そう、足りないのだ。

 声が意味を成さない? 一瞬でも効果があるのなら万全な対策からは程遠い。

 一回では倒し切れない? 何度でも倒し切れる程の力があるというのにただ命を伸ばすだけの力に何の意味がある。

 

 このサザンドラは根本から履き違えている。巫女という存在を、それが有する力の意味を。

 

『全く以て、想像力が足りませんねぇ』

 

 かつて戦った時にその身に受けた力の、その先を考えられなかった時点でこのサザンドラは負けていた。

 そもそもからして、この友はまだ巫女と呼ばれる所以となる力の一端しか示していないのだから。

 

――金天帳に翼を広げ、空飛び立ちて燐光満ちる

 

 友が――遥か昔、金天巫女と呼ばれた彼女が謡う。

 弾かれたようにサザンドラの二つの頭から放たれたかえんほうしゃがこちらを焼き尽くさんと迫る。

 

 だが。

 

『ぬるいわ』

 

 “ふせひめのまい”

 

 紅い光を宿して舞うだけで、火の粉を散らすようにかえんほうしゃが掻き消えた。

 

『妾、これでも怒ってるんじゃよ。娘を喰い殺そうとした輩をどうして愛せようか』

 

 その身で贖え、理性無き小僧よ。

 

 “とわのうたごえ”

 

 

 

 

 

 妾達とサザンドラとの戦いは、すぐに終わった。

 

 サザンドラのりゅうせいぐんにより荒れ果てた筈の一帯が草原へと変化し、その中央でサザンドラは全身から血を垂れ流しながら地に倒れ伏していた。

 両腕の頭は動きを止め、残る中央の頭も、今すぐにでも息絶えてしまいそうなほどに体力を消耗していた。

 

『あぁ、良かった。まだ生きていてくれて』

 

 友が、サザンドラがまだ生きている事にほっとしたようにそう言った。

 

『そやつ、どうするんじゃ? いや大体予想は出来るが』

 

『流星の滝へ持ち帰ります。彼も故郷へと帰ってみたいでしょうし』

 

 その後行う悪趣味な儀式のせいでこの悪餓鬼みたいな奴が生まれるんじゃないかのー……とは言わなかった。妾が止めた所で流星の滝の平穏が崩れるだけだろうし。

 代わりに目下対処すべき問題へと話を変える。

 

『で、こっちに向かってきておるチャンピオン達はどうする?』

 

『? 貴方の夫が対処するのでは?』

 

 友が何を言っているという顔でこちらを見るが、そういう訳にもいかなくなった。

 

『いや、そのつもりじゃったがどうにもチャンピオン達は悪餓鬼の事を捕捉しておるようでな……このまま悪餓鬼の姿が見つからなければ捜索の手をホウエン全土へと広げるじゃろうな』

 

 当初の予定から外れそうな事が嫌なのか、眉を顰めやや不機嫌になる。

 

『貴方がどうにか収めて下さい、貴方の願いを聞いて娘さんが死ぬ前に此処へ来たんです。この場は貴方が収めるべきでは?』

 

『悪餓鬼の回収に手間取ってるから手を貸せって言ってきたのは何処の誰じゃったかのぅ、放牧とか言って中途半端な事するからここまで大事になったのではないか? のぅ、ルクスリアよ』

 

――その名で私を呼ぶな

 

 友が声を張り上げる。同じ仲間にその力を使うのは如何なものかと思ったが、先に逆鱗に触れたのは此方だ。その怒りもむべなるかな。

 とはいえこちらも引き下がる事は出来ない。

 

『悪かったの、じゃが良く考えろ。お前が徒らに逃したせいで此処まで荒らされたのは逃れられない事実じゃという事を。あの悪餓鬼が世に解き放たれた事でどれだけの命がその腹に収まったと思う? 人間が動くのは動かざるを得ない事態が起きたから、あの悪餓鬼はそれだけの事を仕出かしたんじゃよ』

 

 この友に己の様な探知能力でもあればもう少し状況を理解できたのだろうか、と思わなくも無いが全ては後の祭り。今は出来る事をやるのみだ。

 

『お前は妾に巫女としての使命を忘れたかと言ったが、妾からすればお前の方が使命から外れた行いをしているように思えてならんよ。……そこまで憎いか、人と、ポケモンが』

 

 友は静かに首を振る。

 

『……私は愛しています、このホウエンの地を。私の短慮がこの事態を招いた事、重く受け止めましょう。彼には最後の晴れ舞台へ赴いて貰います』

 

『うむ、それがよかろ』

 

 倒れ伏したサザンドラへと友が近づき、その耳のすぐ傍で友が深く囁いた。

 

――私の為に働いて

 

「……ザ、ァ……」

 

 サザンドラがその巨躯を起こし、緩慢な動きでチャンピオンの元へ向かった。

 

『私は彼の勇姿を見届ける事にします。それでは』

 

『おう、ありがとう。見つかるんじゃないぞ金天のー。……さて』

 

 この場を飛び去った友に手を振り、満身創痍の我が子へと向き直る。

 その姿は痛々しいの一言に尽きるが、中でも顔の左半分に走る火傷はこの先二度と光を宿す事は無いだろうと思わせる程の重症だった。

 

『奇しくも左目、か。因果なものじゃのぅ』

 

 それとも妾の様な異物が子を成そうとした事への罰なのか。

 後ろ向きな考えが心を満たしかけていた事に気付き、首を振って我が子を抱きかかえた。

 

『必要な物は揃っておる、早く処置をせねばな』

 

 まぁ、我が子のパートナーはまだ生きておるし、妾達の様な事にはなるまいて。

 己と瓜二つの姿になった娘を抱え、自分が今暮らしている拠点へと向かう事にした。

 

 帰りに旦那様を呼び戻さなければ、なんて考えながら。

 

 




ちょっと仕事が忙しくて執筆時間が取れなくてですね……、やっぱり投稿間隔はブレてくると思います。申し訳ない。

今回シルキーの一人称が私になってましたが、表層意識では俺、深層意識では私、死に瀕した時は無意識に私を使うという設定にしてました。が、正直分かりづらい気はする。

あと数話で一章は終了ですが、今一度あらすじをご覧頂きたく思います。

※下に五体分の異常個体の情報を貼り付けてるのでクソ長いです。特に重要な情報も無いので読み飛ばして頂いて構いません。



【名前】シルキー
【種族】クチート
【性格】しんちょう
【特性】はがねひめ
【レベル】65
【持ち物】クチートナイト・じゃくてんほけん・キーストーン

【技】
・つるぎのまい
・じゃれつく
・ふいうち
・かみくだく

「はがねひめ」
・自身の攻撃の実数値が二倍に上昇する。
・通常使用できないアイテムも含めて3つまで持ち物を持つ事が出来る。
・キバを使う攻撃を繰り出す際、特定の持ち物を使いタイプを変更出来る。
・被攻撃時、自身の攻撃力ランクを一つ下げる事が可能となる。
・上記の処理を行った場合、相手の「攻撃に掛かる特性」の効果を無効化する。

覚醒したシルキーの能力です。まぁ幾つか変更点はありますが、一番の変化は「特性の無効化」でしょう。自分が攻撃する際に相手の特性を無効化するのがかたやぶり、言わば「能動的な特性無効化」で、攻撃される際に相手の特性を無効化するのがはがねひめ、言わば「受動的な特性無効化」です。
この際無効化する特性の範囲はかなり広く、かたいツメやてきおうりょくなどのダメ増加系も無効化し、特性の補正無しの技を最終ダメージとして受けます。サザンドラの攻撃が打ち消されたのは二回目以降の攻撃そのものが特性によって作り出された物だからです。



【種族】サザンドラ
【性格】きまぐれ
【特性】みつくびおろち
【レベル】80
【持ち物】なし

【技】
・りゅうのはどう
・かえんほうしゃ
・バークアウト
・ラスターカノン
・りゅうせいぐん

「みつくびおろち」
・一ターンで一つの技を三回使用できる。追加効果の判定も三回連続で行う。
・攻撃技を連続して使用する度に技の威力が上昇する。(一回目1.0倍、二回目1.1倍、三回目1.2倍)
・こんらん、ひるみ、メロメロ、しはい状態になった時、100%の確率で即座に解除する。
・自身のHPが0になった時、「自身の技のPPをランダムで一つ0にする」「攻撃回数を一つ減らす」二つの処理を行いHPを半分回復して復活する。

天喰暴竜サザンドラのステータス完全版です。三回攻撃なんか目じゃないくらいのぶっ壊れ特性を持っています。精神系の状態異常を完全に解除する事が可能となり、条件付きとはいえ自力で復活が可能です。
攻撃回数を減らすというのは両腕の頭がダメージを全て肩代わりして沈黙するという意味なので両腕が落ちると復活は不可能になります。それでも二回復活出来るというのは恐ろしい力ですが。
このサザンドラは小さい頃は純朴なモノズでしたが、ある出来事を切っ掛けにドラゴンタイプに固執するようになり、流星の滝から逃亡を図りました。
例え数多の命を貪り喰らう事になっても、理性を無くし本能のまま生きる事になっても、サザンドラにとっては掛け替えのない自由だったのだ。



【種族】チルタリス(メガチルタリス)
【性格】きまぐれ
【特性】しんぴのうたひめ
【レベル】90
【持ち物】チルタリスナイト・キーストーン

【技】
・ハイパーボイス
・はねやすめ
・りゅうせいぐん
・めざめるパワー
・とわのうたごえ

「しんぴのうたひめ」
・自身のノーマルタイプの技をフェアリータイプに変更し、更に威力が1.5倍に上昇する。
・自身の特攻の実数値が二倍に上昇し、特攻の能力値ランクの低下を受け付けない。
・音系の技を受けた相手は100%の確率でしはいの状態異常を受け、更にターン終了時に10%の確率でしはいの状態異常を付与する。
・自身が技を受けた時、タイプを問わず全ての接触技のダメージを半減し、ドラゴンタイプの技であれば与える筈だったダメージの半分を反射する。
・戦闘時、非戦闘時問わず常時メガシンカ状態となり、■■■■■から受けるダメージを常時半減する。

全ての元凶。超広域デバッファー兼広域殲滅特化型。
遠い昔流星の滝を支配し、流星の民とドラゴンポケモンを縛る監獄へと作り替える。数多のドラゴンタイプのポケモンを「飼育」し、来る使命の日に向けてより優秀かつ強力な個体を育成している。
育成の一環で「共食い」を強要させ、多くのドラゴンポケモンはそれを何の抵抗も無く受け入れている。「放牧」もこの一環であり、外の世界で異常個体を相手取り力を付けたポケモンを「収穫」し流星の滝に持ち帰る。その後「放牧」された個体がどうなるかは語るまでもない。全て彼女の想定通りである。
彼女だけが使える状態異常、しはいを使って己にとって有利な環境を作り上げている。実質マキマ。
永い間メガシンカのエネルギーが体内に留まり、淀みとなって彼女の精神を変質させている。彼女の使命の一つは「ホウエンの地を愛する」事。ホウエンに住まう人間やポケモンなどは何一つ勘定に入っていない。そういうとこやぞ。



【種族】クチート(メガクチート)
【性格】ゆうかん
【特性】しずめのおどりこ
【レベル】90
【持ち物】クチートナイト・キーストーン

【技】
・ふいうち
・じゃれつく
・つるぎのまい
・かみくだく
・ふせひめのまい

「しずめのおどりこ」
・自身が変化技を使用したターン、自身の回避率が三段階上昇しターン終了時に回避率が元に戻る。
・自身の攻撃の実数値が二倍に上昇し、攻撃の能力値ランクの低下を受け付けない。
・自身のキバを使う技のタイプを任意で変更可能。この技のタイプ変更はターンを消費しない。
・自身が技を受けた時、こうかがいまひとつであればそのタイプの技のダメージを完全に無効化する。
・戦闘時、非戦闘時問わず常時メガシンカ状態となり、■■■■■から受けるダメージを常時半減する。

シルキーの実の親。戦線維持、継戦能力、個人戦闘完全特化型。
遠い昔、金天巫女、蒼海巫女と並び紅地巫女と呼ばれていた彼女だが、他の二匹と比べそこまで精神がぶっ壊れてないので長すぎる寿命に一抹の寂しさを覚える。ある時剣の様な何かを持ったルカリオと出会い双方一目惚れした。
色々あってハッスルしまくった結果子供が出来たが冷静に考えてこのまま子供を巫女としての仕事に関わらせるのは危険すぎると判断し知り合いのダーテング夫妻にタマゴを預ける。本人は何だかんだ言いつつネグレグトになってしまった事を気に病んでいる。
色違いメガクチート、ちんまいのにクソ強、のじゃロリチックな口調、オッドアイ、全て作者の性癖である。



【種族】サーナイト(メガサーナイト)
【性格】おっとり
【特性】みなものそうしゃ
【レベル】90
【持ち物】サーナイトナイト・キーストーン

【技】
・ムーンフォース
・めいそう
・てだすけ
・いやしのはどう
・しんかいのしらべ

「みなものそうしゃ」
・自身の攻撃技にみずタイプを付与し、威力が1.5倍に上昇する。
・自身の防御、特防の実数値が1.5倍に上昇し、防御、特防の能力値ランクの低下を受け付けない。
・自身の変化技の効果が二倍に上昇し、全ての味方の能力値ランクの上限を解放する。
・自身が技を受けた時、タイプを問わず全ての非接触技のダメージを半減し、みず、こおりタイプの非接触技であれば完全に無効化する。
・戦闘時、非戦闘時問わず常時メガシンカ状態となり、■■■■■から受けるダメージを常時半減する。

精神崩壊秒読み。超広域バッファー兼広域制圧特化型。
こいつに関しては特に言う事は無いというか一章であんま掘り下げてないので開示できる設定があまりない。メガシンカエネルギーの停滞でこいつも精神が壊れ掛かっている。多分旦那さん捕まえたら多少楽になると思う。
金天巫女、蒼海巫女、紅地巫女、三匹合わせて三界巫女と呼ばれているのだが、彼女らの共通点として「全員メガシンカ可能個体」、「全員左目にキーストーンを埋め込んでいる」、「全員フェアリータイプを有している」「全員トレーナーを亡くしている」というものがある。
やけに限定的な共通点だが、裏を返せば全て当てはまれば巫女へと至れる可能性が高いという事でもある。出自が出自だけに蒼海巫女は「巫女」を手放そうとはしない。この左目は己に残されたトレーナーとの最後の繋がりであるが故に。



……設定を吐き出せてわしゃ満足じゃ。まぁ次回更なる解説があるんですけどね。
とは言えいつぞやエンジンを掛けていくとか言っておきながらがっつりエンスト起こしてしまった事は申し訳なく思っています。有限無実行が怖いのでもう何も言わず黙々と書いていきます。それでは次回をのんびりお待ちください。

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