血染めの鋼姫   作:サンドピット

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残業辛すぎンゴ(魂の叫び)

謎にデータが爆散したので残っていた設定と整合性を取りながらデータの修復に勤しんでおりました。
再発防止の為にUSBメモリ買いに行ったんですけど最近のUSBって裏表どちらからも差せる奴とかあるんですね。


再起と予感と種明かし。

 

 

 ――雨が降っている。

 

 ミナモシティのポケモンセンターの中で、ダイゴは一人で外を見ていた。

 手持ちのポケモンはジョーイさんへと預けてあり、特に重篤なフォートの治療に専念すべくラッキーと共に治療室へと向かった。

 

 それから三十分の間ずっと、ダイゴは何も言わずに雨降り止まぬ外を窓越しに眺めていたのだった。

 

 雨の音が強くなる。

 ダイゴが振り返ると、少し前に邂逅したチャンピオン達がポケモンセンターへと訪れている所が見えた。

 

(――あぁ)

 

 いや、まだだ。きっと、大丈夫。

 

 受付で傷ついたポケモンを預けたチャンピオン――ゲンジは、苦い顔をしながらダイゴの元へと歩み寄る。

 長椅子から立ち上がろうとしたダイゴを止め、ゲンジは片膝をついて口を開いた。

 

「……ダイゴ君、だったね。まずは私の言いつけ通りミナモシティで留まってくれていた事に感謝を」

 

(やめて)

 

 聞かなければならない。

 

「そして、謝罪を。ダイゴ君の相棒だが……見つける事は出来なかった」

 

(やめてくれ)

 

 耳を塞いではならない。

 

「“天喰暴竜”の討伐後周辺を捜索したがポケモンの姿は何処にも無かった」

 

(これ以上は知りたくない)

 

 たとえ誰を置いたとしてもダイゴだけは知らなければならない。

 

「プリムが言うにはある地点でダイゴ君とその相棒を繋ぐ絆が見えなくなったらしい。……恐らくは、既に」

 

「……そんな、それはッ……!」

 

 信じられない、そんな筈は無い、嘘を吐くな、シルキーは生きている。

 

 そう感情のままに叫びかけ、思い留まる。

 元よりこれはダイゴが解決すべき問題だった。それが選択を間違え続けた結果通りすがりのチャンピオンに余計な重荷を背負わせる事になった。

 

(恥を知れよダイゴ、これ以上間違えるな。これは、僕が受け止めるべき事だろう)

 

 目端から溢れそうになる涙を堪え、シルキーの捜索に時間を割いてくれたチャンピオンに礼を言おうと口を開き、沈痛な面持ちのままゲンジがダイゴの頭を撫でた。

 

「――え」

 

「子供がそんな顔をするもんじゃない、悲しい時には思い切り泣くべきだ。涙を堪え、悲しみを堪え、たった一人で抱え込んではとても生きていけないぞ。間に合わなかった私に言われるのは、……癪かもしれないがね」

 

 そう言ってゲンジは、懐から壊れた首飾りの様な物を取り出した。

 

「あの場に、これだけが残っていた。この紅い宝石はルビーだろうか、その周りを覆う様に溶けた鉄が付いている」

 

 見覚えはあるか? そう問われ、手に取ったその宝石は。

 

「あの、時の」

 

 かつてシルキーのメガストーンと共に首飾りの装飾へと付け加えたルビーだった。周りの鉄は、シルキーの歯が融けた物だろう。厳密には鋼鉄とは異なる質感のそれを、ダイゴはいつも触れていた。

 

 それを手に取って、ダイゴの目からほろりと涙が零れ落ちた。

 一度抑えていた物が溢れた時、もう一度押し留めるのは容易ではない。次から次へと溢れる涙に、ゲンジはそっとハンカチを差し出してくれた。

 

「――てる」

 

「……何?」

 

 嗚咽と共に、ダイゴは口を開く。

 

「生きてるッ!」

 

 溶けたルビーを通して、シルキーの命脈を感じ取った。今にも掻き消えそうな微かな温もりだが、それでも確かに生を感じる程の熱。

 ダイゴとシルキーの絆は決して途絶えてはいなかった。

 

「なんと……」

 

 ただの妄想と切って捨てる事は出来るが、ダイゴの言い放った言葉には猜疑心を打ち払うだけの熱量があった。

 故にゲンジはそれを真実とした。

 

「あのサザンドラから逃げおおせる程の力があるのなら、きっと大丈夫だろう。早めに見つかるに越した事は無いだろうがね」

 

「早く、助けなきゃ……一人ででも」

 

「それは無謀というものだ、取るべき手は人海戦術を置いて他に無い。……だが申し訳ないがポケモンリーグの力を貸す事は出来ないだろう。彼らの問題は“天喰暴竜”のみであり、私がそれを解決した時点でポケモンリーグは手を引くだろう」

 

 無論、事後処理などは残っているのだが。と続けたゲンジは少し考え、独り言でも言う様に口を開いた。

 

「……世間が考えているよりもポケモンリーグの手はずっと短い、チャンピオンと言えどもポケモンリーグを動かせる事例はそう多くないのだよ。……それこそチャンピオンの持つポケモンに危機が迫っている様な状況でもない限り、ね」

 

 そう言ってゲンジは懐から取り出した一つの飴をダイゴに手渡し、立ち上がってポケモンセンターの玄関口へと向かった。

 

 最後に振り返り、

 

「人が再び立ち上がる為には支える物が必要だ。自信、強さ、戦友、どんなものだって良い。支えも無く立ち上がれば恐怖に足を掬われ、より深い穴に落ちてしまう。己を大切に思ってくれる者の存在を忘れてはいけないぞ」

 

 君が立ち上がり、私の前に立ち塞がる時を楽しみにしている。そう言い残してゲンジはポケモンセンターを去っていった。

 

 チャンピオンが去り、俄かに騒がしくなるポケモンセンターの中で、ダイゴは先程のゲンジの発言を思い返していた。

 

(チャンピオンがポケモンリーグを動かせる事例は限られている、例えばチャンピオンの手持ちが危機に陥っている時とか。……それって、そういう事だよな?)

 

 ゲンジは一つの可能性を提示した。ダイゴがチャンピオンとなりポケモンリーグを動かすという選択肢を。

 

 ダイゴはデボンコーポレーションの御曹司ではあるが、当然ながらデボンコーポレーション内部での決定権などは存在しない。全て父であるツワブキ・ムクゲの物だ。将来的に変わってくるかもしれないが現状はダイゴは実権を持たないのだ。

 父に事情を説明し、社員の動員を願ったとしても首を縦には振らないだろう。今抱えている仕事を投げ出すのは会社としての信頼を投げ捨てるに等しい。奇跡的に人員の動員を約束されたとしても10人貰えれば御の字といった所か。

 化石研究所の面々には化石の贈与で恩を売っているのでもしかしたら動かせるかもしれないが、それでも前述の社員と合わせて20人位が限界になってくるだろう。一人で探すよりかは遥かにマシだが、それでも非効率極まりない。

 

 ゲンジが示した可能性は果てしなく遠く、限りなく近い道だったという訳だ。

 

 己が進むべき道は未だ変わらず、ただそれが茨の道を進む物となったというだけだ。

 

「……分かったよ、僕がやるべき事は変わらない」

 

 融けたルビーの首飾りを握りしめ、ダイゴは決意を新たにする。

 

「君が生きているというのなら、僕も道を逸れずに前に進む」

 

 折れた心は再び火を灯し、静かに、されどかつてない程の熱意でもって宣言する。

 

「――一ヶ月だ。一ヶ月でホウエンのどのトレーナーよりも強くなってチャンピオンを獲りに行く」

 

 そして、絶対にシルキーを迎えに行くよ。

 待っていてくれ。君に会って、話がしたいから。

 

 

 

 

 

「ふふっ」

 

「……どうしました? そんな急に笑って」

 

 ホウエン東部上空を一匹のボーマンダが翔ける。

 その背にはボーマンダの主であるゲンジと、途中で拾ったプリムが乗っている。

 

 空気抵抗はプリムが防いでいる為会話をするのに問題は無いが、空を飛んでいるポケモンの背に乗りながら喋るのは本来褒められた行為ではない。

 まぁ他に止める者もいない為二人揃って気が緩んでいるのだが。

 

 そんな中でゲンジは先程話をした少年の目を思い出して笑っていた。

 

「いやなに、次の世代が私を追い越す時が直ぐにでも来るかもしれないと思うと、な」

 

「……ダイゴ君の事ですか? 申し訳ありませんがあの年で相棒を失った彼が再起を果たすとは……」

 

「彼の相棒は生きている。ダイゴ君は確信を持って言っていたよ」

 

「それは、いえ、私の力で辿れない物を辿れるというのであればそれ程強固な絆があるという事なのでしょう。あの惨状を作り出したサザンドラ相手に生き残るのであれば余程の事では死なないでしょうし」

 

「……うむ、そうだな」

 

 常日頃から真っすぐ言い切るゲンジにしては珍しく言い淀む様子に首を傾げる。

 

「何か引っかかる事でも?」

 

「根拠は無いのだが、私は何者かにあのサザンドラを討伐するように誘導された気がしてならんのだ」

 

 そうゲンジに言われ、プリムはあの時の情景を思い返す。ボロボロで瀕死一歩手前、あと少しで命の灯が消えそうになっていたにも関わらずゲンジのボーマンダ相手に互角以上の戦いを演じていた。

 これが万全な状態であればゲンジといえども死力を尽くして戦わねばならなかっただろう、異常個体の王と呼ばれるにふさわしいサザンドラ。

 

 もしもあの傷が死に物狂いでダイゴの相棒が付けた物ではなく、あのサザンドラよりも強い者が付けたのだとすれば?

 

「ありえない、と言うよりは考えたくない事ですね」

 

「うむ、いずれにせよポケモンリーグはこの件から手を引くだろうし、警戒だけで終わるだろうな」

 

 そう言ってゲンジは空を飛ぶボーマンダの背を撫でる。

 サザンドラと戦っていた時、ゲンジのボーマンダは尋常でない怒りを抱えていた。

 

 最初は数多の命を奪ったサザンドラに怒っていたのかと思っていたが、戦闘を通してサザンドラ以外の何かに怒りを向けている事が分かった。

 プリムの索敵に引っかからない相手がいるのかと疑ったが、本人も明言している通り超能力者にも出来ない事はある。

 

 何者かがいる想定で動いていくべきだ。ボーマンダも何に怒っていたのか全く教えてくれないし。

 

「……これから忙しくなるぞ」

 

「まぁ今回の件での事後処理が残ってますから、忙しくもなるでしょうね」

 

 そういえばそうだった……。

 

 ボーマンダの背中に乗りながら、ゲンジは慣れない仕事をこなさねばならない未来を少し憂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い眠りから目を覚ます。

 

 暗い海の底から浮き上がるようなこの感覚は、以前にも味わった事がある。

 あれは、そう。この世界にクチートとして生を受けた時と同じ……。

 

『全く、次は正しい玄関から来いと言っただろうに。しかしまぁ、新たなる逸脱者の誕生だ。歓迎しようか』

 

 頭に響くその声に導かれるがまま目を開け、顔を上げた。

 

 白磁の陶器を思わせる無機質な肌を持つ、巨大な鹿を思わせる神々しいポケモン。

 

 ある者が見れば、全世界の芸術の粋を束ねても尚届かない美の一つの終着点と称えるだろう。

 

 ある者が見れば、牙や爪を持たず、即ち武器を必要としないその姿から始まりの一を連想するだろう。

 

 ある者が見れば、自身が知るポケモンから逸脱したその気配に畏れを抱き、超越者として扱い傅くだろう。

 

 世界の理に縛られた者が幾ら手を伸ばそうと影すら触れられぬ高み。

 

 人やポケモンは、それをこそ神と定義した。

 

『久しぶりだね、シルキー君。目覚めの気分は如何かな?』

 

 この世界を創ったと言われる神、アルセウスがこちらを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 いや何でいるの? シンオウの伝説でしょ君。

 

 アルセウスが気を使ってくれたのか、威圧感の様な物は感じられなかったが、代わりに脳裏を過ったのは恐怖や畏怖などでは無く困惑や混乱。

 現状が何一つ把握出来ていなかった。

 

『テンガン山が入り口に一番近いというだけでシンオウに住んでいるつもりは無いのだがね。前回と違って会話は出来るようだし、聞きたい事があるなら答えよう』

 

 えぇっと、まず現状の整理から行おう。

 

 直近の記憶は古代塚近辺で異常個体のサザンドラと戦闘を行った辺り。決死の思いでサザンドラに一矢報いんと頑張ったが、結局勝てずに力尽きた、と思われる。

 ……そういえば力尽きる前に何かを見た様な……。あれは何だったのだろう。

 

 さて、記憶は自覚できる範囲では問題は無い。問題はこの空間との関連性だ。どう好意的に捉えてもポケモンセンターには見えない。

 まさかとは思うが、死後の世界なのか?

 

『いや、現実の君はちゃんと生きている。今はまだ眠っているが。ここにいる君は剥離した魂がこの世界で具象化した物……まぁ夢の様な物とでも思っていればいい、現実の君が目覚めればここの君も現実へと帰還する』

 

 取り敢えず死んだ訳では無いと分かって一安心である。

 しかし、話している途中で疑問に思ったのだが俺はアルセウスと何処かで会った事があるのか? どうにも思い出せない、というか記憶に残っていないのだが。

 

『以前、つるぎのまいの技マシンを使った事があっただろう? その時に君はここに来た事があったんだよ。まぁ私の姿どころかこの空間を認識出来ていなかったらしいが』

 

 だからまぁ、私が一方的に知っているだけだよ。と続けたアルセウスだが、待って欲しい。

 何故技マシンを使うとアルセウスのいる空間に飛ばされるのか。あれはシルフカンパニーの技術であり、アルセウスの介在する余地は無いと思うのだが。

 

『あぁ、それは私の持つ原典の劣化品の劣化品を組み込んでいるからだな。微弱なれど使用を探知する事は出来る』

 

 えぇ……。

 

 詳しく聞くと、ゲームにおけるアルセウスのタイプを変える事が可能となる各種プレート、あれはアルセウスの持つ一点物の“原典”と呼ばれる石板から派生した模造品であるらしい。

 原典にはそれぞれに対応するタイプの全ての技の情報が書き記されており、劣化品のプレートにも同じ物が書かれている。原典のコピーと言えるプレートが砕けた物が赤いかけらであったり青いかけらと呼ばれる物の正体だ。

 

 シルフカンパニーはそのかけらから特定の技の情報を引き出し、わざマシンとして売り出しているのだった。

 

 知らなかった……。

 

『ここに来た者には特別に私の持つ原典に技の名を刻む事を許している。プレートの方に情報が反映される訳では無いから自分だけのオリジナル技を創れるぞ』

 

 試してみるかね? そう問うたアルセウスに、俺は即答できなかった。

 この場所に来てから怒涛の情報量で頭がパンクし掛けていたというのもあるが、それよりもずっと気になる事があった。

 

 ――俺を転生させたのって、アルセウスなんじゃないか?

 

 疑念が形になったのは、この良く分からない空間で目覚めた時に覚えた感覚だ。それでも最近まで自分が転生した要因を考える事を忘れていたが。

 

 伝説のポケモンというのはどいつもこいつも理不尽極まりない理外の怪物だらけだが、それでも「常識から外れた」程度で済んでいる。

 だが、シンオウの伝説であるディアルガ、パルキア、ギラティナ、それらを生み出したアルセウスは、文字通り生きている次元が違う。

 

 死者の魂をどうこう出来るのはシンオウ三神、そしてアルセウスだけなのではないか、そう考えたのだ。

 

『……うん、別世界から渡航した魂をこの世界に順応するように作り替えるのは君達が伝説と呼ぶ存在の、更に一握りの者達だけが行える。その上で言おう、君を転生させたのは私ではないよ』

 

 ……なんと。

 いや、だが考え方自体は間違ってはいないらしい。しかし、そうなるとアルセウスと同格クラスの奴がいる事になるが……そんな奴いただろうか?

 

 ディアルガ? パルキア? それともギラティナ? いいや、彼らもまた埒外の力を持っているがアルセウスと比べると一歩劣る。

 

 そんなこんなで考えに耽る俺の意識を掬い上げる様に、アルセウスがコツリ、と前脚で床を叩く。

 

『君がどこまでこの世界の知識を有しているかを私は知らない。故にこそ、君に一つの問いかけを投げ掛けよう』

 

 コツリ、コツリ、コツリ。

 三度前脚で床を叩けば、そこを起点に暗闇しかなかった謎の場所が何処か別の光景へと書き換えられていく。

 

 それを眺めながら、俺はアルセウスの問いを待っていた。

 

『――ウルトラホールと呼ばれる物を知っているか?』

 

 その問いは、俺の想定を軽く超えていた。

 

 

 

 

 

 ――ウルトラホール。

 

 そう呼称される物を、俺は知らない。

 

 運良く手に入れた初代、赤・緑を始め、第二世代の金・銀、第三世代のルビー・サファイア・エメラルド、第四世代のダイヤモンド・パール・プラチナ、第五世代のブラック・ホワイト・ブラック2・ホワイト2、第六世代のX・Yまで。

 リメイク作品であるファイアレッド・リーフグリーン、ハートゴールド・ソウルシルバー、そしてオメガルビー・アルファサファイア。

 

 今まで触れた事のある作品の――世界の知識を引っ張り出し、隅々まで引っ繰り返して尚、ウルトラホールという言葉は出なかった。

 困惑を浮かべる俺を見て、アルセウスは納得がいったかのように首を縦に振った。

 

『ウルトラホールとは、アローラ地方にて稀に出現する別世界への入り口だ。アローラ地方を知らない君に分かりやすく言うなら、そうだね。……ギラティナの管理する破れた世界へと繋がる影を思い浮かべてくれれば、そう相違は無い』

 

 コツリ。

 

『このウルトラホール、自然現象である事にはあるのだが、大本を辿れば一匹のポケモンが引き起こした災害だ。矢鱈と世界を繋いで別次元のポケモンを引っ張り出してくる迷惑極まりない奴だ』

 

 コツリ。

 

『そのポケモンは日に日に力を付け、遂にこの世界の外へとウルトラホールを繋げるまでに至った。まぁ、とてもか細い物だったが』

 

 コツリ。

 

『あぁ、本当に細い物だ。肉体を持ったまま通り抜ける事は叶わず、死して魂だけとなって尚狭く、魂を構築する情報――記憶を限界まで削ぎ落としてやっと通れる程にね』

 

 コツリ。

 

『君には記憶が無い筈だ。君がかつて人間だった時、好きだったお菓子は? 何処で生まれ、如何にして育った? 好きな遊びは何だった? 子供の頃の夢は? 生前の性別は? かつて持っていた名前は? ……何も覚えていないだろう、ウルトラホールを通る時に、楔となるこの世界の知識以外の殆どの記憶を置いてきたのだから』

 

 そ、れは……。

 何回か、覚えがあった。前世の記憶がある事を自覚していたのに、記憶に妙な虫食いがある事に違和感を覚え、それでも不思議に思う事は無かった。

 “そういうもの”として、思考を放棄していた。

 

 それが、ウルトラホールとやらを通った事による弊害なのか。

 

 しかし、そうだとすると、俺が転生したのはアルセウスやそれに連なる者の手によるものではなく、ただの事故だったと言う事か。

 

 足元がガラガラと崩れていくような恐怖を覚え、それでも安堵した。

 何者も介入する事無く、この命が、この魂が再び生を得たという事。誰かの期待に沿う事は無く、誰かの命令に従う事も無く。あるがまま、自分の意志で新たな生を享受出来るのだ。

 

 いきなり何を言い出すのかと思っていたが、訂正する。教えてくれてありがとう、俺は俺の思うがままに生きる事にする。

 

『君の道を照らす光となれたのなら話して良かったよ。……さて』

 

 こちらを見下ろしていたアルセウスが、スッと俺の背後へと目を向ける。

 

 パキリ。

 

『せっかく説明している最中なのにちょっかいを掛けてくるのは止めてくれないか?』

 

『コツコツコツコツうるせェな、邪魔すんなよ』

 

 バキリ。

 

 アルセウスが書き換えた空間に罅が入る。

 慌てて振り返った先には、罅割れた世界から溢れ出す極光。目を焼くのではと思う程のそれに、しかし俺は目を逸らせない。

 

『そいつが俺の孔を新たに通ってきた奴だろう? なら俺も顔合わせくらいしとかねェとな』

 

 罅が広がり、――世界の一部が砕け散る。

 眩い光を背に現れたのは、こちらも光に溢れた存在だった。

 

 虹の眼と四枚の翼を持つ竜、というのが一番近いだろうか。

 陽光や月光に似通った、それでいて両方を内包するかのような神々しい光を見て、理解した。

 

 こいつは、アルセウスと同じ場所にいる存在だ。

 

 あらゆる命から、神と呼ばれるポケモンだ。

 

『自己紹介と行こうか、俺の名はネクロズマ。言い辛ければまァ、かがやき様とでも呼べばいい』

 

 お前は知らねェだろうがな、と笑ったその竜に、今度こそ頭がオーバーフローした。

 

『いきなり来る事は無いだろう、いつもは興味すら持たぬ癖に』

 

『いやァ、人間の姿を選ばずにポケモンの姿を選んだ物好きに稽古でも付けてやろうかと思ってなァ』

 

『……どうせお前が戦いたいだけだろう』

 

 アルセウスと、……ネクロズマ? が急に言い争いを始める。

 混乱する頭を何とか落ち着かせて二匹の会話に耳を傾けていると、アルセウスが呆れを滲ませた声音で投げやりにそう言った。

 

 しかし、この流れはあれか? 特訓か?

 いやまぁ自発的に起きれないなら起きるまで暇だし良いんですけども。なんて事を考えているとネクロズマがこちらを向いて口を開いた。

 

『決まりだな、お前に格上と戦う術を教えてやろう。それ以外の時はそこの白い奴から聞きたい事を聞けばいい』

 

『そこの眩しい奴は手加減下手糞だから苦しくなったら私に言うと良い。体調を万全にする位はしてあげよう』

 

 とまぁ、ネクロズマと特訓をする方向に流れていった。

 

『おいアルセウス、早速やらせろ』

 

『言うまでも無いと思うが、世界に影響を及ぼす様な真似はするなよ』

 

 分かってる分かってると流すネクロズマから、闘志が漏れ出す。

 

 それに呼応して、何処か夢心地だった己の視界が鮮明になり、身体の輪郭が定まる。

 

(……あれ、メガシンカ状態のままなのか)

 

 自分の身体を見回すと、大顎が二つに分かれたままだった。

 まぁ好都合だ。本当はアルセウスにもう少し聞きたい事があったのだが、後でにしよう。今更「やっぱ無しで」と言っても聞き入れて貰えなさそうだし。

 

 目を閉じ、心を落ち着ける。

 

 実の所、伝説と戦えるというシチュエーションに興奮している自分がいる。それが己の知らぬ伝説だとしても。

 

 静かに目を開け、前傾姿勢を取りネクロズマを視界の中心に添える。

 

『あァ、良い目だな。見覚えがある眼だ』

 

 ネクロズマは笑う。

 

『ただ目的も無く戦うってのも気が乗らねェだろ、課題をくれてやる。――目覚めるまでに10秒生き残って見せろ』

 

 出来やしねェだろうが。

 そう嗤うネクロズマに、僅かながら反骨心が湧いた。

 

 幾ら伝説とはいえ、10秒も生き残れないと思われているのか。

 これでも生存力には自信がある方だが。いやまぁ少し前にサザンドラに殺されかけたけども。

 

 俺の実力が「10秒も生き残れない」ものだと言うのなら、全霊でもってそれを超えて見せようか。

 

 そんな俺の油断と慢心を。

 

 “じゃれつく”

 

 

 

 “あけのみょうじょう”

 

 

 

 現状最大火力の技を放つ自分の身体ごとネクロズマは蒸発させた。

 うん、無理。

 

 




異常個体は大まかに分けて三種類存在し、

異常種(普通の異常個体、天喰暴竜もこの域を出なかった)

超常種(常軌を逸する何かを捧げ力を手にした異常個体、三巫女がこれに該当する)

創世種(世界の在り方に手を加えられるイカれた奴ら、もう異常個体とかそういう次元じゃない。シンオウ三柱、アルセウス、Uネクロズマがこれに該当する)

という序列になっております。まぁ世間は超常種も創世種も認識出来てないんでこの単語はマジで覚えなくて大丈夫です。
というかシンオウの伝説と同じ舞台に立てそうな奴がかがやき様位しかいねぇんだけど。

以下本編の内容ダイジェストクソ長質疑応答。

Q.結局主人公の転生の原因は?

A.Uネクロズマがやたらめったらに開けたウルトラホールに死後迷い込んだ。渡航中に自分と目的地を繋ぐ知識以外の記憶を殆ど無くしている為、要所要所で主人公の過去が出そうになる度に思い出せなくなっていた。結論としてはただの偶然。(ウルトラホールが転生の原因であると最初期に疑った人がいてビビった。あの時の方、正解ですよ)

Q.シルキーってアルセウスと面識あったの?

A.シルキーは覚えてないけど一度会ってる。10話の「誰でも楽に強くなりたいという願望はある。」の回で技マシンを使った時アルセウスのいる謎の場所に裏口から入った。使用直後のクソ長空白でアルセウスが初めてシルキーに話しかけている。(……実はこのアルセウスのセリフ、本来は反転文字にする予定だったのだが横着して文字色を白くするだけに留めた。背景設定を変えて呼んでる人にとってはこのアルセウスのセリフは隠れてすらいなかった)

Q.なんで技マシン使うとアルセウスと出会えるの?

A.技マシンが各プレートから剥がれ落ちた各色の欠片を原材料に用いているから。(独自要素)

Q.かけらとプレートとアルセウスの関連性は?

A.アルセウスが己の力を増幅させるために作り出した全ての技が記載された18枚の「原典」、その原典のコピー或いは型落ちとして世界中にばら撒かれたのが各タイプの「プレート」、そのプレートが砕け、プレートの中の一つの技の情報を持つあかいかけらやあおいかけらと言った「欠片」が出来た。それが持つ力の強弱はあれどその全てが例外無くアルセウスの管理下であり、シルフカンパニーが技マシンとして加工した後もその性質は引き継がれている。

Q.つまり?

A.技マシンは全てアルセウスの持つ眼である。(言うまでも無く独自要素、かけら自体謎の代物なので好き勝手設定付け足した)

Q.アルセウスがいる謎の場所って他に誰か来た事ある?

A.創世種を除いても結構な数の異常個体が来た事がある。誰一人ここでの記憶を覚えていないが。因みに三巫女はアルセウスの持つ原典に新しい技を刻んだ事がある。

Q.シルキーってUネクロズマ知らないの?

A.知らない。シルキーの持つ知識はORASで止まっている為、Uネクロズマがどういう存在かまるで知らない。因みに不落要塞イワパレスの元マスターは第八世代の知識まで知っている。

Q.何でUネクロズマはシルキーと戦ったの?

A.何となく。あいつの言ってた「格上との戦い方を教える」というのはただの方便で実際は自分が戦いたかっただけ。シルキーもシルキーで特に何も考えず頷いたせいで酷い目にあった。

Q.Uネクロズマってどのくらい強い?

A.アルセウスを除けば勝てる奴がギラティナしかいない程度には強い。アルセウスは戦い自体無かった事に出来るし、ギラティナはUネクロズマが光を使う度に強くなるのでこの二体には相性が悪いとも言う。

Q.アルセウスとUネクロズマのステータスは?

A.言えぬ……。(その内出すんじゃないかな。因みに“あけのみょうじょう”は本来1ターン貯める技)

Q.何で一話にこんな詰め込んだの?

A.読みやすさを重視するなら確かに詰め込まず複数話に分けた方が良いかもしれない。が、ダメ……! ただでさえクソみてぇな投稿速度なのに説明会が連続するのは確実に悪手……! 読みにくくても一話に詰め込み、さっさと本筋に戻す事を優先すべき……!

Q.執筆速度上げれば解決する問題では?

A.それを言われると何も言えなくなる。すまない……本当にすまない……。

あ、何かこの作品投稿し始めてから一年経過してました。何かもう待たせまくって申し訳ないですが今後ともよろしくお願いします。
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