色々あって謎の場所に飛ばされたシルキーはそこで出会ったウルトラネクロズマによって蒸発させられた。
『当然だが、何も最初から異常個体と呼ばれる存在がいた訳ではないのだよ』
そう言ってアルセウスは襤褸雑巾の様に転がる俺の身体を修復した。
これで大体四百回位だろうか。何れも瞬殺なので然程時間は経っていないように思える。
『というかそもそも異常個体が現れる様にこの世界を創った覚えは無い。今は私の手を離れている時間と空間の管理者もそれは同じだ』
反転世界の管理者はそもそもそんな法則を創る意味も無いしな、と続けるアルセウス。
異常個体が、生まれる筈では無かった存在というのなら彼らの正体は何だというのか。
『君達が伝説と呼ぶポケモン達は言ってしまえば“ただ強いだけのポケモン”でしかない。異常個体とはとても言えないだろう。だがたった一匹、自身が持つ力を最大限に引き出す事で自分に当て嵌められた枠組みを逸脱したポケモンがいた』
話の流れから察するにそれは……。
『逸脱者の始祖、始まりの異常個体、それこそがネクロズマだ。かつて持っていた“拡散”と“収束”の力は“贈与”と“簒奪”の力へと姿を変えた。己の光で世界を満たし、自分と同じように壁を逸脱しうる可能性の種を全てのポケモンに蒔いた。その光の種は脈々と受け継がれ、誰もが異常個体となり得る世界を作り上げた。ネクロズマは、文字通り己の力で新たな世界を創り上げたのだ』
それこそが異常個体の正体。ネクロズマの光を僅かながらに受け継いでいったポケモン達が限界を超えた事で本来定められた枠組みから外れた存在なのだ。
『そうして世界に光が満たされたなら、ネクロズマはきっと自分が与えた全ての光を簒奪するだろう』
光を与え、光を奪う。それこそがあの極光の竜の本懐と言えよう。ただ生き永らえるだけではなく、自らが強敵と定めた存在を何時の日か打倒するために。
カツリとアルセウスが床を叩き、空間が修復される。
『長々と語ったが、そろそろ目覚めが近いな。シルキーよ、ここでの経験を糧に強くなれ。私も、そしてあいつもそれを期待している』
そうアルセウスが言うと共に世界が朧気になっていく。いや、自分の視界がぼやけているのだ。頭に霧が掛かったように思考が鈍くなり、意識は覚醒へと向かう。
目の前でこちらを見下ろすアルセウスと、飽きたのか遠くで寝転がるネクロズマに深く感謝の意を示し、そうして意識は闇に沈んだ。
大体三日程の出来事だったが、かなり濃密な経験であった。
『あァ、そういや言わなくて良かったのか?』
『何をだ?』
『ここ、時間の流れがあっちと違うだろ』
『それを言った所であの子が早くここから出られる訳では無いだろう? 言う必要は無かったと思うが』
『……色んな事教えるっつっといてそれかよ、ッたく。だからシンオウのチビ共に嫌われるんだぞ』
目を覚ます。
夢を見ていたような気分だった。
だが、あの場所での記憶は一切薄れていない。
アルセウスも、ネクロズマも、しっかりと覚えている。
(まぁ、また会うかと言われると微妙な所だけど……)
今回だって俺が死にかけ、異常個体の様な力を手に入れ、気絶したからあの場所に辿り着けた。
次は無いと思っていいだろう。
さておき。
俺が目覚めたこの場所は木造の家の様な場所だった。
いや、というより木そのものに見える。巨大な樹木の洞の中を木製インテリアで飾り付けた様な印象を覚える。
(この感じの家、何処かで見た様な……)
脳裏に過った既視感を確かな物にすべくより注意深く周囲に目を向け、
『……目が覚めたか』
「クチッ!?」
俺が寝ているすぐ傍にルカリオがいた。
びっくりしてそのまま飛び起きようとして――事ここに至り、自分の身体が思う様に動かない事に漸く気付く。
『まだ動くな。波動の循環が乱れている、少しずつ力を身体に馴染ませるんだ。深呼吸でもするといい』
目の前のルカリオに色々と聞きたい事があったが、身体が痺れた様に動かないので言われた通り深呼吸をする。
「チィ……クゥ……」
(……ん、あれって)
ふと、ルカリオの腰元に目を向ける。
黒色の帯が鍔の部分から二枚生えた黄金色の剣、ギルガルドと呼ばれるポケモンがルカリオの腰にへばり付いていた。
ただギルガルドの半身とも呼べる円盾が無いのが気になるが……、まぁそれは後で良いだろう。
深呼吸を続け、身体の痺れが取れて段々と動けるようになった辺りで改めてルカリオへと向き直る。
『やはり彼女の子だな、回復が早い。落ち着いてきたなら君が寝てからの事を話すつもりだったが……、彼女から聞いた方が良いだろう』
「チィ?」
彼女、とはいったい誰かと首を傾げ――
『――目が覚めたか!?』
ダダダダと疾走する音を響かせた後、大きな音を立てて木製の扉が勢い良く開かれた。
「クッ――」
現れたのは真紅に染まる一対の大顎を携えたやや小柄な人型のポケモン。
メガシンカしたクチート、その色違いであった。
自分の未来の姿を映したようなそれに、暫く呆然としてしまう。
が、そんな事はお構いなしとばかりにメガクチートの方はこちらに駆け寄ってきた。
『良かったぁ! もう目が覚めないかと思っておったぞ妾は!』
『大袈裟な事を言うな、君の時よりかは随分と早いだろう。君は一年は目が覚めなかったと聞いたが』
『うむ、恐ろしく早い回復力よ。左眼の順応も順調であるし、妾達以上に才能があるのかものぅ』
自分に抱き着き頬ずりし始めたメガクチートは己の見解をルカリオと共有していた。
しかし、……左眼? そういえばこのメガクチートは左眼が虹色に輝いているが、それと何か関係があるのだろうか。
『む、そういえば何も教えておらんかったな。旦那様よ、その子を貸しておくれ』
『こいつは鏡じゃないんだが……』
メガクチートがルカリオの腰元からギルガルドを奪い去る。心なしかギルガルドの目には呆れが宿っているように見えた。
それはそれとして、良く磨かれたギルガルドの刀身を向けられ、そこに映る俺の姿を見て驚愕した。
色違いなのはいつも通り、メガシンカが継続状態なのも先程確認した。
だが左眼だけが虹色の光を帯びて異質に輝いていた。
「――クゥ」
(これ、キーストーンか?)
左眼の虹の模様には心当たりがあった。あのサザンドラと戦う前、注意を引くためにダイゴからぶんどったキーストーンとそっくりだったのだ。
そこまで思い至り、何故目の前のメガクチートがメガシンカ出来ているのか、何故自分の左の視界が復活しているのか、漸く理解できた。
『シルキーよ、お前には妾と同じ施術を行った。その虹の左目はお前が持っていた絆を繋ぐ石――今はキーストーンと呼ぶのだったか――を埋め込み馴染ませた物じゃ。その左眼を起点に力を循環させ、妾達はこの姿を保っている』
あまり良い物でも無いが、とギルガルドをルカリオへと返却しながらメガクチートは続けた。
『あのサザンドラとの戦いでシルキーの身体は暴走を引き起こした。それを押し留める為にキーストーンを適合させた訳だが、それはそれで別の暴走を引き起こしかねない荒療治でな……。新しい力に身体を馴染ませるのにとにかく時間が必要だったんじゃ』
やや迂遠に語るメガクチートに、そこはかとなく嫌な予感がしてきた。
『遅くなったが結論を述べよう。シルキーが天喰暴竜サザンドラと戦ったあの日から、凡そ三ヶ月が過ぎた』
そうか、三ヶ月も。
……。
……え、三ヶ月!?
まず大前提として。
覚醒から暴走に至り昏倒したにしては三ヶ月はかなり短い方だという。
それでいて身体はちゃんと肥大化した力に適応出来るように作り替えられているというのだから考え得る限り最速かつ最高であったと言えよう。
――そこまでの好条件が揃って、三ヶ月である。
アルセウスから軽く聞いていたとはいえ、余りにも長い。
同じ歩幅で歩いていた仲間達が遠くへ行ってしまうには十分すぎる程に、長い。
(……ダイゴ達は、やったんだな)
今のホウエンチャンピオンの名はダイゴである。
これがあのメガクチートに告げられた一言である。
ダイゴ達は無事に生き延び、三ヶ月も掛からずに前チャンピオンのゲンジを下した。
そこに俺はいなかった。
(ダイゴ達は生き延びて夢を叶えた。俺も何だかんだで生き残ってる。これ以上望むべくもない結果じゃないか)
あのサザンドラを相手にして誰一人死ぬ事無く幕を下ろした。万々歳の戦果だろう。
(……なのに、何で)
あぁ、しかし。
この胸の内に去来する熱情は。
(何でこんなにも悔しいんだ)
紛れも無い悔しさが熱を以て身体を焼く。
分かってる。分かり切ってる。
ダイゴをチャンピオンにするのは俺の夢だった。相棒として、ダイゴ達のエースとして、四天王を下し、ゲンジを退け、チャンピオンの座へと向かわせるのは俺の役目でありたかった。
だがそれは叶わず、ダイゴ達は俺がいなくてもチャンピオンへと至った。
あぁ悔しいさ。俺がダイゴのパーティの中で最も強かったという自負もあっただけにより一層悔しいんだ。
何でもう少し早く起きれなかった、何で暴走する程に力を引き出した、何でサザンドラから逃げる事が出来なかった。
ありとあらゆる後悔が押し寄せ――
「――ヂッ」
パン、と頬を叩く。
その場その場の最善を選び続けて今に至ったんだ、最早変えられない過去を嘆いても何の意味も無い。
ついさっきまで、どの面下げてダイゴに会いに行けば、等とも考えていたが……止めた。
何を言われてもいい、拒絶されたっていい、すぐにでもダイゴに会いに行こう。色々考えるのはその後だ。
『寝ないのか』
「クチッ!?」
大きな月が見える巨大樹の枝に腰かけたまま決意を新たにしていると、背後からギルガルドを腰に提げたルカリオが話しかけてきた。
ルカリオが隣に座った為帰るに帰られず、すごすごと座り直す。
『彼女はここに住めと言っていたが、そういう訳にも行くまい。シルキーにはトレーナーがいるものな』
ルカリオのその言葉で思い返されるのは諸々を話し終えた後に妙に甲斐甲斐しく世話を焼いてくるメガクチートの姿。
そこまでして引き留めようとしなくてもと思わなくもない一幕だった。
『引き留める、とは少し違うな。基本的に彼女はシルキーがどのような選択を取ろうとそれを尊重するだろう、多少なりとも葛藤はするだろうが。ここで暮らそうと言ったのは彼女がシルキーの親だからというのもあるが、ただ許してほしがっているだけだ』
許し。
ほんの僅かな間しか喋れていないが、あのメガクチートがそんな悲観的というか自罰的な性格だとは思えなかった。
『一応、私もシルキーの親ではあるから彼女の気持ちは分かる。命の危険から遠ざけると言い訳して自らの子を森に捨て、その後一切姿を見せず、やっと再会したのは恐れていた命の危険にシルキーが直面した時だ。どのような顔をして会えばいいのか、自分達に出来る事はあるかと考えてしまう』
そう語るルカリオだが、正直この世界について大分詳しくなった今では俺が生まれたあの森はとんでもなく平和だったと思う。
砂漠なんぞに捨てられていたら三日と経たずに食われていたであろう事は想像に難くないので、この件に関しては俺から感謝を伝えたい。
それに、様々な葛藤があのメガクチートにあったとしても俺が目覚めた時にすぐに部屋に転がり込んで心配してくれたではないか。
あれは心からの本心だったのだろう。ならば捨てただとか使命だとか気にせずに接してほしいものだ。
『……そう、か。そうだな、……ありがとう。私達に出来る事があれば何でも言ってくれ、私も彼女もシルキーに力を貸そう』
今日はもう寝ると良い、というルカリオの声に従い俺は巨大樹の洞の中に戻っていった。
……明日二人に今後の計画を伝えよう。
『――で、いつまでそこにいる?』
シルキーが戻った後、巨大樹の枝に腰かけたまま徐に零す。
程なくして頭上から彼女――スペルビアが降ってくる。
『……妾が気付いていないとは思わなかったのか?』
『ホウエンの半分が感知範囲内の癖に間近の会話が分からないとは面白い冗談だな。それに何年の付き合いだと思っている、お前の考える事くらい分かるさ』
ぐぬぬとしかめっ面を浮かべるスペルビアを隣に座らせ、口を開く。
『妾達は、やり直しても良いのか』
『やり直すんじゃない、新しく始めるんだ』
『――そう、か。そうじゃな』
スペルビアが夜空を見上げる。自分の中で渦巻いていた蟠りが解けた様な顔だった。
彼女の悩みを解きほぐしてくれたシルキーに内心で感謝しつつ、口を開く。
『そういえば、シルキーのやりたい事とは何だろうな? まだ聞いていなかったが』
そう零すとスペルビアはきょとんとした顔でこちらを見た。
『そりゃあ、あるべき場所に帰りたいんじゃろ。ここをその場所に思ってくれれば、なんて思ってたりもしたがあの様子を見るに無理じゃろうのー……。まぁ仕方あるまいて、そろそろ寝ようか旦那様よ』
しかしただ送るだけじゃつまらんのう……と言って、一対の紅い大顎を鳴らしながら樹の中に戻っていくスペルビアにそこはかとなく嫌な予感がしてきた。
長い付き合いでスペルビアが大顎を打ち鳴らしながら独り言を呟く時は大概ろくでもない事を言い出す時だった。
(変な事を口走らなければ良いのだが……)
そう願いながら自分も大樹の中へと戻っていった。
翌日。
すぐにでもダイゴに会いに行きたいと願ったシルキーに対し、スペルビアはこう言った。
『シルキー! ホウエンのジム全部に襲撃を仕掛けるぞ!』
案の定ろくでもない事を言い放ったスペルビアに頭が痛くなった。
不調を案じる様に背中辺りを摩った腰元のギルガルドに一言礼を言い、突然の事に困惑しているシルキーと共にその結論を出すに至った経緯を聞き出す事にした。
ちなみに蒼海巫女の名前はアケディアという。
三巫女が実は七巫女だったとかそういう展開にはならないのでご安心を。
【種族】アルセウス
【性格】きまぐれ
【特性】ゆいいつしん
【レベル】empty
【持ち物】無の原盤・炎の原盤・水の原盤・草の原盤・雷の原盤・氷の原盤・闘の原盤・毒の原盤・地の原盤・飛の原盤・超の原盤・虫の原盤・岩の原盤・霊の原盤・竜の原盤・悪の原盤・鋼の原盤・妖の原盤
【技】
・ありとあらゆる
・すべてのわざを
・おもうがままに
・しはいかにおく
「ゆいいつしん」
・全ては私から始まった。
・時間の流れも、空間の歪みも、暗黒の淀みでさえも私から分かたれた枝葉に過ぎない。
・なればこそその源流である私には無数に分かたれた全ての力を扱う事が出来る。
・戦いという行為すら、私の許可が無ければ最初から無かった事になるだろう。
異常個体:“神”
・ホウエンではなくシンオウ地方に古くから伝わる伝承に登場する神であるらしい。
・こちらの管轄外なので記録に残す必要は無いが現地でシンオウチャンピオンから神についての話を伺った所快く応じて下さった為記録する。詳しくは下記参照。
・「太陽も、月も、星も、この世界も何もない暗闇に一つの卵があった。その卵から一匹のいきものが生まれた」
・「いきものは暗闇の世界を恐れ、18の小さな世界を創り上げた。しかしその世界はいきものが暮らすには小さく、脆すぎた」
・「そこでいきものは、自分では無く他の生き物が暮らす世界を創る事にした。それを見る方がきっと楽しそうだと」
・「いきものは自分の身体から、時間と空間、そしていきものの周りにある暗闇を小さくした三匹の生き物を創った」
・「次にいきものは自分の身体から知恵と感情と意思を持つ三匹の生き物を創った」
・「いきものは、六匹の生き物と共に大きな大きな世界を創り上げ、最後に18の小さな世界の破片を撒いた」
・「それぞれの世界の破片は海を創り、大地を創り、空を創り、小さな生き物達を創り上げた。我々の生きる世界の完成だ」
・「それからいきものは、世界の外側から私達の生きている様子を楽しそうに見守り続けている」
・以上がシンオウチャンピオンによって解読されたある祠の碑文の一部です。興味を持った方はシンオウの観光に赴いてもいいでしょう。
・ポケモンリーグ異常個体観測部門部長より通達。
【種族】ネクロズマ(ウルトラネクロズマ)
【性格】ゆうかん
【特性】■■■■■エクリプス
【レベル】250
【持ち物】ウルトラネクロZ・歪んだプリズム
【技】
・りゅうせいぐん
・マジカルシャイン
・メテオビーム
・メテオドライブ
・シャドーレイ
・シャドーダイブ
・フォトンゲイザー
・プリズムレーザー
・あけのみょうじょう
・よいのみょうじょう
「■■■■■エクリプス」
・大いなる翼を持つ者は世界に光を齎した。
・戦闘開始時に場にいる全てのポケモンの攻撃、防御、特攻、特防、素早さの能力値ランクが一段階上昇する。
・戦闘に出ている間、天候が「びゃくや」状態になる。(天候:びゃくや。攻撃対象に効果の無いタイプの技が等倍で当たるようになる)
・戦闘に出ている間、場の状態が「プリズムフィールド」になる。(状態:プリズムフィールド。全てのポケモンの非接触特殊技の威力が1.5倍に上昇し、全ての2ターン用いる技を1ターンで使用可能となる)
・自分の技のタイプ相性が効果抜群の場合、さらに威力が1.25倍になる。
・―――――
異常個体:“光輝”
・NO DATA
・NO DATA
・NO DATA
・NO DATA
・NO DATA
・世界に光が満ちた時、全ての光を簒奪せし極光の竜が神殺しを挑む。光は天に届き、地には何も残らぬだろう。
はいどうも、三ヶ月振りですね(白目)
前回投稿からずっと残業続きで執筆時間が碌に取れませんでした。仕事無いよりかは余程マシなんで別に良いんですけどね。
ともあれ大変長らくお待たせして申し訳ありませんでした。そろそろ限界な感じが出てきたんであともう少しで一章を終わらせて暫く書き貯めに入ろうと思います。
暇な時にちょくちょく見に来て下さい、作者が喜ぶので。
感想くれたらとても嬉しい。