血染めの鋼姫   作:サンドピット

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こっちがメガシンカした途端に鬼火とか電磁波撃つの止めてくれませんかねぇ!?(全ギレ)
久々にメガクチートで対戦したらボコボコにされました。こんな時たからあつめがあればメガ石とラムの実同時に持たせられるのに……。


慎重と優柔不断は似てるようで別物。

 ダイゴお手製の良く出来たペンダントを見て俺は考える。

 

 前世の記憶はこの石を鮮明に覚えていた。

 間違いなく、メガストーン、それもクチートのメガシンカに必要なクチートナイトだ。

 

(ダイゴは拾ったって言ってたが、偶然にしては出来すぎじゃないか?)

 

 そういうのを運命と呼ぶのだろうけど。実際問題メガストーンが早い段階で見つかって本当に良かったと思う。メガシンカ無しのクチートではダイゴの手持ちとしては些か力不足感が否めないし。

 まぁメガシンカしてもメガメタグロスとどっち採用するかは……この話はやめよう。

 

「……」

 

「チット?」

 

 後はキーストーンがあれば、と考えていると背後から気配を感じて振り返る。

 そこには蒼い金属質の身体に白い爪と宝石の様な紅い瞳が特徴的なポケモン――ダンバルが無言で浮遊していた。

 

 仲間意識からか近付いてきたダンバルを抱きしめ、頭を撫でてやる。

 

「クゥチ」

 

「……!」

 

 喜んでくれたようで何よりである。

 

 このダンバルはダイゴの父であるツワブキ・ムクゲが他地方の知り合いから譲り受けたポケモンらしくクチートが既に家にいるのならこのダンバルもダイゴに将来使って貰おうと考えてプレゼントしたようだ。

 速攻でダイゴに懐いたのは予想していたが、同じはがねタイプだからか俺にも結構懐いてくれている。

 

 俺が一人でいる時は構って欲しいがために高確率で近付いてくるのだ。

 

(甘えん坊というかさみしがりというか……)

 

 まぁ好いてくれる分には問題無い。可愛いしな。

 

 

 

 

 

 夜になればムクゲも会社から帰り、一家揃っての団欒の時間となる。

 ムクゲもミカゲも、自分の息子がポケモントレーナーになる事を望んではいても自分のペース以上に詰め込むのは毒と知っているため、わざわざダイゴに勉強の話題を出す事は無かった。

 

 フラウもダンバルも、勿論俺も意味も無く暴れる性格ではないので、ツワブキ家の食卓は俺達ポケモンも含めて全員で食事を取る形となる。

 

「時にダイゴ、クチートやダンバルにニックネームは付けないのか?」

 

「ニックネーム?」

 

「あぁ、母さんのタブンネの様な名前は付けないのか気になってな」

 

 俺は皿に盛り付けられたやや苦味の強いサラダを黙々と食べつつ親子の会話に耳を傾けた。

 関係無い事だが、一通り食べてみて苦いものが好きな反面渋いものが苦手だと分かったので俺の性格はしんちょうでほぼ確定した。悲しいなぁ。

 

 さて、ニックネームだが、当然この世界では6文字までという制限など無い。だがあまり長すぎてはポケモンバトル時に指示が遅れ、逆に短すぎればポケモンが困惑する。

 なのでポケモンバトルに使用するポケモンのニックネームは3~6文字が好ましいとされている。と、ポケモン協会が発行している雑誌に書いてあった。

 

「ニックネームか……ごめん、今すぐには決められないや」

 

「いや、いきなり話題に出した私も悪かった。一応言っておくがニックネームを付けないままポケモンと仲良くするトレーナーも沢山いる、絶対にニックネームが必要という訳では無いからあまり気にするな」

 

「うん。……そういえば母さんは何でタブンネにフラウって名付けたの?」

 

「え、私? 幾つか名前の候補を出してタブンネが一番気に入ったのを選んだだけよ? やっぱり可愛い名前がいいもんねー」

 

「ネー」

 

 ミカゲとフラウが笑いあうのを見てダイゴが思案気に沈黙する。

 しかしニックネームか……個人的にはあると嬉しいが、別にクチートと呼ばれるのでも構わない。恐らくダンバルも同じ心境だろう。

 

 こればかりはトレーナーの好みの話になってくるので無理に人に合わせる必要は無いのだよ。

 

「クチートはどんな名前がいい?」

 

「チーック」

 

(よっぽど変なのじゃなきゃ何でもいいよ)

 

 

 

 

 

 夕飯を食べ終わり、ダイゴはダンバルを連れてニックネーム候補を考えに自室へ向かった。

 じゃあ俺も書庫に行こうかと考えているとムクゲに呼び止められる。

 

「クチート、少し時間を貰ってもいいだろうか」

 

「……クチッ」

 

 今しなければならない用事も特に無い――皿洗い等の家事はフラウとミカゲが行う――ので了承を返し、ムクゲに付いていく事にする。

 

 ムクゲの自室に備え付けられたソファに腰掛け、テーブルの上に置いてあったフエンせんべいを大顎で取る。

 もそもそとせんべいを食べる俺にムクゲは言った。

 

「君は度々私たちの話を聞いていたから理解しているとは思うが、私達デボンコーポレーションは他地方にも企業を拡大し始めている」

 

 盗み聞きしている事を隠してはいなかったが、同時にあからさまに態度に出している訳でもなかった。何一つ反応を示さなかったポケモンにも注意を払っていたのか。

 齧っていたせんべいを大顎に放り込み、ムクゲと目を合わせ話を聞く。

 

「これは先日カロス地方から戻ってきた部下から提出されたものだ」

 

 そう言ってムクゲは懐からハンカチに包まれた石を取り出した。

 

 それは虹色に淡く輝く球状の宝石で、内部に遺伝子を彷彿とさせる二重螺旋の模様が入っていた。大きさは、そう、俺の持つクチートナイトと同じくらいだろうか。

 

(……キーストーンだ)

 

 メガシンカに必要な物は大まかに二つ。ポケモンが持つメガストーンと、トレーナーが持つキーストーンだ。絆も必要とされるのかもしれないが不確定なので今は除外する。

 進化を超えた進化と呼ばれるメガシンカ。その秘められた力を解放するには、錠前と鍵が必要である。その役割を、メガストーンとキーストーンは担っていた。

 

 俺が想定していたメガシンカ運用において、ムクゲが持つキーストーンは文字通り最後の鍵だった。だからそれを見せられた時はとても驚き、高揚し、疑念を抱いた。

 何故それを俺に見せた?

 

「――あぁ、やはり」

 

 その答えはすぐに分かった。

 

「これは君にとって、いや――君達ポケモンにとって重要な石なのだね」

 

 とても、とても興味深そうな声音でムクゲはそう言った。

 

 

 

 

 

 考える。どうにかしてキーストーンをダイゴに渡せないだろうか。

 思案する俺にムクゲは呆れた様に言った。

 

「君は賢い割りに分かりやすいね。そんなに警戒しなくともこれが危険な物ではないのならダイゴにプレゼントするつもりだったよ」

 

「……クチィ?」

 

「言葉は分からないが、本当だとも。もうじきダイゴの誕生日だしね。……ただ、ダイゴにこれを渡す前にこの石がどういう物か知りたいんだ。私に教えて貰えないかい?」

 

 自分でもかなり無茶を言っているのは自覚しているのだろう、困ったような顔をしつつもポケモンに教えを請うその姿勢は石好きのムクゲのものか、それともデボンコーポレーションのツワブキのものか。

 

 ……。

 

 ……正直に言えばメガシンカに関する情報を伝える事は出来る。が、疑問は晴れない。

 

 メガシンカの本場であるカロス地方に行ったムクゲの部下が、キーストーンを持って帰りムクゲに提出した。

 何の報告も無くムクゲに渡したというのは不自然ではないか?

 

 キーストーンは路傍の石などでは決して無い。採掘するなり譲り受けるなりする場合多かれ少なかれ特別な石という事を知る筈だ。十中八九ムクゲはメガシンカの存在を知っている。

 

 では何故何も知らない振りをして俺に聞く? 色違いのクチートというだけの自分に。

 ……駄目だな、分からん。それにここまで考えてしまった時点で俺が何かしらの情報を持っている事は伝わってしまっただろう。

 

 これ以上情報を出し渋ってしまえばムクゲ自らカロス地方に赴きかねない。

 

(表層的な情報なら別にいいか、もう)

 

 溜息を吐き、ソファから飛び降りる。

 

「ん、どうし――」

 

「クチ、トーッチ」

 

 ムクゲの元まで歩き、口元に指を置いて静かにする様にジェスチャーをする。

 何か言いたげでありながらも黙るムクゲを他所に、机の上から白紙と鉛筆を拝借させて貰った。

 

『SONOISHI TOTEMO DAIJINA MONO』

 

「――!」

 

 ムクゲが驚愕しているのが分かった。まぁ無理も無い、ポケモンが筆談なんてするとは思わんだろう。

 俺はこの世界の言語はまだ勉強中の身であり、日本語はこの世界では通じない。俺とこの世界の人間の両方に通じる何かを色々考えた結果、アンノーン文字(と言う名のローマ字)であれば意思の疎通を図れると考えた。

 

 とはいえアンノーン文字自体どこぞの遺跡の産物なので考古学に興味を持っていなければ何を書いているのかさっぱり分からない筈だ。

 だがそこは生粋の石マニアを二人も抱えるツワブキ家。そういった資料は書庫に幾つも見つかった。

 

『POKEMON KIZUNA TSUNAGU HITOGA MOTSU TAKARA』

 

「……」

 

 ムクゲは信じられないものを見るような目で俺を見ていたが、俺が更に筆談を続けると慌てて解読に集中した。

 

『WATASHITACHI MITOMETA HITONO TAMENI TATAKAU ISHIGA WATASHITACHI ERANDARA MOTTO TSUYOKUNARU』

 

「……まさか」

 

『SOREGA MEGASHINKA』

 

 結構適当言ってはいるが昔のポケモンは案外こういう理由で人間と接していたのかもしれない。

 ぶつぶつと独り言を始めたムクゲを置いて筆談を続ける。

 

『MEGASHINKA FUTATSUNO ISHIGA IRU HITOGA MOTSU KAGI SORETO POKEMONGA MOTSU TOBIRA』

 

 一度鉛筆を置き、俺が持つペンダントに取り付けられたメガストーンをムクゲに見せる。

 

「鍵と、扉か」

 

『MEGASHINKA TATAKAUTOKI SUGATA KAWARI TSUYOKU NARU WATASHI DAIGO CHIKARANI NARITAI』

 

 これで終わりとばかりに鉛筆を置き、俺が筆談に用いた紙を丸めて大顎に放り込んだ。

 さて、情報と俺がキーストーンが欲しい理由を話した。これで満足してくれればいいのだが……。

 

 




勿論アンノーン文字なんざ無いのでアルファベットで代用。フォント変えればそれっぽいのもあるかなぁとは思ったけどね。
人と意思疎通が図れるポケモンである事が発覚したけどツワブキ家は全員口が堅いし証拠も食べて隠蔽したので大丈夫。まぁエスパータイプのポケモンがいる以上漏れても何も問題は無いんですが。

ちなみにこのダンバル、さみしがりなのでA上げのB下げ仕様となっております。防御低いのはアレだけど正直誤差。
さぁそろそろ書き溜めが尽きそうだ。衝動書きの弊害やな。

感想くれたらとても嬉しい。

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